2020/12/23 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区 鍛冶場工房」にスピサさんが現れました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区 鍛冶場工房」にグランツさんが現れました。
グランツ > 「気前が良すぎる、ですか」

促されるまま、椅子に腰かければ、僅かに軋む。
貴女の見立て通り支えることは出来るが、外套から詳細は伺えない体躯は、相当な質量を帯びていることが伺えて。

そして貴女の言葉を額面通り受け取れば、


「調査に赴く先で村の者達に良くしていただく為、対価として行動を起こす、住み着いた魔物の群れの駆除等を行うことはありますが、その折に似たような旨のことは確かに。」

ですが、と言葉を区切り

「私にとっては、これは投資だとも思っております。
一角の将、それも豪奢な装飾を求める者ではない武人に認められた者、そして相応の技量を持つ方。

であれば、触れる機会の少ない素材を多く供給し、触れていただき、活用していただく。

有能な者に経験する機会が効率的に訪れない。それはそれだけで損失なのです。

貴女であれば希少な素材を供給しても有効に活用していただけると見込んでのことです。」


無能な者、発言力だけで技量のない者、素材の価値を理解せぬ者。
それ等にレアメタルが流通すること自体が損失なのだと。


「依頼するのは、一応防具になります。
ガントレットを。クールブルグ式などのような装飾のない、ゴシック式のものを」


更に前髪で目元が覆われたメイドが一人、包みを持ってくる。
広げられた包みの中から現れたのは、ミスリル製のガントレット。
ただしひどくひしゃげてしまっている。

……よく見れば、貴女であればミスリルの中に混ぜ物をした粗悪品であると看破出来るだろうか。

スピサ > 互いに火酒の注がれた金属杯が置かれているものの、中身は減っていない。
汗を拭った手ぬぐいを畳み、テーブルの端に置きながら投資と述べる真っ直ぐな言葉。

無駄に遊ばせたり、下手な場所に流れるよりも、見込みのある者へ経験を 熟練者は完成品
積むことと産むことへと賭けるほうがいいと述べる豪傑。

「……本当に、研究、者、なんですか?」

王都には似合わない人だな、と自身も当てはまると知人に言われそうながら
ふとそんなことを聞いた。
眼帯越しに見える相手は豪傑で、真っ直ぐで、平民からも好かれそうだ。
王都の研究者で貴族とくれば、もっと変態的であっても不思議ではない。

そんな疑問の後には、一つのガントレットが持ち込まれた
体格に見合った大柄な指と手を覆うものだ
手に取ると、軽く、しかし色合いは銀に交じって黒ずんだ部分があった

「真銀(ミスリル)……?
 でも、真銀が錆びないし……鋼よりも強いのに。」

況してはこれの黒ずみと言ったらひどい
銀のアクセサリーは逆に黒ずみを作り、深みを与えようとする者もいる
しかしこれは病に侵されたかのようだ
ひしゃげた部分は真銀の部分ではないところから亀裂が入ったに等しい。
依頼してきた辺り、お抱えの職人が信用できなくなっているのか
それとも加工を拒否されたのか。

「……ん。」

ガントレットを返せば頷く。

「無駄な装飾も、被せもいらない。
 真っ直ぐな手指を守るための籠手を作る、でいいですか。」

形式まで指定してくるとは結構なこだわりだ。
スピサも、この人は外れ取れそうなクールブルグよりも、鍛え整えたゴシックの手指のほうがいいだろうと思える。

「材料とか、他になにか指定って、ありますか……?」

立ち上がり、メジャーや黒炭棒に羊皮紙を持ち出し。

グランツ > 「ええ。研究を生業としております。それ故にです。

……今の冒険者、騎士、兵士。彼等、彼女等はいびつな状況に置かれています。
有能な者により良い武具を得る機会が、補給が、評価が成されない。
上の方々が私腹を肥やす、この国での日常故の弊害。」

言葉のわりに現状を憂う様子もなく。

「であれば、私の手に収まる範囲で、適正な者に適性な装備が、適正な経験が行き渡るように動くだけです。
私の研究の為に、下地を作り上げる。
それに、研究とは私だけで終わるものではありません。
私の研究に興味を抱いた者が、私の研究の後に続く。

そのようなことがあれば、せめて歩みやすく地均しをしておく。

……研究者であり、貴族であるというのは、そういうことです」


徹底的な効率主義ではあるが、辿り着いた結論は高貴なる者の義務のそれで。

……最も、貴女の知らないところで、彼は効率的であるが故に研究対象の魔物の元へ冒険者を誘引したり、
魔物との性行為を欲する者への仲介役も担っているのだが。


だが、貴女を認めたのは純粋に技量故であり。


「はい。最初の頃は私の想定にも耐えうる使用感だったのですが
先日遺跡でガーゴイルと交戦した際に殴り負けてしまったもので。」


嘆息一つ。


「そのせいで、その際の調査はガーゴイルの討伐に留まり撤退する結果になりました。
……当初の仕様の二割り増しの額をこれを作った職人には支払ったのですが、この有様です。」


