2019/04/19 のログ
ご案内:「薬屋のテント」にナルさんが現れました。
ナル > 甘い芳香に誘われ…たのかは定かでは無いがふと少年が視線を移せばそこには真っ白な少女。
いつ来たのか、どこから来たのかは分からないが何処からどうみても人外を思わせるその少女は少し離れた所から作業に精を出す少年を眺めていた。

「……。」

無言無表情を貫く少女の表情からは察せられそうにないが少しの退屈と興味を含んだ視線は逸れることなく少年を見据えていた。

タン・フィール > 「よし…っと、一旦ここで冷まして…っと…  …っわあ!?」

鍋を火から遠ざけて、予熱で冷まし、瓶詰めする直前の工程にうつる。
慎重に鍋を移動させ、ふう、と一安心して、はじめてすぐ側で、
まるで初めからそこに居たかのように鎮座していた、白の少女に気づいて、声が漏れる。

「なな、んなっ…!?… え、ええと…おきゃく、さま?
い、…いらっしゃい、ませ…?」

と、言葉尻が疑問系になってしまいつつの挨拶。
自分よりも年上に見える容姿なのに、背や、全体的なサイズが、
ひと回り小さく感じる不思議な相手。

真っ赤な赤の瞳を交錯させながら、おそるおそる相手の顔を伺う…。

ナル > 「おきゃくさま…?じゃない。」

頭から生える獣耳と触角を揺らしながら少女はほんの僅かに困ったような表情をした。
自分が何故ここに惹かれたのか。何故興味が沸いたのかも解さぬ少女はなんと返したものかと言葉を選んでいる様だが結局その言葉は出ずに沈黙が流れていた。

「クスリ…?」

持ち前の嗅覚で甘い香りの奥に存在する成分を感じ取った少女はすんすんと小気味良く鼻を鳴らしていた。

タン・フィール > 「そ、そう…? ああ、この匂い?…うん、おクスリ。
病気の人を良くしたり…元気が欲しい人を、もーっと元気するおクスリを、美味しく飲めるようにしてるの。」

客ではない、と答えながら困ったような表情の少女に、
気にしないでと笑いかけるように、彼女の見たいまま、したいままにさせていて。

まじまじと彼女の白い素肌や、狼のようにピンと立つ耳に、虫…
蝶か、蛾のような、触覚や羽根に視線が映る。

「…わ…キレイな、羽根… きれいな、しろ。」

と、思わず感じるままに、キレイと口にして。


その容姿から、狼の嗅覚や蛾の触覚など、人間の嗅覚や感覚より鋭敏なそれらは、
甘い香り以外に、薬湯の中の成分を掬い取ってしまうかもしれない。

淡いお酒のような陶酔感を得られるものから、
風邪薬…傷薬…媚薬、興奮剤、安眠効果…どれも、薬が過ぎれば毒となるものばかりなので、
少し身を寄せて少女の表情を伺い。

「…だいじょぶ?…そんなに吸っちゃうと…ちょっと、おクスリが染みちゃうかも、しれないよ?」

ナル > 「ありがと…。」

綺麗と言われた少女は少し頬を染め背の二対の羽を拡げてみせる。
白く透き通った羽根は儚い壊れ物のようにそよ風に揺れていた。

「大丈夫。私は…。多分?クスリには強い。」

本来気遣われる事など無い彼女には少年の労る言葉がとても新鮮に聞こえた。
自らの体内で特殊な薬効のある体液を複数生成する彼女にとっては規格外に効力の強いものや過剰に次ぐ過剰投薬でもしない限りは平気なのだがそれが気遣ってくれた相手に少し申し訳無かったのか耳が少し垂れていた。

タン・フィール > ひとまず、熱を扱って薬の面倒を見ることもなくなったので、
きちんと少女に向きなおって羽根をじっと見つめて…
応えるように拡がれば、おおっと無邪気に感嘆の声をあげる。
少女の姿や、その羽根の綺麗さと儚さに好奇心は尽きず。

