2023/06/11 のログ
ご案内:「タナール砦」にチヨさんが現れました。
■チヨ > その広間には他に何もいなかった。
壊れた武器や防具の欠片が散乱し、地面や壁にはいくつもの武器が突き刺さり、転がって、
戦場の真っただ中にも拘らず奇妙な静寂がその空間を支配している。。
立ち向かったものや不運な犠牲者の哀れな末路を彷彿とさせるそれらを一介にせず
ぽっかりと広い空間の真ん中に、それはただ丸くなって眠っていた。
「んぁー……」
一見少女のように見えるが確かな異形の特徴を有するそれはただ気まぐれでこの場所にいるだけだった。
分類上の味方がいくら死のうと意に介さず、誰彼問わず気まぐれで捕食するそれを扱いかねた指令者は
この場所を侵入者への罠として放置することにしていた。
つまり両者に”喰われてよい”戦力を差し向けながら相手をここに誘導する。
何方が倒れても時間が稼げて兵力はそれほど痛まない。
個々の強さの差が人と比べても大きい魔族という枠組みにおいて制御できないものを
狡猾に利用するという感覚はある意味魔族らしいかもしれない。
「くかー、くかー」
暢気に鼻提灯すら作るそれはそんな思惑にも興味が無いようで、ネコ科の様に惰眠をほしいままにしていが……
「んぉ?」
パチリとその目が開かれると胎児のように丸まっていた姿勢から起き上がり、くぁーと欠伸を一つ。
コリをほぐすような動きをした後、ゆっくりと二つある出口の片方へと細い眼で視線を向けて
「んひ」
ニタリと不気味な笑みを浮かべた。
■ヨハンナ > 向かった先にあったのはちょっとした広間だった。
タナール砦は元々王国が建造したもの。ここははたしてどのあたりの位置だったかと脳内で地図を参照しつつ、辺りを見渡す。
周囲には戦闘の痕跡。破壊された武器や防具。
王国の様式のものもあれば魔族や魔物が使うものもある。
「ん…?」
そして、その真ん中に眠る少女のような人影。
まず場所的に人間ではないだろうし、よく見ればその姿も人間離れしている。
周囲に散らばる戦闘の痕跡も、それがやったものだろうか。
それにしても、他の魔族もいないのが気にかかる。
「……」
そうこうしているうちにこちらに気付いたのか、少女は起き上がる。
そして、こちらに笑みを浮かべる。
ヨハンナは表情を変えぬまま、己の細剣と短剣を構える。
どの道魔物だ。敵でしかない。
「……子供を手にかけるのは騎士道に反している気がしますが」
どうせ見た目通りの存在ではないのだろう。遠慮は無用だ。
ヨハンナは踏み込み、斬りかかった。
■チヨ > 「ぁー、ぁー。ニンゲン?へんなの。へんなの」
ペタンと座り込んだ姿勢のまま暗闇にじっと視線を向けて。
基本的に知性はその時擬態している生物にかなり引っ張られる。
割合的にヒトが近い形をとっているけれど今擬態しているのは
どちらかというとキマイラやマンティコアに近い生物の為、
本能的に生きている原型生物なので思考レベルはかなり落ちているが
逆に生物的感覚はヒトに比べかなり鋭敏と言っていい。
遠く騒乱の音の中にこちらへ向かう足音を聞き取り、
そしてその主のある程度の力量を推測させる。
「ココはオモシロい、ねー。」
血色の髪を結い、明らかに他より隙の少ない様子で姿を見せたニンゲンをみやる。
基本人は脆く、弱い。
大半の魔物より脆く、脆弱で、ちょっと撫でるだけで静かになってしまう。
けれど、時々突出して進化している個体が出てくるのも魔族と似ている。
先日もニンジャ?のオニーサンに実質黒星をつけられたと言ってもいい。
そう、ドウグとチエを使って即座に環境や状況に適応進化するといっても良いソレは
ヘタな下等種族よりよっぽど魔族に近い。
黒い鎧の所々を返り血に赤く染め、けれどほぼ無傷に近い相手は
ニンゲンがこちらを見た時にしばしば浮かべる戸惑いの感情を一切浮かべることなく
即座に武器を揮う構えを見せた。間違いなく、戦い慣れている。
つまり……
「あはー」
