2023/07/08 のログ
ご案内:「タナール砦」にメイラ・ダンタリオさんが現れました。
■メイラ・ダンタリオ >
タナール砦 午後 曇り
“空白の支配権”
―――っ!!
―――っ!!
悲鳴 悲鳴 悲鳴
怒号 怒号 怒号
勢いの衰える者 勢いの止まらぬ者
同じ勢いと同じ波でぶつかり合った両者 それは稀有な状況 空の支配地域。
タナール砦に 今現在居座る者がいないという場は互いを突き動かす。
攻撃も防御も意識していない 攻める 攻め続けて、奪う。
誰もが砦内部でぶつかり合う度に鍔競り合い、殺し合う
所詮この世は弱肉強食 強ければ生き 弱ければ死ぬ
それを如実に表すように
強さを求めてこんなザマになり果てたメイラという血筋
それに従う猛者らによる行動は、人なのかと疑いを持たれるようだった。
「 ■ ■ ■ ■ ―――~~~ッッ!!」
顎を食い縛らせ、ジグザグに噛み合った剥き出しのギザ歯の歯列
両手に携える黒の鉤大鉈と垂れ伸びるバイキングアックスは血糊を滴らせながら嵐のように通り抜けていく。
目の前の敵対する魔族領側の亜人の首に、メイラが食らいつく。
両手は振い抜き、下顎から上を飛ばして舌が蛆のように蠢く肉塊と、肋骨下を通りぬいて
幾つもの肉筒が零れ落ちるようにさせたばかりに、生え揃う乱杭歯と顎による一撃
人ではない あれはもう 鬼だろう 混合された人間側の誰かがそう言った
喉笛を破壊され、赤を口から零し、そのまま首を振りぬいて頭上へ放り投げる姿。
ブ チ ン ッと千切れた音は誰のものか。
「―――ッッ。」
ごふぅ、と白い吐息 こんな蒸し暑い気質で、なぜ白く零れるのか
人の抱える熱を超えているかのような、メイラの中で蠢く動力熱。
アスピダで見かけなくなったメイラの、タナールでの行動は逸脱していた。
ご案内:「タナール砦」にノイアさんが現れました。
ご案内:「タナール砦」にメイラ・ダンタリオさんが現れました。
ご案内:「タナール砦」にメイラ・ダンタリオさんが現れました。
■ノイア > 飛び散る緋の雫を縫うように刃の雨が降る。
手のひらほどの、けれど剃刀の様に研ぎ澄まされた鋼羽が魔力の光を跡引いて。
一つ一つは軽い、けれど多数の閃光で生けるものも死せるものも分かたず細かに分ける雨が降る。
時折真横に翻る羽は前衛が飛び込み武器を揮う空間を無理やりに作り出し、退路を断たんと回り込む動きをも縫い留める。
その羽の主は後方にてその殺意の翼を広げ、視界は愚か、扉の影に潜む相手をも扉ごと貫きながら前方を駆ける仮初の主へといつも通り無感情な視線を向けている。
先走りがちな上司とその配下はその気性の荒さと戦闘理論から敵中に突出する場面が少なからず見られる。仮とはいえ、スペルユーザーであり、後方支援を担う者として支援するからにはその性質を活かしつつカバーする事が求められる。
味方に一切当てないのは勿論のこと、其々が得意とする有利圏を読み切り支援をするというのは細緻なコントロールが必要だがある程度アスピダで数をこなし、慣れてしまえばある程度よそ見をしながらでもこなせる余裕はあった。
悲鳴、流血、そして殺戮。
戦場では当たり前の日常を義務でこなしながら死んだような瞳で戦場を見やる。
最早趨勢は決したといってもいい。このまま押し切るのはメイラ卿が居れば問題ないと確認すると、死の雨を降らせる範囲をより広く、僅かに朧に切り替えた。
戦場も、悲鳴も、決して趣味ではない。
こんなものはさっさと終わらそうと波のような亜人の群れを上司とはまた違った暴虐の波で飲み込んで。
「……このまま殲滅しますか?」
平坦な口調で遠話で確認を。
勿論言葉を届けるのは最前線で暴れまわっている人物へ。
■メイラ・ダンタリオ >
黒鉤大鉈 刃渡る戦斧
二つを握りしめ、片手同士が切り裂いていく魔への意識。
アスピダよりも ハテグよりも ゾスよりも どこよりも
ダンタリオという意味への本懐はこのタナールにこそある。
人では勝ちにくいなら人であることをギリギリまで捨てればいい。
