2021/08/29 のログ
ご案内:「魔族の国 或る城の一室」にシェティさんが現れました。
■シェティ > 魔族の国に幾つも存在する、誰の所有地とも判らぬ古城。
その、一角に在る塔の上部に設けられた部屋の中で。
「―――…………。」
唯何をするでも無く、窓の向こう側に浮かぶ月をぼんやりと眺めて居たのは、喪服を思わせる黒いドレスとヴェールを纏った女の姿。
開け放たれた窓から時折吹き込んだ夜の風に、被ったヴェールの薄布がふわりと揺れて。
「――…せめて鳥の様に……此処から飛び立つ事が叶うのならば良かったのですけれど……。」
恐らく、誰の耳に届く事も無いであろう微かな独白を零しながら、視線を己の手許に落とす。
其処には、差し込んだ月明かりを受けて鈍く光る枷と鎖に繋がれた自身の両手。
何も無い部屋の中、唯一の調度品であるかの様に鎮座するのは、美術品めいた繊細な装飾の施された黒い金属製の鳥籠。
しかし小鳥を閉じ込めて置くには些か巨大過ぎるその格子の中に、女は囚われて居た。
■シェティ > それから暫くして。
不意に、キィ……と蝶番の軋む音色が耳へと届いて。ヴェール越しに向いた視線が部屋の入口の扉がゆっくりと開かれるのを認め。
「―――………どなた………?」
しかし、窓から差し込む月光の他に明かりの無い部屋の中。
窓から離れた入口の暗がりに立つ人物は像を結ばず、女の問い掛ける声が響き渡る。
「―――………?」
問い掛けに答える声は無く、されど確かに其処に在る気配。
やがてまた蝶番の軋む音色と共に後ろ手に閉ざされた扉は、カシャン、という音と共に錠前が落とされて。
閉ざされた部屋の、更に閉ざされた鳥籠の中。
その時訪れた来訪者の正体も目的も、女が知る事になるのはもう少し後の出来事――
ご案内:「魔族の国 或る城の一室」からシェティさんが去りました。