2018/11/12 のログ
影時 > ただ、無造作に伏せたわけではない。
地より聴く振動の移動方向、並びに着衣を微かに揺らす風の流れを詠んだ上で風下と判じうる位置に伏せる。
荒野で独り、立って動くものが珍しいかもしれぬ領域だ。
そうであれば、人間相手には傍らに無きが如く気配を希薄化させて通り抜けられても、常通りにはならないコトがある。
特にヒトとは違う知覚を持つ魔物となれば、その傾向は実に顕著だろう。

(――ありゃァ確か、きまいら、きめぃら、とかいう魔物だったか?)

故に、観よ。人の匂いを嗅ぎつけたのか、番犬の如く放たれたのか、それとも野生化したモノがこの地に現る。
巨大な山羊の如く見える胴と手足に、此れは何の冗談か。山羊の頭に獅子の頭、そして尾は尋常の尾ではなく大蛇そのものだ。
どうやら犬や狼の如く鼻は良くないらしい。が、魔獣、魔物の手合いの常として異質な匂いには敏感なのだろう。
だからこそ、此処に来た。この場にはめったにない気配を感じて、番犬よろしく現れたのだろう。

面倒な限りだ。殺せば事足りるのだろう。
しかし、ただ武力で圧するコトであれば忍びのものでなくともできる。
いつ、襲い掛かってくるか――否か。乱れうる鼓動と呼吸を細心の注意を払って律しつつ、顔を起こさずに足音だけで魔物の動きを測る。

影時 > 会うものを悉く殺せばいいというのは――悪手極まりない。
不要な殺し以外は避けるべきだ。殺生の業とは巡り巡って己に返るが如く、無用な敵や害を招く呼び水となる。
そんなに信心深い身でも何でも癖にそう思うのは、少なからず殺業を重ねて、経験を積んでいるからだ。
経験に勝るものというのは、洋の東西を問わずないだろう。

(――……去ったか)

時間としては、刹那の間だろう。長くて数分。
それだけの時間を経て、魔物はこの場から去ってゆく。
去りゆく気配を地より伝わる振動も含めて確かめたのち、身を起こそう。

周囲を再度確かめた上で、奥地の方を目指す。長居をするつもりはない。だが、まだ知らぬ何かを見るために――。

ご案内:「魔族の国」から影時さんが去りました。