2019/08/10 のログ
ご案内:「北方帝国シェンヤン「八卦山」 【流血表現注意】」にジンライさんが現れました。
■ジンライ > 乾いた地面だけが延々と広がる空間に、乳白色の霧が濃く漂う薄闇のなか。
ぽつねんと存在する岩の上に、腕組みをして胡坐をかいて鎮座する男がひとり。
「――来ねエなァ…」
『いかにも』な悪人面の視線でちらりと、灰色にぼやけた空間でしかない天を見上げては、退屈そうに頬を掻いたり、欠伸をしたり。
獲物の気配はない。
ここへ自分を案内した男も何処かへ去ってしまって、帰ろうにも帰れない。
(見つかんねエ場合はどーやって帰るかってェのを、訊いとくんだッたな…)
後頭部をがりがりと掻いて、ふんと鼻息を漏らす。
勤め先の娼館に滞在しているシェンヤン人と、酒の勢いで賭けをした。
己ではない。娼館の主たる『叔父貴』がだ。
曰く
シェンヤンの異界に生息する妖鳥の首を、どちらの部下が多く落として持ち帰れるか。
『多く』というからには、見つける事くらいは容易いと思っていたのだが。
連れられてきたのはだたっぴろい、そのくせ視界の悪い荒野。
先から遠くからの地鳴り以外、生き物の気配すらない。
■ジンライ > 大体、『部下』代表として出向いたものの、好きで来たわけでは勿論無い。
おしつけあいのなすりつけあいの果て、割と『新人』の自分が引き受けざるを得なくなっただけだ。
…ちょっとした賭けに負けたというのも、ある。
兎に角『部下代表』なんて矜持もへったくれもない。
送り出すときの叔父貴の顔だって、期待というより男がどんな目に遭わされるのかのほうが興味ありげだった。
当然、やる気がない。
「あーあー…」
腕組みを解き、わざとらしく声を上げてその場にごろりと横になる。
暇すぎる。
寝るしかない。
地面には、妖鳥の『寄せ餌』用の犬の死体がころがっている。
どこから調達したのかは知らないが、結構大きい。引きずってくるのも(当然男の仕事だ)一苦労だった。
そのどんより濁った眼と何となく、見詰め合って
「……お前も大変だな」
引きずっている間に少し親近感も沸いている。
もうとっくにこと切れた相手に、そんな言葉を投げた
――――その時
天の灰色が、ごう、と渦巻いた
■ジンライ > 異音に男が視線を天へ向けるのと、犬の死体が赤い飛沫をまき散らして無残に四散するのとは数瞬の差
その間に岩陰へと身を転がり落として、風切って掠めていく『獲物』を視認する。
紅い身体に、黒い斑点の散った翼
額に角
ヒトの頭ほどもあろうかという顎
――多分、間違いない。
『獲物』だ。
妖鳥は爪から犬の血を滴らせながら再び上昇し、灰色の霧の中へと潜っていった。
■ジンライ > 間近の羽ばたく音は轟々と耳鳴りを残した。
まき散らされた血の臭気が、そよとも吹かない風のせいで色濃く辺りに漂う。
男は顔を顰めながら岩陰から立ち上がり、耳を指で穿りながら顰め面を空に向けた。
今となっては再び渦巻くだけの灰色の空の向こう、確かな羽ばたきの音が、まだじんとする耳朶にまで届いてくる。
―――1羽、2羽――いや、もっと
「―――…急に集まってやンの…」
まあ、いちおう『望む所』だから構いはしないが。
恐らく、厚い雲の向こう、遥か上で続々と集まっていたものが、ようやく少し下降してきた、と言う所なのかもしれない。
耳を穿っていた指をふっと吹くと、2本差した脇差の内長い方を無造作に引き抜く。
『寄せ餌』は四散してしまったが、次は己を『餌』として狙ってくる、筈だ。
腰だめに構え、羽ばたきの音の方向を見据えながらじり、と岩陰から、犬の残骸から反対方向へと後退った。
一度足元がぬかるんでは取り返しがつかない。
裸足になるなど御免だ
■ジンライ > 暫く、靄の向こう、頭上を旋回する音が満ちる。
どうやら、片手では足りないくらいには集まってきているようだが―――
(よく、衝突しねエな……)
男が変な感心をし始める頃
靄が渦巻き、豪ッ!と巨大な羽が空を切る音が響く
次の瞬きの間には男の目の前、頭を噛み砕かんと開かれた嘴の、奈落の様な喉奥が見える距離に迫って
ドッ
肉を立つ音が、騒がしい羽ばたきに混じる。
ぎりぎりを躱して、同時翻した脇差で下から妖鳥の喉笛を掻き切った
それまでが一挙動。
血飛沫をまき散らしながら、地面へと激突しする1羽目には構わず、次に迫る羽ばたきへと視線をずらした
■ジンライ > 「お!ッと!」
直ぐ背後へと迫っていた嘴に、巨体の下を潜り込むようにして身体を投げ出す。
交差する、その瞬間また肉を断つ音
更に濃くなる血の臭気
そのまま鋭い蹴爪を危うい所で転がりながら避けて、立ち上がれば白刃の赤い露を払った。
鳥は滑空してくるだけだから、速ささえ気を付ければ動きが単純だ。
灰色に渦巻く天からは、まだまだ羽ばたきの音が聞こえてくる。
「――――さァて、何匹ぶん持って帰れッかな…」
漸くたのしくなってきた、と口の端を持ち上げ、元々鋭い男の目つきが天に向かって更に鋭くなる。
――――その手の白刃は、すでに刃こぼれしつつあるにも拘わらず。
後日
男は『叔父貴』から褒美を貰ったか
しばらく『タダ働き・飯抜き』の刑に処されたか―――
ご案内:「北方帝国シェンヤン「八卦山」 【流血表現注意】」からジンライさんが去りました。