2018/06/30 のログ
ご案内:「魔族の国 どこかの城がある領内」にタマモさんが現れました。
タマモ > 王都の軍が攻め込んでいる、そんな緊迫感漂う魔族の国。
…の、はずだ、少なくとも周囲の話を聞く限りでは。

「………本当に、この辺りで涼しげな海水浸しの騒ぎが起こっておるのじゃろうか…?
どう見ても、海のうの字も感じられぬ場所ではないか…?」

とん、と目に付いた高い木の天辺に着地をする少女。
周囲をぐるりと見渡しながら、そんな事を呟いた。

起こったのは海を領域にする魔王と、人間との戦いだ。
式の一人は、それを少女が以前訪れた城の側で、水浸しの騒ぎがあったらしい、との話にすり替えた。
狙い通りに少女はさっそくと、飛んでいった…そんな流れである。
まぁ、その式からすれば、少しは面倒事に巻き込まれて来い、なんて狙いがあった訳だが…
その狙いが当たるか外れるかは、少女の運次第だろう。

タマモ > 腕を組みながら、首を傾げて考える。
海どころか、釣りを楽しめそうな河川も少し離れないと無い。
が、確かに式は海水浸しと言っていた。
そうなると、辿り着く答えは一つだろう。

だ ま さ れ た

実際にはまったくの嘘、ではないのだが…少女からすれば、ここで海水云々とかありえない。

「お、おのれ…あの馬鹿鴉…!
わざわざここまで来た、妾の意味は…!?」

ぎり、と硬く握り拳を作りながら、王国方面へと睨み付ける。
…が、こうなっては仕方ない、と肩を落とした。

「ふむ…せっかくじゃ、ラザニ…じゃない、ロザリアにでも会いに行ってみるか?
他に何か暇潰しでも出来れば、それに越した事もないのじゃが…」

ぐるりと後ろを向けば、今度は遠目に誰かさんの城が見える。
もっとも、遠目に見えるとは言っても人間レベルではないが。

タマモ > 「それにしても、さっきから気になっておったのじゃが…」

ふと、思い出したように少女はぽつりと呟いた。
その視線が、ゆっくりと下がり…ある地面へと向けられる。
多くの足跡が、己の来た道に、進む先にずらーっと続いているのだ。

「………何か、催し物でもあるのじゃろうか?」

それは、この先に?
先にある城に住む城主は、そんな事をするような性格には見えなかったが…
もしや、その途中のどこかで、そんな場所があるのだろうか?
ある意味正解で、ある意味間違い、そんな考えをぐるぐる巡らせる。

「ふむ…何事も、突っ込んでみれば分かるものじゃろう。
果報は寝て待て、とは言うが…
先に行った者の方が、先に選べて得をする、その方が妾は好きじゃ、うむ」

結局は、そんな結論に達した。
まぁ、先は結構長い、何かあっても不思議ではないだろう。

タマモ > 「そもそも、後から楽して得をしようなんぞ、都合が良過ぎなのじゃ。
そんな連中、落とし穴にでも落ちてしまえ」

己の言葉にうんうんと頷きながら、そんな事をぼやく。
と言うか、こんなところに落とし穴なんてありません。
それはともあれ、ぽんっ、と手元に扇子を出せば、ぱたぱたと扇ぎ出す。

「さぁ、いざゆかん。
妾の暇潰しとなる何かの場所へ!」

びし、と先へと指差せば、とんっと足場を蹴る。
ふわりとその身を舞い上がらせ…一旦、その場で空中静止。
次の瞬間、ふっと少女は姿を掻き消した。

ご案内:「魔族の国 どこかの城がある領内」からタマモさんが去りました。
ご案内:「宵闇の城・キルフリート」にオーギュストさんが現れました。
ご案内:「宵闇の城・キルフリート」にロザリアさんが現れました。
オーギュスト > 第七師団はついに目的地、水晶の渓谷へ突入、攻城戦の準備を開始した。
キルフリートを臨む丘へと本陣を置き、大砲の射程内に砲兵陣地、そして歩兵隊と直営隊が篭る塹壕を設置。
これらの建築は大規模魔術的な隠蔽工作によって進められ、突貫作業ながら師団は夜明けまでになんとか構築を完了した。オーギュストおよび第七師団の蓄えはこれでスッカラカンだ。

「――ようやく来たぜ、なぁ」

砲兵陣地でオーギュストはキルフリートを睨みつける。
あぁ、これで決まる。オーギュストが望みのものを手に入れるのか、それとも第七師団ごと破滅するのか。

砲兵部隊は日の出とともに発射準備を完了。
オーギュストは最後の号令をかける。

「いくぜ野郎ども――戦争の時間だッ!!!」

ロザリア >  
「………」

日の出、本来ならば眠る筈の時間だ
しかし城主・ロザリアは自室で鏡の前に立つ

吸血鬼は鏡にその鏡像を作ることがない、
その代わりに、水晶の谷を包囲する、王国軍の一団の姿を映し出していた
ひんやりとしたその掌を鏡へと当てて───

「──まったく、よくぞ此処まで、と言ったところか…」

静かにその魔力を高めてゆく、碧色の淡い光を讃えた瞳は、どこか物憂げに

「オーギュスト、勇敢なるそなたらの進軍は徒労と終わるのだぞ」

ロザリアの膨大な魔力が古城を覆ってゆく───

オーギュスト > 本陣から一斉に竜騎兵が飛翔、キルフリート上空めがけて殺到していく。
だが、彼らは攻撃には参加しない。彼らにはある役目がある。

「放てぇッ!」

砲兵隊が一斉に砲撃を開始。キルフリートめがけて砲弾が雨霰の如く降り注ぐ。
大砲の命中率は悪い。目的の場所への正確な狙撃などは不可能。
城という動かない巨大な目標であるから、ようやく当たるようなものだ。
しかし、オーギュストは大砲の命中率を上げるある作戦を用意していた。

