2017/04/30 のログ
ご案内:「魔法具店『ビルスキルニル』」にトールさんが現れました。
トール > 王都の片隅、メインストリートから外れた寂れた裏路地に看板を出す小さな魔法具店。
少し傾いた看板には『ビルスキルニル』の店号と共に『魔法具捜索、薬品作成等』『何でも承ります』の文字。
『魔法具捜索、薬品作成等』の部分は狭いスペースに書き込んだ無理矢理感ありありの後入れ仕様。
そろそろ日も落ちようと言う時間、ドアの傍の小さな窓から長く西日が差し込む。

「こういう時この身体は困るのだよ。」

赤く染まる店内、金色の髪の少女は椅子を踏み台に棚の上へと箱を仕舞おうとしていた。
それでも少し手が届かず、顔を真っ赤にして背伸びし、足をぷるぷると震わせていた。

ご案内:「魔法具店『ビルスキルニル』」にホウセンさんが現れました。
ホウセン > とある人物の依頼を受けて、王都から出立する直前の日。
奇矯な流行病の原因究明と治療法の確立という役目を果たすには、あると便利な資材が一つ二つ欠けているのに気付いた。
一から十まで自前の道具でないと信用ならぬという手合いでもなく、となればよそ様から調達する事となる。
街を練り歩き、然し、即決するだけの琴線に触れるものには出会わず。
こうして十数件目の扉を開くこととなった訳で。

「御免、少々邪魔するのじゃ。」

今まで暖簾を潜った事のない店だけれども、どこに何が眠っているのかわからないのが魔法具の類だ。
駄目元の心地で扉を開け、黒い瞳を瞬かせる。

「…取り込み中なら、少し待っておるのも吝かではないぞ?」

状況は一目で理解したが、生憎と客もその手の雑事を効率的に援護できるような体躯ではない。
齢、おおよそ十歳。
黒い髪と黒い瞳が印象的な、ちんちくりんなのだから。

トール > ドアに吊り下げた鈴が軽やかな音で来客を告げる。
だが、すぐに振り向くことは出来ない。
もうすでに限界以上に足がぷるぷると震えてしまっているのだから。

「うむ、少々待ってくれ給え。今ちょっと……。」

やはりこの身体のままではどうにもならない。
ゆっくりと慎重に箱を下ろしていく。
ようやく踵が着いて箱を胸へと抱えると顔だけ振り向き、客へと笑顔を向ける。

「やあ、いらっしゃい。何がご入り用かね?」

箱を抱えたまま、一度椅子に腰掛け床へと飛び降りる。
白いスカートがふわりと靡き、一瞬白いふくらはぎが覗いた。

ホウセン > いざ転倒事故となったらなったで、物探しに大きな遅延が予想される為、無事に事が終わってほっと一息。
応対する少女の物腰から、只の丁稚の類ではないのだろうと踏むだけの洞察は働く。

「嗚呼、少しばかり病の研究をせねばならなくてのぅ。
 手始めに、血中の毒素の有無を調べる道具が欲しいのじゃ。
 可能なら毒の濃度まで探れるなら良し、種類まで鑑定できるようなら即金で買おう。」

客の容姿に見合わぬ、お堅い用途の用品を求める声。
冒険者や医療従事者からの需要に応えるべく少数は流通しているようだが、此処までの店では性能に満足できなかったらしい。

「して、お主が店主…ということで良いのかのぅ?」

余程、買いかぶって見ても内弟子が精々に思える少女に、確認の問いを投げる。
新しく開拓した店の中というのは興味が掻き立てられる物で、返答を待つ間も、あちらこちらに視線を投げては、ほぅ、だの、おぉ、だの呟く。

トール > 「ああ、安心してくれ給え。儂が店主だよ。」

にっこりと営業スマイルを浮かべると一度カウンターへと戻り、分厚いカタログを取り出しページを捲る。

「毒の種類まで鑑定出来るようなものだとさすがに高すぎてね、うちに置いていないのだよ。取り寄せになるがいいかね?」

開いたページ。そこには仰々しい角張った機材のイラストが描かれており、定価50万ゴルドと記されていた。

「毒の濃度までなら、在庫があったはずだよ。簡易式の物だがね。」

カウンターの上にカタログのページを開いたまま商品棚へと歩み寄り、ちょこんとしゃがみ込むと一番下の引き出しを引っ張り出し、中から白い紙の束を取り出す。

「本来は水中の毒素を測定する為の物だが、血液でも使えんことはない。使い方はわかるかね?」

魔法処理されたその紙は毒素を吸収すると赤く色が変わる代物。
赤い血であるなら、黒く染まっていくことになるだろう。

ホウセン > 鼻腔を擽るのは、薬品に由来する香気。
己の生まれ育った地域のそれとは、少しばかり風情が違うせいでどことなく落ち着かない。
カタログを捲り出したのに合わせて歩み進み、誌面を覗き込む。