「キミは…妖精さん?…それとも、獣人? ふふ、キミみたいなひと、はじめてだよ。

ボクは…タン・フィール。
このあたりで、おクスリを作ったり、売ったりして暮らしてるの。」

ぺこり、と丁寧にお辞儀して。
クスリには耐性がある…という旨の返事には、杞憂に過ぎなかった気遣いなど、なんのその。

「へえっ…そうなんだ、ふふ、ふしぎなひと。
ケガしちゃったり、具合が悪くなったりしたら…どうするの?」
と、無邪気に尋ねて

ナル > 「私?私はなんだろう。色々なものをぐちゃぐちゃに繋いで作られた【兵器】
それが私、必要が無くなったから一人で暮らしてる。バケモノ?」

まるで何事もないかのように平然と言ってのける少女。
自らの歪んだ存在を悲観するでもなく【そういう】存在なのだと告げた。
よく見れば時折風によって揺れる彼女の純白のマントの下にある一糸纏わぬ裸体が見え隠れしているだろう。

「ケガ…。しても気にしない。すぐに治る。病気にはなったこと無い。
ずっとずっと戦って戦って戦って。後は皆に使われて…。そのために私は造られた。」

彼女の言う使われる、とは性欲の捌け口、欲望のぶつけ先なのだが彼女の微妙なニュアンスの為か今一つ伝わりきらないだろう。

タン・フィール > 「――――ッ …そう…  おつかれさま、だね。

…でも…いま、戦う必要もなくなったんだから… これからは、すきなこと、できるねっ。
ケガもすぐなおって、病気にもなんないなんて…
こっから先、楽しいことばっかりだよっ!」

孤児であり、人に揉まれた魔族とは言えど…比較すれば平穏な幼年期を迎えられた少年にとって、想像を絶する少女の背景と人生。
彼女の様子から、悲観や、救いを求めるような悲惨さは感じない。

――それがより、少年には悲しいとも感じてしまってはいるが――

憐れむ気持ちが沸き起こらない筈はなかったけれど、それよりも、
労いと安らぎを、もし彼女が感じられたらいいな、というのが、
少年に沸き起こった素直な感情で。

はためくマントから見える白の裸体に、「皆に使われて」の言葉に、
すべてを察しきれるほど少年は大人でも、勘が鋭くもない。
男の子の生体反応として僅か、頬を紅潮させてしまいつつ…体温も上げてしまいつつ
けれど、もうひとつ、おもわず口にしたい言葉が出てきて。

「…バケモノなんかじゃ、ないとおもうよ。
きっと、誰かの助けになるために、生まれてきた…ってことじゃないかな。」

ナル > 「うん、大丈夫。ありがと…。でも、大丈夫だから…ね?」

触角が淡く蒼白い光を灯し少年の心情を窺い知る。
自分の為に悲しんでくれている。気遣い想ってくれている。
それを知った少女はきゅっと胸が締め付けられるような心苦しさを感じた。
無論その感情を少女は知らない、知らないのだが。
彼女の内なる彼女が、その本能が少年を癒してあげたいと願った。

「おいで?」

彼女の白く華奢なてが少年の手を引く。
彼女より頭一つ背の高い少年をそっと引き寄せ胸に抱く。
まるで母が子をあやすようにそっと頭を撫でる。

「私はちゃんと生きてる。誰かに言われたからじゃなくて。
生きていたいと思ってる。私の存在意義はまだわからないけど。
だから…。」

戦うことしか、慰みに使われる事しか知らない彼女には人を元気付ける言葉が出てこなかった。それが少し苛立たしくて。ただ寄り添っていた。

タン・フィール > 「ぅ…うん…  ――ぇ、あ…わっ……んっ…」

戦争帰りの傷病兵や、傭兵も店に訪れることはあったが、
それとは異質な悲しさを、勝手に感じいってしまったことに申し訳ない気持ちになりつつ、
小さな身体に手を引かれて、ぽす…と体を預けてしまう。

「…ほんと、だ、 生きてる…。」

自分よりも育った体つきではあるが、自分よりも小さな体躯。
あやすように、安心させるように胸元に抱き寄せられて、
今生きている証としての少女の鼓動が、耳に届いた気がした。

少年の黒髪を撫でていく指先の心地よさに目を細めて、
悲しみで高ぶった心が落ち着いていくのは、
触覚の恩恵を受けても…その表情や仕草だけでも、判るかもしれない。

「うん…っ、 ふふ、ほんとうに、ふしぎなひと。
…いま、こうしてもらって…ボクが、すっごく嬉しいって思ってるの…おぼえて、おいてね。」

と、少年に施した抱擁や、癒やすような行い。
それで得た少年の安堵と…少年が向けてきた、感謝や慈愛の気持ち。
それを覚えていて、と、白い頬に小さな手を伸ばして優しく撫でながら見つめて。

