2023/06/26 のログ
ご案内:「タナール砦」にラストさんが現れました。
ラスト > (砦は、静寂が包んで居た
人間と魔族の戦いが繰り広げられ、常に何れかの軍勢が砦を占拠し
互いの領土への侵攻の足掛かりとするのが、この場所

だが、今は違う。 人間も、魔族も、魔物も、須らく一律に、平等に
地に叩き伏せられ、動く者は居ない――今の、所は

屍の海と化した荒野に、ただ一人、佇む者が居る
襤褸の外套を纏い、腰に黒の双剣を携えた男は、積み上げた屍の上に腰を下ろし
平穏を取り戻した戦場を、ただ、静かに眺めていた。)

「―――――……これで終わりか。 ……早過ぎたな。」

(――退屈な時間が増えて仕舞った、と、僅か溜息を零す
其れでも、まだこの場から立ち去らずに居るのは
人間の側に、僅かなり増援の可能性が在り得るからだ
魔族の側で、此処に訪れる者が居るとすれば、其れは余程の物好きで在ろう
だが、人間は己を良くは知らぬ。 ただ、強力な魔族が現れた、と言うだけの報告をするだろう
ならば、討伐の為に、今よりも強力が兵が派遣される可能性も在り得る

――まぁ、結果としては別に、誰だって構わない
魔族で在ろうが人間で在ろうが、己に抗い、仇なす存在ならば、歓迎すれば良い
戦わずして強者に屈し、己が配下を裏切った――今は地に伏す、屍達の様に)。

ラスト > (これは、戦争では無い――粛清である
弱者が強者に抗い、屈する事を悪しとする訳では無い
弱肉強食を風土とする魔族の気性からすれば、其れは当然の事だ
だが、既に誰かに仕える者が、抗わずして首を垂れる事は許さぬ
戦場に措いて其れは、赦し難き裏切りに他ならない

――故に、今戦場に転がる魔物や魔族は須らく
"己が配下であった者達"だ。 ――今は、もう違う。)

「――――……狙撃も無いか。」

(遠距離から、暗殺を仕掛けてくる輩も、今の所は気配が無い
人間の側が、戦場の異変に気付いて伝令を送り、反攻して来るまでに後どれだけ掛かるだろう
其れが無くば、戦場は暫くの間、何方にも属しない無占拠状態となる
其れを、奪還の好機と捉えるか、或いは罠と捉えるか
人間側の指揮官の、冷静な判断力が問われる所。)

「―――――………鷹は居るか。」

(告げる、其の声に呼応して暫くすると、上空より小さな鷹が降りて来る
使い魔――では、無い。 其の姿に変じて居る、配下の魔物。
其れが、持ち上げた指の上へと降りて来るのを迎えれば、其の顔を見つめ。)

「城壁の見張りと配置を、無警戒に切り替えさせろ
人員を半分に減らして、3日の間は休息を増やせ。」

(――タナール側の喧騒が、少なくともこれで暫し落ち着く
自らの領地である城塞都市は、常に砦の動向を警戒しなければならないが
これで暫しの間は、守護の兵達も羽を休める事も出来よう

鷹は、言伝を聞き次第再び、空へと羽搏き舞い上がる
其の上昇を暫し見送れば、再び、目前に聳える砦を見据えた)。

ラスト > (――退屈を持て余したのか、或いは
まだ到着しないであろう援軍を待ちかねたのか
据わり込んで居た屍の上から立ち上がり、下に降りる
其れ迄は見据えるだけであった砦に向かい
暇であるならこの際だと、其の中に足を踏み入れて行った

破壊された城門の穴から踏み入れば、中は雑然として居る
元より、総力戦で在った兵達は既にすべて撤退か、戦場に躍り出して居たのだろう
がらんとした空間に、戦術を模索して居たのだろう、羊皮紙が散らばり
会談まで辿り着けば、階上と階下に繋がる其れを暫し眺め――今は、階下へ
途中、魔術による隠匿の魔法陣が描かれて居たのを確かめれば
壁に描かれて居た其れを、素手で、抉る
粘土でも捏ねる様な素振りで破砕した魔術の先、地下牢となる場へと辿り着けば

――成程、態々隠匿せねばならなかった理由が、理解出来た。)

「―――魔族だけでは無い訳か。」

(――牢に繋がれ、閉じ込められて居たのは
通常ならば、人間にとって敵である魔族が主となろう
だが、其れだけでは無い。 繋がれて居る中に明らか、人間も混じって居る
それらが、何の理由で此処に囚われて居るのかまでは知る由も無いが

暫し、様子を窺う様に、囚われている者達を眺め乍ら、通路を進んだ)。

ラスト > (犯罪を犯したのやも知れぬ、或いは、何らかの理由で抗ったのかも知れぬ
純粋に何がしかの奴隷と言う可能性も在れば、間者と言う可能性も在り得る
決して少なくはない数が牢に繋がれ、檻に閉じ込められて居る事を
もし、通常の戦い、其の終わりに直ぐ判明して居たとしたら
同胞の救助、或いは再捕虜としての拘束、様々な理由で情報が得られた事だろう

其の為の隠匿魔術か、もし、此れに気付かなければ或いは
其の儘全員が餓死していた可能性も在り得るだろう。)

「――――――……。」

(捕虜の一人と目が合った。
衰弱はして居るが、まだ体力は残って居るのだろう、まだ目に力を感じる
まだ――生きる事を、助かる事を諦めては居ない瞳だ。)

「―――……俺はラスト。 魔族の一領主だ。」

(拳を握る。 刹那、牢の彼方此方で、鎖が、手錠が、破砕される。)

「故郷へ帰るも、何処かへ逃げるも好きにしろ。
――或いは、行き場がないと言うなら、俺の元へ来るのも構わん。」

(再び、拳が握られる。 同時、牢の格子が拉げ、脱出が可能と為る。)

「条件は唯一つ――俺に従い、俺を裏切らぬ事。
服従を誓い、貢献出来る者ならば、迎え入れて遣る。」

(――例え其れが、人であっても。
其れだけの覚悟を持つのであれば、そうすれば良い。
とは言え、逃走や帰還が許されて居るならば、態々敵国の軍門に下る輩はそう居まい
実質、迷うのは同胞たる魔族だろう、其れも、強いる事は無い
暫く、答えを待つように周囲を見渡した後、踵を返し、牢獄を後にする

階段をのぼり、再び破損した正門の前に戻れば
――其の頃になって漸く、己が後ろを、幾人が付いて来るのを認めて。)

「――――……来い。」

(命じる、己が後ろに控え、進めと。
砦から踏み出し、燦々たる有様となった荒野を歩む。

領地までは、さほど遠くはない。 とは言え、途中で思い直す事も出来よう
自らの領土迄帰還する其の間に、果たして、どれだけが残って居るか
例え一人も残らぬとしても、其れは其れで構わぬ
だが、もし残って居る者が居たなら、其の時は

いち市民として、新たに迎え入れて遣ろう――)。

ご案内:「タナール砦」からラストさんが去りました。