2018/06/10 のログ
ご案内:「北方帝国シェンヤン「八卦山」 麓の神獣族居住地」にオーギュストさんが現れました。
オーギュスト > 帝都から乗合馬車と馬を借りて辿り着いた神獣族の居住地。
隠れ里でもないのに、人里離れたそこは、確かに神秘的な雰囲気が漂っていた。
まさに古老の住む場所に相応しい。

「――ようこそ、南からの巡礼者よ」

入り口まで行くと、ミレーの女性がオーギュストを出迎える。
王国のミレーのように卑屈になるわけでも、過敏に人間に反応するわけでもない。堂々とした態度だ。

「俺の名はオーギュスト・ゴダン。この地の古老に話を聞きに来た」

帝都で虎燕にもらった紹介状を見せようと懐に手を伸ばした所で、女性が手を出しその動きを遮る。

「不要だ、巡礼者よ。長老は虎燕の導きで貴殿が来る事を既にご存知だ」

驚いた顔をするオーギュストを、女性は奥へと通す。

オーギュスト > 通されたそこは、礼拝堂のような場所だった。
もっとも、見慣れた主神の像は無い。あるのは、猫のような姿をした様々な神像だった。

「巡礼者よ、この地に辿りついた事を言祝ぎましょう。貴方は大いなる変化の前兆として訪れた」

神獣族の古老は、予想していた枯れ木のような老人の姿ではなかった。
それどころか、若い。サロメよりなお若い、幼い少女のような外見だった。

「――なぁ、本当に」
「当代の語り部にして天猫の司祭、ヌァザ・カリュド・ミレヱ。どうぞお見知りおきを」

呆気にとられるオーギュストの前で、ヌァザは優雅に一礼する。

オーギュスト > 「――俺は別に巡礼に来たわけじゃない。話を聞きに来ただけだ」
「お隠れになった大いなる神の名を探し、貴方はここまで来た。それは神の姿を探す巡礼の旅に他なりません」

どうもこの司祭とやらは苦手だ。昔居眠りをしていた神父の説教を思い出す。
ペースを乱されてはならない。オーギュストはあらためて切り出す。

「じゃあ、俺の目的も分かっているんだな」
「大いなる神の力で、魔なる者を打ち滅ぼす。貴方はそれを求めにいらっしゃったのでしょう」

正解だ。どんな力かは知らんが、お見通しというわけか。

「なら――」
「ですが、神の御技を地上に再現するのは難しい。神は未だにお隠れになり、地上に戻る日はまだ遠い。私は語り部の一人ではあれど、数多く居る司祭の一人に過ぎないのです」

話が長い、そしてくどい。
要はそんな簡単にいく話ではない、という事か。

オーギュスト > 「結界とやらを王国に再び作り出すのは不可能、って事か」
「今の南の王国は邪なる神に支配されています。その力を削ぎ、再び主なる神への信仰を取り戻さねば難しいでしょう」

オーギュストはその「主なる神」とやらの為に戦っているわけではない。
ヤルダバオートだろうと別の神だろうと、魔族に対して有効なものを探しに来ただけだ。

「俺はんな信仰を広めるつもりはねぇぞ」
「はい。貴方が求めるのは神の言葉ではなく、神の力でしょう?」

軽く眉に唾をつけるポーズをとる。
下手に会話などしたら、この少女の言葉に飲み込まれそうだ

オーギュスト > 「――その力とやらは、本当にあるのか?」
「かつて存在した力ほどではありません。ですが、主なる神の加護をほんの少しだけ――再現する事ならできましょう」

少女は、主神の名前とその加護を意味する言葉を語る。
オーギュストの旅の目的はそれだった。果たして魔族に何処まで通用するかは分からないが――試してみる価値はある。

「――随分と奮発してくれるが、いいのか? 俺はまだ代価も示しちゃいねぇぞ」
「貴方は大いなる変化の前兆です」

少女はオーギュストを真っ直ぐ見る。
その瞳はまるで夜空の星をちりばめたようだ。

「南の王国の同胞達は、200年の苦難の時代を過ごしました。邪神による支配と抑圧、その同胞の苦しみは――まもなく、終わりを告げるでしょう」

少女の言葉にオーギュストは懐疑的だ。
ミレーの奴隷化政策が終わる? まさか、ここまで定着したものをどうやって。

「いずれ我らが『聖猫』と『真なる神』が連れ立って地上に降り立ち、地上は浄化され楽園が顕現します。貴方の来訪は、その時が訪れる前触れなのです」
「眉唾だな。俺は神の奇跡とやらも俺自身がその前兆だとも信じない」
「ですが、貴方は『楽園』がある事を否定しないでしょう?」

この女は、何処まで知っているのだ?

オーギュスト > 「もちろん、前触れがあったからといってすぐにその時が訪れるとは限りません。
一年先か、それとも百年の未来か――」

気の長い事だ。
とにかく、目的の物は手に入れた。代価を払おうとするオーギュストをやんわりと制し、少女は先ほどの女性にオーギュストを入り口まで送らせる。

目的は果たした。これが切り札になるのか否か――いずれにしろ、あの吸血姫との決戦は、近い。

オーギュスト > .
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オーギュスト > 誰も居なくなった礼拝堂。
ヌァザはその奥で一人呟く。

「オーギュスト・ゴダン。大いなる前兆となる男。貴方は我が同胞を楽園へと導く礎となるでしょう――」

オーギュスト > .
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「――ですが、貴方自身がその楽園を見る事はない」
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ご案内:「北方帝国シェンヤン「八卦山」 麓の神獣族居住地」からオーギュストさんが去りました。