『ドラグーン019より7番砲台、射角を左30度へ変更!』
『ドラグーン097より6番、俯角を20度上へ!』

空を舞う竜騎兵達より砲台へ次々と連絡が入る。
砲兵達はその助言に従い大砲の角度を調整、徐々にキルフリートへ正確な砲撃が浴びせられはじめる。

これがあの世界より持ち帰った技術のひとつ、『弾着観測射撃』だ。
もっとも、膨大な魔力を纏う城へどれほど有効かは――

ロザリア >  
「──たかが砲弾程度で吾の障壁を撃ち破るつもりか…もう少し芸があるかと思ったが」

鏡の向こうに語りかけるように呟く
その障壁の強固さは広大にも関わらず砲弾を全て受けて尚揺らぐ様子はない
ほぼ無尽蔵とも呼べるロザリアの魔力が底を見せる前に弾薬が尽きるのは明らかだろうか

このまま諦めるまで待つ、という手もあった、しかし──

「…貴様らは、吾の友に手傷を与えておるからな……無事で返す道理もあるまい」

エメラルド色の瞳が妖しく輝く──
布陣を展開しているオーギュスト達の周囲、広大な地面が一つ、また一つと盛り上がる

地面から現れたのはその手に大剣などを手にした、スケルトンの群れ
それも何処か赤褐色にも似た骨色を見せ、細かい造形が人のものとは異なる
ドラゴントゥース・ウォリアー、スケルトンにして最上位のアンデッドの軍勢だった

オーギュスト > 「アンデッドの軍勢の展開を確認!」
「予定通りだ、塹壕にひきつけろ!」

砲兵隊の前には、歩兵隊の篭る塹壕がある。
オーギュストはいつものように突撃を命じるでもなく、塹壕内で迎撃戦を行うよう命じる。
まるでどちらが防衛戦をおこなっているかわからない。

歩兵隊はドラゴン・トゥース・ウォーリアーに対し銃撃を浴びせる。
骨相手に銃弾は効果が薄いが、それでも頭に当たれば破壊する事も出来よう。
特に直衛隊が持つライフル銃の命中率は正確無比、それまでの魔導銃とは一線を画している。
それでも時に強力なアンデッドによって塹壕に入りこまれ押されるが、第七師団は無尽蔵とも言える軍団に対しよく耐えていた。

「閣下、砲撃によるキルフリートへの効果、確認できず!」
「いいから続けろ! あの城には、途中の村から逃げた避難民がいるはずだ! そいつらが泣き叫んで発狂するまで轟音と衝撃を与えろッ!!!」

大砲の真価は破壊ではない。音と衝撃だ。
如何に強力な魔導障壁とて音と衝撃を全て遮断する事は出来ないはず。あの城の中の避難民達が泣きながら城主に助けを請えば、あいつは必ず出てくる。オーギュストはそれを待っていた。

ロザリア >  
「……」

近隣から城へと避難させた、いわゆる戦えぬ者達
彼らは城の中でもっとも安全な地下でただその轟音に耐えていた
この領内を納めるロザリアに在る種、絶対の心服を寄せている彼らの心は音と震動だけで果たして揺らぐだろうか
答えは自ずと訪れる
召喚されるアンデッドは数を増し、更には──

「見慣れぬ銃火器だ…なれば、こういうものもあるぞ」

城を攻めている軍勢は、自らが見られていることなどわかりはしないだろう

更にその禍々しい魔力を高めてゆく
水晶の谷、その一つ一つの大結晶が暗色の光を帯びる、
谷そのものが巨大な魔力の増幅装置として機能していることに気づくだろうか──

そして出現するのは、レイス、コープスといった霊体アンデッド
物理攻撃を完全に無効化する軍勢が、竜骨兵の背後から浮遊し迫り来る

オーギュスト > 次は霊体のお出ましか。
まったく、アンデッドの軍団というのは本当に便利だ。兵を率いる将として、その部分だけはつくづく羨ましい。

「だが――なんの為にここまで来たと思ってやがる!」

神官部隊と魔導部隊による魔法の一斉射撃が開始される。
今は朝、日が出ている為に普段よりかはアンデッドの重圧もマシである。
特に神官部隊と魔法部隊はこのような物理無効の敵の為にアンデッド部隊には温存していたのだが――なにぶん、敵の数が多い。無尽蔵のアンデッドだから当然なのだが。
徐々に戦線は押され、第七師団は防戦一方となる。

「――解析完了しました! このアンデッドの召喚は、城からの魔力ではありません!」
「くそっ、何処からだ! 魔力の発生源を探れ!」

情報将校達は必死にアンデッドたちの召喚の源を探ろうと魔法の解析を進めている。
オーギュストは陣内でただじっと機を伺っている。
砲撃は鳴り止まず、全ての弾を出し惜しみなくキルフリートへと注がせていた。

ご案内:「宵闇の城・キルフリート」にクラウンさんが現れました。
クラウン > 「……失礼致します。」

トントンと、ロザリアの自室の扉が鳴く。
その扉の向こうには、少年が一人立っていた。

「…私は出るまでもないでしょうか。
 第七師団の戦線は膠着、対処に追われている様ですね。」

俯きながら、しかしまるで窓もない城の中から戦場が『見える』かのように、
少年は戦況をとうとうと語る。

ロザリア >  
「──ハール」

部屋へと訪れた腹心の名を呼ぶ
直前まで見ていた鏡の中には、第七師団の奮戦の様子が移りだされていた

「お前が出るまでもあるまい。
 彼奴らでは高位アンデッドへの完全な対応などできはせぬ。
 …やがて砲弾も尽きよう。その時連中がどうするか、だが……」

再び、鏡の中へと視線を流し、アンティーク調の椅子へとゆったりと腰掛けた

「埒を開けるために城へと雪崩れ込む算段もあるやもしれぬ。
 お前の出番があるならば、そこであろう」

そう扉越しに声を投げかけた

ご案内:「宵闇の城・キルフリート」にルーシェさんが現れました。
オーギュスト > 戦線は膠着し、徐々に第七師団の傷が増えてきた。
一方でアンデッド達は消えても消えても襲ってくる。理不尽この上ない事だ。

