2018/07/01 のログ
■ルーシェ > 嫌な寒気がずっと止まらなくなり、息が荒くなる。
爆発から領民たちのざわつきが広がる中、深呼吸を一つ。
今は落ち着いて魔王様しないと駄目だと思えば、彼らに振り返りながら本来の姿に変わって浮かび上がった。
「皆の領主様助けてくるね? ここは完璧に守り固めたけど、万が一の時は私の領地に飛ぶようにしておいたから安心して。ちゃんと、皆の領主様、ここに連れてくるんだから!」
珊瑚の魔力を一度灯らせると、虹色に地下は包まれる。
これだけの力を持って行くのだとパフォーマンスを終えた後、残り少ない魔力を使って魔法陣を描く。
水の魔法陣に消えた姿が向かうのは、二人がいる場所。
村で出会った時よりも、そしてここへ逃げ込んだ時よりも魔力をすり減らしながらも、友人の傍に魔法陣を浮かび上がらせて姿を表すだろう。
■ロザリア >
「……………」
ロザリアは俯いたまま、何も言葉を発さなかった
仮面をとった手は僅かに震えていただろうか
男が、オーギュストが何やら言葉を発しながら近づいてきていた
成程
──あの時と何ら、変わっていない
「人間」
眼の前の男を、オーギュストと名を知るその者を、そう呼ぶ
「あの村の人間もそうであった……違う力を持つ者を魔女だと恐れ、恐ろしいから、殺した。
そうして恐れを駆逐した後は、欲するがままに…欲望のためにそれを手に入れようとした。
……うむ、簡単な話であった。貴様は、人間なのだな」
淡々と呟かれる言葉はただただ冷たく、漸く顔をあげれば、その瞳は何の感情も感じられるものではなかった
「禍根は禍根を呼ぶ…か。
ならば………復讐など考える気も起きぬほど、──惨たらしく殺してやる」
言葉が終わると、まるで暴風のような魔力がロザリアから迸る
エメラルド色の光を湛えていた瞳は鮮血の如く紅き、真紅に染まり──城全体が鳴動する程の暴威が、男に向けられようとしていた
■オーギュスト >
「あぁ、そうだ。俺達はそういう関係だ。
何が平和だ、何が均衡だ、馬鹿馬鹿しい」
吐き捨てるように言う。
目の前の少女にではない。
この世界で、魔族と人間が対峙するこの世界で。
魔族と人間の共存などを謳い、願い、オーギュストの意思を否定する者全てへ向けた言葉であった。
「俺達は違う種族で、地上の覇権を賭けて戦う不倶戴天の敵だ。
そうだよ、吸血姫。全ての魔族の中で、お前が、お前だけが――俺達人間を、対等に扱った」
定命の者への侮蔑でもない。
力無き事への憐憫でもない。
絶対的優越故の無関心でもない。
この少女だけが、魔族の中で、剥き出しの敵意を人間に向けてきた。
オーギュストはそれが――何よりも、好ましかった。
憎悪は、対等な関係の中でしか生まれない関係なのだから!
「そうとも、俺達はそうやって、憎悪を根絶やしにする為に戦うべきだ!
さぁやろうか、吸血姫ィ!
今度こそお前を手にいれ――人間の世界を、取り戻す!」
魔力に臆する事なく。
オーギュストは戦闘態勢をとる。
■騎士アルダー > 玉座の間に続く階段を越え、三人は其の場へと姿を現わした。
前に立つのは騎士の鎧を身に纏う青年。
後ろに続くのは同じ姿をした二人の少女。
三人は此処の主と、対峙する彼の姿を見れば距離を置いた侭足を止める。
途端に何かを言い掛ける白の少女だが、其れを青年は片手で制した。
「後は二人の戦いだ、結末はどう在っても手は出さないと誓おう。
但し…此の戦いでアイオーンの名を汚す様な事が在れば、勝てども王国に戻れないと思え…以上だ」
其れだけを伝え、静観の構えを取る。
後は二人が好きに戦えばいい。
■ロザリア >
「やる…? 何をしようというのだ…?
