2019/02/13 のログ
■リタ > こんな荒唐無稽な要望に真摯に対応してくれ、色々と考えてくれる。そんな彼女に頭が上がらない。
ここで突き放す事も出来るのに、更にまだ案を出してくれる、との言葉。
「案、考えてくれるんです?わ、嬉し…え、あ、はい。えと…」
奥へ誘ってくれる彼女。店員は刹那、考えた。
正直自分の欲している武器は、善からぬ事に使用する。これ以上話を詰めるとなると、当然言えない事も出てくるだろう。
そこまで話すかどうかは別として、ともすれば彼女の言葉通り、第三者が居ない場所の方が喜ばしい。
「そうですね…それじゃ、お願いしよう、かな。うん。」
店員は二つ返事で事務室へと足を運んだ。
が、正直こんな大事になってしまうとは思っておらず、扉を潜れば歩み出す迄に数秒掛かり、
ソファを勧められれば座る迄に数秒掛かり…緊張しまくりだった。
紅茶を入れてくれる彼女を尻目に、事務室内をきょろきょろと見回している店員。
■リス > 「ふふ、だって、せっかく来てくれたんですもの、満足していただけないと、ですわ?
それに、やはり専門店に比べて品質は劣るものでもありますから。
出来ることはしないと、ですわ。」
基本は量産品なのだから、仕方がないだろう。
専門店に行けば、一品ものが多々あることであろう、知識だって自分以上のはずだ。
それでも、商人なのだ、お客が求めるところ、出来るところならやってみせるというのが、商人としてのプライドでもある。
「まず、お話を聞いて思ったのですが……射程と威力があれば、バリスタでなくても良いと思いました。
なので、素材から見直して、小型で、強力なクロスボウを作るというのはいかがでしょう。
ミスリルやオリハルコンなどの金属にを使った上で付与魔法をかければ、お客様の要望にあった、長射程で軽く、固定が必要のないものが出来上がります。
難点といえば……ええ、予算しだいで飛距離はぐっと下がるというところですわね。
逆にバリスタの方に、付与魔法で、という方法もあります。
バリスタは大きいので永続エンチャントもいくつか付けられるので、ご要望のモノができると思いますわ。
ただ、こちらは持ち運びが難しいのです、大きいですから。
魔法のカバンもセットでないと。
あと最後に。
視点を変えて。クォーレルの方を魔法の物品にしてよく飛ぶようにする。
これは、使い捨てのクオーレルなので、無くなった時の補充が難しいですわ。
でも、さきほど言った案と組み合わせれば、きっと使いやすいと思います。」
事務室につくなりに、自分の中で組みあがった案を幾つか紙に書いて出してみる。
彼女の案があるかどうかを、じ、と目を見て問いかけてみた。
■リタ > 彼女の説明をふんふんうんうん、と聞き続けている店員。
店員と客との商談は、結局の所お互いの利害を一致させる為のもの。
その部分をはっきりと残しつつ、お互いの事を考える事は容易い事ではない。
はっきりと自分の意思を表す彼女に、デキる女っていうのはこういう人の事を言うのだろうか、なんて考えてしまう。
「そうですね、出来れば…うん、バリスタは大きさが難点なんですよね…
その、足場が脆いところとかでも使いますし…的は動いている事が多いですし…」
やはりバリスタの大きさはネックだ。
店員は言葉を濁しながら、徐々にクロスボウの方向へ話を詰めていく。
彼女の言葉通り、素材と魔法の力を使えば可能だろう。彼女の言葉には説得力がある。
「あー…成る程、飛ばされる方を強くするって事?成る程…成る程…」
クォレルを強化する案も魅力的である。装填できれば武器は選ばない。他人のクロスボウでも可能な利便性。
しかし彼女の言う通り、補充に難点がある。撃った後手元に戻ってくるものであれば別だろうが、
やはりコスト面もかかるし、定期的に彼女から買わなければならなくなる。
彼女が箇条書きにしていく案を目で追いかけながら、店員はぼそりと呟いた。
「…なんか…店員さんって凄いね。若そうだけどしっかりしてて、綺麗だし、なんかかっこいいな、うん。」
止まった彼女の手。どうやら彼女の案はここまでなのだろう。
彼女の視線が自分へと移った。
「…あ、えと…?クロスボウとクォレルの案が、いいか、な、うん。
でもクォレルだと定期的に出費が嵩む事になるんですよね…」
商魂溢れる真剣な彼女の眼差し。
それに少しだけ恥ずかしくなったのだろうか、店員は目線を落として彼女の書いた案を指差し、言葉にしていく。
■リス > 「はい、大きさから来るものだと、やはりとっさの時に構えたりに不備が出てくると思いますわ。」
重量自体は、重さは魔法でなんとか出来ても、大きいことによる取り回しの悪さは流石にどうしようもない。
それを持って殴りつけるとかそんな使い方しない限りは邪魔でしかなかろう。
彼女はそれを理解しているのだろう、やはり、バリスタの大きさ自体に難色を思っていることを零していた。
「はい、私も聞いた話なのですが風の魔法を付与した物を投げれば、風の力でよく飛ぶと。
それなら、弓矢も風の魔法で強くすれば、よく飛ぶのではないか、と思いまして。」
空気抵抗をなくすだけではなく、風の魔法の殺傷能力を矢に込めれば、簡単に飛距離は上がろう。
それを、クロスボウで射出するなら、きっと遥か遠くの的に当てることも十分できる。