だが、転機がひとつ、訪れる。

「――解析完了! この召喚呪文の魔力の出所は、この谷の水晶からです!」
「あの水晶、魔力を持っていたのか!」

情報将校達の解析結果はただちにオーギュストへと届けられた。
オーギュストはそれを見てある決断を下す。

「神官部隊と竜騎士は本陣で合流! あの水晶に『例の刻印』を刻んでこい!!!」

幸いな事に、攻撃に直接参加していない竜騎士は狙われていない。そして砲撃の角度修正は完了している。
それを利用して、オーギュストは水晶の谷の魔力増幅を逆手に取るつもりでいた。

神官達を後ろに乗せた竜騎士は谷の水晶へと向かう――あの『忘れられた神の刻印』を刻む為に。
既にこの地を去って久しいあの神の加護を使う事は難しい――なんらかの手段か、「膨大な量の魔力」が無ければ。

一方で前線は神官達が抜けたことによりさらに苦戦を強いられていた。
それをオーギュストは、自らが前線に立つ事で支える事とする。
近づいてきたコープスを一体、魔法剣で切り捨てる。

「おら、もう少し耐えるぞ、全軍白兵戦準備!」

ご案内:「宵闇の城・キルフリート」に騎士アルダーさんが現れました。
ルーシェ > 『ロザちゃん~、大丈夫? 私、外で津波ドーンとか、水圧刃シュバーってやらなくて平気?』

城主の傍のテーブルに置かれた真珠、そこに刻まれた魔法陣から声が響く。
薄っすらと水気を含んだ魔法陣は、身体ではなく声を転送するように抑えた通信装置といったところか。
今は城の地下で珊瑚を層にして固めていき、城の地下への侵入を抑え込むようにお願いされている。
とはいえど、外の喧騒に落ち着きなく、そわそわとした様子で問いかけているのが聞こえるだろう。

クラウン > 「…………。む?」

軽く首を傾げる。
戦線は膠着したまま。こちらへの致命傷はなく、ジリジリと敵が消耗していく。
だというのに、何か違和感がある。

『……なぜ「一部の竜騎兵」だけが撤退した?
 それに神官兵を連れている。アンデッド対処には神官兵が適任のはず。

 それを戦線から離す?何故だ?
 あの男がこんなに早く撤退の準備を始めるはずがない。
 そもそも逃げやすい竜騎兵を先に撤退させる道理はないはずだ』


嫌な予感を感じつつ、その『目』を離すことはない。
…『目』は、既に戦場(そこ)にある。

ロザリア >  
ピシッ───

「……!」

鏡にヒビが走る
何かが魔力を辿って此処へ来たという証拠である

「……ふむ、策を弄したか。切り札というのは、これか?」

僅かにその眼を細める
その時、ふと耳に聞き馴染みの深い声……

「ルーシェか…構わぬ。それよりも避難しておる民達はどうであろうか。不安になっておるようであれば、元気づけてやって欲しい」

鎮座する真珠にそう声を投げかける

そして戦場では──新たな竜骨兵、そしてレイス等高位アンデッドの出現が止まっていた

ルーシェ > 『わかった。ぁ、音が大きくなってたからザワザワしてるけど……うん、任せて!』

大丈夫だという言葉に、まだ不安は消えないものの頷くことにする。
続く声にあたりを見渡せば、怯えるという様子はないが始まったとざわつき始めるのは見て取れた。
お願いの言葉に二つ返事で応えると、ぁ と小さな声を零す。

『危なくなったら、ちゃんといってね? 約束なんだから!』

心配し合う気持ちは一緒だと明るく告げれば、一度真珠からはご要望に従う声が重なり合う。
ロザちゃんは強いから大丈夫、それにここには海ならとっても強い私もいるんだし、守りなら得意だと胸を張る声。
泣いている子供がいれば、近所のお姉ちゃんのように近づいていったりと、領地持ちらしい仕事ぶりを響かせた。

オーギュスト > アンデッドの出現が止まった。
情報将校達の解析は正しかったようだ。やはりあの水晶が召喚の為の触媒であり――今ならば。

「全軍――耳を塞げ!!!」

オーギュストの号令に、将兵達が一斉に耳を塞ぐ。
もっとも、別に大音響を伴うとかそういうわけではない。
『あれ』の正体に気付けば、オーギュストとて王国内では反乱者、異端者として裁かれてしまうだけだ。
第七師団の兵達をそんな事に付き合わせるわけにはいかない。この『忘れさられた神』の名前を教えるわけにはいかないのだ。

オーギュストは朗々たる声で詠唱する。

『其を讃えよ、其を讃えよ、其を讃えよ!
偉大なる神、まれ人達の神、忘れさられし神。
其の名はアイオーン、今は去りしアイオーン。
我が神、我が神、何ゆえ貴方は我らを見放せり!
今一度だけ、この地にだけ、わずかなる貴方の加護のあらん事を!!!』

これがオーギュストの切り札の一つ、アイオーンの結界。
もっとも、使う、というよりも使える予定が無かった。本気でこれを発動するには膨大な魔力が必要であり、あった所でほんの短時間で切れてしまうからだ。
信仰が失われた地では、この結界を自在に展開するなど夢のまた夢である。

水晶の谷全体が結界で包まれる。もっとも、王都どころか王国内にも及ばない、わずかな、そして限定的なものだが――
それでも、この場所の『地の利』を奪えた事になるだろうか。

「攻撃再開だ!!!」

騎士アルダー > 戦闘の始まったキルフリート、青年の姿は前回同様に距離を置いた場所に現れた。
但し、今回彼の背後に現れたのは二人の少女のみである。
見た目から服装から全てが同じだが、頭を飾るカチューシャの色と手にしているのが杖と棍棒が数少ない二人の違いか。

