2022/04/29 のログ
ご案内:「魔族の国」に影時さんが現れました。
ご案内:「魔族の国」にラファルさんが現れました。
■ラファル > 「わぁ………。」
広い場所だ、闘技場、屋根付きを思い出す場所だった。
その場所に、武器を振り回すのに適した広さ、対面で戦ったりするための場所に見える。
恐らくその場所だと、言う事なのだろう。
きょろり、きょろり、と視線は天井を、床を嘗め回す様に、眺めまわす。
師匠は中を見回しているなら、その場所とは違う所を見回し、警戒するのが役割分担だ。
―――だからこそ、反応が遅れてしまった、と言える。
「え?」
この洞窟は特殊な場所である、魔力を吸い取る鉱石で作られているから、魔法での知覚が阻害される。
匂いに関しては、リビングスタチューであれば、周囲の石と同じ匂いなので、匂いを嗅ぎ分けることなど不可能。
直接見れば、その竜眼が正体を看破できただろうが、師匠がいるから、別を警戒して視線を向けて居なかった。
様々な要因が、偶然が、その状況を作り上げた。
師匠の言葉に、視線を動かし、同時に警戒の為に動くのだけれども。
強く、強く魔力を吸収する力というのは、時に物理的な力さえ生み出すものだ。
其れこそ、魔力を変換して魔法を行使するようなもので、魔力を吸収する力が、物理的な吸着力へと。
師匠は、それを防ぐための防護服を着ていた。
弟子は、己の肉体を鱗を、信じ慢心していた。
―――その差が、ここに現れた―――
小さな体は吸い寄せられて、浮かび上がり、槌の方へと。
勢いよく吸い寄せられた体は、振りかぶり、フルスイングで、勢いの乗った槌の正面へと叩きつけられていく。
魔法で防ごうとしたが、魔力が吸い取られて、防御魔法が解かれていく。
竜の姿に戻ろうとするも、其れもまた、微量の魔力が必要で、其れさえ吸い取られてしまい、戻れない。
抵抗しようにも、魔力の―――物理的な吸収の力が強く、吸い寄せられて。
―――――響くぐらいに、大きな衝撃音
小さな口から吐き出される血反吐。
ごきり、ぼきり、という音が体内で響いた気がする。
如何に、鉄の剣さえ受け止める竜の鱗が有ろうとも、質量と勢いの打撃に対する防御としては万全では無かった。
衝撃に、意識が刈り取られそうになりつつ、全身を槌の打面に打ち付けられた幼女はそのまま吹き飛ばされる。
ドラゴンの姿へと変わって居れば、また違っていただろうが、幼い子供の肉体では、槌の質量に抗う事は出来なかった。
その結果、壁に向かって一直線に、吹き飛ばされていくという状況。
警戒はしていた。
しかし、経験が足りず、慢心もまた、在ったと言える。
その結果として、吹き飛ばされて。
幼女は、それでも、動いた。
翼を使い、加速した………離れる方向で。
リビングスタチューは、命令に従う存在だ、意志のない存在。
もし、翼で減速すれば、手の届く範囲【吸魔の範囲】内であれば、また、吸い寄せられる。
自分に視線【ヘイト】が向いているので、死ぬまで、吸い寄せて殴るだろう事が想像がつく。
だから、敢えて、壁に向かい飛ぶ。
師匠がいるから、脅威度の高い存在がいるなら、此方に来るというのは考えにくいから。
それに、いま、竜の翼も、尻尾もある、壁に叩きつけられても、何とか、後ろの首にある逆鱗にダメージを与えずに済む。
「か……は!」
壁に激突する衝撃。
そのまま落ちて、地面にどしゃぁ、と倒れ込む。
どくどく、どくどく、熱が、溢れていく感覚。
ぱりんと、ガラスが割れる音が、聞こえた。
■影時 > ――思うに。
鍛える前の素地の段階で、弟子の力量は一定以上の水準を満たしていた。
有り余る才気とは長じた果ての行く末を懸念するものであり、どうしても人化した際の見た目で請けられる仕事に縛りが伴っている。
つまりは、師たる己と同等かそれ以上の戦闘や場数を踏むという機会に欠けてしまいがちということだ。
其れは常々考えなければならない、考慮しなければならない事項でもある。
雇い主から家庭教師という形で弟子を預かっている以上、安全を優先しないといけない。
しかしながら、過保護が過ぎることがあれば、経験にならない。糧にならない。
“一つの実戦は百の訓練に勝る”等々の似たような言葉があるが、其れはそういうことだ。生死を挟まない実践の場でも同様のこと。
