2023/06/23 のログ
ご案内:「タナール砦」にユンジェンさんが現れました。
ユンジェン > 先日の戦闘で、タナール砦は──この戦いが始まって幾度目か──人間の手に渡っていた。
魔族の兵士の骸が城壁から投げ捨てられ、或いは城門から運び出され、
煙が届かぬ程度の距離まで動かされては焼かれる──そういう光景が展開されている。
つまり、全くいつも通りの、タナール砦の日常である。
……その城門へ、ふらりと歩いて来る人影があった。

「この砦は……攻めるに易く守るに難い、ですか……。
 落城させたところで有利とはならず、さりとて敵方にあればそこから軍が這い進む……。
 うーん……なんて迷惑な厄物」

城壁をじろじろと睨み、城壁からこちらを見据える兵士を眺める、小柄な少女。
手に持つ物騒な得物と裏腹の無害そうな顔が為か──外見だけならば人も魔も差異が薄い為か。
案外にあっさりと城門に辿り着くと、分厚い扉に背を預け、ぺたりと地面に座り込む。

「けど、餌場にするには良いでしょう。……人間も魔族も、腕自慢ばかり集まるというならば。
 危機を演出して援軍を誘い込む……その為の罠として、ここを──む?」

物騒な得物は右手に握り締めたまま、左手をふと、口に当てて。

「……もしかしてそもそも、そういう設計思想……?」

小首を傾げてひとりごと。

ユンジェン > 「……いっそのこと、この砦は捨てて後方にもう一つ築城は──
 無意味、取り合う場所と被害が増えるだけですね……ううむ。
 翼のある者を集めて山脈からダイラス経由の方が、まだ幾分か現実味が……?
 ふむ。……ダイラス。ここさえ獲れれば。問題は進行経路、さてどの道を──」

地面に指で地図を描いて、ああでもない、こうでもないと考えごと。
その様はあたかも、ひとりで軍議を開いているようではあるが──その外見は、まだうら若い少女でしかない。
物騒な得物を持った少女が、城門の前に居る。となれば兵士達も、そう長く放置はしておけない。

「──おっと」

背を預けていた扉が、動こうとする気配がした。
反射的に片手を伸ばし、向こう側の力と拮抗させる。
閂でも差し込んだかのように大扉は動かなくなる。

ユンジェン > 「山脈からダイラス、海路を確保したとして……問題は──ここ。商業都市ラディスファーン」

片手で大扉を押さえたまま、片手で地面に描いた地図をなぞる。
ダイラスから山賊街道を上り、〝まれびとの道〟と交差した地点。指が止まる。

「……規模では王都に劣りはすれども、橋を落とすだけで運河が堀に変わる。
 しばらく釘付けにされるだけで、タナール砦とゾス村の双方から援軍が来る。
 タナールとの同時攻撃……? 現状、手が足りな──」

どん! どん! どん! 背後の大扉が強く叩かれる。
どうやら城内の兵士達が集まってきたらしい。だんだんと抑え込むのが難しくなる。

「──手が、足りませんか」

とん。後方に飛び退いた。
勢い良く開いた扉から、数人の兵士が転倒しながら溢れ出し──その後方にはまだ幾人か、武装した兵士の姿。

ユンジェン > 兵士達の武装を、体躯を一瞥する。……とりたてて挑むべき強者は無い、と見極める。
子種を注いで孕ませるべき雌も、子種を受けて孕むべき雄も、そのいずれも。
故に少女は戦いよりも、この場を立ち去ることを選び──たぁん、と大きく後方に飛びすさった。

「また来ます。……守将は、強く逞しい者を用意してくださいますように」

遠ざかる背には矢玉も追いつくまい。
そうして少女は、次の戦いを想いながら去っていく。

ご案内:「タナール砦」からユンジェンさんが去りました。