2019/10/08 のログ
ご案内:「王都 富裕地区」にクレマンスさんが現れました。
ご案内:「王都 富裕地区」にギュンター・ホーレルヴァッハさんが現れました。
クレマンス > 店員は勘違いしたままだが、仲睦まじく会話をする客を邪魔せぬよう遠巻きに見ている。
だが早速二着お買い上げの報とともに寸法を命じられて、手際よく道具を取り出す。

「あまりに甘やかされますと、私の金銭感覚が神職からかけ離れていってしまいそうですね」

一気に二着。
王侯貴族には大した額ではないのだろうが、修道服以外は数少ない己からしてみると贅沢に思える。
気取りすぎていない店だが、品質がよい代わりに価格も平民地区に比べれば高価なのを確認したし。
しかし気後れする聖女とは正反対に、更なる追加を提案する彼は慣れているというか、この程度の散財は何ともないのだろう。
それより驚くべきは本番を待たずして、この場であれを試着してもいいという言葉。

「まあ。よろしいのですか?」

何がとは言わず、視線が店員をちらっと見た。
彼女もその姿を見るというのにという意味だったが、店員はそれを勘違いしたようで笑顔で頷く。
試着してもらえれば大体のサイズがわかる。
体型にフィットするよう採寸するにしても、測りやすいというもので好都合だ。
事情を把握していない店員は紅いドレスについては彼に合わせて作るつもりらしい。

「もしよろしいのでしたら待たせてしまうのも申し訳ないですし、私がもう一着選んでいる間に…是非」

にっこり、穏やかな微笑みで恋人を促す。
気が変わってしまう前に。
もはや三着目を選ぶことよりも彼が己のために“らしくないこと”を受け入れたことのほうが興味を引いている。

ギュンター・ホーレルヴァッハ > 「清貧である事は良い事だとは思うが、救いの手を差し伸べるには自らに余裕が無ければならぬ。故に、服を数着買った程度で、神がどうこうという筋合いもあるまい」

大体、神聖都市の司教達は酒池肉林の限りを尽くしているものばかり――というのは、言葉にせずに飲み込んだ。
曲がりなりにも彼女が育った都市を、余り悪く言うのも憚られる事だし。

「本音を言えば宜しくは無いがな。まあ、余興代わりに必要だろう。似合わずとも、余り笑ってくれるなよ?」

彼女の視線が店員に向けられた意図を察する程度には、共に過ごす時間を得ていたと思う。
だからこそ、宜しくは無いのだと答えながらも、小さく肩を竦めて笑ってみせた。
己の中ではあくまで男が似合わぬ女装をするという余興でしかない。デートというイベントは、こういう肩の力を抜く様な行いも必要なのだろうと判断したが故に。
それに、彼女の衣装棚の中身が少しでも充実するなら、これくらいの恥は構わないかと甘く考えていた。

「ん。どのみち着替えには時間がかかる。ゆっくり選んでいると良い」

微笑む彼女に緩く頷くと、店員からドレスを受け取り試着室の中へ。正直、女性物の衣服等着方からして分からない。
取り敢えず己の服を脱いで、上から着れば構わないだろうと安直に考えながら籠った試着室からは、暫く衣擦れの音が漏れ出ているだろう。

クレマンス > 生活スタイルが大いに変わったのは言うまでもなく己だが、別の変化が強いのは彼なのではないか。
もちろん変化する前を知れたのはほんの数時間で、実際に変化したのかどうかさえ自信はないのだが。
少なくとも己がいた教会を訪れた際の態度からは想像もできないリラックスした姿がある。

「自信がありませんわ。お似合いでなければ大笑いしてしまうかもしれません。……お似合いでなければ」

強調するように二度言った。
ここまで少女に近い容姿をもつ異性を知らない己としては、彼に似合わなければ他の異性の誰も似合わないと思えた。
店員は採寸のために彼へとつき、聖女は手近な場所で三着目を探し始める。
あまり衣類に頓着せず、流行りというものも知らないため、一着目と似たようなものを選んでいた。
髪の色といい、瞳の色といい、華やかな容姿の少年とは違うらしい。

――――― 一方、試着室の前では採寸だけでなく何か手伝うことがあればと、店員が待機している。
比較的気楽に着れてファスナーを上げれば終了という服を選んだ聖女と違い、
少年に差し出されたのは少し畏まった場所でも失礼にならないデザインだった。
その分、着るのに手間取るのは仕方ない。