もはや、貴様に出来ることなど、なにもないというのに……」
真紅の瞳が見開かれる
収束された魔力の凝視、魅入られれば即座に死に至る程の視殺の魔眼
余程の強靭な精神を持てば命を奪われることはない──しかし、肉体の自由を奪われる
そして、それと時を同じくして……
男、オーギュストの背後に無数の気配が現れる
全身を血に染めた、全身の焼け焦げた、男が先程名を呼んだばかりの───
動く筈のない遺骸が、立ち上がり武器を手に、引き摺るようにして動いていた
「…思い上がりも甚だしい。貴様のこの先は……一方的な陵辱に他ならぬ」
■オーギュスト >
この期に及んで、確かに男が出来る事など無かった。
既にその身体は「煙の魔神」との戦いでボロボロだ。
正直、立っている事すら難しい。
「ガッ――!」
その手から大剣が滑り落ちる。
魔眼の効果で右手が動かない。
足もムリだ。振り返る事すら出来ない。
このままならば、あの少女吸血姫の言う通り――行われるのは、一方的な虐殺。
「――お前ら魔族と、何で均衡が保ててるか、っつぅとな」
それでもオーギュストは、最後の切り札を取り出すべく、必死に左手を動かす。
少しずつ、懐に入れる。あのアンデッドがここに着く前に――
一撃で勝負をつけようとせず、その憎悪からオーギュストを嬲ろうと「舐めてかかっている」うちに!
■ロザリア >
「…吾らが上の存在であると、思い上がっているからであろう?
ただただ駆逐されるだけの人間を見下し、舐めているからであろう?」
最後の何かを繰り出そうとする男に降りかかるのはただただ冷たき声
仮面を手にとる、その指先が震える
「…殺す!!貴様だけは、絶対に許さぬ!!
陵辱の時間は、貴様を殺してから永劫続かせる!!」
ロザリアの背後に無数の黄金の剣、槍、燭台、斧──
ありとあらゆる武具なら並ぶそれらの切っ先は全て一点、オーギュストへと向けて
退路は、既に屍によって断たれた
「その死後、吾が繰糸によって永劫の陵辱を与えてやる!!!」
その怒りと牙を剥き出しに叫ぶ
同時、数多の切っ先が男の全身を貫かんと放たれた───
■オーギュスト >
「よく分かってんじゃねぇか」
あれを喰らえば、死ぬ。
問答無用で死ぬ。
だが、オーギュストは避けない。
というよりも、避けられない。
ようやく動いて取り出したのは、一丁の銃。
王国工房が開発した、最新式の「拳銃」という、携帯用の銃だ。
単発式で、一発撃てば壊れる失敗作であるが――
「――聖猫チァベ・コィキ・ミレヱよ。
もし俺が勝てば、俺の力をお前の同胞全てを解放する事に捧げると誓おう」
オーギュストは契約した。
居るかもわからない、あの巫女が語った謎の神に誓った。
もし、今日ここで勝てれば、その存在全てを賭けて代償を払ってやると。
「――これで最後だ」
パンっと、乾いた音がして、一発だけの銃弾が放たれた。
そこにかかるのはアイオーンの加護ではない。
いずれ王国を白光によって焼き尽くすとされた、チァベ・コィキ・ミレヱの加護。
あの帝国のミレーの巫女が大事に保管し、オーギュストに託したチァベ・コィキ・ミレヱの『聖体』と言われるもの。
そしてその『聖体』を包む弾丸は、かつてオーギュストが受けたロザリアの黄金魔法。魔力分解がうまくいかずに、残ってしまった黄金の燭台の欠片。それを加工したものだ。
ロザリア自身の魔力によって編まれた金属と、チァベ・コィキ・ミレヱの聖体の弾丸。
それが、オーギュストに残された『最後の一発の弾丸(シルバーバレット)』であった。
■騎士アルダー > 「さて…」
二人の戦いに向けていた視線を背後の少女に向ける。
白の少女もなのだが、先に辿り着いていた魔王にも心配そうな視線を向ける黒の少女。
魔力を磨り減らして此の場に来た事に気付いてのものだ。
目の前にあれだけの人間の死体が在ったのに、そう思えるだろうが…
黒の少女も又人間を見限っている一人なのだ。
因みに白の少女が普段の侭為らば素通りなんてしなかった筈。
そうした状況にしたのも彼の言葉や行動が原因である。
「もう此処まで来てしまったら、好きにしていいさ」
後から間違いなく主からの御咎めがあるだろう。
其の言葉を聞き、黒の少女は静かに佇んでいるだろう魔王の元へと近付いていった。
