2020/12/24 のログ
グランツ > この国にもまだ”風土”に染まっていない職人はいるのだと、手ごたえと確信と共に信頼を以て握手を交わし、
その日は工房を後にする。


そして指定の期日に、再びメイドと共に訪れる。
メイドの一人はまた別の品を以て。


「では、失礼して」


漆黒の、何ら装飾のない剛健なガントレットを、それこそ調度品、繊細な工芸品を扱うようにそっと手に取り、
ゆっくりと、しかし力強く握り締める。

貴女はその時に彼の腕が、緩やかな貴族の袖に余すことなく膨張した筋肉が浮かぶ様を目の当たりにするだろう。

それでも、半ば人の域から外れつつあるその膂力をセレネルの強盗の革は
貴女が仕上げた業物はしっかりと受け止め包み込む。
そして裏拳により隆起していく革の突起は、さながら獣の臨戦態勢の如く。

まるで、元から彼の一部であるように、彼の戦意に呼応する形状へと変ずる。


「……一体感、というものを実感することになるとは思いもよりませんでした。
これほどの物、銘なくば名画に瞳を欠くと同義でしょう」


伺えば、視線を落とされ、上げられた銘を、豪宕の銘に頷く。


「……これは身に余る光栄です。この銘に恥じぬよう、このガントレットに恥じぬ邁進をすることを誓いましょう。」


最初に出会った時の実直な、それこそ岩が如し表情だった貴族は、緩やかに微笑んで。


「……それと、スピサさん。もしよろしければ、これを受け取っていただけないでしょうか。」


そう言うとメイドの一人が鞄をテーブルに置き、封を開く。
中には大きな透明な半球状の素材を中心に構成された眼帯が納められていた。


「遠方の火山地帯、その中央に住むという燦輝竜の角膜から造られた保護具です。

銘を【プロメア・モノクル】とさせていただきます。

燦輝竜は例え雷光吹き荒れる極光の中でも、
目も眩むほどの劫火の中もその瞳で獲物を見通す特性があります。

貴女の元へ訪問した翌日、訪れた行商が持ち込んだもので、研究者の身でこのようなことを言うのもおかしな話ですが、
きっと、縁なのだろうと感じました。

いずれ貴女がまだ見ぬ金属を、並の者では相対することさえ叶わない種火を用いることになった時、お使い下されば。


……貴女はサイクロプスです。鍛冶師の才があると謡われる種。
私はサイクロプスの特性について詳しく調べたことはありませんから不要なものかもしれません。」


ですが、と言葉を切り、貴女の瞳をしっかりと見据える。
偏見も何もない、一個人の職人に敬意を評するまなざしを向けて。


「貴女の瞳は宝です。多くを見定め、見通し、見据えられる。
そして貴女はこの豪宕を以て私の曇っていた視界を広げてくださいました。

……貴女が眼帯を以て隠す意図は、おそらく私の想像通りなのでしょう。

けれど、私は、貴女に可能性を感じてしまった。確信めいたものを。
いずれ、この街の設備では扱いきれぬほどの種火と共に、この豪宕以上の銘を生み出すのではないかと。」

それこそ神代に謡われる金属は、相応の種火が、そしてその種火そのものが常人の手に余るものだという。

だが、彼女なら辿り着くかもしれないと思ってしまった。

スピサ > スピサは、手になじみ、しっかりと拳を固めることができたガントレットを前に

喜んでくれるかな

それだけが意識にあった。

認められること 喜ばれること

それが鍛冶師の本懐だ

しかし、喜び、しかも饒舌にしながら差し出されたアイテムに透明獣の革の眼帯
それを上にずらして見つめた品は、スピサでは到底縁のない代物だった
海の強盗は策を練ればまだ捕獲できるのだ

これは、金とルートがなければ手に入らないものだ
誰が竜を獲得できると思っていただろうか。
陸竜の一種とみられてしまいそうな鰐種の代わりに、竜の角膜
単眼はジッと見つめ、すでに完成品として目の前にあるもの
サイズは竜の瞳だけに、大きな単眼であるサイクロプスにもバイザーとして機能できていた