削いだ部分に混ぜ合わされた魔は、限りなくいつもメイラを稼働させる。
固執する忠義 乾欲する力 目の前で打ち合う肌の色もシルエットも違いすぎる者との剣撃の果て
剣花が刃が擦れあう度に、小さく刹那的に破裂していく
撓んだ鉄塊の振動音 手の内に広がる大地を叩いた鉄棒のような痺れ。
「邪魔 です わ ぁ ァ ァ ァ ッッ!!」
167㎝大の♀としては大きいだけの背丈と鉄塊の振り幅
何度も黒と銀の嵐が起こる中、黒鉤大鉈の一撃は魔が扱う類の代物として
これ以上にない強靭性で ビ キ リ と破断させる罅を打ち込んだのなら
ただひたすらに 暴れろ 暴れ続けろ そう愛用する黒い鎧がもたらすアドレナリン増量
興奮作用の増大 ギザ歯は一撃ずつに対して集中する歯軋りどころか だんだんと笑みを浮かべる始末。
―――きっと きっと今この時のわたくしは あの御方に貢献できている
―――この血潮も 剣花も 目の前で武器の不具合に顔を歪ませた奴輩の苦悶も
―――全てあの御方のものだ
「ぁ?」
夢中 意識的にするよりも体が動かす傍ら
斧を収め、両手で握り振う黒鉤大鉈一本のみで叩き割り、返す唐竹で肩から垂直胴打ちによる
片側の二分の一を真っ直ぐに切り落とした後
前線で動くメイラと一部に対する追撃の一手が放たれ、目の前の輩が倒れ伏す。
聞こえる 普段自らのような者が利用することのない遠話による連絡。
「決まっているでしょう 滅ぼす以外に何があるというのですッ。」
目の前で独り言のように語るメイラは、大鉤鉈に纏う血潮を大きく振りく動作
端が伸びる三日月型に血潮が掃われて描くだろう。
「あの御方もお喜びになりますわ。 地獄で居わす場で。」
狂気で歓喜に満ちた表情 狂ったケダモノのような 黒真銀を身に纏うままに
魔族国産と思える武具を振ります狂戦士の所業により、押し戻すように増大する後方勢
砦の向こうへと逃げていくいつもの結末へ向かって 只管に前進あるのみ。
■ノイア > 歓喜を鳴らす姿に無感情な目を向けながら片手に握った細剣をその纏った光で空中を編むように揮う。
自らの手で他者を割断し、緋に塗れる黒影は黒鉄が軋み、割れる悲鳴のような音を響かせながら血河を築き、屍山を踏み潰し、片や足元に流れる血ですら白衣の外装を汚す事もない。対照的で、けれど似通った部分が何処かにあるそれらが作り出すのはただ、冷たくなるだけの屍。
「……」
相変わらず人外じみた膂力と体力だと何度見ても感嘆する。
人離れした動きで最前線に飛び込む上司に最初こそ苦労したものの、慣れてしまえばその苛烈なまでの突撃力を活かさない手はない。
前衛が目立てば目立つほど、後方手に押し寄せる火力が減ることになり、より支援にリソースを吐ける。そうして支援を得た前衛が戦線を掻きまわす余地が生まれる。そういった意味で、最も目立つ旗頭が最前線で暴れまわる今の部隊は今までの中でトップクラスに”やりやすい”……が
「……了」
思考を断ち切り、返す言葉は短く。
一々喋るより威を興す方が余程早い。
そんな思考の元、舞う羽が宿す光がその輝きを増し
「……」
その指先が、剣先が戦場を指し示す。
千の花を咲かせる場所を定め、群の喉元へ、中枢へと鋼の嵐を届けるように。
本来ならば敵中に飛び込ませるなど愚の骨頂。包囲されて押しつぶされるのがオチと言ってもいい。
けれど、”貴方がそう願うなら、私は定石をも覆して見せる”。
それがスペルユーザーとしての自らの役割であり、そしてこれまで戦ってきた信頼でもある。
「惜しい」
ぽつりと漏れる言葉はその結果を予想しているがため。
こうして道を開けばあの人は嬉々として獲物に食らいつき、その役を十全と果たすだろう。
その予想を疑わないからこそ、そんな言葉が漏れる。
「(こうして戦うのもこれが最後かもしれない)」
まだ告げてはいないがこの戦闘を最後に、魔術師は部隊を離れるつもりでいた。
■メイラ・ダンタリオ >
タナール砦 午後 曇り
タナール砦奪還
タナール砦と城塞都市アスピダの距離はメイラからしてみれば些末なものだった