「左様か。ならば話が早くて何よりじゃが…いや、取り寄せなら今回は不要じゃ。
 せわしない事この上ないが、出立が明日でのぅ。」

無いなら無いで、妖仙が額に汗をかけば何とかなってしまうだろう。
手を抜くとまでは言わないが、作業の効率化の為に、あれば幸いといった所だ。

「似たようなものは見たことがある故、大丈夫じゃろう。個数は十束ほど用立ててくれんかのぅ。」

支払いは即金で。
懐から取り出した革袋の重量感がそう語る。

「ついで、毒抜きに使えそうなものがあれば見たい。患者は男が殆どのようでのぅ。
 直接血から抜くものもあれば、”嚢”に溜めて搾り出すものもあろうが…」

男が多いというのなら、何の”嚢”かは言わずもがな。
房中術に端を発する魔法体系なら、体中の悪要素を陰嚢へと集約させ精とともに吐き出させる…等という解毒もまかり通っているのだから。

トール > 「明日か。それだと間に合わないね。」

十束と言われると引き出しから十枚綴りの紙束をひのふのみと数えて十束取り出し、少し重そうに引き出しを閉めて立ち上がる。
紙の束をカウンターの上へと置くと再び商品だなへと向き直り、少し考え込むよう口元に手を当てる。

「毒の種類が分からないとなかなかに難しいものがあるね。とりあえず精液を絞り出す道具ならいくつかあるが……。」

棚の前で背伸びして小さな薬瓶をいくつか掴み、引き出しの中から小さなアメジストの魔石をいくつか。
それに針やもぐさと言った専門知識が必要な道具も取り出し、薄い胸に抱くようにしてカウンターまで運び並べる。

ホウセン > 病と目されるものの原因は、大きく分けて二つ。
病原体由来のものと、呪い由来のものと。
対呪詛の資材は念入りに点検していたけれど、引き換えに対毒の備えを軽視していたのが、今のバタバタの源泉だ。

「儂にもまだ、明確なところは分からぬ。
 症状だけを見るなら、長期的な発熱と眩暈、吐気故、風土病の類かも知れぬと思わんでもないが、発症者に偏りがあってのぅ。
 呪詛の類も否定できぬ。」

カウンターに陳列された物品を見下ろし、細い指で指し示しながら、一つ一つ確認。
首を傾げたのは、やはり鍼灸用品だ。
元々の出身地でも根付いているからこそ、果たしてこの用途に合致しているのだろうかと小さく首を傾げた。

「のぅ、店主よ。何ぞ鍼やら灸やらまで並んでおるように見ゆるのじゃが、これも何かの機能が付加されておるのかのぅ?」

試しに針を手に取り、クルクルと器用に手の内で弄ぶ。
鍼治療その物の心得はあるようだ。

トール > 「儂も病や呪いは専門外でね、それだけの情報ではどうにもわからないよ。」

カウンターの大人用の椅子へと飛び乗ると足をぷらぷらさせながらカウンターの上の道具類を綺麗に並べ直す。

「ああ、それは精力増強の魔法が掛けてあってね、アレの根元のツボに刺すと一晩ほどで精液が満タンになるのだよ。もぐさは一定のツボに使うことによって感度が上がる代物だよ。まあ、本来病人に使うものではないのだがね。」

はは、と笑みを零し簡単に商品を説明し、青い大きな瞳で少年を眺める。買うかね?と

ホウセン > 「ほほぅ、それなら使いようもあろう。
 男の股座に鍼を刺すなんぞ、全くこれっぽっちも心の温まらぬ作業じゃがな。
 この際、何が役に立つかも分からぬ故、鍼は百本、もぐさは三百回分用立ててもらうかのぅ。」