が、クオーレルは基本使い捨てである。
ほかにいい案はないだろうか、と少女は首を傾ぐ。
「え?いえいえ。
私なんてまだまだ、父の七光りというだけですわ。
この店だって、商売の修行として店長を任されているだけで、色々と助けてもらっているだけですもの。
お客様の方が、自分でなんでもするーって、感じでとても素敵ですわ。」
自分に対する言葉、最初はきょとんとしていても、とんでもない、と笑う。
今の商売ができているのも、いろいろな人の協力があるから、だ。
それに比べれば、冒険者の方がいろいろできるのだと少女は首を横に振った。
「はい、ありがとうございます。
お客様の言うとおり、クォーレルはその都度作らないといけませんし。
無くなる度に買い求めいただく必要が発生しますわ。
とはいえ、魔法の使える方が居れば、作ることも可能だとは思いますが。」
どちらにせよ、普通のクオーレルよりは高くなることは間違いはないだろう。
「………あ。」
そして、大事なことを忘れていた。
これは、とても大事なことである、なんで忘れていたのであろう、と。
「申し訳ありませんでした。
今、お客様が使っているモノを、そのまま土台として、強化するという案を忘れていましたわ。
魔法での強化、ということなら、それも出来るでしょうし。
弦などを張り替えるだけでも、十分威力などは変わるでしょうから。」
売り気が逸りすぎましたわ、とぺこり、とお辞儀を。
■リタ > 「あ、店長さん、でしたか、やっぱり。なんかそんな感じ、してたんですよね…
――ご謙遜を。立派な商売人ってカンジ、しますもん。
私は…自分でしなきゃ生きていけない、だからする、それだけ。しなくていいならしませんよ、仕事なんて。」
彼女の言葉に少しだけ砕けた口調。
親の七光りと仰るが、それだけでは大成しない事は世の中を見れば良く分かる。
あの没落貴族とか、酒で身を滅ぼした商人とか…。何れも親の七光りである。
そしてまた、親の七光りは多大な足かせにもなるのだ。
そういう会話をしながらも、店員は彼女の言葉をしっかりと、真剣な表情で聞いていた。
刻々と過ぎていく時を忘れるほどに詰められる商談。
「…それじゃ、とりあえずお試しで、クォーレルを1ケースお願いできますか?
後…クロスボウもお願いしたいのですけど…う~ん、でも、私のを強化するのなら、預ける事になりますよね…
――と、こんな時間…また後日、今度は持参しますので見積もり、お願いできますか?」
すっかりと夜が深まってしまった。
もう閉店時間ですよね?と店員はソファを立ち、丁寧なお辞儀。
■リス > 「あはは、名乗り遅れましたわ。
私、リス・トゥルネソルと申しますの。どうぞお見知りおきをお願いしますね?
ふふ……どこの世界も、同じなのですね、しなければ生きていけない。
しなくていいなら、したくない。
私も、同じですから。」
砕ける口調に、楽しく笑ってみせる。
少女のトゥルネソル商会は、父親が一代で築き上げたものである。
マグメールにダイラス、バフートに、ヤルダバオート、様々なところに支店を持つのだ。
それを思えば、大きな枷のうち一つなのであろう。
「畏まりましたわ。
飛距離優先のための、風の魔法を入れておきますわ。
はい、ご連絡いただければ、調節致しますから。
―――私の勤務時間はともかく、お店自体は24時間開けてありますわ。」
交代で店員がお店を切り盛りしてますから。
少女は立ち上がり、お辞儀を返してから、お送りしますわ、と事務室の扉を開ける。
■リタ > その時の彼女の声。自分の言葉を繰り返しただけのその声。
なんだか年に似合わない、口調、嗤い声…ぞくりと背筋が凍ったのは、何故だろうか。
そんな事を思いながら、店員は空けられた事務室の扉に向かう。
「あ、私は…リタって言います。貧民区でちっちゃなバー、してますんで気が向いたらどうぞ?
――なんて宣伝します。」
扉を潜って振り返っての言葉。深いお辞儀と共ににっこりと営業スマイルを。
「ありがとうございました、それじゃまた来ますね。えーっと…リスさん。」
もう一度、今度はぺこりと頭を下げ。そのまま彼女の店を出て行くだろう。
今度は間違いなく自分のクロスボウを持ち、この店に訪れる事になる。
次のお仕事は、彼女のそれが無いと達成できない仕事なのだから。
ご案内:「トゥルネソル商会 王都・マグメール店」からリタさんが去りました。
■リス > 「リタ様でございますね。
お酒は……たしなむ程度ですが……誘われてしまったら行くしかありませんわね。」
美人のお誘いなのだ、宣伝でも、十分行くに値する。
なんせ、バーというなら、お酒を扱うのだし、お酒は取り扱いがあるのだ。
それを考えて、商売として、それと純粋に酒を飲む楽しみを覚えてうなづいてみせる。
「はい、またのお越しをお待ちしておりますわ。」
少女は、お客様が帰っていくのを手を振りながらお見送りをして。
それから、事務室に戻ってくる。
つい先ほど注文を頂いた、風の魔法の込められたクォーレル一ダース。
それの発注と郵送の手続きをするために。
「素敵な、人だったな。」
冒険者も、いろいろいるのね、とそんな感想を覚えながら。
少女は業務を続けるのだった――――
ご案内:「トゥルネソル商会 王都・マグメール店」からリスさんが去りました。