「始まったな…皆、配置に付いている。
私達は私達の仕事をするとしよう…準備は如何だい?エリン、コリン」

『こっちはいつでもいけるよ!』

元気に手を上げて答える黒の少女。
其の隣で小さく頷く白の少女。
青年は満足そうに頷き、戦の場へと目を移す。

「タイミングは私が、では…始めよう」

伝える言葉を合図に、二人の少女は詠唱へと移った。

クラウン > 「………。ロザリア様。」

なにか細工があったようだ。『目』からの映像が乱れた。
おそらく魔力…というより、魔族の力のみを阻害する結界だろう。
魔力そのものを阻害されてしまえば、第七師団にとっても痛手になることは間違いない。
…であれば、魔族にのみ働く妨害。それも……

「『王都の結界』に近いものが戦場を覆っております。
 こちらの戦力が低下しており、一部の下級レイス種は顕現が困難になっている模様。
 如何なさいますか?」

ふわ、と煙が床を舐める。

ロザリア >  
──ざわりと、厭な感覚を覚える
まるで人間の地へと踏み出し、力を抑えられる感覚にそれは似る

ルーシェが危惧していたこと、事前に知っていた故に驚きこそはしないが…

椅子から立ち上がり、再び鏡の前へと立つ
亀裂の入った鏡へとその手を触れれば、バチッと火花が散った

「…ふむ、阻害されるか」

白煙をあげる自らの指先を見つめ、呟く
水晶へ巡らせていた魔力が断たれている──

「予見はしていた。──城への結界の維持に問題はない。……籠城で構わぬであろう」

自身のテリトリーを守護する程度の力は行使できている
腹心の言葉にはそう返し、鏡の中をただただ見つめていた

ルーシェ > 「……っ」

珊瑚の形成に負荷がかかり、力の出力が抑えられていく。
それでも人間の軍勢よりは十分な力を持つのは、陸の上でも魔王たらしめるといったところか。
そして、冷静に今のことを瞳を閉ざしながら感覚を思考に差し向けていった。

(「これが切り札? これだけであの人が攻めてくるはずがない、切り札にしては弱い……私の時に使えなかったのは……隠す、条件不足、使い切り、どっちか……?」)

浮かび上がる疑問を脳裏でまとめていくと、真珠から再び声を響かせる。

『ロザちゃん、多分まだなにかあるよ? これだけで攻めてくるはずないもん。私の時に使わなかったの、隠すか使い捨てかも知れないけど、条件が整わないもあったかも知れない』

条件はなにか、そこまではわからないけどと付け加えながら普段のマイペースな声とは異なり、落ち着いた音色で告げていく。
あまり力が出せなくなるかも知れないと、思えば、地下の床にほんのりと湿気を交えるように魔術を展開していく。

騎士アルダー > 吸血鬼との対峙で使う物と思っていたが…予想よりも其れは早かった。
人外と為った耳に朗々と響き渡る彼の声が入る。

「アイオーンを去らせた原因で在る人間が、其の力を好きに使おうなんて憤りしか感じないものだ。
そう思わないか…コリン?
……答えなくてもいい、分かっている、私もだ。
同じ人間さえも裏切る君達が受ける当然の報い…其れが此れだ」

青年は合図として、右手を掲げる。

『天よ、地よ、大いなる自然の律動の一時を我が手に。
…天を包め、黒き雷雲…!』
『我が身を捧げしアイオーン、其の願い届けられずとも、其の想いは今だ我が胸に。
其の力、我欲の為に使わん者の手元から取り戻さん』

黒の少女の言葉に、上空に大きな暗雲が一気に広がり陽光を飲み込む。
続けての白の少女の言葉に、キルフリートを包み込む巨大な力場が展開された。
其れは、加護が展開されようと、されまいと、其の力を阻むだろう。

オーギュスト > 魔導砲の砲撃も再開したが、やはり貫通には程遠い。
と、なれば――やるしかない、か

「――突撃準備!」

出てこないならば仕方がない。
こっちから突っ込むしかないだろう。
幸い、結界はあと少しはもちそうだ。これが効いている間にケリをつける。

「いいか、今ならアンデッドどもの増援はねぇ、この隙に城まで突っ込むぞ!」

砲撃の支援を受けた第七師団は、オーギュストを先頭に突撃を開始。
キルフリート城めがけて隊列を整え、一斉に襲い掛かる

クラウン > 「………御意に。」

で、あれば。
彼らを招き入れよう。下の守りは彼らに任せればいい。
あるいは、場合によっては『下る』必要もあるかも知れない。

煙の魔神の名を以て、彼らを『笑顔』で葬送(おく)り出そう。
煙の魔神のなんたるか、それを彼らの髄に刻んでくれよう。

煙が床を舐める。
その煙は意思を持ったように、階段へたどり着き階下へと滑り降りていく。

ロザリア >  
「…伊達か酔狂かは知らぬが、味方もいるようだな」

鏡の中に広がる光景
暗雲が立ち込め、王国軍の展開した旧神の加護を阻んでいた
──在る意味では、当然の結果だろう

元よりこの地にアイオーンの加護などはない
ヤルダバオートこそが魔族の地の神なのだ

「…しかし、アンデッドの召喚を続けたところで連中の足は止まらぬであろうな」

例え砲撃隊を潰し、後方を断ち切ったとしても…彼らは突撃を続けるだろう

ちらりとテーブルに鎮座する真珠へと目を向ける

「──ルーシェ、人間達が城へと踏み込む。…地下の者達を守ってやってくれ」

オーギュスト > 「ちっ、もう切れたか、はぇえな!」

アイオーンの結界が切れたのを見てオーギュストは確信する。
やはり神などアテにならない。アテになるのはこの腕だけだ。
もちろん、ここまで来たらあとは行くしかない。師団はついにキルフリート城の城門まで辿り着いた。

「突入――!」

オーギュストの号令一下、第七師団は城の一階へと突入する。
あの日――オーギュストとロザリアが初めて出会ったあの日以来、ついに師団はキルフリートへと戻ってきた。

「上だ、あのスカした女は上だぞ、階段を目指せ!!!」

ルーシェ > 湿気を帯びた床に青い光の線が描かれていく、あまり大量の魔力を一気に消費しないためにも、ゆっくりと描くそれはいざという時の転移の魔法陣。
使わないことが前提ではあるが、自身の夢を回避できたとも思えなければ、任された仕事を熟すべく陣の形成に集中していく。