一種の安全圏に居るとはいえ、もう少し慎重に探索を進めるべきだった。
最終的な問題事項はそれだ。納品書の類がもし見つかれば、目を通すことだってできただろう。そうであれば……。
「なん、だと……!?」
斯様な風景は、いわば初見殺しと呼ばれるような情景を目の当たりにすることがなかっただろう。
件の戦槌は大きさと重量、硬度に由来する物理的な打撃力もそうだが、通ってきた洞窟に埋蔵された特殊な鉱石の集合そのものと云える作用が強い。
魔力吸収作用を遮断する防護服を羽織った己はともかく、その作用を狙いを定めて強く作用させられる対象を、いわば魔力という糸を引っ張るように吸い寄せたのだ。
だから、針につけた餌にくいついた魚を釣り上げるかの如く、小柄な姿を引き寄せて一撃。竜身に戻るより早く、そして強く白銀の戦槌は相手をインパクトして吹き飛ばす。
「――――、っ、ラファル!!」
壁に小さな姿がぶつかって、色々な音を奏でて倒れ込む。肉を叩きつける音とと、ガラスが割れたような音だ。
そのような音を連ならせる姿に追い打ちをかけるように、魔力を満たした槌の持ち主たるリビングスタチューは空いた手と骨だけの翼を揺らし、足元を踏み割りながら進む。
怒涛の如き勢いは、注意を改めて己が引かなければ止まるまい。
故に両手を構え、立て続けに印を組んでは念を奔らせる。気脈よりあふれる氣力を術として解き放つ。
振り上げる右手に従って、地に接した足元の石畳の隙間より沸き起こるは、砂塵めいた靄。きらきらとした光を振りまきながら靄が大きなリングの形を取り、唸りを上げて高速で回転を始める。
土遁・金剛砂輪剣、と名付けた術だ。その名は心で囁きつつ、弟子の名を呼んでは紡いだ術を敵に解き放つ。
強い氣に溢れた術の到来と反応に目ざといばかりに、敵は足を止め、振り向いて翳す戦槌の柄で術を受け止める。
ギィィィィィイィ!と、鋼鉄に鋸を何度も引いたような騒音とともに強い火花が巻き起こる。
紡いだリングの正体は鋼玉のような高硬度鉱物を多く含む粉末、砂だ。そのようなものを高速回転する車輪状にして擲つ忍術は、竜殺しの太刀などがなくとも巨大な竜等と戦う際の試みとして編み出したもの。
(竜の鱗なンだろうが、どうだろうが破るつもりで編み出したが……凌ぎやがるか!)
だが、魔力を充填した槌は切削を伴う高速回転で生じた熱に炙られながらも、損なうこともなく耐えてみせた。
魔力に満たされていれば、たたでさえ硬い材質がより一層硬質化するのだろうか。そう目算をつけつつ、内心の驚愕を覆面の下に隠して身構える。
標的を己に見定めた敵が迫り寄ってくる。それを腰の後ろに手を回し、二本の苦無を取り出して迎え撃つ。
■ラファル > 優秀な師がいて、優秀な弟子がいる。
だから、色々な所を飛び越えて、様々に詰め込んでいけたのだろう。
そして、その詰込みにも対応できてしまっていたから、経験を得るための機会が減ったままに成長してしまう。
教育にも段階があり、その段階を進む間の時間を計算してというのが、学校だとおもうのだ。
幼い子には、幼い子に対する学びを、成長するにつれて、それを増やしたりするものだ。
師匠の影時も、弟子のラファルも、優秀過ぎたから、次に、次に、と、訓練を進めてしまう、習得を進めてしまった。
だから、年齢よりも様々を知り、優秀な存在になり。
年齢の壁に、ぶつかってしまい、その部分に関しては、疎かとなっていたのだと思われる。
そして、疎かにした部分が、今、ここに顕在したのだとも言える状態なのだった。
「ぁ……く。」
意識は、かろうじて。全身を走る激痛が、動くことを拒絶させる。
体の様々な所に、激しいダメージを受けていたが、五体は満足だ、人間だったらはじけ飛んでいただろう。
人間状態だったら、意識さえなく、生きていたかどうかも怪しい。
本当に、僥倖だった、生きているから、未だ、何かが出来る。
自分の肉体から漏れ出でる、熱、そして、其れとは別の、液体の感触。
吹き飛んで、壁に叩きつけられて、それでも、行動を起こした。
ポーションの瓶を取り出して、自分の胸のベルトの下に挟んだのだ。
地面にたたきつけられた衝撃で割れて、自分の体に治療液がまき散らされる。
