2021/11/03 のログ
ご案内:「タナール砦」にグァイ・シァさんが現れました。
■グァイ・シァ > 陽が沈み、空気がしんと冷えた夜。
半端な月が照らす砦は今篝火が焚かれることもなく、丘の上で巨大な影となって只聳えている。
城門を潜ってその中庭に入れば解る。埋火がまだあちこちでくすぶり白く細く煙をあげ、外とは段違いに熱気が籠っている。戦禍はようやくこの丘から去ったわけではなく、ただ激しい攻城戦の末この砦が一時打ち棄てられただけだ。
―――或いは、それさえもどちらかの策略やもしれないが
ともあれそうやって季節外れの熱気籠る砦の中、靴音を虚ろに響かせて通路を行く影がある。
所々穿たれた狭間から注ぐ月光は、急ぐでもなく焼け焦げた通路を歩く朱い髪の女を浮かび上がらせる。
(――――…生きた者はいない…か)
気配だけを研ぎ澄ませて城内を巡る女は、感情の無かった顔を忌々しげに歪める。
酷く焼き尽くされたのだろう、見かけた躯は炭と化したものばかり。今飢えているわけでもなく急くでもないが、血と死の匂いが糧である女に取って面白い状況ではない。
いずれ戦禍は戻るのだろうが…
(――――待つか、去るか)
■グァイ・シァ > かつ、かつ、と響く靴音に時折ざりりと踏む音が混じる。
それを一顧だにせず、朱い髪の女は未だ熱の蟠る通路を往く。
恐らく、石壁に触れればそれ以上の熱がまだ残っているだろう。
やがて、横手へ外壁の上の歩哨へと続く通路が見えて来る。
女は迷いなくそちらへ足を進める。外へ出る一瞬強く、女の髪を風が嬲る。
外へ出ようと生き物の気配がないことに変わりはない。
最早それを期待していたわけでもない女は、外壁の歩哨まで辿り着くといちど、丘を見渡して
次には軽々と防壁を飛び越えて、砦の落とす影の中へと姿を消した。
ご案内:「タナール砦」からグァイ・シァさんが去りました。