アスピダの途中でタナールへ赴くこともあるほど、メイラの脚は決断と力強さで満ちている。
そんなメイラがアスピダでの戦を、途中から離脱している現在。
タナールでも足運びが鈍くなっていた今、脅威が薄れていた分だけ空の支配権となった珍しい状況
其処に降ってわいたように両者が早い者勝ちのようにぶつかり合う中に交じったこと。
向こうに アレ がいる
そう思わせるだけのブランドが、メイラにはあった。
全身を赤が散っている
打ち込まれた部位もあれど、痛みがある程度だろう 無敵の存在には程遠いものの
怪力令嬢としての逸話は未だ色褪せることなく、砦の中を歩きながら屍を確認している。
人間と魔の領域の狭間に建てられている砦
それはお互いが全滅するまでいるどころか、途中から逃げ出す者
撤退を考慮した動きが多く、全滅意識は無い。
並が呑みこめば押し返された質量は間違いなくあり、仕留め切れなかった者ら
それが帰っていくのを見届けながら躯の死が確実なものかどうか それを槍や剣で突き立てる光景
それを見ながら躯が重なった場所に腰を下ろし、黒鉤大鉈を杖にするかのように抱いている。
「―――被害は思ったよりも無し 空の場合だったせいといえど
これでは向こうも取り返しに来るのが幾分か早く感じますわね。」
大きく与えたように見えていつもよりもしつこく無かったと感じているのか
優秀な後方支援も目立っていたこともあるだろう
時折メイラの友人なども含めて、魔術的支援で参加したがる者はそれなりにいた。
今回はその結果が実にでている。
メイラの赤い瞳は、次が速いと感じる分だけ留まる意思を魅せる。
次の交換人員と補給が訪れるまでの間は少なくとも、メイラはそう判断している中。
「ノイアはどこですの? アレがいれば突っ込んでくる者らも幾分か捌けそうですわ。」
アスピダ攻略戦線で活動するはずで勧誘したノイア
それがタナールで轡を並べてくれている分もあってか、メイラの機嫌は良い。
間違いなくメイラ・ダンタリオの手勢の一人であり、引き抜き理由が強引だったせいで
メイラ自身にその団から含める印象がやや悪いとされている。
白い衣のノイアはどこか、と以前抱いた時のように正反対な色味をしていた者を探すように
赤い瞳はきょろりと動くだろう。
■ノイア > 東方の言葉で背水の陣と言ったか。死兵は死に物狂いで歯向かってくる。
それは人も、魔も変わらない。退路を断つとはつまり、敵味方双方に被害を強いる事でもある。
けれどそうして双方を消耗させ、流された血の量だけ束の間の平和が長くなる。
それは臣民を守ると言えるだろうか。国を守ると言えるだろうか。
答えは判らない。そして、判らなくとも刃は敵を刻み続ける。
戦場に雨が降る。
流れた血を洗い流すように、喪われた命を嘆くようにさめざめと。
灰色の空の下、急ごしらえの天幕に隠れながら魔術師は空を見上げる。
奪還された砦は束の間の平和を享受し、敗れ倒れ伏す魔物を従者や騎士が屠っていく。
その幾分か後ろでぼうと見上げた瞳に光は映らず。
戦友たちと労いの言葉を交わす事もない。
そういった意味では常にどこか浮いた存在である魔術師はそのような末事はどこ吹く風と次の役目を探し続ける。
「……半刻、は、止まず」
戦場の光景は最早眼中になく、風向きと空模様で次の戦いの時期を目算する。
尾は喰らった。あれだけの傷を負えば群としてもバランスを保つのは難しいだろう。
それでも、きっとこの砦を保ち続けることは難しい。
そうやすやすと手放すつもりはないが……同じような意図の下、幾万の兵士が引くことを余儀なくされた場所でもある。
「……此処」
どれだけ保てるか。そんな思考に耽っていた魔術師がふと言葉を返す。
普段会話すらも覚束ないほど口数が少ないが、一部には例外。
その一部である怪力令嬢が自らの姿を探す声を聴きとめて、はたから見ればやる気のない、小さな声をあげてその問いに答えて。
■メイラ・ダンタリオ >
タナール砦に雨が降り始めた。
躯が骸であるかどうかを調べ尽くしながらも