飲んだり、振りかけたりするよりは、効果が薄いが咄嗟に行ったので上出来だ。
竜としての生命力、回復力に、ポーションだ、すこしすれば、動けるようになると思われる。
効率が、ひどく悪いが、氣を循環させての回復も行う。
師匠が負けるわけがないが―――それでも、叫びは聞こえたし、焦りも感じた。
だから、立ち上がるために。
不肖の弟子と言われないように。
これは、自分の油断が、招いたものだから、と、ラファルは、考えたから。
それに これは 勝機。
リビングスタチューは、師匠を目標にした。
自分から意識【ヘイト】を、外したのだ。
如何に槌が強くとも、槌が此方を向いていなければ。
後ろから攻撃することができるならば。
幼女は、こきゅ、かひゅ、と、呼吸を整えて、いく。
――――まだ。諦めては、居ない。
■影時 > (…………屠龍で打ち合うにゃ、分が悪いな。未だ少し、斬れるという確信が足らん)
忍術は様々な武器術を網羅しているが、数ある名だたる武術の流派は逆に忍術を内包しているものが幾つかある。
遠く離れた故国で身分を偽って諜報活動に従事している際、そういった武術の流派に触れる、師事する機会があった。
思えば、身ごなしから己が素性を疑われていたのかもしれない。それでも印可を貰える位には習熟できた技には、剣術がある。
大名好みの名刀、利刀の類を過不足なく、飾りとすることなく揮える力量より察する。
件の槌を破壊するのは生半なことではないだろう、と。
こんな地の底とはいえ、それこそ魔王でも使いそうな類の格の武器だ。
武器破壊に熱を上げるよりも、武器を奪い、さらに仮の使い手となっている像そのものを破壊する方が賢明だろうと。
「さぁ、来い。俺に熱を上げてみろ。子供相手にムキになるより、ずっとまともにみえンぞ」
ちらと視線を遣れば、弟子の動きが見える。大きな動きではない。――息がある。その息を整えてゆくのだ。
それが何を意味するのか、師弟として考えるまでもない。
故にこそ、己が改めて敵の注意を引き付ける。魔力収奪の技は強力だが、対策をされた装備を守りとしてまとっている。少なくとも、まともには受けない。
そして何より、戦槌の一撃は己も喰らうと危ういの一言であるが、紙一重で躱せないわけではない。
まとう衣の裾を揺らし、玄色の忍装束の姿は白銀の槌を躱し、掻い潜り、懐に入ろうとしながら何度も何度も金属音と火花を散らす。
(――振り上げ、振り下ろす。槌の一撃は何よりも重いだろうが、予備動作もなく叩き込める得物じゃぁない)
狙いを定める。振り上げて。そして、振り下ろす。得物が回避すれば、また狙いをつけなおす。一連の動作はその繰り返しだ。
魔物を狩る同業者がこの手の打撃武器を得手、愛用している姿を見かけるが、この石像の動きは彼らのように洗練されていない。
どちらかというまでもなく、機械的でかつ闇雲ささえある。得物と背丈のリーチの差を弁えて大きく退けば、躱すことは難しくはない。
問題は相手の握り手そのものを破壊し、手を文字通りに奪うのを狙う場合、
「ッ、……加減なしの使い方を考慮していねぇのが祟る、か、よ……!!」
苦無の強度が足りないということだ。右手に握る黒い刃の苦無は、今リビングスタチューが揮う得物にも似た由来を持つものだが、左手の刃はそうではない。
己が手で鍛えたとはいえ、ただの鋼鉄の刃だ。武の器として見た場合、己が氣を加減なく籠められるには危ういもの。
時に避けきれない槌を打ち払い、掠らせて受け流す中で左手の刃は著しく刃毀れが増えてゆく。
逆手握りの刃を振り上げ、交差させて相手の懐に深く踏み込みつつ、強引に敵の得物を奪おうと氣と力を込めていれば、相互に加わる力の圧に遂に負ける。
爆ぜるような勢いで砕ける左手の苦無に、力加減の均衡が大きく崩れる。唸りを上げて振りぬかれる槌を、身こなしの勢いで後方に飛び跳ね、躱す。
叩き砕かれる石畳の破片が、強烈に飛び散る刃と化せば、胴鎧で弾けても布や大気にさらされた肌を切り裂き、刻む。
■ラファル > 幼女は、蠢いている。師匠が必死になって―――文字通りに必死に時間を稼いでくれている。
自分のやろうとしていることを、理解してくれている。
だから、幼女はそれに応える必要がある、師匠は色々出来る人間だ。人間なのである。