情報がたっぷりある、好物。
一足に切りつけられる刃を大袈裟なまでにひらりと後ろに飛びのいて躱し、
壁に四つ足で音もなく垂直に着地する。
一瞬の静寂の間に舌なめずりするような視線で見つめたあと
「オイシソ」
撓められた体が弾かれたように跳ね、その剣士の僅か手前に轟音と共に着弾する。
土煙を上げながら無数に地面に刺さり、転がった武器や土砂を礫代わりに叩きつけて。
■ヨハンナ > 幼児というより、まるで獣が言葉を持っただけのような。
そんな、あまり知性を感じない目の前の相手。
それは、高い知性を誇る魔族とは程遠い有様だが、全く油断できる気はしない。
しかし挨拶代わりのレイピアの一撃をかわされたとて、想定のうち。
ヨハンナはその魔物がどう出るかを見る。
「そうですか…貴女はマズそうですが」
真顔でそんな冗談を返しながら、魔物の動きに合わせ後ろに飛びのく。
そして、飛来してくる礫めいた土砂には、左手の短剣を突き出す。
すると、小さな結界が盾のように出現し、ヨハンナに向かう礫を弾き飛ばす。
「……」
着地し、姿勢を正すと、ヨハンナは右手のレイピアを眼前に構える。
そして小さな声でノーシス主教の聖句を唱える。
神々の一柱、己の信仰する戦女神への祈りだ。
「女神よ、災禍と対峙する我に力を」
オリハルコンの剣身が淡い光に包まれる。
その神聖魔法の光は魔物を滅ぼす力。まともに食らえばどんな魔物もただでは済まない。
ヨハンナは再度レイピアを前の少女に向け、構え、こちらも弾かれたように一気に距離を詰めて。
「…っ!!」
チヨに向け鋭い突きを、何度も、何度も繰り出し続ける。
■チヨ > 「キヒ」
本来マンティコアやキマイラはかなりの巨躯を誇り、
小鬼や豚戦士をものともしない頑強さを持つ。
それを活かしつつ毒や炎、物理的な質量など多才な攻撃方法で
圧倒的有利を押し付け続けるのが彼等の常套手段。
けれどこの躰は正確に彼等ではない。
手足や尻尾などの末端こそ剣や槍と打ち合える頑強さを模しているが
他は人と比べて少々頑丈かといったところ。
何なら鎧を着ている分場所によっては相手の方が硬いかもしれない。
少なくとも防壁の生成を出来る時点で半端な小細工では傷をつけられない。
「オモシローイ」
後ろに飛びのいた相手に追撃は放たず、軋んだような声が零れた。
光を纏う細剣に動物の本能が告げる。あれは危ない。危険だ。
「痛そ?痛そ」
……その辺りを判断できるのが化生の性質の悪さに拍車をかけている。
そしてそんな危険性に喜んでいる事がその声色からは滲み出ていて。
にんまりと半月上に歪んだ口元から牙が覗く。
「女神、なんか」
怒涛の勢いで繰り出される突きを地面を這うように
左右にステップし、時に爪先で弾きながら下がっていく。
光る剣が遅れた髪と、間に挟まる砂利を切り裂き時に肌をかすめ、朱い飛沫を空中に散らせる。
地面に剣の切っ先と鉤爪による火花と幾条の傷跡を残しながらの攻防は
秒数にしては一瞬で、そして一方的だったが
「イナイヨ?」
下がれば下がる程、軸足から遠ざかり、そして追う為に足を組み替える瞬間がある。
その刹那、相手の足元より低い位置からその剛腕が地面ごと掬い上げるように斜めに振り抜かれた。
■ヨハンナ > 見た目はマンティコアに人を合わせたようなものだが、肌はそこまで硬くは無いようで。
上がる血しぶきにヨハンナは一瞬視線を向ける。
血が出るのであればいずれは殺せることだろう。レイピアの刃が通るのであれば己の手で殺せる。
(しかしまぁ…)
相手は余裕の表情を崩さない。もしくは恐怖心が元から無いのか。
これは多少、苦労する相手かもしれない。
そう思った刹那だった。
「っ!?」
こちらが足を組み替えた瞬間を狙った、足元を掬うような攻撃。
それは狙い通りヨハンナの足に当たり、バランスを崩した彼女は地面に倒れる。
だが、相手の魔物がそこに襲い掛かる前に、ヨハンナは己の腰からあるものを素早く取り出した。