『……うん、今、念の為水の転移陣を形成してるところ……海辺だから馴染まないかもだけど』

いざとなれば自分の領地へ彼女の領民たちを移動できるようにと、念入りな守りを構築していく。
冗談交じりに呟きながらも、彼の気配が近づくのが分かれば、鼓動は早まり不安が募っていった。

ロザリア >  
キルフリートの城は2階からその空気を大きく変える
上位のデーモンやデビルといった悪魔、魔神の類
リッチを含む最高位のアンデッドが3階への階段を守り、更に──煙の魔神が姿を現す

すっと真珠へとその手を触れて、小さく呟く

「やはり人間達は諦めるつもりはないらしい…。
 諦めぬ以上、その動きを止めるには命を奪うしかないようだ」

言葉が終わればゆったりとドレスを揺らし立ち上がる──

オーギュスト > 出るわ出るわ、強力な魔物のオンパレード。
悪魔に魔神、強力なアンデッド。
しかし、こちらも退魔師団である、退くわけにはいかない。

「目標、前方のデーモン! 放てぇ!」

銃撃や剣撃、それに魔法に神聖加護。
あらゆるものを利用し、師団は進む。
多くの兵が倒れるが、それでも数はこちらが上――千を越える師団兵は、ついに3Fへの階段を見つける。

「敵、リッチ級のアンデッド!」
「対アンデッド戦闘開始! 神官どもは神聖魔法の詠唱、それに火炎魔法だ、出し惜しみすんなよ!」

師団はオーギュストの指揮のもと、リッチ攻略と3Fへの突入を試みる。

ルーシェ > 『……大丈夫、私だってこんな時にいつもの事は言わないよ?』

殺し合いの果に怨嗟の鎖が繋がれて、世代を超えて殺戮は繰り返される。
それが嫌だから守るだけにといっていたが、その理屈が通じぬ相手。
大切な友人を壊そうとするなら、嫌ではあるが戦わざるを得ない。
苦笑いで答えれば、それが真珠から響き渡り、陣を形成し続ける。

『危なくなったらそっち行くからね?』

取り残されるのは嫌だと何度も告げたから、それ以上の強くは言わず。
今は彼女を信じて守りに徹し続けた。

クラウン > 「……そこで止まってもらおう、ヒトの諸君。」

3階の階段の上は……白かった。
廊下の先どころか、一歩先すらまともに見えない。
まるでぶ厚い煙幕の壁が、城の中をぎっしりと埋め尽くしているかのようにすら見える。

その煙の中に、人影が見える。
小さいシルエット。…子供?

「……ここで労いの一つも聞かせてやるところなのだろうが…
 私は口が上手くない。そして、穏健でもない。」

煙が、塊から剥がれ落ちる。…階段の第7師団へ向けて、流れていく。

騎士アルダー > 「其れでいい、何かを得たいならば自らの手で得るべきだ。
チェンとドゥエルに任せた周囲は大丈夫か?」

キルフリートへと突入していった者達を遠目に、青年はまるで其の者が居るかの様に言葉を向ける。

『周囲、他の被害は在りません』
「そうか、引き続き二人には周囲の警戒を。
君は…後を任せる」

其の声に答えたのは黒のスーツに身を包む執事風の男。
続けての指示に一礼し、其の姿を消した。

今回は魔術師達に対する妨害はない。
代わりに辺りを包む場にそぐわない神聖なる力が、神官達の力を加護と共に抑え込んでいる。
其の為に不死に有効な聖なる力は効果を半減されてしまう。
城内は彼等の領域と云わんばかりに本領を発揮されるだろう。

青年は只々キルフリートを見詰めるだけだ。

ロザリア >  
…最後にその真珠を一撫でして、私室に生まれた空間の捻じれへとロザリアは消える

──暗闇が晴れれば、そこは居城3階の大部屋
ロザリアの私室へとつながる階段のある、大広間だ

その扉は未だ閉ざされ、3階への階段は…煙の魔神が守っている
未だかつてこの部屋へ踏み込むことを許したのは…片手の指で数えるのが足りる程だ
それも、煙の魔神が不在だった時のみ、である

「──…」

大広間に鎮座する、豪華な玉座へと腰を降ろす
謁見の間にあるものとはまた趣の異なる玉座

城主として敵を迎えるためのものだ

…もっとも、今日は煙の魔神が此処を守っている
……迎えることなど、ないのかもしれないが

オーギュスト > 「――来やがったなぁ、『煙の魔神』!」

師団兵たちは一斉にマスクとボンベを装着する。
あたりにまだ残る残党の魔神やらアンデッドを掃討しながら、クラウンと対峙するのはオーギュスト。
何としてもこいつに対処しなければ、ロザリアのもとへは行けないだろう――

「――総員、かかれ!」

まずは試しだ。
煙という事は気体。それを攪拌する為に、大規模な風の魔法で散らそうとするが――

クラウン > 「………。」

煙は、風の魔力にて吹き散らされる。
あまりにもあっさりと、道端の花を摘み取るかのようにその風は煙の壁を裂いていく。

かき分けられた煙の向こうには、少年が居た。
笑顔のような無機質な仮面を身に着けた、道化のような少年。
しかしその気配は、今までの魔族とはまるで違う…底冷えするような憎悪、侮蔑、拒絶、憤怒。
そういった気配を生み出していた。

「こちらの手について、多少は勉強してきたようだ。」

撹拌された煙は、色を失っていく。
先程まで廊下を覆っていた煙は、今や完全に消えて無くなっていた。

オーギュストの後ろで、何か金属が崩れる音が聞こえる。
…兵が1人、倒れている。ボンベとマスクを備えた兵である。

オーギュスト >  
オーギュストはぎょっとして後ろを振り向く。
師団兵が倒れていた。ボンベとマスクを装備しているのにも関わらず、である。

「――ちぃっ、これでもダメか!?」

所詮はあり合わせで作ったものだが、これでもダメか。
「煙の魔神」は、マスクとボンベの隙間を通り兵を死に至らしめたのだろう。
――つまり、このマスクとボンベでは対処できない。