適性に、的確に、要因を看破する貴女に、僅かにだが、目を見開く。


(想定以上の、なるほど、やはりサイクロプスの方々は)


研究者として、貴女の種族に興味を抱くが、依頼に意識を優先し。


「ええ、耐久性のみを、……ああいや、拳闘士の方のように握り込むことで打撃の威力を上げられる工夫が出来れば尚のこと。」


材料は、と聞かれるとかぶりを振り


「……お恥ずかしながら今回の件でミスリルへの正確な評価、引いては金属類への正当な評価が失われていると自覚しておりますので、
貴女の判断で提案していただくのが一番かと。

と、説明がまだでした。
研究は魔物の生態研究とそれによる対策戦術の構築、素材の活用におけるものです。
ですので、皮や骨素材に関しては含蓄はあるつもりです。」

メジャーなどを取り出せば、

「採寸に今から協力すべきでしょうか」

スピサ > 研究への熱意と、研究のためにも重要だと述べるウィラクィス氏
そしてスピサのような、経験や種族的なものを生かし産んだものが評価されない
それは研究者を侮蔑する行為と断じている。

金属への不信感を持ち、しかし敢えて鍛冶師に頼んできた辺りは顎を撫でる。
ウィラクィス氏は材料を指定せず、しかし殴りつける行為ができる物を。
しかし重量武器を扱うことは後に見る手指の形や肩から腕に掛けてのシルエットで知れていることとなる。

スピサへもたらされた条件は

打撃行為を優位にする工夫
そしてそれに耐えうる強度
なおかつ重量武器をきちんと握り、扱えるようにすることだった。

「ん……グローブのサイズ、教えてください。」

一級品を職人へ依頼するのもいいものの、冒険者から兵士まで身につけれる手袋はサイズがいくつにも分かれている。
ガントレットはグローブの上から嵌める防具だけに、それぞれの指の長さは正常か
ガントレットを覆うためのグローブのサイズのほうが気になっている。

そういった事柄をサラサラと書き込んでいくと、スピサは少し考えた。
ウィラクィス氏は敢えて、革と骨への含蓄はあると語っていた。
望みはつまり、金属よりもそちらにあると言っていい。

「……ちょっと待っててください。」

そう言って、工房の素材を補完する場所へと引っ込んでしまう。

―――――――――10分後


「お待たせ、です。」

そう言って、持ち込んだのは鞣された革だ。
しかし、内側は滑らかに柔らかいが、表面は凹凸がいくつもあり、硬質性のもの

「ラバリィ・ダイルの革です。」

セレネルの強盗と言われる、海賊的な存在
セレネルで暴れまわる、海の鰐
日焼けした黒々とした表皮 固い凹凸は拳打と防護に適している。
そしてこれは歳を重ね、脱皮し続けた故に強く仕上がっているもの

海辺に漂い、獲物を食らい、船を齧り浸水させる。
表皮は弓や銃では弾かれてしまうため、誘い込むか身動きをとれなくするしかない。

「……握りこむ条件なら、これが一番、です。
 手の中には、仕込めない 手の甲と、指の根本から一つの関節までをこの凹凸で覆えば……。」

そう言って、撫でるとガリガリガリと硬質的な音を立てる。
それは生きた鎧。

グランツ > グローブを、と言われれば普段使用しているものを提示する。
同時に自らの手も、研究者と、貴族というにはあまりにも太く樫の枝さえ想起させる無骨さ。

―偽ミスリルのガントレットを失って尚ガーゴイルを殲滅した。
それだけの膂力を、彼から伺えるだろう。

それから、しばし待つように言われれば、その間に火酒を口にするだろう。

そして戻ってこられた貴女の提示した素材を目の当たりにした彼は、
しばし、沈黙していた。

それまで顔色を、表情を一つ変えなかった男が、驚愕に満ちた表情を浮かべる。
後にいたメイド達が静かに、しかし主の反応を伺うというにはどこか違和感のある、彼の驚嘆に共感したような表情を各々に浮かべて。

そう、提示されたのは金属ではなく、革。

鍛冶師であれば、サイクロプスであれば尚のこと金属に素材を絞るものだと無意識に抱いていた先入観。
そして己の含蓄を越えた知識、素材の備蓄。
己の短慮さを思い知ると同時に、己の知識を上回る見識に、ただただ感銘を受けて。


「……革や骨に含蓄がある、と申したのはあくまで素材の提供、そして助言ができるかという、驕りからでした。
貴女が金属を用いるという前提、否、先入観を抱き、手を保護する皮膜ぐらいに考えていましたが、そうか……。

鱗よりも堅牢で、皮膜よりも柔軟で、打撃の衝撃を集約する隆起……。

これは、以前から、このような利用をなされていたのですか?」


狼狽。好奇心と探求心が抑えきれず、立ち上がり革と交互を貴女に伺って。


「悪い意味でも良い意味でも奇跡としか言いようがない……。
貴女ほどの方がこれまで自尊心にまみれた貴族達の目に留まらなかったとは……。」

スピサ > 形状を把握し、作成する条件を理解し、敢えて意思をくみ取って素材を見てもらう。
サイクロプスという金属を用いる種族的な先入観をつぶすようなやりとりながら
敢えていうなればスピサが防具職人に拾われて育てられた背景がこの結果を生んでいた。

