2018/09/30 のログ
ジーヴァ > 少女はジーヴァの警告を聞いてもなお、その超然とした態度を崩さない。
それは自らの領地を歩く貴族のように鮮やかで、綺麗なものだ。
ジーヴァの横をふわりとすり抜けるときにも優雅なもので、一言の詠唱も術式もなく、
ただ何かを前に向けるような仕草だけを狼の群れに放った。

「……お前……今……何を、やったんだ?」

瞬間、まるで王に跪く騎士のように狼たちが頭を垂れ、短く吠えて過ぎ去っていく。
魔力にあてられて凶暴化したとはいえ、この辺りはまだ王国に近く、ヒトの領域だったのが幸いしたのだろう。
彼は怯えこそしなかったものの、魔術書を抱えた腕から力が抜けそうになるのを必死にこらえていた。
それはこの一瞬で何が起きたか理解できなかったことへの、恐怖と違和感からだ。

「その耳と尻尾、ミレー族かと思ったが……お前、いやあんた。
 一体何者だ?」

一冊の分厚い魔術書を右手に抱えたまま、ローブの中から錫杖を持ち出して
突き出すまではしないが、いつでも詠唱できるよう準備は整える。今向けられた何かが、こちらに向けられないとは限らない。
そう言わんばかりに、露骨に警戒心を表した態度で少女の姿をした何かと対峙する。

タマモ > どうやら、面倒事は回避出来たらしい。
内心ほっとしつつも、同時に出会った面白そうな相手へと、再び視線を向けた。
まぁ、そんな相手から掛けられる声は、思った通りの問いだったが。

「はて、先も言うたが?
動物と言うものは、お主等人間よりも関係がはっきりしておる、とな?
もっとも、中には人間のように、その関係も理解出来ぬ者も居るが…
そんなもの、飼われておる連中か、無駄に力を手に入れて調子に乗ってる愚か者共じゃろうて」

何を当然な事を、そんな雰囲気を漂わせながら、それに答える。
まぁ、実際の話それを理解しろなんて、なかなか難しい訳だろうが。
それでも、説明が面倒なので、こんな物言いとなる訳だ。

「はてさて…妾は一体何者なんじゃろうな?
それは、妾からしても同じでのぅ…ここは魔族の国、お主は何者なんじゃ?
人間がこんな場所に居る事こそ、疑問に感じる訳じゃがのぅ?」

まぁ、本当の事を言えば、この少年が魔法使いであろう事は予想出来る…その手にした獲物と書物で。
もっとも、時に予想外な相手もいるのだから、確信は無いが。
なのだが、あえてそれを知らぬ振りして問う。
その理由は簡単なもの、自分だけ答えるのが気に入らない、ただそれだけであった。
まぁ、それとは他に、ここに人間が居るという事は、少なくともまっとうな理由じゃないのだろうと思っていたからで。
まさか、普通に魔術書を購入してきただけなんて事、思い付く訳も無かった。

…その問い、正直に答えても、大人しく帰す気はさらさらない。
やっと見付けた、面倒以外の暇潰しなのだから…相手にとっては堪らないだろうが。

ジーヴァ > 少女のような何かが纏う雰囲気は今もまだ、変わらないままだ。
返ってきた答えこそ落ち着いて考えてみれば理解できるものだが、どうやってそれをあの群狼たちに教えてやったのか。
ジーヴァにはその過程が分からず、だからこそ錫杖を手に持ったのだ。

「あの狼どもよりあんたが上ってことは分かった。なら、魔族の中でもひときわ性質の悪い妖魔の類か?
 それとも最近この国に現れたっていう妖怪とかいう連中か?」

少女に問いかけるというより自分の思考を整理するために口に出し、じりじりと距離を取る。
ある程度距離を取り、一気に駆け出して逃げ出そうと考えていたときに、相手から突然質問が飛んできた。
なるほど、相手が何であれ礼儀を尊ぶ類の種族らしい。それならばこちらにもやりようはあると、
ジーヴァは錫杖をローブの中、縫い付けたポケットの中にしまって跪く。
今までの小生意気な口調も切り替えて、目深に被っていたフードを後ろに下げる。
真っ赤に染まった出来損ないの魔眼が闇夜に輝き、彼はそのまま問いに答えた。

