2021/11/23 のログ
ご案内:「タナール砦」からエレミアさんが去りました。
ご案内:「タナール砦」に影時さんが現れました。
影時 > ――静かなものだ。今のところは。

取られ、取り返されを繰り返すタナール砦。冷たい夜空の下、欠けた月が照らす砦の威容にはそこかしこに灯が灯る。
人の営みによる光だ。炊煙の源たる炎や魔導機械が放つ光があり、見張り達が掲げる松明の火でもある。
一呼吸したあとに、不意に夜襲が起こりうるのも日常茶飯事であっても、人がある限り灯は消えない。
灯が絶える時は、火がなくとも跋扈できるものが砦を奪取(と)り、蔓延っている時位だろう。
夏も過ぎ、秋も深まり、やがて冬も近づこう夜天で、ぽろん、ぺろん、と。調子が外れた弦の音が響く。

「……うー、む。遣れるかと思いきや難しいじゃねェか、意外と」

その音は砦の四方に建てられた櫓の上、見張り台の一つから響く。
椅子代わりに雑に置かれた木箱に胡坐をかき、口元を黒い覆面で覆い隠した男が楽器を弄ぶ。
竿に左手を這わせ、右手で弦を爪弾き、試すように音を紡がれる楽器はリュートである。
誰が持ち込んだか、定かではない。臨時に雇われた冒険者や傭兵向けに開放された砦の区画で放置されていたものだ。

詩人ではなくとも、覚えがあるものであれば戦勝の宴に一曲奏でながら歌っただろう。
だが、弾くものがいなければやがて置物となる。手入れも調整もされなければ、音も狂う。
あれやこれやと試していれば、次第に音は少しは楽なる連なりと鳴る。それでもなお、調子が外れているのは仕方がないか。