金属に並ぶ革があると知っているし、認めている
スピサに伝説の剣なんて作れやしない
質実剛材 真っ直ぐに 逞しい 素材
それがスピサが扱える代物だ

驚かれたものの、こういった素材に偏見を持たず、喜びを表している相手
思ったよりもいい反応だったのに、立ち上がるとびくっとなってしまった。

この素材はグローブとして卸していたのかと聞かれた様子に首をふるう。

「凹凸を利用して、盾に張り付けたり……革系を好む人なら敢えて背中を守る為の素材に、です。」

背中の革は並大抵では貫けない。
故に貫きに堪える防具であり、鎧として使えば背中を守り、表す意匠にもなれた。
グローブに使おうと思ったのは、目の前のウィラクス氏が大柄であり、太い手指ならと思った次第。

「あと……。」

そう言って相手を見る。
立ち上がっている相手にポリと頬をかき。

「革と骨に含蓄があるなら……襤褸にせずにきちんと整備してくれそうだな、って……。」

そう言って見極めもできると思っての提示だった。
金属は修理する際のイメージはやはり打ち直しや、一部の取り換え
しかし革は縫い目を直したり、傷んだ革を修繕液に煮込むなどいろいろな行為がある。
気に入ってくれたようで、スピサも両手を前に出して お、おちついて と言い。

「グローブの上からこれを身に着けて……補強は表皮を加工液で固めて、あとは厚みと隆起があるから敢えていらないはず……。
 甲と根指の保護と拳打 そこから先の凹凸は削り取って握れるようにする……。 ど、どうですか?」
 

グランツ > 「通常のレザーアーマーの上位互換としてですか……。
並の者であればこの形状、規格からそこに留まるでしょう。」

金属への、否、金属を扱う鍛冶師への不信感を払拭する為の接触でもあったが、
蓋を開けてみれば秘めた可能性と培った経験を目の当たりにして。

「……貴女のように、研鑽と見識を積み重ねる者ばかりであれば、不慮の欠陥で命を落とす者も大幅に減るでしょうに。」


そして、こちらであればこの装備を提供しても適切に整備出来ると、見解をいただき、そして落ち着いてと言われれば、改めて一歩下がり、大きく深呼吸をする。

そして、胸に手を当てて、貴族は鍛冶師へ深く首を垂れる。

「ええ、貴女が作り上げる逸品。決して無碍に扱うことはありません。
それをぞんざいに扱うことは、一人の匠への冒涜となりますから。

仕様に関してはそのようにお願いします。貴女になら全てを託せると、確信しております。」

スピサ > 肘当てや膝当てに使うことでえげつない行為もできそうだなぁ、とは内心で思うのみ
ご注文はグローブなのだから。
心を込めて制作にかかる方向となり、お互いは貴族と鍛冶師という身分にかかわらず、握手を交わした。

人見知りなスピサが、最後には笑みを浮かべている。
金属へ不信感を抱いていた者が、職人を信頼し交わしてくれたからだろうか。

「はい、必ず貴方という豪傑に纏えるものに仕上げて見せます。」

そうして、時間は一週間欲しいとスピサはいった。
この革を加工し、硬め、ガントレットへと整える。

――――――――――一週間後

再びウィラクィス氏がメイド二名を連れて訪れた
その表情は確かめるまで油断はしないというような、毒見の表情ではなく
出来上がったものを見せてくれという表情そのもの。

「出来上がりましたよ。」

黒い鰐の革は、黒い染色を施された
鱗の一つ一つは剥がれないように固めなおされ、強度と共に、鱗の溝まで黒い線が走る
金属とは違い、動物性を感じさせるそれは、大型の魔物を狩る狩人のようなもの

両手にはめると、握りこぶしを確認する。
調整も含めているため、渡して終わりではない。

「緩み、ありませんか?」

そう言って。強固な革のガントレットのベルト部分を確かめる。
同じ素材で作っているだけに、ちぎれることはないだろう。

ギチギチギチッ……!

そう音を立て、握られた拳は隆起した凹凸を前へ向ける形になる。
裏拳も痛そうだ。

「え?」

満足いく形になってよかったと思うと、ふとウィラクィス氏は銘を訪ねてきた。

「銘、ですか?」

そういうと、革のガントレットを眺め。

「最初、ウィラクィス氏に見せた時 セレネルの強盗(ごうとう)なんて縁起が良くないと言われるかも、でした。」

「だから豪宕(ごうとう)のガントレットか、リベラルの籠手 それが私が思っていた銘です」

意味は気持ちが大きく、細かいことにこだわらず、思うままに振る舞うこと。
気前のよい、大まかな、惜しまないで、けちけちしないで、たくさんの、豊富な、寛大な、度量の大きい、開放的な、偏見のない
意味合いはいろいろとある

しかし、偶然にも、字を入れ替えただけで、ウィラクィス氏と重なっていたことで、この銘にしていた
さて、相手の表情は……。