手榴弾。鉄球の内部に火薬と導火線を詰め込んだだけのもの。
「ちっ…!」
ヨハンナはそれをチヨに押し付けるように突き出すと、炎魔法で一気に点火、次いで手を前で組み体の周囲に結界を張る。
その瞬間、轟音とともに手榴弾は爆発し、爆風に吹き飛ばされたヨハンナは地面を転がり壁際に叩き付けられた。
「……はぁ、もうこの手を使うことになるとは」
しかし、結界に守られたヨハンナは大した傷も無く立ち上がり、こきこきと骨を鳴らす。
鎧は少々ボロボロになっていたが、細剣と短剣は手に持っている。
防御に長けた彼女の、捨て身のようで計算尽くの一撃だ。
そして、無理やり距離をとった魔物のほうへ、騎士団長は視線を向ける。
■チヨ > 「あは」
女騎士が爆発の余波を利用して飛び退り、再度姿勢を整えるのを待っていたかのように
爆心地ででもうもうと立ち上る白煙の中からゆらりとそれは姿を見せた。
全身に爆発の余波によるものか薄い煙を漂わせているが、
取り立ててダメージ等の爆発の影響はみられず
どちらかと言えば細剣のラッシュによる細かなダメージの方が
多くみられるほどだった。
何故なら……
「”それはシッテル”」
それに類するものを丁度少し前に使われたからだ。
あの時は煙がメインだったが原理は理解している。
そうしてとった行動は……
「こうすればイイって」
クシャリ、と手の中に残った破片を握りつぶして投げ捨てる。
半分掴む形で爆発させればその勢いが偏る事は”しっている”から
それは一切躊躇せず投擲物を掴んで強固な片手を盾にしていた。
ほぼ至近で爆発した腕は煙をあげつつも特に支障はみられない。
お腹など軟らかい部分を守りさえすれば建物を倒壊させるような物ならともかく、
「ねぇ、他にナイの?ねぇねぇ」
自らには何ら問題にならないとキマイラなどが強く持つ
嗜虐性の本能の欠片を見せながらせせら笑うような笑みを浮かべて。
■ヨハンナ > 「それは…博識なことで」
自分より前に爆発物の類をアレに使った、どこかの誰かを内心恨む。
とはいえアレで仕留めきろうなんて考えてはいなかったが。
それでも、予想よりダメージが少なそうなのは嫌になる。
「……」
魔物の少女の煽りは無視して、ヨハンナは周囲の地面に目をやる。
そして、己のレイピアと短剣を鞘に戻したかと思いきや、地面に落ちていた王国軍のハルバードを手に取る。
そして、聖句をいくつか唱えると、彼女の体の輪郭が、先ほどまでのレイピアのように淡く聖なる光を放つ。
「知っていても、対処できなければ同じ事でしょう?」
そして、レイピアよりリーチの長いハルバードを魔物の少女に向け振りかぶり、一撃を加えようとする。
例えその一撃をかわし、逆にヨハンナの隙に攻撃を加えようとしても、彼女の体は神聖魔法の結界で隙間なく包まれている。
武器を持たぬ魔物にとってそれは、炎に素手を突っ込むことと同じ事だろう。
触れれば、逆にダメージが魔物の少女に返ってくるはずだ。
■チヨ > 至近での爆発音には聴覚をかなり殴られていて若干麻痺しているが
それでも人に比べれば可聴範囲は遥かに広い。
その証拠に相手のほとんど乱れていない呼吸の音もちゃんと聞こえている。
振り下ろされる斧槍の風切り音と踏みしめる砂利の音の合間に
怯えても、絶望もしていない、整った呼吸と鼓動の音が確りと。
体力的にも手段的にもまだまだ余裕がある証拠。
つまり、まだまだ楽しめる。
「ねぇねぇ、ねぇねぇねぇねぇ」
突き、払い、引き裂こうと振るわれる斧槍の嵐の合間をするすると縫いながら零した
声色に好奇心と殺意、そして嗜虐心が零れ出る。
キマイラも、マンティコアも傷ついた獲物の震える吐息を聞いて楽しみながらなぶり殺しにするような種族。
即仕留めないなんて動物的合理性に照らし合わせれば悪手だと判っていても疼く、疼く。
未知を、そしてこれの恐怖が見たい、見たい。
豚戦士のような動物の単純な感情は食べ飽きた。
貴方はどんな風に呼吸を震わせて、どんな表情でどんな思考をするの?