■ルーシェ > 至近距離でなければ使えないと思っていた力というのもあり、拳銃を取り出した程度では、二人の様子を見ているだけだた。
しかし、弾頭に込められた嫌な気配が悪寒となっていくと、自身の予測の答えだと今気づいた。
近距離、使い切り、温存していた理由。
一発の弾丸だと言うなら、そのとおりだろうと思えば近付こうとする存在に意識を向ける余裕もなく、友人の方へ手を伸ばす。
当たってはならないと、その身体を突き飛ばそうとするが弾と手、どちらが早いかはわからない。
■ロザリア >
無数の切っ先が放たれた
それとほぼ、同時だっただろうか
眼の前の男に注視していたということもあった
冷静さを欠いていたということも……
その銃口が向けられ、引き金が引かれる、その刹那──
「───ッ!?」
突き飛ばされ、大きくその身体がずれた
まるで重力を感じないかのように、倒れたりということこそ、なかったものの──
■オーギュスト >
「ふん、俺とした事が」
何故、失敗したのだろう。
力を手に入れた驕りか。
野望の成就を目の前にした焦りか。
それとも、彼が忘れていたもの――
同胞を助けるという「友情」か。
「最期に、神頼みなんぞしちまった」
彼の身体を貫く無数の刃。
間違いなく、致命傷であった。
「そりゃ、負ける、か――」
師団全員に作戦の失敗と全面撤退を命じる合図の魔法具を起動しながら。
オーギュスト・ゴダンは地に斃れ伏した。
■騎士アルダー > 「邪魔立ては此の戦いの結末を歪めるものだろうに…!」
黒の少女が近付く中、突如動きを見せた魔王。
其の動きを視線で追っていたからこそ気付く事が出来た。
魔王が彼女を庇ったのに合わせ、青年も即座に動きを見せる。
「気持ちは分かるが…分かるな?コリン。
ロザリア様、三階に居た彼の言葉の通りとする為らば彼は生かしておくべきでしょうが…構いませんか?」
其の言葉に白の少女は俯いてしまう。
彼はまだ致命傷を受けただけだ、十分に癒せる状況である。
後は彼女の答えを待つのみなのだが…其の答えとは?
彼女を庇った魔王が如何為ったのかとの問題も残っているか。
■ルーシェ > 弾は友の身体を貫くことはなかった。
代わりに、友が放った刃は男を貫いてその床に倒れていく。
ずっと思考を巡らせてきた答えが、最後の最後で一つに実ったけれど、今になって怖さが込み上がってくると指先が震えてしまう。
「だから何!? それで好きな人奪われろとかいうの!?」
自分が好きなものは守る、好きじゃないものはそうしない。
良くも悪くも欲望に忠実で、それが感情となって身体を動かす魔の存在そのもの。
苛立ちに言葉を吐き出すも、改めて友人の方へと視線を向ける。
「……ロザちゃん」
それでも見ていたほうが良かったのか、助けないほうが良かったのか。
疲労に疲れた思考はめぐりづらくなり、問いかけるように友人をじっと見つめていく。
■ロザリア >
「……ルーシェ、危険な真似をするな。…かの銃弾程度で吾が滅びよう筈もない」
ゆったりとした口調、激情はなりを潜め、瞳も普段どおりの、エメラルドの光を湛えて
操られていた屍も崩れ落ち、オーギュストの全身を貫いた黄金の武具も魔力の粒となて霧散する
「生かしておくべき?」
視線をそちらへと向ける
その表情は、どこか厳しい
「この男は吾の友を屠った。生かしておく理由など何一つとしてあるものか」
言葉を投げ捨て、倒れ伏す男の前へと歩み寄る
その手に、光の粒が収束し黄金の長剣が握られる
「──止めようというのならば貴様らも滅ぼさせてもらう」
■オーギュスト > だが、その長剣も無用の物だろう。
男の身体は貫かれ。
意識は闇に呑まれようとしていた。
目はもう見えない。
その身を焦がすような野心を燃やし尽くした瞳は――彼のものとは思えないほど、穏やかだった。
――最期に男が見たものは。
初々しい少女騎士が、緊張と敵意をもってこちらを睨みつける。
懐かしいあの日の光景
「――後、は……任せた……ぞ、サロ……メ……」
ご案内:「宵闇の城・キルフリート」からオーギュストさんが去りました。
■クラウン > 『……そうだ
不倶戴天の 敵。』
薄れる意識を手繰り寄せて、煙の魔神は思考を巡らせる。
あるいは、そこは死後の世界か。それとも、死ぬことすら許されないか。
煙の魔神は、人に興味などなかった。敵意もなければ害意もない。