砦の内部 建築物に雨を凌ぐために入る者はいるものの
この戦場に参加している下っ端とも呼ぶべき雑用も多く熟す者らは雨が降る中も働く。
貢献や下積み 多く活動していく中で必要なことだろう。
メイラもまた、骸の上に腰を落としていた体を早々にあげ、両翼のような縦に一本スリットが入った
強靭な革のマントの先 フードスペースを被り、雨をしのぎながら休憩場所として拵えられた
全員が中で休むことはできない為か天幕スペースの一つに座しているのをまた
先ほどと同じような会話方法で目の前に来ることになるだろうか。
「先は良く働いてくれましたわね。
アスピダのような変化のない場所に比べ、随分と成果も出たでしょう。」
これほど目立った後方支援 あの山間部の要塞付近では発揮できなかっただろう。
数も疎らな、反抗的な山羊を一匹ずつ確実に仕留めるような掃くようなやり方よりも
やりやすかったともいえる。
バサリとフードを取り、黒鉤大鉈 戦斧 両者が腰から外して立てかけられる中
鎧姿のまま機嫌よさげ 未だ戦場の熱は癒えぬのは、鎧を脱がないせいか
口数の少ないノイアの頭部にポンと手を置く。
ギザ歯の三日月は機嫌よく、次の場では後方支援は露払いとして期待するとも。
「貴女との関係など知られて当然なところもありますし、後で砦内で身を休めなさいな。
有用な者が天幕で過ごしては事ですわよ。」
一時ならいざ知らず、使える者が外側にいること
これをメイラは嫌った様子 狙われること 消耗する事
ならば中で居座ってる活動的ではない 混ざり合った舞台だからこそいる肥え豚の一人や二人
蹴り出してしまってもいいと考えているようだ。
肉体関係やメイラの手勢と言うところも含め、融通が利くのだろう。
■ノイア > 将ではなく兵が集まる休憩場所の端で、歩み寄る上司の姿をみとめると数度目を瞬かせる。
何度か日を重ねてこれが彼女流の挨拶の一つだと知るものは少ないが彼の人物はそのことを知っている。
故にそんな僅かな所作だけで、また空へと視線を戻して
「それが役目」
此処まで機嫌がよい彼女を見るのは珍しいかもしれないと思いつつ、言葉少なげに返答を。
薄い天幕で防げない雨が軍装に滴り、肌を濡らしてもぼうと空を眺めたままで。
頭上に置かれた手に僅かに視線を動かすと、口の端が笑みの形に僅かに吊り上がる。
仕事を褒められるのは決して悪い気分ではないし、この人の手は嫌いではない。
「心遣い感謝。
……私、役目、狙われる事。」
王侯貴族に連なるものであり、移動砲台として後方支援を成す魔術師でもあるそれは敵からすれば是が非でも潰しておきたい相手。
そして、仲間の皮を被り、口先では諂いながらも勢力を築きつつあるダンタリオの力をそぎたい者達も決して少なくはない。
怪力令嬢と怖れられるかの人物に直接手を出すというのは余りにリスキーであり、特に戦場の有用な駒を一つ潰すのは彼我にも影響を与えかねない為あからさまに態度に出す者はいないだろう。対して小柄で孤立して活動しているそれは”狙いやすく”見える。
もし白薔薇騎士団からアスピダ攻略軍に派遣され、ほぼ無理やりにメイラが指揮下に収めた貴族が不慮の事故にでも会えば、糾弾は免れないと声高に叫ぶものからすれば格好の餌食でもある。
「目につく必要、有る」
いうならば誘う為の餌でもある。
タナールという複数の思惑を持つ者が敵味方双方集う場所であるからこそ、僅かに背面の香りを醸すそれらにとってチャンスであり、同時に炙り出しの機会でもある。
最も、身近にその怖れる人物がいる場合、手を出すほど愚かでもないはずだが。
そこまで愚かならば尻尾を掴むことなど容易く、とうの昔に喰いかかっている。
……が、その役目に関しても限界がある。何よりも時間が無かった。
「……こうしていられる時間は永くはない。
可能な限り、私は私の役目を果たす必要がある」
幾ら引き抜きとはいえ、軍令上自分の配属はアスピダであり、アスピダ攻略軍に編成されている。
引き抜きが通ったのは、その威を揮う人物であると同時に、アスピダにあるのであればという条件も大きかった。
