2022/11/12 のログ
ご案内:「タナール砦」に紫苑さんが現れました。
紫苑 >  
 その日のタナール砦は奇妙。そう、奇妙であった。
 本来は戦場になっていたり、そうでなかったとしてもどちらかがどちらかに蹂躙されていたり、片方の種族しかいなかったり。だが、この日は違った。

「調子はどうだ若き騎士よ」

 そう語る男。長身で鼻から上を覆うタイプの狐の面を付けた男は人間の騎士に語りかける。人間の騎士もまたうれしそうに返事をする。その前後によくわからない言葉をブツブツとつぶやいてから。
 そう、今この砦には人間の軍と魔族の軍が双方共に軍を構えている。裏切り者の部隊? 違う、彼らは全員が全員魔族の部隊だ。
 この男の力は記憶への潜入。それによってここにいる人間の大半をこう作り変えてしまった。自分達は魔王に忠誠を誓う魔族の騎士であると。
 そう記憶を植え付ける事で、この男は完全に無血でこの砦を制圧して見せた。当然だ、ここを守る騎士は全員が全員自分の為にこの砦を守っていたのだから。妨害など起きようはずもない。
 
「それで、裏切り者は見つかったか? 見つかってない? そうか、まぁいい、努力を続けよ。その内尻尾を出すだろう」

 そう騎士に語り掛ければ自身は指令室。その中央の指揮官の椅子に座る。
 ここに張った罠。それは騎士が会話の前後に話したブツブツというよくわからない言葉。これは自身が編み出した独自の言語。つまりこれを知っているのは自分が記憶に潜入して記憶を植え付けた者か魔族だけ。
 その言葉を知らない者。それは洗脳に対して抵抗のある者か、もしくはまだ来たばかりの斥候や侵入者という訳だ。

「さて、さっさとあぶり出してくれると助かるのだが」

紫苑 >  
 本人は別に戦えないわけではない。というより魔王としての肩書の通り相応に高い戦闘能力を有している。
 だが、戦闘は彼はそこまでするタイプではない。しても無駄だからだ。
 だから洗脳にかかっていない人物がいないならいないに越したことはない。いればこちらで対処しないといけないので簡単に言ってしまえば面倒なのだ。
 自身の食指が動く相手ならば玩具として遊べるが、そうでない場合は普通に殺さなければならない。本当に面倒だ。

「一応見つけたら連れて来いとは命令してあるが」

 いないならばいないで適当に目を付けていた者と遊んで明日にはまた戦場を離れられる。
 とはいえ、洗脳にかかり切っていない者を洗脳に落としたり、戦うのも面倒ではあるがまた一興。色々な複雑な感情からまだこの場から離れる事はせず、待機していた。

紫苑 >  
 しばらく待つ。しかし侵入者発見の報告は上がらず。
 そして1人の魔族が入ってくる。聞いた内容は以下の内容。
 砦中を捜索したが見つからないという事。同じくここにいた騎士も洗脳には確実にかかっているという事。
 その報告を聞けば目を閉じる。

「わかった、ならば後は好きにするといい。お前たちも鬱憤が貯まっていた事だろう……餌を前に待てと言われ続けるのも大変だろうからな」

 そういうと、報告にきた魔族はニヤリと笑い、部屋を後にする。
 くあぁと欠伸をして。仮面を外す。

「くだらん、何一つ得る物の無い勝利だ」

 この日、砦にいた人間は全てが殺されるか奴隷として連れ去られる。だが、抵抗した者は1人もいない。全員が恍惚とした喜びの中その末路を受け入れたという。
 そして司令官の名を知る者は当然。1人もいなかった。

ご案内:「タナール砦」から紫苑さんが去りました。
ご案内:「タナール砦」にブリジットさんが現れました。
ブリジット > 王国と魔族との戦いの最前線、タナール砦。
最近起こった戦いで奪還され、今は王国側が支配しているそこは、
ここ数日魔族が攻め込むこともなく、束の間の平穏を得ていた。

「はぁ~……退屈だなぁ」

その砦に数ある見張り塔の一つで、欠伸をしながらぐぐぐ、と背筋を伸ばす王国騎士のエルフが一人。
首を傾けコキコキと子気味良い音を鳴らした後脱力し。

「まぁ居眠りするわけにもいかないしなぁ…困った困った」

今の所、彼女が見張る場所に魔族の動きは無い。
彼らは、砦を取り返すための動きを見せていない。
戦力を再編中なのか、それとも何か策を練っているのか、
王国側にできるのは警戒を怠らないことだけだ。

「……でもそろそろ交替の時間かな?」

時計を確認し、ブリジットは気付く。
もう少しで、代わりの兵士か騎士がここにやってくることだろう。