2020/10/05 のログ
セリア > 「いつかゆっくり、ねぇ…そんな機会があるといい、けど!」

此方から仕掛けた一撃は、上体を大きく反らすことにより躱された。
その勢いをもって上段から続け様に仕掛ける斬撃。
エミネが体勢を立て直す、その一瞬の隙を狙った。のだが…

「……っく!!」

彼女は体勢を立て直すのではなく、崩れた体勢を逆手に取って蹴撃を繰り出してきた。
空中だと避ける術もない。
まともに鎧で守られた銅に入ってしまい、軋むような衝撃が全身を包む。

「っ、まだ、…まだ!」

セリアもただでは終わらない。
銅にまともに入ったエミネの足を掴み、彼女の身体ごと巻き込んで地面に転がった。
それから持ち前の格闘術を駆使し、相手を抑え込もうと試みる。

エミネ > 「えっ……うわっ!?」

蹴りが綺麗に入り、これで距離を取って仕切り直し、
などと考えてたのもつかの間、足を掴まれるという予想外の行動に為す術なく体勢を崩し、一緒に転がってしまう。

「あっ!この…ッ!!」

そのままのしかかられ抑え込まれようとするところを身体の柔軟さを活かし間一髪で抜け出す。
急いで立ち上がり、間合いを取る。
とはいえ双刀は手放してしまった。彼女は腰から匕首を抜く。

しかし、エミネはいきなり斬りかかることはなかった。
懐から何かを取り出すと、セリアに向け投げてよこす。

「解毒の仙薬。飲んどかないとかすっただけで死んじゃうわよ?」

エミネは己の匕首の刃を指先でぴんと弾き。
包みを開けば、黒い丸薬が一つ入っているだろう。

セリア > 抑え込もうと試みたが、するりと手の中から抜け出したエミネ。
身体の柔軟さは並外れているようだ。ちえっ、と小さく舌打ちした。

手放して少し離れたところに落ちている長剣を一瞥。
仕方ないと溜息をつき、腰にある短剣をゆっくりと抜いた。
すると同じように匕首を抜き放った相手から、何やら包みを投げ渡される。

「……ふぅん。成程、親切にしてくれるじゃない」

死にたくはないし、忠告は素直に受け入れることにしよう。
取り出した丸薬を飲み、改めて短剣を構える。

「さ、続きと行きましょ」

切っ先をゆら、と左右に小さく揺らし、誘うような動作を見せつける。

エミネ > 「あ、言い忘れたけどそれ…三日は後味続くぐらい苦いわよ?」

セリアが丸薬を口に入れたところを確認した後、ニヤニヤ笑いを浮かべながらエミネは言う。
どう見ても本当に言い忘れたといった感じではない。

しかし、セリアの反応をひとしきり楽しんだ後は、己の得物を順手に構える。
もう一方の手を、間合いを図るように向けながら、タイミングを探っている。
その表情は笑みを浮かべながらも真剣に。

「じゃあ、遠慮なく」

言うがいなや一気に距離を詰め、刃を次々突き出すだろう。

セリア > 「…………先に言ってほしかったわ」

まさに苦虫を噛み潰したような顔でセリアは呟いた。
その表情からして言い忘れたといった風では無い。
後でエールでも飲んで後味を誤魔化そう…と心に決める。

さておき、一騎討ちの続きということで。
エミネが突っ込んでくるのを見、腰を低くして短剣を構えた。
今度は先程とは違う、お互いに一本の剣を用いた勝負だ。

間髪入れず繰り出される刃を、時には剣で受け流し、時には身体を捻って躱す。
此方からも負けじと、隙を狙って剣を突き出し、体術を用いて腹や足元を狙い、屈服させんとする。
一進一退の攻防が繰り広げられ、お互いの部下達はそれを呆気にとられたような表情で見守っている…

