2017/11/30 のログ
ご案内:「ティールーム《マール》」にルアナさんが現れました。
■ルアナ > 少し前まで通路を通るのも困難なほど混んでいた店内はピークを過ぎて空き始めていた。
カップや皿が片付けきれていないので、客は少なくとも雑然とした様子だが。
厨房で用事を済ませたウェイトレスはホールに出て来ると疲れを滲ませた愛想笑いでマスターに話し掛ける。
「今日はお客さん多かったですねぇ。 …あ、いえ、私がやっておきますから」
手伝ってくれようとするマスターを制止して、ウェイトレスはてきぱきと片付け始めた。
働き始めて数ヶ月。ベテランとは言えないけれど、若さ溢れる笑顔や愛嬌で看板娘として認知されつつある頃。
女性特有のちゃっかりしたところや、ずる賢い面もあるけれど。
「いらっしゃいませー!」
片付け真っ最中、それでもドアベルが鳴れば反射的に振り返り弾ける営業スマイルを向ける。
そこにはお客さまだろうか、それとも。
ご案内:「ティールーム《マール》」にグスタフさんが現れました。
■グスタフ > 仕事を済ませて今日も街を眺めて帰る。
そういえば最近顔を出していない店があったと、足を向けた。
最近可愛いウエイトレスが入ったという情報を耳にしたのだ。
マスターとは古い付き合いだ。元気な声で迎えられて、笑顔で返した。
「こんにちは。マスターはいるかい?」
男はウエイトレスに応えて声を少し張ると、そう答えた。
そうして相手の肢体を想像するように、その少女を視線で舐め上げた。
中々、良い少女じゃないか。心の中で舌なめずりしながら想像する。
ゆっくり近づいて、相手に案内を促すように手を腰に添えて引き寄せようとする。
マスターとは古い仲だが、それは対等な付き合いというわけでもない。
あいつにはたっぷりと貸しがある。そいつを返してもらう時が来たなと胸中で漏らした。
■ルアナ > 好色な視線も何のその。
夜、お酒が入ると男性は度々そういう目をする。
「はい、こちらです」
営業スマイルを崩さず、マスターのいる厨房へと案内しようとしたところで腰に伸びた手。
それをかわすのも慣れている様子。
先に立つ形でするりと歩調を速めるとカウンター越しにマスターが話し掛けてくる。
厨房の中へどうぞ、と。
「………」
その表情と言葉から込み入った話をするのだと察すれば、ウェイトレスはそれ以上踏み込まず。
「あちらからどうぞ」
ホールと厨房のスペースを隔てる戸口を指し示し、浅くお辞儀をした。
■グスタフ > 避けられた手をプラプラと。振って見せた後に、肩をすくめた。
そうして声をかけた相手を見ることもなく、背中にしながら。
少女の姿を視線で追いかける。
「ウエイトレスさん、エールを一つ……カウンターで俺は構わないぜ」
トントンと、ポーカーのコールでもするような仕草で声を掛ける。
マスターを引っ張り出すようにして話を切り出した。
「どうだ、景気は。儲かってるかい? ……そいつは結構。
いやいや。取り立てに来たんじゃない。ほんとさ。
挨拶に来ただけさ。ほんと……信じろよ」
手をふりながら世間話をするようにして談笑する。
マスターのほうは堅めの表情だったが、平和な雰囲気だ。
エールを持ってきた彼女に「ありがとう」といってグラスを受け取ると。
「……本当は君目当てに来たんだ。かわいいウエイトレスが入ったと聞いてね。
俺はグスタフ。よろしく」
手を差し出した。
■ルアナ > 「はい」
小気味いい返事をすると大した話をしているそぶりもないのに気の回らなくなったマスターの代わり、厨房に入りエールを注ぐ。
聞き耳を立てるつもりはないけれど、広い店でもないし距離も近いし取り立てという単語は嫌でも耳に入った。
それだけで何となく事情を察すると、自分の役目は普段通りにすることだろうと割り切る。
「え? ………ルアナです」
注文品を届けにホールに戻り、差し出したところで思わぬ言葉を掛けられ聞き返したが、すぐににっこり、営業スマイルが戻った。
体格の違いから相手に比べれば幾分も細く華奢な手を出すと、軽く握り。
「たくさん飲んでいってくださいね。お客さん、もう今日は終わりでしょうし」
マスターの緊張を和らげようとの意図もあり、ウェイトレスは"普段通り"の営業モード。
ある意味二人の会話を邪魔しない程度の当たり障りない態度、とも。
■グスタフ > 「おお、いいね。それなら付き合いなよ。
勿論。マスターの奢りだ。なぁ?」
酒を手に、ウキウキと厨房に立ち入ってマスターの代わりに酒を注ぐ。
その注ぎ方がちょっとこなれていて、真剣な目つきで仕上げて見せる。
カウンターに勝手知ったる我が家のようにつまみまで並べて。その姿はバーテンのようだ。
「乾杯!」
大きな声の割には、行儀よくチンッと合わせるだけのグラス。
グビグビと飲み干しては、隣に彼女を座らせて。
いつからこの店に入っただの、マスターの昔話だのと軽妙に話掛けていく。
それから本当に人が掃けて三人だけになったころ。
もうグラスの中身も何度か空っぽになって、彼女も帰らなきゃという時間に。
片付けまでテキパキと手伝って、笑いかけた。待ってましたといわんばかりに。
断る暇もなく、大分飲んだというのに素面よりしっかりした動きで笑っていた。
「勿論、送っていくよ。」
■ルアナ > 「え?でも…」
まだ片付けが…と言い掛けて、マスターの表情が物語る。
今、店内で王さまはこの客である。
マスターは気のいい人物だが彼に否を唱えられる立場にはない。
それに夜は酒のお供を請う客もちらほらいて、初めての経験ではなかった。
断るつもりは元からなかったけれど、それでも相手の行動は強引だっただろう。
重ね合わせたグラスに唇を寄せ、少しずつアルコールを摂取する。
ウェイトレスの頬と耳朶が酒精でほんのりと熱を持つ頃、店は翌朝の開店に備えて準備が整っていた。
自分が使った最後のグラスを洗い終え、酒を共にした客に声を掛ける。
「ありがとうございます。でも私、ここの二階に滞在してるんです。
それよりグスタフさんこそ結構飲まれましたけど大丈夫ですか?
従者の方とかお店の外にいらっしゃいます?」
比較的治安のいい場所だが、夜道は何があるかわからない。
心配そうに尋ねると手の水気をエプロンで拭きながらホールへと出て来た。
■グスタフ > 「こちらはしがない騎士でね。残念ながら供はいない。
一応片付けの手伝いができる程度には……問題がなさそうだが」
彼女の心配に軽口を交えながら、少しは向こうからの距離も縮まったか。
こちらも手を吹いて二階を見上げる。彼女がこちらに近付いてくるのを待って。
「なら、少し休ませてもらうかな。二階まで送ろう」
無理にではなく、手を取って先導して階段を上っていく。
マスターに視線だけを投げかけて。足取りも軽く。
「立派な店だ。夢を叶えたってやつだな」
しみじみとそんな軽口を言葉に乗せて彼女の部屋の前まで行くと大仰に。
頭を下げて手ぶりを加えて。
「それでは、お嬢様。お部屋にお邪魔してもよろしいでしょうか?」