『お嬢様。よろしければドレスに合うコルセットやお靴、小物もご用意できますが…』

手間取っている様子の試着室へと、にこやかな声が送られる。
王侯貴族の令嬢ならばそうしたサービスも喜ばれるだろうとの親切心である。

ギュンター・ホーレルヴァッハ > 図らずも彼女の思う通り、己の内面は大きく変化しているといっても過言ではない。
他者を気遣い、傲慢さが鳴りを潜め、穏やかな時間を楽しむ余裕を今の自分は覚えているのかもしれない。
尤もそれは、彼女と過ごしている時だけなのかもしれないが。

「…二度も言わずとも、似合っておらぬのは理解している。だが、余りはしたなく笑うのは控えるのだぞ」

強調された言葉の意味が、己の中ではあくまで余興を楽しむ彼女なりの気遣いだと解釈された。
苦笑いの交じった言葉をカーテンの奥から返しつつ、慣れぬ着替えに四苦八苦。

「……む?ふむ、そうだな……。衣服に合う様な適当に見栄えの良い靴と装飾品を頼む。コルセットは不要だ」

着け方が分からないから、ときちんと言えば、或いは店員の誤解も解けたのだろうか。
しかし、男性の自分が着替えている最中に女性の店員を呼ぶのも憚られた事。そして、締め上げずともサイズが特に問題無かった事から、ドレスが映える様な小物を店員に注文するのだろう。

戯れとはいえ、手を抜くわけにはいかない。少なくとも、恋人を楽しませる程度には真面目にしなければならない。
それ故に、せっせと衣服を整え、鏡の前で髪を整えてみたり。本人の思うところの似合わぬ仮装は、あと少しで終わるのだろう。

クレマンス > 中から声が返ってくると、店員は短い返事を残して商品を集めてくる。
単純な価格の問題だけではなく、どこか尖った容姿の彼女(彼)にはゴールドが似合うだろうと
金とルビーを気品よくあしらったネックレスにイヤリング。
その他、どれもこれもが繊細で目立ち過ぎないものをいくつか用意して。
靴に関してはドレスよりトーンを落ち着かせた深紅のパンプスを。
パールの足首ストラップがあったり、踵にリボンがあったりするデザインにしたのは、少女らしさを強調させるためだった。
それらは準備中の彼の元へ、失礼のないよう届けられる。

やがて鶯色の、一着目と同じようなワンピースを選び終えた聖女も試着室の前へとやって来た。
別のスタッフが採寸もしてくれたが、彼が試着しているものとは違ってゆとりを持たせたものだったため、そう時間はかからなかった。

「いかがです?お似合いですか?それとも…」

うふふと笑みを含んだ声がかけられれば、己が来たことは伝わるだろう。
スタッフと二人、おとなしく彼の登場を待つ。

ギュンター・ホーレルヴァッハ > せっせと試着室に運び込まれる小物を手に取って眺めては、ドレスの差し色になりそうなものを手に取って身に着けていく。
流石に用意されたパンプスには呆れを通り越して力無く笑うばかりであったが、その姿を見た者は生憎といなかったのだろう。
とはいえ、元々王族はある程度のセンスも求められてこそ。
女性物で些か勝手が違うとはいえ、夜会で出会った淑女達の姿を思い返しながら着替えは進み――

「……お似合いですか、と問われて、似合っていますなどと言う程自意識過剰にはなれぬよ。そもそも、是は私が纏う様な衣服でもなかろうに」

と溜息交じりの言葉を返した後。カーテンが静かに引かれて少年は彼女達の前に姿を現す。

白いレースで飾られた深紅のドレスは、日光を拒否し続けた己の白い肌を鮮血で染め上げたかの如く幽遠な雰囲気を醸し出している。それでいて、店員が用意した小物が華やかな貴族の少女らしさをアピールするかの様に身を飾り、浮世離れした様な佇まいを煌めく黄金やルビーが引き留めているかの様。

普段は綺麗に整えられた白金色の髪は、敢えて肩のあたりで広がる様に手櫛で梳かれている。それは、元々長かった髪をたった今切り落としましたと言わんばかりに宙で靡いているのだろう。

僅かに目を伏せ、嫋やかな淑女の様にしずしずと彼女の元へと歩みを進めると――

「…ほう、お前に良く似合いそうな物を選んだじゃないか。お前も、早速着替えてくると良い」

羞恥心が振りきれたのか、はたまた敢えて意識の外に追いやっているのか。
普段通りの言葉遣いで、しかし動作はどこかぎこちなく。彼女をそっと見上げるのだろう。