エミネ > 「あはは、良薬口に苦しよ!」

打ち合いながら、エミネはケラケラ笑って言う。
実際これでないと効かないのだから仕方ないのだが。

二人の対決は一進一退といった調子で続く。
お互いの攻撃を防ぎ、かわし、いなし…。
相手の攻撃を的確に読み合ったそれは、まるで二人でダンスを踊っているようで。

最初は唖然としていた兵達も、次第に感嘆し、盛り上がり、応援し始める。
二人の一挙一動に歓声があがる。
そのうち解説しだすものや、同僚のみならず相手の兵と話し始めるもの。
更にはどっちが勝つか賭ける声まで……。

「聞こえてるわよアンタらぁ!!」

ちょっと間合いを取ったところでエミネが釘を刺す。
賭け事をした兵士は後で罰が与えられるだろう。

しかしいつまでもこれでは埒が明かない。エミネはリスクを取ることにした。
相手の攻撃を受け流し、こちらもフェイントを入れながら、探る…探る…一瞬の隙!

「……そこっ!!」

一気に踏み込みながら逆手に持ち替えた匕首を突き出す!
刃は真っ直ぐセリアの喉を狙い……触れる寸前で止まる。入った!

「私の勝ち……」

だが、自分の首元にも、刃の冷たさを感じることに、エミネは気づく。

セリア > 実力はほぼ、互角なのだろう。
踊るように剣を打ち合い、時に躱し、時に仕掛ける。
これ程伯仲した勝負は久しぶりだった為か、セリアの口元にも薄らと笑みが浮かぶ。

兵士達の歓声やら解説の声やらは、一応聞こえている。
一度エミネが声を張り、釘を刺したものの止める気配はなさそうだ。
やれやれ、と戦闘の最中、呆れたような表情ともなる。

とはいえ、これでは埒が明かない。
打開策を考え始めたが、それより先にエミネが動いた。
フェイントを出し、出され、繰り出される剣技を受け流しながら……

「……っ!」

一瞬の隙、を縫って匕首が、喉に触れる直前で止まる。
ピタッ、と2人のみならず、それを見守る兵達もフリーズした。
時間にしてみれば決して長くはない瞬間。

「……甘いわね」

反射的というか、野生の感性というべきか。
ほぼ同時にセリアの持つ短剣の切っ先が、エミネの首元に突き付けられていた。
タイミングだけでいえば引き分け、といった風か。

エミネ > しばし止まる時。お互いの首に突きつけられた刃。
エミネは何事か考えていたが、やがて諦めたように己の得物を下ろし、ため息をつく。

「……引き分け、ね」

エミネは肩をすくめ、観念したような笑みをセリアに向け……、
そして目線をそらすと、頭をかきむしりながら叫びはじめた。

「ああぁぁ悔しぃぃ!!!勝てると思ったのに!!思ったのに!!!」

言葉にしているように、悔しさいっぱいの顔でエミネは騒ぐ。

「これじゃ結局負け越しじゃないの!!!!あああぁぁぁ!!!」

前回色々とあった時は負けてしまったので、今回引き分けなら0-1には変わらず。
戦いの疲労に加え気分も落ち込んできたエミネはそのまま膝を落とし、どさりと倒れこみ。
程よく草が生えた地面はそこそこの寝心地だった。

「あー…疲れた……あ、アイツどうしよ…」

目線だけをセリアに向ける。
アイツとは勿論、発端になった魔族の疑いのある自称商人の男。

「どうするー?じゃんけんか何かで決める?」

やる気なく片手を突き出す。
よくよく考えればここには自分と部下しかいないのだから、
王国に引き渡すことになってもそんな男はここに来なかったとでも言っておけば何とかなりそうではある。

「それか貸しにしてやってもいいわよ?」

せめて何かしらは得たいと、そんな提案もしてみて。

セリア > 首元に突き付けられた匕首が下ろされると同時、セリアの腕もゆっくりと引かれる。
引き分け、というエミネの言葉に、少々不服ながらも頷く。

続く彼女の、見るからに悔しそうな騒ぎ方に苦笑する。
表にこそあまり出さないが、セリアも同じようなことで心の中は大嵐だった。
きっと王都に帰ると、誰か適当な部下を指名し、へとへとになるまで訓練に付き合わせることだろう。

「はぁ……私も、流石に疲れたわ。
…とはいえ、今のところは"まだ"私の方が勝ち越し中…ね?」

兵士達も、すっかり今の二人の戦闘に夢中になっていたようで。
興奮冷めやらぬといった様子の声があちこちで飛び交っていた。
さて、問題は例の商人を誰が見ているか、ということで……