火力という意味で言うならば、ラファルの方が強い、人間ではない存在だから、人間にはない物がある。
例えば、質量が欲しければ、竜になればいい。質量という名の火力を叩きつけることができるから。
此処は、広くて大きい場所だ、先程は邪魔されてしまっていたが、今ならば竜に戻る事が出来る。
が、唯戻るのでは、駄目だ。
手負いの状態で戻ったとして、ダメージは自分に跳ね返ってくるものなのだ。
つまり、今戻っても動けない竜がいるだけで、的を作るだけでしかない。
必死に、呼吸を整える。今、出来る事を行うために。そして、もう少し、時間が必要なのだ。
―――その為に。
呼吸を整え、身を癒す。
みちみち、みちみち、と音を立てて傷がふさがり、回復していくのが判る。
竜の生命力に、ポーション、氣での、治療。ありとあらゆる技能を使い、己を癒していく。
少しずつ動けるようになれば、リビングスタチューに気取られぬように、カバンからポーションを取り出して、飲む。
もう少しだけ、時間を貰いたい。
すぅ、はぁ、すぅ、はぁ、しぃぃぃぃぃ。
呼吸が整ってくる。肺腑に、酸素が入り込んでくる。
感じる、喉が震える。もう少し、もう少し。
師匠の武器は。
あぁ、そうかと、納得する。
しばらく見ていたものの、リビングスタチューは、視線で相手を捉えているように思える。
音に対しての反応が、無い様だ。呼吸音の変化に、気が付いていないようだし。
「疾っ!」
ラファルは、動けるようになった腕を振るう。
腰に手を回し、ハンドスナップで、リビングスタチューが、音に反応しない事をいいことに。
わざと声をあげて、投げる。
師匠の使う数揃えのそれではなく。
ドワーフの名工の鍛えた、竜の爪―――それを素材にしたナイフ。
ラファルの母、オリヴィエの爪で作られたそれならば、師匠の力にも耐えうる武器。
序に、幾つかのラファルの鱗、ラファルは、自分の鱗を、手裏剣にしている。
これならば、師匠の苦無よりも渡り合う事が可能だろうから。
もう少しで、吐息が、整う。
■影時 > 火力という二文字。威力という二文字。そして、破壊力という神聖な三文字に於いて、弟子は己を上回りうる。
単純に同等の破壊力を叩きだす点に限れば、相応の下準備ができるのであれば不可能ではない。
しかし、このような土壇場の状況で即時に用意するのは己では至難に近い。
下手に分身の術を出す場合、数合も保たずにあの戦槌の餌食になる。それでは意味がない。
故に相対する敵に対し、もっとも嫌がるコトをする。攪乱をする。
元気のいい弟子が声も上げず、回復に専念する以上――準備を経て行う行為とは、容易に察しが付く。
「手の数だけは多いわりに、得物が此れだけってのは不幸中の幸い……とはいえ!」
厄介だ、と。左手から消えた苦無の破片を捨て、右手に握る黒い刃の苦無の柄を唇で銜えて印を結ぶ。
印を結んで敵の足元の一角を指させば、踏みしめた石床が大きく陥没して、重量のある石像がつんのめる。
土遁・足落としの術なぞと呼んでいるものだ。石床の下にある自然の土石に干渉できる余地があるのは、不幸中の幸いか。
弁えている忍びは、“その場にあるもの”を活用するによく長けるものだ。
動きを止めた石像が骨だけの翼を広げ、翼の骨組みの先にある鋭い骨棘を放ってくる。飛び道具のつもりか。
「! すまん、ラファル!!」
バク転の動きで勢いよく後方に下り、退く。そのさなかで響く声に――石像は反応しない。
ただ、よく氣を放つ己につよく敵意を向けている。
中空を裂いて、飛来する刃を着地の瞬間に掴み取り、左右の手に逆手で構えなおして見せる。
魔剣を打ち直した黒い刃と、竜の爪を鍛えたナイフ。力量を受け止める武の器としては申し分ない。
態勢を立てなおし、槌を杖に立ち上がろうとする敵に対し、地を蹴る姿は――疾い。
「目が慣れてきたぞ。……出かかりが遅ェんだよ、お前は」
地の底で風が吹く。風を生む玄色の影は石像の肩に取り付き、掻き切る動きで腕の一本を根元から断ってみせる。
それをいよいよ脅威とみたのか。敵は残る腕で己を捕まえようとしてくる中を、掻い潜って再び間合いをとってみせる。
回復に専念する弟子と、そして己と。両者の間に置くように。