ただ只管に無関心であり、魔神とはえてしてそのような者が一般だと思っていた。
彼女と契り……主従に許されざる感情を抱くまでは。
…友として、主従として、そして恋心を向ける相手として。
ロザリアの抱く人間への憎悪を、彼も抱いた。
『…君に、全てを捧げよう
君の幸福は、ボクが創る。…君が望まないことだとしても』
彼の望みは唯一つ。
…ロザリアの凍て付いた心を、止まった時を取り戻すこと。
それは、彼の血に齎された呪い。『体の一部を永遠に失う』という呪い。
朦朧とする意識の中、彼の体の感覚は独りでに動き……
自らの右の目を抉り出した感覚が、指先と激痛で伝わった。
三階の廊下、階段近く。少年はそこで目覚めた。
全身に傷を負い、右眼から血の涙を流して。…しかし、息絶えては居なかった。
■騎士アルダー > だから、彼の魔王の姿をよく見ていたのか。
其の言葉に視線を一度逸らすも、改めて見遣る。
浮かぶ答えを簡単に口には出来ずに。
「なるほど、其れが答えでしたら私は其の意に従うのみ。
只、間違いが一つ在ります。
友を屠ったと仰いますが、まだ其れに到ってはいないでしょう。
……そうだな、エリン?」
『そうだけど…』
彼女の云う友とは三階に感じたあの力の持ち主だろう。
其れを理由にしての行為で在る為らば、又違ってくるもので。
其の言葉に黒の少女ははっきりと言葉にはしないが険しい表情は見せる。
■ルーシェ > 「……」
否定した姿へと睨むような表情で視線を返すも、言葉はない。
それなら構わないと友人の方へと視線を戻すが、普段と変わらぬ様子に苦笑いを浮かべていく。
弾と手、どっちが早いかなんて動いた時は分からなかった。
結果は、ほんの少し自分が運が良かっただけかも知れないが。
「……さっきの気配」
弱々しいが、爆音と共に散った気配が改めて肌に感じる。
三階の方へ視線を向ければ、確かめるように振り返る。
■ロザリア >
「………」
手に携えた剣が降ろされる
剣は、他の武具と同じように魔力の粒となり消えてゆく
「死体を運べ。……この男に死後の安寧など許さぬ。
その死後も永遠に争え、傷つけ…永遠に安息など与えはせぬ」
背後に魔法陣が二つ浮かび、そこから現れた悪魔がオーギュストの遺骸を持ち去ってゆく
──城へと静寂が戻る
宵闇の城には騎士達の遺骸から新たなアンデッドが生まれ、戦闘の痕跡を片付けはじめている
ロザリアもまた、妙な疲労感を覚え…目元を抑えるようにして、小さく溜息をついた
しかし……
「……え?」
それに至っていない──、気配、三階の方へと視線を向けるルーシェの、視線を追う
「っ…!」
手にした仮面を握りしめるようにして、気づけば階段へ向けて駆け出していた
■クラウン > 「………。」
声を発することも、手足を動かすことも出来ない。
相当に消耗し、更に魔力の大半をアイオーンの封印に持っていかれた。
…休めば回復するだろうが、満身創痍には変わりない状態だ。
かつかつと鳴る石の音に、薄く左目を開ける。
■騎士アルダー > 「自己犠牲精神も程々にしなければ為らない。
理解してはいるのだが…此れ程に説明の難しいものはないな」
友である彼女の元へと向かう魔王を見詰め乍青年は呟いた。
そして持ち去られて行く彼の姿も目にして。
「此の結末に満足はいったかい?コリン」
今だに俯いた侭の白の少女に声を向け、ポンと頭を撫でる。
其の言葉に白の少女は只無言で在った。
方や行き場を失った黒の少女は其の場で膨れっ面で佇んだ侭だ。
「……いや、放っていた訳ではないんだ。
分かってる、気になっているんだろう?
だが彼等はそんなに弱くは無い、断られたら其れこそ虚しいんじゃないかと思うが…」
そんな言葉に納得がいった様子は見せない。
三階へと後を追う様に向かっていった黒の少女に、青年と白の少女は付いて行った。
■ロザリア >
その場へ辿り着けば、へなりと座り込んでしまった
確かに、残っている。瀕死ではあるだろうものの──
「貴様…吾との約束を忘れたわけでないのだろうな!?
吾を守れとは言ったが消滅寸前までやれとは一言も言っておらぬわ!!」
泣き叫ぶような声を発するロザリア
手にしていた仮面を押し付けるようにして、クラウンの胸元へと
そしてくるりと視線を、大部屋の方へと向けて
「ルーシェ!貴様も!!