「我が名はジーヴァ。この星天の彼方を目指す者です。
 魔術師ギルド『アルマゲスト』において三つ星の称号を頂いております。
 この度は魔族の国に住む同志が貴重な魔術書を保有していると聞き、私がギルドへ持ち帰るべくこうしてやってきた次第です」

はたしてどのような反応を返すのか。ちらりと真紅の眼を上げて、相手の表情を伺ってみることにした。

タマモ > あぁ、状況は分かっても、やはり原理までは至らないか。
そもそも、己とてしっかりと理解しているかと問われれば、疑問である。
何せ、意識してそれを思っている訳では無いのだから。
…それはそれとして、あんまり勘違いをされたまま、と言うのは面倒でいけない。
なので、それくらいはどうにかしないと、と考えて。

「ふむ…少なくとも、妾はこの魔族の国の住人ではないぞ?
そして、妖ではあるが、シェンヤンの者とも違う…まぁ、それくらいは答えておいてやろう」

と、それだけは答えておいた。
なるほど、距離を取っていたのは警戒してか…と、そこで少年の動きの理由に気付いた。
逃げたら逃げたで、それを理由に…なんてのも考えの端にあったが、今は抑えておこう。

己が問いを向けたから、だろうか?不意に少年の動きは変わる。
先程までの警戒はある程度解かれ、目の前で蹲った。
ふと、それにつられ見てみれば、フードを除かれた事により少年の瞳が見える事だろう。
人間としては珍しいのかもしれない、真っ赤な瞳だ。
まぁ…色が違うだの何だの、気にするような性格ではないが。
ただ、気になる事があるとすれば、その堅苦しい言葉遣いだろか…わがまま言うな?そう本当に思ったのだから仕方無い。

「あー…なるほど、魔術師と言うものじゃな?
まぁ、その…何じゃ?ぎるどとやらは詳しく知らんが…
と、名乗らせて名乗らんのもあれか…妾はタマモじゃ、それだけ知っておけば良い。
後は見た目やらなにやら、適当に判断すれば良かろう。
………ん?魔族の国に住む…?…こんな場所に住まうとは、変わった人間も居るものじゃ。
ともあれ、その魔術書やらを持って、人間の国に戻っておる…そう言う訳か…
ふむ、人間の国に向かう事に関しては、同じようじゃのぅ」

ふむふむと頷きながら、少年の言葉に受け答えを…もちろん、いつも通りに堅苦しい感じは無しである。
ただ、己の目的や理由は流しておいた。
気が付いたらここに居て、適当に戻ろうとして迷った、なんて言える訳がない。

それよりも、な感じに改めて少年を見遣ってみる。
こう、上から下まで、どんな感じか…別に探りを入れてる訳でもないが。

ジーヴァ > 跪いた状態から伺える相手の表情は、なんとも言えないものだ。
先程よりは打ち解けられたのかもしれず、そこまで礼儀を重んじる種族ではないらしい。
ならば、と立ち上がり、いつもの口調に切り替えて会話を再開する。
もし目の前の少女が自分を殺そうと思えば、おそらく気づく時間すらないだろうが。

「タマモ……タマモさんでいいか?
 様は言い過ぎだし、恩人に呼び捨てはダメだ」

今までの質問と回答から考えるに、魔族でもシェンヤンの者でもない。
それ以外の種族で高位な存在について、かつてジーヴァは文献で読んだことがある。
時折別の世界から現れては、気まぐれのように世界を旅し、荒らし、施し、陽炎のように消えゆく存在。
彼らに接する時は友人のように、しかし礼節を決して忘れるなかれ。最後の一文は、そう締めくくられていた。