しかし、その前提条件に幾つか変わった点があった。
つまりこの場所に居るというのは広義の意味では軍令違反となる。
「……貴方の下に居られる時間、そう多くない。
今回の戦闘を境に……アスピダ攻略軍に再編成される旨の通達があった。」
■メイラ・ダンタリオ >
口数の少ない灰色の髪 白生地の猛者
手を置くと口端を持ち上げて笑む犬のような愛いらしさがある。
家系戦力役割などは知れたことながら、メイラの傍にいる力の一つであるノイア
メイラと共にいることで幾分か目立ち始めるだろう
メイラに対する視線と言うものは、多い。
王の為に暴れているだけなのに、視線は自然と集まっていく。
正義も悪もない 忠 で示すだけだというのに。
そのノイアが、メイラの傍から離れろと通達を受ける。
メイラが引き抜いたといえども、メイラの私物ではない
他 正確にはとある騎士団から抜いてきた。
アスピダに戻れと。
これにはメイラは顎を指先を包むガントレットの冷たい感触で包みながら
ふむ、と思案する様子を見せる。
「わたくしでもそうしますわね 戦力を遊ばせておく必要はない。」
そしてそれが正しいことをメイラはあっさりと認めた。
しかしうなずいているわけではない。
メイラが手を差し伸べ取り込んだ戦力が過剰になってきているのだ。
先日も私兵団を丸ごと吸っているせいか、ただの斬りこみ暴れるだけの一部隊とは呼べなくなっている。
「―――が、しかし今貴女を行かすと正しく使ってくれるかがわかりませんわね。」
アスピダに行かないには理由がある。
一人の王族がそうメイラにうなずかせるほどの案件があるせいで。
赤い瞳は見下ろし、ギザ歯は三日月からへの字へと変わっている。
見下ろす瞳は許す、許さないではなく警戒だ 獣の眼 眼前で鼻で嗅ぐそれと変わらない。
「ノイアが殺される可能性もありますもの わたくしの手を離れれば ね。」
罠なのではないかと、述べる。
地戦力を削ぐような真似をするほど阿呆化と言われれば阿呆だろう
腐れ貴族 肥え豚騎士 鎧からはみ出た贅肉でぶってくる連中だ。
メイラは王以外皆平等という名の下、必要とあらば拳を出すことも多い。
そしてそれは未だ許されているせいで 恨みも辛みも濃いのだ。
はみ出た贅肉の数だけプライドも残っていよう。
「―――■■される話が持ち上がってますわ。」
小声で述べるそれは秘匿内容ながら、アスピダに行かなかった理由である。
規模は個人ではなく複数 王城で活動している規模が濃くなった原因をボソリと話。
「正しくは■■■■の高出力が出るとのことらしいですけど。
貴女をバカでかくしたみたいなものが揃えば面倒ですわね。」
だからアスピダに行かずに王城で今色々と膿を出していると言った。
「んー。」
さて止める理由が薄い。
必要な事柄の可能性もあれど コレはもはやメイラの所にいた女の一人なのだ。
優秀な者を遊ばせておく必要はないものの メイラはチラリとみていった。
「ノイア わたくしの女になりなさいな 貴女優秀ですもの
わたくしのような“魔”ではない“魔”に満ちているのだし
子もきっと強い子ができますわよ?」
婚いで孕めと誘いかける。
メイラ側に縛り付ける為の要因にさせるためだろう。
必要になったから力の一部を寄越せ、を ふざけんなパンチ をみぞおちに喰らわせることもできる。
メイラとはそういうことができる女だ。 持ち腐れにさせているつもりもない。
「そうしたらわたくしの傍にいられる。」
最後の選択はノイア次第だろう魔族ならいざ知らず無理に孕ませるつもりもないらしい。
■ノイア > 「……当初アスピダへの偵察として配属になり、その後指揮系統を貴方に統合した。
指揮権は貴方にある事は確かであり、貴方の信条と立場は理解しうる部分がある。」
結局のところ、戦場で最後の一線を分けるのは殺意。何が何でも、相手を殺すという殺意だ。
それはただ己が役目を果たすという決意であり、
それはただ己の全ては主が為という決意でもある。