発注と前後して手の内ににある道具へ今一度視線を落とし、違和感を感じて視線を再び店主に向ける。
一度取っ掛かりに気付いてしまうと、散在している違和感が組み上がっていく。
目の前の少女が店主を名乗った以上、何故身体のサイズに合わぬ調度を用いているのかと。

「とはいえ、儂の膂力では一度に持ち帰れそうもないのじゃが…
 その場合、お主の腰掛けておる椅子の持ち主が、後で宅配でもしてくれるのかのぅ?」

成人した身体を持つ使用人が居ると”勘違いしたような”カマかけだ。
さりげなさを装うべく、金貨の詰まった革袋の紐を緩め、一つ二つと硬貨を取り出しては、カウンターの上に並べ始める。

トール > 「了解した。随分と大量に使うのだね。よほどおお仕事と見える。」

大口の買い物ににっこりと笑顔を浮かべるとカウンターの中からメモ用紙を取り出し、ペンと共に少年のほうへと向ける。

「うむ、後で良いなら届けよう。ここに番地と希望時間を書いて貰えるかね?」

確かに子供が持ち帰るには少々大荷物だ。それだけの荷物であれば配達しても十分すぎるほど元が取れよう。
誰が、とは言わず笑顔で快諾し、少年が並べる硬貨を嬉しそうに眺める。
何故こんな年端もいかない少年がコレだけのものを気前よく買っていくのか……不自然ではあるがそこは詮索しないのが商売人としての有り様、と。
何よりこれだけの買い物を即金となると自然と笑顔も深くなると言うもの。

ホウセン > 「嗚呼、念の為の保険のようなものじゃよ。現地の様子が伝聞でしか耳に入らぬ故にのぅ。」

確かに大仕事に類するのだけれども、依頼人の意向を汲んで最小限の答えを。
ペンを手に取ると、サラサラと手馴れた筆致で配送先を書き留める。
場所はこの店と同じ平民地区。そして”草荘庵”という屋号。
マイナー具合にはそれなりに自負のある、この妖仙の商館の名前。

「時間は…一度、店の中に仕舞い込むのも二度手間となるじゃろうから、明日の早朝が良かろう。
 代金じゃ。不足がないか確かめてくれんかのぅ?」

配達時間まで書き終えてから、かっきり代金分を五列に積み上げ、硬貨のタワーを崩さぬようずずいっと前に押し出す。
カマかけは不発に終わったが、返された情報量の少なさが、また違和感を浮き彫りにするけれど、押しの一手ではどうにもなるまい。

「良い取引じゃった故…飴をやろう。」

小さな手を引っ込めて、袂の中でゴソゴソと。
やがて、白い包みに収められた黒糖飴を取り出し、代金の傍らに添える。

トール > 「ということは、結構遠出になるのだね。お疲れ様だ。」

少年のペンが書き出す文字を眺めながらその番地から場所のあたりを付ける。
なるほど、それほど遠くない。これなら明日の朝少し早起きすれば問題ないだろう。

「うむ。では、出立の際に届けよう。」

届けさせる、ではなく、届ける。
積み上げられた硬貨を視線で数えつつ、余る分は崩してお釣りとして戻す。
うむ、良い売上げだ。最近は理不尽な借金を背負わされたりと何かと金銭が入用なのだ。

「ははは、ありがとう、頂いておくよ。と、言っても儂にはお返し出来るものがないのだがね。」

カウンターの上へと置かれた黒糖飴を摘み上げると子供扱いに困ったような笑顔を浮かべながら口の中へと放り込み、ころころと音を立てる。

ホウセン > 「うむ、暫くの間、娯楽に飢えそうなのが最も難儀な話じゃがのぅ。
 構うでない、構うでない。単なる挨拶じゃ。」

自分の顔の前で、手をヒラリと振り、返礼は不要と言葉と仕草で伝える。
己が自身が、存在している年月と外見が乖離しているせいもあり、この店と店主に少しばかり興味が湧いたのは事実。
違和感への解答を見出さんとする知的好奇心が疼いている。
とはいえ、何かを嗅ぎ回るにしても差し迫った依頼が一段落着いてからになるだろう。

「さてと、邪魔したのぅ。
 …儂としたことが失念しておった。
 ホウセンじゃ。以後見知り置いてもらえれば幸いじゃ。」

遺漏なく配送してくれるよう念を押し、踵を返す。
ベルの音を伴い、扉の外に小さなシルエットが失せ――

ご案内:「魔法具店『ビルスキルニル』」からホウセンさんが去りました。