ナル > 「ん…。覚えた。」

触れ合う二つの身体、内と外から聞こえる異なる鼓動が心地好くて。
彼女は今まで感じたことの無い安堵感と幸福感を感じていた。
少年から伝わる感情を自分のものとして自らの奥深くへと刻み付けていく。
この時間が続くことを無自覚のままに願って。

「あなたのこと…。もっと私に教えて。」

気付けばそれは初めて抱いた気持ちかもしれない。
望まれるまま戦いに身を置き。求められるまま身体を差し出していた彼女が。
初めて自ら他者を求めた。

悪戯に身体を重ねるわけではなく。
ただ側に在りたいと望み。
ほんの少しの独占欲…。誰かの【特別】になりたいという気持ち。
その感情の正体を知るにはまだまだ時間も経験も足りないのだが。
頬を撫でられるくすぐったさに時折混ざる愛おしさ。
気付けば少女は、意識か無意識かわからぬまま。
そっと少年の頬に口付けをしていた。

「ちゅ」

タン・フィール > 「うん…っ 教えて、あげる…っ…ぁ…」

少女の、もっと、この時間を…と、誰にも知る由も無いはずの細やかな願いに応えるかのように、
抱きしめられていた少年が、優しく少女を抱き返す。
透けて見えた羽根の印象そのままに、決して傷つかないように。

小柄な少年の小さな身体よりも、尚ひとまわり小さい身体。
細腕の中で、春の陽気を感じ始める頃合いではあるが、
もしかすると、兵器として過ごしてきた少女には… 「使われる」時とは、
種類の違う人肌の暖かさがあるのかもしれない。

頬に触れた唇の感触に、少し驚いたように少年は大きな目をぱちくりさせて…
クスッと嬉しそうに微笑む。

「ふふっ、くすぐったい… おかえし…。  っちゅ…ちゅ…」

少女のように柔らかな頬に受けた口づけを、同じ箇所に1度。
そのあと、反対の頬にも、もう一度唇を落として。
頬に触れた手のひらのくすぐったさが、ただの触覚によるものではないと、伝わるだろうか。

頭をなでてもらったお返しも、とばかりに、真っ白な髪を指で梳くように撫でながら、
目にかかる髪を優しくより分けて、じっとお互いの顔を間近で見つめ合い…もう一度、顕になった額にキスをして。

ナル > この偶然の出会いは、ある種の必然だったのだろうか。
その身に数えきれぬほどの穢れを抱いた人外の少女と。
その出生故に人畜無害に育った魔族の少年の出会いは…。

触れ合う温もり。
優しく抱き合う喜び。
見つめ合う愛おしさ。
全てが新鮮で、手離し難い程眩しくて。
世界の闇しか知らなかった、凍り付いたような少女の心は。
陽気に晒されゆっくりと溶けていくようで。

「ちゅ、ちゅっ。ちゅう。」

頬に、額に、首元に。
理解したならば、自覚したならば。
止められなくなったその行為は。
やがてあるべき所へ帰り着くように。その場所へ。
唇と唇がそっと触れた。

それが起点になったのだろう。
いつしか彼女の血のように紅く赤い瞳からぽろぽろと涙が溢れ。
頬を伝い落ちていく。

「あ……。れ?なにこれ。わたしどうなって。」

身体と心が追い付かずに困惑する少女。
涙を流す意味も必要も今まで無かった。
悲しいことも嬉しいことも知らなかった。
そんな少女は自らの変化に戸惑い、困ったようにはにかんだ笑みを浮かべた。
それが少年の見た少女の初めての笑みだっただろう。

タン・フィール > 「んっ…っ、っちゅ…は、…チュ…ッ…。」

少年からか、少女からか、やがて、唇を与えては受け取る応酬がはじまる。
くすぐったさを返し、自分の心地よさを分け与え、
相手に、もっと、この温もりを与えようとするかのような。

抱き合う小さな身体同士の中で、
凍りついた何かがゆっくりと溶けていくような…
まるで何か、卵を二人で温めあって、そこから孵る何かを感じあったような、
不可思議な温もりと愛おしさ。


―――無論、今日出逢って間もない少年には、
少女の頬を伝った温もりと、はにかんだ笑みは、初めて目にするもので、
けれども、それらが溢れた暖かさや、大事さを慈しむように、
ちゅ、と伝う涙に口づけて拾い上げ…