オーギュストは悔しそうに歯軋りすると、全員に集合を命じ次の策を考える。
あまり実行したくはない、が――

「――構わねぇ、強行突破だ!」

先頭に兵を置き、オーギュストが続く。
もちろん、これで突破できるなどとは思っていない。
「煙の魔神」はそこまで甘くない。
だが、もう方法はこれしかないだろう――先頭の兵が『倒れるのを待つ』。

ロザリア >  
──不運、そう言う他にない
この城は気まぐれにその入り口を転々とし、冒険者などを誘い出す
故に侵入者自体は非常に多く…それが城主の糧ともなっている

しかしそうやって城に侵入する者達の中でも、二階への大階段を上がり…
その魔神、クラウンと遭遇した者は最も不幸であると言えるだろう

何故なら──

「あれは、この吾よりも更に格が違う存在なのであるからな──」

ぽつりと呟く、小さな言葉
その言葉には嘘などはない

故に、この部屋の扉が開かれることはないだろうと、全幅の信頼を置いていた

クラウン > 「………。」

再び、煙に色が戻る。
白く濁り、廊下を覆い尽くし…視界を塗り潰していく。
先ほどまであった少年の姿は、煙に溶けるようにその形を失い、消えた。

「我は霧。
 我が主に仇なす全てを飲み込む、死の煙。」

煙に触れた兵が、片端から倒れていく。
…目を押さえ、悶え苦しんでいる。先程の『背後で倒れた』兵とは、また違って様子がおかしい。

オーギュスト >  
兵達は恐慌状態一歩手前だ。
当たり前だろう、対処方法が無い。
気体になって周辺に拡散し、体内に入り込み死を運ぶ。
――まったく、規格外にも程がある。

「死にたくなけりゃぁ、走れ!」

オーギュストが走り出し、三階の扉へと手をかける。
奴はここの番人、ならばこの扉を開けようとする奴を襲うはず。

オーギュスト自身を囮にするこの策。
失敗すれば、自身が死ぬ。
だが――

(やるしかねぇだろうが――!)

無いよりマシとばかりに解毒作用のある魔法薬を飲みながら、こちらに来るのを待つ。

クラウン > 「…殺してなるものか。」

オーギュストの耳元で声がする。

背後には、彼を慕う兵たちが居る。
目から血を流して悶え苦しみ、背を仰け反らせ転げ回るもの。
喉を掻き毟り、吸えない空気を必死に求めるもの。
半狂乱になって武器を振り回し、力尽き斃れるもの。

「お前だけは決して……」

煙の中から腕が伸びる。無数に、大量に、怒涛のように。
オーギュストへ向けて、触れれば肉が焼け爛れるであろう猛毒の手が伸びる。

「決して殺してなるものか。
 死を持って償わせるなど生温い。」

ロザリア >  
その煙に巻かれれば死あるのみ──
最上位であろうデビルやデーモンすらも、それには近寄ることすら出来はしない

──部屋の外からは喧騒、そして悲鳴が聞こえてくる
多くの命の途絶える音だ

「………」

こうなることなどわかりきっていた
如何な手を用意しようが、策を弄そうが…現実は自分に目を通すことすら敵わない
それでも抗う理由が彼にはあったのだろうか
どうあっても、命を賭してでも、譲れぬ何かが……

扉の向こうから伝わる殺気は、クラウンのものか
あれは、あの男を許しはしないだろう。許すわけがない──

ゆったりと玉座に腰掛けながら、その目を伏せた

オーギュスト >  
師団は恐慌状態に陥り後ずさる。
気付けば階段にいるのはオーギュストだけだ。あとは階段下で遠巻きに見ているだけ。

「――知った事か!」

まだだ。触れるだけでは足りない。
オーギュストは火傷を負いながらもその手から逃れ、大剣の旋風で煙を散らそうとする。

まだ足りない。
もっと怒らせ、毒となって自分に襲い掛かってくるようにしなければ。

「――てめぇの大事な主はな、俺が奴隷にするって決めてんだ。あいつを抱いたその時からなぁ!」

さらに抗毒剤と火傷の治療。
チャンスは一度。しくじれば死ぬ。さぁ、来てみろ『煙の魔神』――!

クラウン > 「…………!!」

刃が煙を切り裂く。
その向こうに、仮面が見える。

「…良いだろう。」

おそらくそれは、オーギュストの予見通り。
怒りに狂った魔神が、その姿を現し…毒の煙で、その生命を刈り取ろうと魔の手を伸ばす。
白い煙が、オーギュストの周りを色濃く撒く。

肌寒い空気が、オーギュストの肌を撫でた。

オーギュスト >  
「ぐ、ぁ――かか、った、な――」

毒が回り、意識が遠のく。
死神の足音がしのび寄る。

――だが、ついに捕えた。

オーギュストがかつて医学書で読んだ所によると、人が吸った気体は肺という気管に溜まるそうだ。
つまり――今、魔神の身体は、確実にオーギュストの肺の中にある!

「――運試しだ、オラぁ!」

取り出したのはアイオーンの加護を刻んだ短剣。
ロザリアに用意した切り札二枚のうちの一つ。
オーギュストはそれを

躊躇なく、自らの肺に突き刺した

騎士アルダー > 『第七師団、城内の霧の魔神と呼ばれる相手と交戦中です。
戦況は…以上の通りほぼ決しているでしょう』

不意に青年の思考に念話が届く。
其の念話と共に青年とは別の視点からの映像も流れ込む。
彼一人を除き足を止める師団の兵士達。
男の云う煙の魔神と、彼との言葉の遣り取りも。

「良く見えている、君は其の侭現状維持を。
何か在れば随時指示を出す…心配は不要だろうが気を付けてな」

そんな遣り取りをしている男なのだが、其の姿は彼にも兵士達にも見えてはいない。
只、彼と共に居る仮面の魔神には影から影に移る気配が分かるだろう。
そして害意を持っていない事も。