おそらくはサイズを合わせて調整しなおされている。
嵌めると、クリアに見えるものの、瞳は傷まないだろうと思われる。

火を見分けることができるスピサでも、あまりにも強い、例えば白く光るほどの鉄を溶け消すようなものならば
きっと瞳を細めるか黒く塗った防護を顔に取り付けるなどしていただろう。

外すと、未だに驚きながら、更に申して出ていた通りの追加インゴットと共に
益荒男の体格で、騎士のように言葉を並べ、目は真っ直ぐに合わせられる。

スピサは会って二度目でしかない相手に、初めて裸眼で接した。

「……なんて言ったらいいのか。
 プロメア・モノクル 有難く、貰い受けます、ね。」

豪傑な貴族に認められた、単眼族の鍛冶師
品自体も、鍛冶師に対しても一級品な代物
王道な流れの中で、瞳が線になるくらいに笑みを浮かべ、相手に笑いかけた
顔見知りの知人が嫉妬するほどに。

グランツ > 遠慮のない、大きな瞳と共に笑みを浮かべる。
それを認めて、ゆっくりと頷いて。

「ええ。受け取っていただけるなら幸いです。
……やはり、貴女の瞳は美しい。これほど輝き、優れた宝石のような瞳が
評価されぬなど、やはり非合理極まりない。」

モノクルを受け取った貴女が、葛藤を越えて裸眼を以て向かい合ってくれたことに頷き、
しかし脳裏に彼女の周囲の状況を憂いて


「……また、機会があったらよらせていただいてもかまいませんか?
次は、スピサさんの好きなものを差し入れに」

次は客か、はたまた労いか。
貴女の見立て通り平民からも(表向きの)評判は良い貴族が足を運び、
貴女と親し気に話しているところを見れば、周囲の目も少しは変わるだろうか。

スピサ > そうして二人は認められ 接した相手としてつながりを持つ
このモノクルは証なのだ

このモノクルを、後日から丁寧に保管することになる
戦闘行為でも使えそうなものの、氏は述べた 手にしたことのない種火が手に余るときにと。

作業場においての重要なものとして、スピサが制作した分厚い鋼鉄の金庫に収められるだろうか。

また寄らせてほしいと言われれば頷いて

「修繕と新規依頼、承りますね。」

そう言って裸眼のまま接していると、きょとんとする。
好きなものと言われても、ピンとこない。
美味しいものでも差し入れてくれるのだろうか
しかし純粋な好意と分かっているだけに。

「はい、楽しみにして、いますね」

これ以降、鍛冶場にはお供付きの豪傑が時折訪れると噂になるか
知人に聞かれたら答えるだろう

―――“「豪宕な貴族様がお得意様になってくれたんだ」”――― と

ご案内:「王都マグメール 平民地区 鍛冶場工房」からスピサさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区 鍛冶場工房」からグランツさんが去りました。
ご案内:「冬の祭り市」にタン・フィールさんが現れました。
タン・フィール > その夜、平民地区の一角ではいつからか王都の一部で催されるようになったという、
越冬の無事と春の実りを祈願する冬の祭りが催されていた。

飲食や雑貨、玩具などの出店が市となって並び、様々な人々がごったがえす人混みのなか、
小さな小さな薬師の影がするすると軽快に人並みをかき分けて通っていく。

片手には甘辛く炙られたミートパイの串焼や、ぷりぷりの脂滴る豚串に、イチジクの果実飴。
もう片方の手には、甘口の葡萄酒をレモンと蜂蜜で割った子供でも飲めるホットワイン。
それらを幸せそうに頬張りながら、幼いながら少しほろ酔い気分で歩みを進めて。

「ん~~~っ♪ おいしいし、ヒトいっぱいでたのしいしっ!
ほかにはどんなお店、あるのかな~?」

首には、アクセサリーの出店で衝動買いしてしまった、
越冬祈願や健康、子孫繁栄など雑多な意味を込められた薬の材料にもなるハーブの花輪を複数下げて、
子供ながらにこの祭りを楽しんでいる模様。

「~~~~っと…いっけない、ちょっと飲みすぎちゃった。
…えと…え~~~と…ぉ どこか、おトイレ、貸してもらえるトコ…と…。」

ぶるり、とその肩が僅かに震えたのは、ワインによる利尿作用だろうか、
歩む足元を少し内股気味にしながら、
きょろきょろと用を足せそうな場所や、そこに誘導する看板など無いか探し始めて。