その味と暖かさを伝えるようにもう一度優しく口付けて、甘く舌先が少女の唇に割って入り、舌先に、少年の舌と、涙の味。

「痛かったり、悲しかったりすると、涙は出ちゃうけど……
嬉しかったり…しあわせなときも、でるんだよ…。」

と、その温もりを広げていくように、涙の伝う頬にほおずりしたり、
至近距離に顔を近づけて、一緒に笑ったり…
何よりも、お互いの赤と紅の視線を、溶け合うように交差させる。
それだけでも、飛ぶように時間が去っていくことすら忘れてしまって…


「…―――ねぇ、キミのこと…なんて、よべばいい…?
…ボクのところに、こない?」

小さな少女の手に、少年の小さな…それでも、ちょっとだけ大きな手が重なって、指と指を絡ませながら、尋ねる。

それは、この日だけの、雨風を凌ぐという意味で、自身のテントに招いているのか
あるいは……。

ナル > 「ふっぁ…。」

幾千、或いは幾万の男に抱かれた
そして、それと同じくらい女を抱いた

当然、互いの貪るような口付けだって何度もした。
しかし。こんなに満たされる、或いは溺れてしまう様な事はなかった。
そっと舌が触れ合う程度のキス。それだけで脳が灼かれるほどの多幸感に包まれ。
何時までも感じていたいと思うほどの中毒性に溢れ。
甘く、辛く、酸っぱい様々な感情が入り乱れている。
今すぐにでも相手を滅茶苦茶にしたい。或いはされたいと思った。

しかし。それをしてしまえば何も変わらない。
今までの自分と決定的に違う何かを手に入れるため。
血塗られた過去と決別するため。
彼女はたどたどしく言葉を紡いだ。

「幸せ?幸せ!なりたい。あなたの【特別】になりたい。
【特別】にして欲しい。」

彼女は望んだ。そして、ただ一つだけ持っていた。自分自身の意思でしか渡せないもの。それをそっと伝えた。

「私の名前はナル。でもこれは。兵器としての、道具としての名前。
私を造った人は言ってた。私の【真名】は。私が選んだ人に付けて貰えって。」

研究者の最後の良心か、はたまた皮肉な憐れみか…。
少女には自らの存在を決定付ける名前が無かった。

「私に、名前を付けて。此処が私の居場所だって分かるように。
離れていても。ちゃんと帰ってこられるように。」

タン・フィール > 「んっ…っく、 っふ、ぁ、っちゅ…。」

瞳を閉じて、互いの舌先と脳髄に感じる、
甘さと幸福と、欲望と情愛と、衝動と理性と…
様々な感情や本当が入り交じるキスは、同じように、
未知の快感と困惑と…お互いを【特別】なものにしたいという、
祈りに似た願いを抱かせる。

幸せになりたい、特別になりたいと語る少女の言葉も、声も、
これまでで最も、生気に満ちた瑞々しさを以って感じられた。

「―――うん… じゃあ、一緒に、【特別】になって…一緒に…幸せに、なろう?

僕は、君の【特別】 君は…僕の【特別】…。」

慈しむような口づけでありつつ…彼女と少年の心と、身体の奥底にも火を付けつつあった、
甘く深い口付け。
それを再び、唇、口の端、頬…と落とし、耳たぶにも擽るように落として

「…分かった…  …キミに、名前を贈るよ。

―――キミは、キミの、名前は―――           

・  ・  ・」

周囲に人の気配があるか無いか、自分以外のものが、真名を聞くか、聞かれてしまわないか…。
そんなことは些末なことで、ただ彼女に、彼女のためだけに名前を送りたい気持ちが、
誰にも聞こえないほど、甘く小さく…しかし、直に頭に刻み込む声色で、彼女の耳に直接囁かれた。

ナル > 彼女は、きっと寂しかったのだろう。
そして、羨ましかったのだろう。

今まで彼女の居場所であった戦場では、誰もが何かの目的のために戦っていた。
そんな中で、戦うために戦っていた彼女は。言い様の無い孤独といつも背中合わせだった。

「ありがとう。私に名前を。存在意義をくれて。」

しかし、彼女は越えるべき壁を、宙ぶらりんな己と袂を別った。
これからはきっと自分の意思と、愛するべき護るべき相手がいる。

斯くして此処に少女は完成する。
不滅の魂と不懐の身体を備えた。意志を持つ存在として。

貪欲に知識と感情を学び急成長を遂げるだろう。

「マスター。あなたの名前も。教えて?」

ご案内:「薬屋のテント」からナルさんが去りました。
ご案内:「薬屋のテント」からタン・フィールさんが去りました。