吾の代わりにあの銃弾に当たっていたらどうする!?
貴様は魔王、あんなものを受けてはただでは済まんのだぞ!!」
もはや喚くといった風情であった
■ルーシェ > 「……」
友人が慌てて駆け出していくのを見送りながら、小さく手を振った。
自分もあれぐらい心配される存在になっているのだろうかと、幸せな一瞬に子供じみた嫉妬が胸に渦巻く。
けれど、それは確かめようがない感情で力なく笑う。
(「素直に良かったーって思えばいいのに、馬鹿みたい。……地下に行こうかな、皆心配してるだろうし」)
暗く暗くならないようにと緩く頭を振ると、泣き叫ぶような声が響く。
良かったと思いながらも、抱く違う感情に潰れない内にと魔法陣を描き始めて……。
「……っ、だったら、最初からそれぐらいいってよっ!! ロザちゃん素直じゃないから、ちょっとお友達ぐらいに思われてないかなって、すっごい不安だったんだからねっ! ロザちゃんの高慢ちきっ! バーカーバーカッ!!」
最早子供のような悪態になりながら、部屋を飛び出して三階へと走る。
若干階段を転げ落ちそうな勢いで向かう最中、頬を伝う雫がカーペットに散って行った。
■クラウン > 「…………。もう しわけ ございま せ ん。」
……こんな声を聞いたのは、何時ぶりだっただろう。
初めてかも知れない。こんなに、感情を剥き出しにする彼女を見たのは。
……あるいは、かの海の魔王達との間に育まれたものか。
「……おけが は ござい ません か」
掠れる声が、弱々しく廊下を揺らす。
■ロザリア >
「ば、バカだと…?」
言われたことがほとんどない言葉に若干困惑してしまう
…言葉を発したクラウンへと、再びその眼を向ける
ただただ死の恐怖を振りまくだけの魔神であった者も、今はただの少年にすら見えた
「吾に怪我など一つもないわ。
大勢の吾が配下と、貴様と…ルーシェに守られた。
……見慣れぬ者達からの助力もあった」
──最後の結果をどちらが手にしたか、何が決め手となったのか
複雑になりすぎて、わからなくなってしまう
「…貴様はもう休め、後で吾が魔力を嫌という程注いでやる」
■騎士アルダー > 『……ねえ、団長?本当に大丈夫みたいだね。
あたし魔族の国でこんな遣り取りが見れるなんて思わなかったよ』
三階で繰り広げられる光景に黒の少女が素直な感想を零す。
そんな感想を述べられた青年はと云えば、少し複雑そうな表情では在ったが。
『……あの…あれ…』
そうした中で白の少女が地面の一部を差して口を開く。
其処に在るのは既に亡き彼が此の場で使った短剣だった。
アイオーンの加護の掛かった短剣の回収を望む言葉。
「彼の遺品は持っていた剣で十分だが…流石に此れまで勝手に持って行く訳には…」
青年は困った様に考え込んでしまっていた。
■クラウン > 「………ああ、良かった。」
からん、と仮面を取り落とす。
意識がもう保たない、強烈な睡魔に似た感覚が足先から上ってくる。
「…申し訳、御座いません。……暫し、休息、を。
……偉大なる海の魔王と…見慣れぬ者達に…… 感謝 を…」
少年の意識は、そこで途切れた。
■ルーシェ > 「私だってマイペースのおバカとか執事長にいわれたけど、ロザちゃんは……お姫様なお馬鹿さん……だよ…っ!」
とぼとぼと足取りが遅くなりながらも、彼女のもとに近づけば、両膝から崩れるようにしてへたれ込み、ポタポタと涙をこぼす。
血を滴らす少年の姿を見やれば、これがさっきの気配の人かと思いながらも、涙に濡れた瞳でぐしゃぐしゃの笑みを見せる。
「ぁ、私もご飯食べれば沢山魔力だせるから、手伝うよっ!」
勢いよく手を伸ばし、挙手するようにして自分も手伝うと申し出ながら微笑んでいた。
ご案内:「宵闇の城・キルフリート」からクラウンさんが去りました。
■ロザリア >
「吾に面と向かってバカとは、いい度胸をしているな…」
ぐぬぬ、と聞こえて来そうな表情をしつつも、気を失ったクラウンの手をとり、安堵の溜息を漏らす
「──そうであるな、手伝ってもらおう。
地下に避難させた者達にも、危機は去ったと伝えねばなるまい」