「いきなり疑ったりして悪かった、群れから守ってくれたのにな。
 礼はしたいけど、ここじゃちょっとな……とりあえずは砦に行こうぜ。煙があっちに見えた、多分近い」

そう言って彼がローブの首元にある蝶々結びの紐を解いて脱ぎ、動きやすく質素な布の服に身を包んだ姿を現す。
よく見れば、ジーヴァのまだ育ち切らない幼く華奢な身体がよく分かるだろう。

タマモ > このまま、堅苦しい状況が続いたらどうしようか…うん、ある意味辛い。
そんな考えだったが、少年の次の行動で、少し安心した。
やはり、普段の言葉遣いはとても大事。
…普段から堅苦しい相手だったら…いや、考えるのはよそう。

「妾としては、呼び捨ての方が気軽で良いがのぅ。
まぁ、気になるならば、好きに呼べば良い」

この辺りも、少女からすればいつも通りだ。
ひらひらと手を振りながら、それを伝える。
確かに少年の思う通り、己は異世界の存在だ。
しかし、元の世界はすでに消え去り戻る事は出来ない。
そう考えると、むしろ、こちらがそう言った事を考えなければならないのだ。
…まぁ、面倒で考える気もないが。少女は良くも悪くも、深く気にしない性質であった。

「ふむ…そうかそうか、考えてみれば、そう思えなくもない。
礼か、むしろ、妾への礼を考えるならば、砦に戻る前に済ませた方が良さそうに思えるが…」

少年がローブを脱ぎ、移動を誘おうとする。
…が、軽く考える仕草をした少女は、その少年へとそう答えた。
別に助けたつもりはないが、そう思ってくれるならば、事が勧め易い。
そして、それを行うには、きっと砦にまで行ってしまっては、少年にとってより堪らない事となるだろう。
己としては、それはそれで楽しめる訳ではあるが。

よく見えるようになった、少年の肢体を眺めながら。
こう、これからの事を、色々と考えながら。

ジーヴァ > 少女も気を緩めてくれたのか、こちらの言葉に快く反応してくれる。
それはいかなる意図があってのことかまでは読み切れないが、ともあれジーヴァにとってはありがたいことだ。
下手に逆鱗に触れ、一瞬で肉片になってしまうよりは、奇妙な隣人でいてくれた方がずっといい。
呼び捨てでも構わない、と気軽さを求めてくる辺り、こちらにはあまり気兼ねしない様子だ。

「……ここで礼を?どうするってんだ?
 金はあるけど大金ってほどでもねえし、砦から干し肉買えるぐらいだぜ?
 本が読みたいってんなら王都まで一緒に来てもらわないとギルドには入れない」

こちらの身体を上から下まで妙にじっくりと眺めてくる少女に聞いてみるが、
ふとこちらへの反応が気になって近づき、彼女の目の前で手をぶんぶんと振って気づくか試してみる。
相手がどのように考えているかなど、まったく分からないとばかりに無防備に少女との距離を詰めていく。
雰囲気や視線が既に変わってしまっているかも、などとは思わず。

タマモ > さて、そんな安心を出来たならば…
少女の巡る思考は、しっかりと方向性を歪めてしまう。
場所も、状況も、こちらの有利な流れなのだ。
小難しい事を考えているだろう、少年を余所に…動こうか。

「うん?…そうじゃな、それは教えてやろう。
ただ、ここは連中の縄張りじゃからの、ちょいとばかし移動はするが…」

少年の言葉に、様子に、少女はくすくすと笑う。
そう言葉を返しながら、目の前で振られる少年の手を、はしっ、と掴む。
実際に、まだここは狼達の縄張りである。

特に抵抗がないならば、その縄張りを離れ、その上で空いていそうな場所…それを探そう。
少年の手を引き、移動を開始する方向だ。
抵抗があったならば、どうするか…結果は変わらない。
もう二人の距離はない、その身を拘束し、連れ去る事は簡単なのだから。

ご案内:「魔族の国」からジーヴァさんが去りました。
タマモ > 【次回へ続く】
ご案内:「魔族の国」からタマモさんが去りました。
ご案内:「魔族の国・アルテリシア大聖堂」にクラリッサさんが現れました。