妄執とまで呼ばれるそれを持ち、意図して揮うものはそう多くはない。
大抵狂人として使い捨てられる中で、大成した稀有な存在こそがこの令嬢でもある。
「此処は居心地が良い
貴方は私を武器として振るえる
必要ならば使い捨てる判断が出来る」
理由こそ違えども、己を武器と定めたものとして、他の誰よりも有用であれると自負している。力が有れど、その決定を我が身に課せる者は極めて少ない。そしてそう認識し、正しく使える者も。
「……勿論十中八九罠。
此処で戻す理由が他に考えられない。
少なくとも、戦力を削ぐ事は目的に含まれている」
あの場所に戻ればまた、予定された”不意の遭遇”をこなし、攻略軍に属する貴族の為に名ばかりの名誉の勝利を稼ぎ、国民に喧伝する為の材料を集めるお人形になる。英雄はその都度入れ替わり、複数の英雄が支える戦線を有する王国はさぞ勇ましく見える事だろう。
その末に衝突の理由として死んで来いと言われることも考えられる。
王侯貴族を殺された復讐として砦に攻勢を仕掛けたといえば、大きな被害が出たとしても誤魔化す口実になる。
……そんな実態のない、プロパガンダの装置としてただ其処に居るというのは酷く無意味に思える。
しかし、軍が求めた役は敵を断ち切る魔法剣ではなく、祭典を飾る儀仗剣だった。
ましてや、僅かなりとも切れ味のある武器が力を持ちうる人物の元に置かれるとしたら…?
便利に使える駒は誰もが手放したがらない。他人の手の上など尚更だ。
その可能性を疑えるというだけで、宮中で醜い勢力争いを続ける者達に口実を与えるのは十分で。
「……そう。納得するに十分な理由。
仮に失敗したとして、後始末の準備としては耳障りが良い。」
耳にした内容は真新しい情報ではあるものの、ある意味予想通りでもあった。
そういった意味では軍属であり、そして曲がりなりにも王侯貴族の一端でもあるこれはあまりにも都合がよい存在と言っていい。
首についた鎖が多ければ多いほど、広がる波は遠くへと伝わり、そしてその波は余計な漣と障害をも呼び寄せる。
「そしてその手段は難しい。私は子を成せない。
正確に言えば、成した時点で”上書きされる”
何より、私は既に彼等の為の、只の道具。」
祖父の負の遺産、自身の生まれた経緯、妹の所業、それらは全て、父親との契約との元表出を免れている。……形式上は免れているはずだ。そしてその条件こそが、騎士団に所属し管理下にある事であり、そして軍の武器としての役割を全うする事。それを反故にする事は出来ない。
「……ありがとう。私を救おうとしてくれて。
けれど、理解しているはず。
私を使い捨てる思考ができる、将としての貴方なら」
どこか寂しげな笑みを浮かべながらもその口調は抑揚に乏しいまま。
嗚呼、残念だ。本当に残念でたまらない。
この人は良き将で、そしてもっと良き将になるだろう。
「……無関係ではいられない。貴方も、私も。」
だからこそ、余計に今、傍にはいられない。
戦争は始まる前に8割終わっている。
そして勝利するためには反攻をも許さず確実にその息の根を止める必要がある。
万が一つも、その前にそれを悟らせてはいけない。
……つまるところ、例え何かを失う可能性があると気が付いていても、それに気が付かないふりをする必要がある瞬間がある。
最期まで、確りと握りつぶすために
「捨て駒は必要」
■メイラ・ダンタリオ > メイラはノイアに孕めと、女になれと直線的に話す。
ここで互いに失うのは惜しいと思っている繋がりではあり、ただの孕ませ馬鹿ではない。
メイラはダンタリオとしての務めも無論果たせる上でだ。
望んでただの女を孕ませるほど猿でもなかった。
―――しかし、ノイアが孕まないこと そして武器同然に使われること
これを気に入っていることもまた知っている。
ただの確認でしかない 女として執着されるよりも暴れまわり、傍らで放つ魔道が心地よかった。
それをメイラは知っている。
メイラ自身は王の私物であり騎士であり力であり嵐である。
誰にも邪魔はさせず誰にも咎められない。
