2020/04/19 のログ
ご案内:「魔物の巣窟」にアルヴィンさんが現れました。
■アルヴィン > 頭上に戴く欠けた月。そこから届く蒼い月影が照らすのは、一人の騎士と、騎士に対峙する一頭の魔獣の姿…。
低く低く、魔獣が唸る。
闇の中、炯々と底光りする緑色の瞳。その瞳を持つ顔は、年老いた男の顔に見えるものの…その顔は、巨大な…輓馬ほどもある巨大な、獅子めいた身体に繋がっている…。
背には、夜の闇ほどにも黒い、蝙蝠の翼。そして尾は、サソリの尾、そのもの。
マンティコアと…そう呼ばれる魔獣だった。
狂猛なること、時にドラゴンを凌ぐという…。
そういう魔獣とこの騎士は、ただ一騎対峙していたのだ。
近くにあるのは、貧しい村が、ただひとつ。
その村が唯一、街道へと繋がるこの峠に、棲みついた魔獣がマンティコアだった。
低い報酬額と、それに見合わぬ危険。
ギルドでも放置されたままであったというその依頼を、騎士は受けた。
騎士が纏う白い鎧に、幾筋もの傷が走っていた。
魔獣の爪と、サソリの尾の、毒針。
それが刻んだ傷だった。
「…鍛冶に、打ち直しを頼むのも随分と物入りなのだぞ」
これではまた、出費ではないか、と。騎士はそんな言葉を魔獣に向けて吐いてみせる…。
そして、左腕の盾を、捨てたのだった。
右手の剣を、両の手で。
握り込み騎士は、ゆるりと大きく息をつく…。
■アルヴィン > 醜怪な老人の顔が笑う。
騎士の軽口を、その魔獣が理解しているということだった。
おまえにはもう、鍛冶屋への用事などできようはずもないと、そう嘲笑うように。魔獣はその醜い唇を歪めてみせた。
その笑みに、騎士が返してみせたのは苛烈な、そして凄烈な笑み。
口の端に過るそういう笑みと共に騎士は、大きく大きく、息を吐く。
いくさ場において、息を乱すものではない。
そのような様を晒すくらいならばくたばるがよいと、老いた師は騎士に仕込んだ。
身体が空気を欲するときこそ、息を吐く。
そして、笑え。
虚勢でもよい。笑ってみせろと、そう老いた師は言ったものだった。
魔獣とて、その身にはいくつもの浅くない傷が走っていた。
輓馬のような巨体に走るその傷は、全てこの騎士が刻みつけたものだ。
魔獣の爪を濡らす血は、騎士の血ばかりではない。その肩には、未だにごぼり、ごぼりと濁った血を溢れさせるほどの傷が開いている…。
深く深く、騎士の剣が刻んだ傷が…。