ヒトというイキモノの多様性にどうしようもなく心が惹かれている。
みんな違う顔をする。みんな違う思いを持っている。
その知性の高さゆえに、多様な過去と恐怖を持つ。
嗚呼なんて美味しいイキモノだろうか。
「キヒ、キヒヒ」
もっと追い詰めなくちゃ。
もっと追い込まれなくちゃ。
そうすればこれはもっと色々な情報を見せてくれるはず。
その過程で死んだら?こうやって死ぬっていうトビキリの情報になるだけ。
「女神なんテ」
チリ、とその腕が淡光を纏う。
どこかで見たような淡い、人に優しい光を。
勘違いされるし、勘違いさせがちだがそれは厳密な意味で従来の魔物ではなくって……
振るわれる細剣に微かに触れる度にその情報を取り込んで
「イナイってバ?」
その腕が叩きつけられる斧槍を正面から受けがっちりと掴む。
魔族なら容易に焼き尽くす筈の炎をその身に宿しながら
情報の怪物はその怪力で逆に斧槍ごと壁方向へと叩きつけんと腕を真横に振るった。
■ヨハンナ > ハルバードの一撃を器用にかわしながら、少女は変わらぬ様子で笑みを見せる。
それは、魔族がよく見せる嗜虐的なもの。ヨハンナが呆れるほど見てきたもの。
(今のうちに笑っていればいい)
ヨハンナは自分に向けられたその全てを恐怖と命乞いの表情に変えてきた。
ある意味、彼女も似た者同士なのかもしれない。
しかし、目の前の少女がヨハンナの恐怖を見たいと思っていても叶わないだろう。
恐怖などとうの昔に忘れ去ったのだから。
「……なるほど」
目の前の魔物が、己が身に纏ったものと同じような光を発し始める。
そして、ハルバードの一撃をその手で受け止める。
なるほど、なるほど…模倣か。
「なら…!」
彼女が腕を横に振った瞬間、ハルバードを自分から手放したヨハンナは、
その隙に少女の懐に入り込むと、固く握った拳を、その顔へと放った。
ボックス。徒手格闘。貴族の嗜みだ。
己の能力を模倣したのなら、それは人間や、その武器を拒むことはない。
それは神々が敬虔な人間に与えた加護の力であるのだから。
例え防がれようと、避けられようと、ヨハンナは愚直に拳を、蹴りを繰り出すだろう。
「もう…何も真似させませんよ?」
小細工は無しだ。己のこれまでの鍛錬と、信仰心。それだけを武器にする。
素手でもキマイラを仕留められるのが騎士団長というものだ。
無心の打撃が少女を襲う。
ご案内:「タナール砦」からチヨさんが去りました。
■ヨハンナ > 【後日継続】
ご案内:「タナール砦」からヨハンナさんが去りました。