ロザリア >  
「──覗き見ている者よ。何者か、名くらいは名乗るがよい」

不意に、ロザリアが口を開く

それは念話へと強制的に割り込むようにして、城外にて様子を見ている者達へと通るだろう

…特に何かを追求するつもりもないが、結果的に肩入れをされているのは確か
その正体もわからぬままでは落ち着きが悪い

クラウン > 「……ッッ!!」

その瞬間、道化はその胸を抑える。
苦しげに膝をふらつかせ、後ずさる。…煙が薄くなっていく。
そこに居たのは、小さな少年の姿、のみ。

「…まさか、自らを賭けに使うとは。
 肺の中に溜まった私の分体を、加護で直接縫い止める気か…!
 なんと、何という……」





「蛮勇なのか。」

そう、オーギュストの肺の中にあるのは『煙の魔神の身体』である。
…その性質を変えることなど、まるで指を動かすように容易。

傷は負った。
アイオーンの加護に縫い留められ、権能を封じられるのも時間の問題。
それを予見し、煙の魔神はその体の性質を毒から別のものへと変えていた。
その煙は、床を舐め…オーギュストの足元を凍て付かせる『肌寒い空気』。

『積乱雲』の性質であった。

オーギュスト >  
意識が遠のき、肌が震え凍える。
当然だ。肺を突き刺した上に、積乱雲の性質によってその体温は奪われ死へと瀕する。

だが、まだだ、まだ終われない。

「――と、き、よ――足を、と、めろ――刻みを、ゆる、やか――」

詠唱し終わるのは、かつてオーギュストが打ち倒した『刻の魔神』の呪文、スロウ。
対象の時間を緩やかにする魔法――そう、それを己にかける。

確かに分体は縫いとめた。
オーギュストの身体は死に瀕し、神官達が慌てて駆け寄り治療を施しているが、このままでは遠からず死ぬ。
だが、短剣に刻まれたアイオーンの加護は、先ほどの結界など及びもつかない程に強力で濃縮されたもの。

オーギュストの命が尽きるのが先か。
短剣からの加護が本体まで侵食するのが先か。

騎士アルダー > 『……団長』
「分かっている…失礼を、キルフリート城主ロザリア様」

念話の割り込みに、男が意見を求める様な一言を。
其れに応える様に青年は言葉を向ける。

「我等はメフィストフェレス様に従うファウスト騎士団。
私は団長を勤めさせて頂いているアルダーと申します。
本来は前以って御伝えすべき事でしたが…機会を作られず、御手を煩わせた事、申し訳在りません。
主より此の件の流れを正確に伝える事を命じられて参りました。
貴女様達へと組した事は…我等の独断です、その点は御容赦の程を」

念話を通し恭しく一礼をする自分の姿と共に彼女へと伝えた。

ロザリア >  
念話への応答は、丁寧なもの
ひとまず行動の指針は理解することが出来た、しかし──

「…構わぬ。吾は公に姿を見せることが少ない故、伝達の機会など得られず当然である。
 吾へと力を貸した、そのことに対しても礼こそすれど、苦言などは何一つとしてない」

念話越しに、頭を下げる騎士の姿が見えた
メフィストフェレス、名こそは知っているが……

「吾と彼の魔王にはなんら面識などはない筈であるが、吾へと与する理由の程は如何に?」

純粋な問いかけである
独断であれ、はぐれ者である自分に力を貸すメリットなどは見当たらない
単に同じ魔族、かつ人間を敵視した上での行動だったのか──

クラウン > 「……ぐ、ゥ…ッ……」

肺の中から、男の体は凍て付き始める。
しかし、それは決して余裕ではない。
アイオーンの加護に蝕まれているのは確か。それは、魔に属する者であれば決して逃れ得ぬ脅威である。

全身を引きちぎられるような痛みを覚えながら、その冷気を緩めることはない。
廊下がまるごと冷気に覆われ、駆け寄る神官たちの身体さえ凍り付き始める。
壁と床には霜が降り、倒れた兵たちの身体から流れる血は白く濁り砕けた。

それでも、冷気は緩めない。
積乱雲を模した煙は風を巻き起こし、氷の礫が銃弾のように飛び交い、雷が舞い踊る。
…もはや、執念がその体を突き動かしていた。

ルーシェ > 外の騒がしさが変わっていく、何より頭上にあった自分や友人とは異なる力強い魔の気配が弱っていくのがわかる。
肌を粟立たせながら小さく身震いすると、再び瞳を閉ざして粋ながらほぼ完成に近い魔法陣へ魔力を注ぎ続ける。

『ロザちゃん、嫌な感じがするよ…だれか弱ってるみたいだし。魔法陣ももう出来上がるから、やっぱそっちに行ったほうが……』

あの力を直撃させられたら、彼女とてタダでは済まない。
密閉空間という力が使いづらい場所とは言え、戦えるのだからとそんな提案を不安げに真珠から響かせる。

オーギュスト >  
「――――け」

最早喋る事も叶わないのか。
否、ひと言だけ。
その静寂の場にはっきりと、そのひと言だけが響いた。

「――い――け――」

オーギュストの言葉に。
師団長の命令に。
恐慌状態に陥っていた師団兵達が、再び狂奔を取り戻した。

『突撃ぃ! 閣下を助けろぉぉぉ!!!』

冷気に包まれた壁と床を、師団兵達が駆け抜ける。
ある者はクラウンの居るであろう場所に銃弾や魔法を乱射し
ある者はオーギュストにかけより何とか身体を治療したりその体温をあげるべく努力をし
ある者はオーギュストの意思を継ぎ3階の扉を駆け抜けようとし