「そうね……どうしようかな。また勝負、っていうのも…今すぐも無理だし……?」

ちら、と一瞥する。
商人は結局どうなるのか、とその後のみを気にしている様子。無理もないが。
一つ溜息をついて…

「…仕方ないわね。一つ、貸しで。…そのうち返すわ。そのうちね」

敵国の将に貸しを作るというのも中々頓狂な話だが、折角捕えた獲物は逃がしたくない。
未だ薬の効果が切れていないのか、苦虫を噛み直したような表情で了承した。

エミネ > 「くっそ…アンタ余裕そうね…」

地面に手をつき体を起こし、じとりとセリアのことを見る。
心の中までは流石に見透かせないようで。

提案に彼女が承諾したのを聞き、片手を上げれば後ろに立っていた帝国兵が反応し駆けていく。
何事もなければ魔族の男はセリアの部下に引き渡されるだろう。

「貸しって言ったって別にそっちの軍とか国とか巻き込むような無茶は言わないわよ」

流石にそこまで言っても承諾しないだろうし、エミネ自身の仁義にももとる気がする。
とはいえじゃあ何を返してもらおうかというのは悩むのだが。

「……あら、よっぽど苦かったみたいね?可哀想ねーこの後何食っても薬の味しかしないわよー」

セリアの表情に目ざとく気づけばそうからかってみて。
そうすれば悔しさもちょっとは晴れる。

だが、武器も手放し油断しきってるので、セリアが何か逆襲しようと思えばあっさり食らうかもしれない。

セリア > 「あら、そう見える?」

じとっとした視線にクックッと笑ってみせた。
実際は違うのだが、不満げなエミネの顔を見ているとちょっとした憂さ晴らしにもなる。

帝国兵から部下へと、商人に扮した魔族が引き渡されるのを見届け、セリアもまた芝生の上に仰向けに寝転がった。
相手の仁義は兎も角として、此方も軍や国を巻き込むような大事は避けたい。
また個人間でのあれそれになるのだろうな、とぼんやり考えて…。

「………ふん。飲み損ってやつね。ま、別に飲まなくたって私なら、あの程度の攻撃食らわずに済んでたけど」

揶揄いの言葉に唇を尖らせた。
暫し聞き流していたが、ふと相手が油断しきっているのを見…

唐突に手を伸ばす。エミネの肩を掴んで引き寄せると、ほんの一瞬、唇に唇を押し付ける悪戯。
成功してもしなくても、手を離して間近でニヤリと笑う。
お互いの兵士達は受け渡しに意識が向いていて、此方の行為には気づいていない。

「……戦いでは互角と知れた以上。次はこっちで勝負よ。
完璧に負かしてあげるから覚悟しときなさい」

エミネ > 「んぐ!?」

いきなり肩を掴まれると、次の瞬間には唇を奪われていて。
してやったりといった感じのセリアの笑みに、しかめっ面を返す。

「……こんなまずいキス初めてだわ…」

どうも薬の苦さが流れ込んだようで。まぁ自業自得と言えるだろう。
しかしセリアの言葉を聞くと、勝気な笑みを返し。

「ふん、そっちこそ前回みたいにいくと思ったら大間違いよ?」

そんな機会があるのかは知らないが…。
と、そこで何かをふと思いついたようで。
エミネは目線を逸らしながら、こんなことを。

「あ-…別に体で返すとかでもいいわよ?そっちへの貸し」

それだけ言えば立ち上がり、男の引き渡しが終わった帝国兵達に指示を飛ばしながら帝国領のほうに歩いていく。
ぞろぞろと兵達が帝国領に帰っていくのを見届け振り向き、セリアの方を見ながら、

「次こそは勝つんだから、それまで元気にしてなさいよ!!」

そんなことを言い残せば、彼女も帰っていくだろう。

エミネ > 【終劇】
ご案内:「帝国との暫定境界線」からセリアさんが去りました。
ご案内:「帝国との暫定境界線」からエミネさんが去りました。