ゆっくりと、ロザリアとクラウン、そしてルーシェの周囲の空間が捻じれてゆく
転移魔法も3人分となれば僅かにその時間がかかるようだった
そして、何やら短剣の処分に悩んでいる様子の者達へと声をあげる
「…それは吾があずかろう。……人の世界にあるよりは、魔族にとっての災いの種にはなりにくかろうからな」
■ルーシェ > 「してるよっ、友達なんだから文句の一つぐらいいうよ!」
それに対して、ぷっくーと両頬を膨らませながら子供じみた不機嫌な表情で言い返すも、瞳を閉ざす彼女の友人の様子にその表情は崩れていく。
大丈夫かなと覗き込むようにするも、気配は途切れていないので気を失っただけだろうと。
「うん! ぁ、でも海っぽい匂いつかないかな? そうだね、転移陣も消しとかないと地下湿気っちゃうし」
なんて冗談を口走りながら嬉しそうに微笑み、頷く。
歪んでいく空間は普段よりも遅い変化であり、不思議そうにあたりを見渡していた。
はっとして、陣を解除しなきゃと意識を集中して瞳を閉ざすと、地下の湿気は彼女の魔力と共に散っていく。
■騎士アルダー > 彼女からの救いの手に青年は何処かほっとした様な表情を浮かべる。
「助かります、此の子としては今回の様に利用されるのは嫌っていますし…
此処ならば安心して預けておけると云うものですね。
では、私達も此れで撤収を致します。
何れ日を改めて私達か、主本人が来る事と為るでしょう。
其の時にでも詳しい話は…失礼します」
『ばいばい、ロザリア様にルーシェ様に…えっと…?
まあいっか、それじゃーねっ!…転送!』
一礼をする青年、大きく手を振る黒の少女、小さく頭を下げる白の少女。
そして、気が付けば其れに加わるスーツ姿の男が恭しく礼を。
黒の少女がピッと指差せば、四人と為った者達の姿も消えて。
ご案内:「宵闇の城・キルフリート」から騎士アルダーさんが去りました。
■ロザリア >
遠隔の魔力操作によって結界に包まれた短剣を手元へと手繰り寄せる
結界に包まれてイなければ、それに触れた瞬間に大火傷…で済むだろうか?
魔族にとってはそんなレベルの代物だろう
時代が時代ならばデーモンキラーの名すら与えられたかもしれない武器へと成り果てているのだ
去ってゆく闖入者達へ一瞥を残し、転移魔法を本格的に起動させる
空間の捻じゆく音に混じり、蚊の泣くほどの声で
『…ありがとう』
という吸血姫の声が聞こえたとか聞こえなかったとか
ともあれ、宵闇の城は普段通りの姿を取り戻し…
数日に及ぶ領内の厳戒態勢は解かれ、戦えない魔族達は普段の生活へと、戻っていくのだった──
ご案内:「宵闇の城・キルフリート」からロザリアさんが去りました。
■ルーシェ > 彼が持ってきたものは、元は自分が口走った事が始まり。
その結末に死者が出て、力を刃にした彼はこの世を去ってしまった。
また、恨みの鎖が繋がっただろうし、その一つは自分にも食い込んでいるのだと思う。
そんな思いで短剣をみやっていると、呼びかける声にそちらへと振り返っていく。
「うん……またね? ありがとう」
友達とは異なり、ハッキリとお礼を響かせて笑みを浮かべれば、両手を小さく振ってお見送りする。
そして自分達も三階から姿を消し、自分は地下へと向かう。
約束を果たしたよと領民たちに呼びかけながら、活気づく城内は少しずつ平穏の日常へと戻っていくのだろう。
そして自分も、平穏に戻らねばならない。
「……た、ただい――」
『……』
海の丘に立てられた屋敷、その扉の前でバツ悪そうに笑いながら頬を掻く。
その姿を憤怒の表情で見下ろす執事長は……バタンとドアを閉ざした。
頭から感嘆符が飛び出そうなほどに驚くと、バシバシとドアを叩き、強引な力で抑え込む扉を引き開けようと力を込める。
「ぶ、無事に戻ったんだからそんな怒んないでよっ!?」
勝手に何処かで野垂れ死ねだの、そんな身勝手な領主は知らぬだのと散々な文句をつけられる中、ドアの攻防は加熱する。
最後にこげ茶色のドアが砕け散りながら、海風の空に飛び散っていった。
ご案内:「宵闇の城・キルフリート」からルーシェさんが去りました。