2021/05/13 のログ
ご案内:「王都の路地裏」にタン・フィールさんが現れました。
タン・フィール > 王都の平民地区と貧民区の中間地点、寂れた住宅街の路地裏は、
夜が更けてくれば娼婦や野盗や宿無しの民が群れをなす、肉と欲の闇市区画と化す。

ズズゥ ン …

そんな路地裏の一角、土壁や屋根を吹き飛ばす轟音。
その元凶となったのは、直径5mほどの樹のように太い幹と無数の枝めいて生えている触手を持つ、触手の集合体のような魔物。

それが放った触手による刺突の一撃を、
ぴょんっ…と幼子の縄跳び遊びのように軽快にかわすのは、この近辺で薬師を営む小さな魔性の子。

薬の受注に訪れた冒険者ギルドの一団が、王都で魔物の研究をする機関から脱走したサンプルである触手の魔物の討伐を依頼され、
この路地裏付近で目撃情報があったので、気をつけるように…と念を押されているにも関わらず、
興味本位で入り口だけを覗き見のつもりが、ばったりと出くわしてしまったのだった。

「よ!っと…。
わひゃーっ…あっぶな…っ!
こんなの、王都のみんながいる町中になんか、いかせらんない、よねっ!」

素っ裸の幼児体型に桃色シャツを纏っただけの、防御力など皆無の衣装を翻し、
二撃、三撃、次々と放たれる触手の殴打や突きを、
まるで蝶のようにひらひら、ふわりと回避していく。

そして、桃色シャツの懐や袖口の収納スペースに忍ばせた、爪楊枝のように細長い極小の薬瓶を取り出し…
触手の集合体に投げつける。

途端に、ブジュウウウウウ!と弱めの酸を含んだ煙幕が形成され、
触手の魔物の探知を逃れつつ、微弱なダメージを与えつつ、
一旦路地の角に隠れて、横目で魔物の様子を伺う。

「ん~…何かで足止めできたら、ギルドのヒトたちを呼びにいけるんだけど… どうしよっかなー…。」

薬瓶の残弾は、あくまで緊急の護身用だったので正直心もとない。
かといって、いつ住民のいる区画に魔手を伸ばすかわからない魔物を放置するわけにもいかず、
酸に戸惑いのたうつ触手を警戒しながら、しばしの作戦タイム。

タン・フィール > ドビュッ!!

次第に酸性が薄くなり晴れてきた靄の中から触手の槍が飛び出し、
遮蔽のために薬師が身を隠した路地の角の壁面ごと撃ち抜く。

間一髪、その風切り音に反応して小さな身を丸めた幼子の黒髪をかすめた触手が、
返す刀で少年の首元にグギュルっ!と巻きつき

「わわっ!ぅ…!ン、っくぇ…!!?  こんのぉ!!」

指の間に挟み込んだ薬瓶を、床に叩きつける。
放射状に飛び散った薬液は空気に触れるなり、鋭いつららと化して地面に氷柱の槍となってドシュ!ドシュ!と一瞬で生え、飛び出し、
首を絞め上げた触手を切断して、ころころと少年は脱出を図った。

「ぅえ~~~っ…けほっ…ぇほっ…もう、おこったぞ…!」

と、赤い目を細めて、いよいよ逃げ出す算段や応援を頼るよりも、
この場で自分が魔物を討ち倒し、報酬の一つでもいただいてしまおうと、めらめら闘志が湧き上がる。

その緊迫した気迫とは裏腹に、てち、てち、ぺたぺたと裸足がレンガの道を歩む音、
それがぴょん!と跳躍音と共に途切れると、少年は土壁を壁面に沿って疾走するように、壁走りで触手との距離を詰めていく。

「これで…どうっ!?」

まっとうな近接戦の熟練者には遠く及ばないが、戦闘経験の無い一般市民からすれば、驚異的と呼べる運動能力で、
壁をつぎつぎぶち抜く触手を回避しつつ、ひときわ大きく足を蹴り出せば、
3mを越す長い跳躍、対空時間。

手にした片方の薬瓶にはへばりつくようなスライム状の精油と、
もう一つは空気に触れるなり一瞬で燃え上がり消火される消毒用の着火薬。

その2つを同時に投げつけ、魔物の目の前で瓶同士が衝突すれば、
それは獲物にべったりと張り付いたまま燃焼させつづける炎の泥となって触手に命中し、
周囲に一瞬の爆炎と閃光…そして、豚肉か何かを焼くような臭いが立ち込める

「…!どーだ!」

…どうでも良いけど、ちょっぴり良い匂いである。
なんなら、路地裏で露天商が焼串の店でも開いているのかと言うほど。

そんな呑気な考えを脳裏に浮かべつつ、炎の中でのたうつ触手魔物を、これにて撃退できたかどうか、
警戒はとき切らずに様子をうかがって…。

タン・フィール > 「――――!!!」

未だ魔物は燃え尽きることはなく、厄介なことに炎を纏った触手を複数本、こちらに向かって伸ばしてきた。
焼かれながら再生を繰り返しているようで、焼却・消滅までは至らない。

しかしダメージ自体は与えられている様子で、その動きはひどく緩慢。

とどめにどのような薬を使うか、手持ちの薬瓶を確認しつつ距離を取る。

「ぅ~ん…炎でやっつけきれないんなら、どうしよう…
再生するヒマもあげないってなると…

…酸もやっつけきれないし、氷は…まるごと凍らせて動きを止めるほどの量は無いし…」

少ない手持ちの残弾と心の中で相談。
酸・氷結・炎、どれも決定打になる攻撃手段ではなく、
他の種類の薬といえば、回復薬や毒消しはまだしも、媚薬だの下剤だの精力剤だの、全く別の用途に使えるものばかり。

もたもたしていると、戦闘力の無い市民が、炎の熱や光、煙や触手の焼ける臭いでここに来てしまうかもしれない。

本来、戦闘ではなくあくまでバックアップの薬師という職業ゆえに、
思わぬ苦戦を強いられることとなった。

「う…わっと!?…ちょ、 ちょっと…だけっ やばい、かも~~~…」

緩慢な動きの触手を裸足で蹴ったりして払いのけながら、じりじりと路地裏の袋小路に追い詰められていく。

タン・フィール > ぶわぁっ…と、破損と再生を繰り返した触手郡はその一本一本を子供の太ももほどの太さから、
成人女性の親指ほどの細さに細分化し、津波のように広範囲をカバーした波状攻撃を繰り出す。

数で小さな獲物を緊縛か、あるいは破壊しようと回避不能な触手の波に、小さなカラダはあっという間に飲み込まれ、路地の壁面に叩きつけられる

「ぅあっ!!? あ、っぐぅ…! ぃうっ…!」

触手が前面から額や喉や腹部をムチのように殴打し、
その勢いで壁面に後頭部を打ち付けてしまい、痛みと衝撃で少女のような声が漏れる。

そのまま、攻撃を仕掛けた触手は細分化した一本一本で幼子の足を、首を、腕を、
まるで一面ミミズがのたうつバケツに、餌を放り込んだような状態でみるみるうちに小さなカラダを取り込んでいく。

「ぅ、あっ…ぅあ! っく、ぅ、助…っ…!!!? ~~~~っ」

その声も、押し寄せる触手に阻まれて、路地奥で子供一人を丸呑みにするうごめく触手の球体が、
ドクン…ドクン…と脈打ち、内部で幼い肉の隅々までをもまさぐり蹂躙し…最期には喰らわんと蠢動していた。