2023/03/01 のログ
ご案内:「タナール砦」にキョウカさんが現れました。
キョウカ > 嗚呼――この空は、故郷からどれだけ離れていることだろう。

戦いとは終わりなく、絶え間なく続くものではない。
息継ぎの如く合間が生まれる。その合間が長く続けば、それをどうやらヒトは平和と呼ぶらしい。
しかし、このような地の平和とはまるで地獄に吹く微風の如く、つかの間である。

「……呑気なものでござるなぁ」

そのつかの間の瞬間ですら、酒に酔おうとする気持ちは多少はわからなくもない。
曇天の下、そこかしこから炊煙と屍が焦げる悪臭を漂わせるタナール砦の中庭で嘯く姿がある。
積み上げられた木箱を背もたれ替わりに腰掛け、傍らに弓と刀を放り出す姿は確かに見眼麗しい女のそれだ。
だが、額から生えた二本の角や座してもなお目立つ長身が嫌でも目を引くとともに、遠巻きにされる。

敵と同種であると呼ばれた、言われた日には面食らったが、それも嫌でも慣れるもの。
しかし、傭兵の募集に参加して戦果を挙げていれば、褒賞と共に食料の現物支給は受けられる。
結局のところ、働き次第という現場指揮官、指揮者のものの考え方は都合が良かった。

「とは言え、……細やか過ぎるのが悩み処で。
 せめてこう、牛か馬を潰して出してくれればイイのでござるが……」

金子の類は大事。だが、食事も同じくらいに大事なのだ。
湿気きっていないビスケット、干し肉、そして温くなった瓶入りの葡萄酒。それが支給されたものの内訳だ。
どうせなら、火を通して脂の滴る肉の塊を齧りつきたい。
そんな嘆きを絞り出しつつ、ビスケットを犬歯が目立つ口元に運んで齧る。
遠く、聞こえてくるのは従軍の娼婦か捕虜を誰かが犯している悲鳴か嬌声か。あまりに高すぎて入り混じっている。
良くも悪くも、いつもの光景である。見張りが敵襲を告げない限りは、この平和が続く。

キョウカ > 嗚呼、無いよりマシな生活というよも考え物だ。最低限が続けばそれが当たり前となってしまう。
肉もそうだが、米飯を何杯もかっ喰らう生活が懐かしい。
一山当てたいという同輩、同業の者たちの気持ちもわからなくもない。
恩賞の類ではなくとも、何はともかく大きく当てて。当てて――、

「……酒と腹一杯の飯、それと…………あ」

武器防具も整えたい。矢も使い慣れた寸法で用意するとなれば、特別誂えになってしまう。
だが、其れにも増して食の欲求とは強い。
衣食住のうち、前と後ろはまだ妥協できるが、真ん中は駄目だ。なまじ腹が減りすぎてしまうと動けなくなる。
あと女も抱きたい。男を掘ればいい?それは満足する/しないの範疇外だ。
そう考えると、だらしなく伸ばした足の膝が、つい、ふと曲がってしまう。曲げてしまう。
股間のあたりでむずむずと蠢き出す感覚があって、非常によろしくない。

精神修養がなっていない――と云われてしまいそうだ。

今は亡き師にして育ての親の顔をふと、思う。この国はそのあたりが開けっ広げで何かと困る。
口の中に残ったビスケットを放り込んで、温くなった葡萄酒で流し込む。

「捕虜が取れる敵が来てほしいものでござるな、こういう時は」

ゴブリンやらよく名前もわからない亜人やら、ねじくれ曲がった魔物やらを相手取るのは慣れたが、結局屠るだけだ。
魔族やら云うものには、人の形、見た目にしたようなものが居ると聞く。
その点を見れば、己も同類同然だが。ともあれ、そういう者であれば、欲望をぶつけるには足るだろうか?

キョウカ > さて、そうも都合よく敵が来るかどうか、獲物が来るかどうか次第か。
見眼麗しい捕虜は売れるから、と血眼になる傭兵やら事情通の騎士や兵士など、この辺りでは大挙しがちである。
食料としてよりも、酒のつまみの印象が強くなりがちな干し肉をばり、べりと噛み千切る勢いで腹に収める。
動くための活力には多少なりともなるが、物足りないのが実情である。
食い足りないといわんばかりに服の上から腹を押さえ、不満げな息を零せば。

『――敵襲ゥゥゥ!!』

   「獲物が来たでござるか!?」

――と。見張りが張り上げる声に、獣の耳が頭に生えていればぴこりとさせる勢いで躰を起こす。
見開いた眼を爛々と輝かせ、放り出した得物をそれぞれ掴み上げて動き出す。
腰に刀を差し、弓矢を手にして砦の反対側、魔族の国側に開かれた門扉を抜けて外に出よう。
遠く見やれば、雲間から差し込む陽光を陰らせる勢いで、猛烈な土煙が上がっている。
わざとそう誤認させる手管か、それとも本当に大群を揃えて敵がやってきたのかはまだ、分からない。

だが、少なくともすぐにわかる。会敵の瞬間は近い。
そう思いつつ矢筒から一本、二本と矢を抜き、弓弦に番えながら放つ時を伺おう。

新たな戦果を挙げられるか、望み通りのものが得られるか――。

ご案内:「タナール砦」からキョウカさんが去りました。