2019/07/27 のログ
クロナ > 努力とか根性とかそういった泥臭さを嫌うちびっこ淫魔が、何故朝早くからこんな所で誘われ待ちをしているのか。そこには実に切実な理由があった。
おこずかいが尽きたのである。
このちびっこ、何も考えていなさそうな見た目の通り、経済観念が欠如している。月に一度のおこずかいを受け取ったなら大はしゃぎで街に出て、目につく端から衝動買いを繰り返し、夕方にはすっからかんになって帰ってくる。
今回も例に漏れず、早々におこずかいを使い果たしてしまい

「―――仕方がない、たまには働く……クロナはとても健気な勤労少女……」

などといいつつ愛用の黒魔槍ゲーリュケイオン―――名前も見た目も非常にいかついが、特に魔力付与などされていない見てくれだけの駄槍―――を伴い、冒険者の一攫千金伝説に期待してギルドに足を運んだのである。
とは言えこの悪魔っ子、実際の所はガキの冷やかしと一笑に付す事も出来ないだけの能力を秘めていた。膂力も体力もスタミナも致命的なまでに低く鍛錬もほとんどしていないため類まれなる槍の才能は半分死んでいるものの、淫術を応用した回復能力はプロの治癒術士が涙目になるレベルなのだ。
それ以外の能力は役立たずどころか明確なまでの足手まといだとしても、回復置物としてリュックの端っこにもでも入れておけばその加護は計り知れない物がある。
『クロナちゃんの力はドラゴン退治の時にも持っていきたいレベルですごいですっ!』というのは実の母親にして一流冒険者の末席に名を連ねつつある大剣使いの言葉である。
――――が、その秘めたる能力に目ざとく気付く者など新人冒険者ばかりのこの場に居合わせているはずもなく、クロナは今もこうしてギルドの隅っこ、座敷わらしよろしくぽつねんとしているのであった。

クロナ > ―――――― 完 ――――――
ご案内:「迷宮入り口 ギルド出張所」からクロナさんが去りました。
ご案内:「看板の無い店」にイライザさんが現れました。
イライザ > ──その魔女は、店の奥の広々とした来客スペースに独り、居た。
毛足の長い絨毯が敷かれ、中央には足の低い厚ガラスのテーブルが置かれている。
テーブルを挟んで、クッションが柔らかい上等の横長ソファーが一つずつ。
魔女が座すのはその内の一つ。適度な弾力の背凭れに体重を預け、悠然と足を組み。
対面には誰も居らず、煙草は吸わぬが長い煙管を指先でやんわり弄んでいる……。

店の出入り口には魔女の魔術が施されており、無意識の内に波長が合ってしまった者は、
ふらふらと入口を潜り、商品陳列エリアを通り抜け、奥の来客スペースへと入室するだろう。
一種の洗脳の効果が店自体にかけられているのだ。そして、魔女の獲物となる……。
魔術の抑制が効かない危険な者が入って来る事も有るが、滅多に有る事象ではないし、
とタカを括っている。永い時を生きた人ではない種族特有の増長と言えるだろうか。

店の洗脳効果を察知し、洗脳されずに踏み込んで来る輩も、稀に居るのだから──
洗脳効果を受けた者は、魔女の傍まで来た時点で効果から解放されて我に返るだろう。

ご案内:「看板の無い店」からイライザさんが去りました。