第七師団全てが、煙の魔神に対し、人間の意地を見せようとしていた

ロザリア >  
「──………」

閉じていた瞳を開く
その瞳には一際冷たい光が宿っている

クラウンの力が弱っていることは感じる
ルーシェの言葉も届いている──

しかし、玉座を立つことはしなかった
それはクラウンへの信頼を裏切ることとなる

「(だが、しかし)」

その扉がもし人間の手によって開かれるのであれば

「……」

白薔薇の君は、その暴君としての姿を晒すこととなる──

騎士アルダー > 「御許し頂き感謝致します。
其の件につきましては…我等にも人間に怨恨を持つ者が居るからと申し上げる他在りません。
詳しくは…?」

説明の途中で不意に青年の言葉が止まる。
背後の異常を察したからだ。

「説明は、すいませんが後程に…少々失礼致します」

そう彼女へと伝え、念話を一時止めて背後を見る。
其処に見えるのは神の加護を阻害する力を止めた白の少女と、戸惑う表情を浮かべる黒の少女だった。

クラウン > 「…………」

弾丸も魔法も、その体を突き抜けて、煙の体を削り取っていく。
煙はもはや薄く、手で振り払えば消えてしまうほど。
それほどまでに、局所に集中させたアイオーンの封印は強大であった。

目が霞む。痛みが体を内から食い破る。死を覚悟するには十分な状況だった。
…銃弾が、仮面を弾いた。


「……まだだ。」

ふらりとその体が倒れる。…崩れた身体は、地面に当たると同時に…
ぼふん、と煙となって、無色へ消えた。


「………ロザリー。
 煩くなるが、許してくれ。」


そして、最後の力を振り絞る。
奴が死を覚悟したのならば、こちらも死を覚悟しなければ釣り合いが取れない。
自らの体を掛金とする、最後の一撃。最後の『煙の切り替え』。

最後に放たれた弾丸が壁に当たる。
火花が散り、火の粉が舞い……


爆音とともに、廊下を暴威が焼き尽くした。

ルーシェ > 『ロザちゃん? ……ロザちゃん!』

呼びかける声に返事はない、徐々に語気を強めながら呼びかけるも不安は一層膨らむばかり。
最適手はなにか、危うき時こそ常に考えるべきだと日記に書かれた父の言葉に従い、考え続ける。
今の所、狙いは完全に彼女一択のようで、こちらには手が伸びていない。
珊瑚の守りもまるで厳重な牢獄のように、硬い珊瑚の層が幾つも扉や地下室を包んでいる。
魔法陣はもう少し、そこまで考えて、判断すると多めに魔力を注ぎ込んで加速させていく。

『これ作ったらそっちいくからねっ!』

守りの準備を万全に終わらせてからすぐに向かう、それが答え。
傍にいた領民をひとり呼び寄せると、片手を胸元に当てて言霊を込めていく。
海岸沿いの領地、そこについたら小高い丘の上の屋敷に向かうこと。
怖い顔した執事長に、事の顛末を伝えること。
それを自身の声で身体に留めていくと、一種の証にして魔力を注ぎ込み続けた。

オーギュスト >  
その爆発の瞬間。
全てが閃光に包まれ、オーギュストは死を覚悟した。
ここまでか――あっけないものだ。
人智を尽くし、幸運を手にし、異世界の力にまで手を伸ばし。
その果てにあったのが――

爆音、そして衝撃。オーギュストの身体は、吹き飛ばされ――なかった。


その場に居た師団の兵士たち。
全てが、折り重なるようにしてオーギュストの上で倒れていた。

「――あ」

ようやく、肺の中から冷気が消えた。
ふらふらと立ち上がる。
生きている者は――もう、居ない。

階下ではまだ生き残っている者も居るかもしれないが、オーギュストはそれを呼ぼうともしなかった。

さぁ、最後の時だ。
オーギュストはその場に落ちていた仮面を拾うと、ゆっくりと3階の扉を開け――

中で座る人物に向かって、手に持っていた仮面を彼女の足元に投げ捨ててみせた。

ロザリア >  
途切れた念話、何かあったか──
少し気にはなったが、その刹那……

部屋の外から轟音が鳴り響く
──思わず、その玉座から立ち上がろうとしたが、寸前で踏みとどまる

ロザリアがまだ人間の少女であった頃からの唯一の友と呼べる者
かの魔神との契約が少女の転機、生まれて初めての友人と共に在ろうとする故に、自らも永遠となり、約束をかわした
あれが約束を守らぬわけがない

──………

静寂が戻り、重苦し音と共に扉が開かれた

「……あ」

カラカラと渇いた音を立て、見慣れた仮面が足元へと転がる
それは長き時を経て共から従者となった者に、自ら手渡したものだ

立ち上がり、それを拾い上げるロザリアの表情は何か信じられないものを見ているような──

騎士アルダー > 『許せない…』

そんな言葉を零したのは、白の少女だった。
深く信仰するアイオーンの力を、彼は何の為に振るっているのか伝えられているからだ。
何故彼の神が王国の人間を見放したのか、其れを知らぬも又罪である。

白の少女の視線が黒の少女へと向けられる。
双子だから、長い時間を共に生きているから、言葉にせずとも其れは伝わった。

「……仕方ない」

念話で待機組の二人へと連絡を居れ、三人の姿は其の場から消える。
次の其の三人の姿を確認出来るのは、今激戦の終わった三階の広間だろう。

オーギュスト >  
ボロボロの身体は、最早立っているのも限界であった。
否、とっくに斃れていなければおかしかった。

だが、男は倒れない。
玉座の間にて、因縁の少女と相対する。

「――カッツェの奴はな、下品な冗談が好きで、どうしようもない奴でなぁ」

一歩、また一歩、引きずるようにして歩を進める。
まるで、何かに取り付かれたかのように。

「ヴィヴィアンは、飯を作るのがうまかった。スープ料理が得意でな」

目の前の少女など見ていない。
彼が見ているのは、かつて自身の部下だった者――そして、死に逝く者たちの背中だ。

「――ライドは今度結婚するとか言ってたな。んな事言う奴から死ぬから止せって言ったのによぉ」

玉座の下までやって来たオーギュストは、大剣をゆっくりと構える。
ここまで来たら、目の前の少女と言葉を交わす事など不要だ。

「――みぃんな死んじまった。馬鹿だよなぁ、俺なんざについてきて」

「だからよぉ」

その最後の力を振り絞り、激昂し。
オーギュストは叫んだ。

「てめぇだけは手に入れる! 全ての死んでいった者たちと、そして何より、俺の野望の為になぁ!!!」