王が決まれば殺されても文句は言えないだろうメイラの存在感。
だが抱こうともノイアはメイラの私物ではなく王の私物には足り得ない。
だから止めることはしない。 折れるまで使ってくれ と語り掛けてくる死が近い戦場のようだ。
メイラはあっさりと力を抜いた肩を魅せるだろう。
両腕を胸で組むようにしながらも、背すじから伸びる尾刃
平たい百足状の刃が持ち上がっているのは、メイラの体の中の魔に反応してうねっているのか。
「使い捨てできる理由があるとは言えど、気に入らないことですわね。
況してや何回も抱いているのですから、愛着くらいありますわよ?」
チッと令嬢らしからぬ平然とした舌打ち。
同じ戦場 同じ空間にいることも当たり前に存在するだろう。
一度や二度ではないのだ。
「精々 たくさん殺しなさいな わたくしの“物”で嬉しかったのでしょう?」
なら、きっとやる気も一入ですわ、と述べるメイラ
自身の左腰 今は空いている其処をポンポンと叩く所作は、ただの武器として扱われることを好む
腕の中よりも腰に帰りたがる武器の気持ちを出した表現だろう。
「ならきっと、たくさん殺せますわ。」
役に立ちなさいな 王の為に。
先王の為に それだけで動くメイラは、ノイアにも似た理由を与えた。
ギィッと三日月の笑みを浮かべて、赤い瞳も白い乱杭歯も健在だ。
「後でまた迎えに行きますわね。」
捨て駒と認め送り出す言葉を言いながらも、愛用の業物を放りだすほどの事ではないとしているらしい
迎えに行き探すのは本当だろう 好戦的な笑みを浮かべながらも やはり武器扱いしてしまえば
手元に帰るものとしているようだ。
「そ う な る と、次の王城帰還あたりか…、…。」
赤い瞳は細まり、また丸く瞼を持ち上げて見下ろし。
「奪還されるつもりもないのだし、交代で行くことになりますわね。
その間は同衾が増えそうです事。」
クスクスと笑めば、今夜はノイアと一緒にいることは決定しているのだろう。
滲む天幕の雫が額に掛かるのを んっ と見上げ。
「部屋に行くのは決定でよろしくて?」
腰に武具を指し直す。
この広く被っただけのような天幕の中で始めるつもりもないらしい。
■ノイア > 「とはいえ私も別に死にたがりではない。
可能であればそうなる前に、片を付けて欲しい」
先程までの冷たい空気を霧散させるように小さく肩を竦める。
その線が濃厚というだけで、そうと決まったわけではない。
少なくとも油断していてくれる方が何倍も楽に事は進む。
上手くいけばそうなる前に状況が収拾し、好転するかもしれない。
アスピダ戦線に一応の決着がつけば、又は大きく事態が変われば未来は変わりうる。
「……彼等にとって残念なことに、私はそう簡単には死ねない。
望もうと、望まざろうと」
時間は味方ではないかもしれない。
けれど、完全に敵でもない。時間が味方となった瞬間、私はそれを最大限稼げる。
ならば互いの戦場で、やるべき事は決まっている。
光の宿らない瞳が僅かに焦点を結ぶ。
「是。私は剣。
穿つための武器。
……斬らず折れる予定はない」
お望み通り精々有用であると踊ってみせる。
屍の山を築き、鋭利な武器であると見せつければよい。
捨てるのが惜しくなってしまうほどに。
「……」
雫が滴り、濡れた装いと解れ髪を張り付かせたままゆっくりと立ち上がり、顔を伏せたまま歩き出す。
そのままトン、とぶつかったのは小さく笑う令嬢の肩。
「……今日は、……此処、で眠りたい、……気分」
俯いたまま普段以上に、歯切れが悪くとぎれとぎれの言葉を吐いた後、そっと指先を腕に添えて……
相変わらず慣れていないのか指先が震え、きゅっと布地を握っている。
普段役割以外で褥を共にしないと無機質に告げるそれが、珍しく自分からYesと応えた。
髪の間から覗いた耳が赤く染まっているそれがどんな表情をしているかは、何度か肌を重ねた女傑だけが知っているであろうもので……
ご案内:「タナール砦」からメイラ・ダンタリオさんが去りました。
ご案内:「タナール砦」からノイアさんが去りました。