2021/09/01 のログ
コルボ > 「おい、待てよ」

半ば無視されたような反応で横切る貴女の背中を見て言葉を投げかけ

「片手」

 端的な言葉が、貴女が刀に添えた手を指していることが理解できるだろうか。
 そして、不用心に歩調を速めて追いつき、隣を歩いて。

「今回は勝てたが泥仕合だったからな。疲労感と達成感で兵隊さん方良い意味でピりついてんのよ。
 殺意もないのに半端に殺る気見せてたら連れ込まれるぞ。」

 そこまでへらへら言いつつ、不意に辺りを見渡して兵士がいないのを確認して。

「……そのツラ、腹は減ってないが何か”欲しい”んじゃないのか?
 こっから先はお互いオフ。決裂してもなんも兵隊サンにゃ言いやしない。

 どういう流れでも寝る前に騒動は面倒だからな。
 ……それに、ここの砦に”通い慣れてる”奴にまっとうな事情求めるほうが間違いだしな」

 ……貴女ほどの手練れなら、無遠慮に歩く男の足音が極端に少なく、
 体重移動からいつでも臨戦態勢を取れることを示しているのが分かるだろう。

 だが、声の向きから、常に貴女に顔を向けて話しかけている。
 自分の力量を包み隠さず、貴女に何かしらの事情があると踏んで、
 貴女の力量を推察したうえでの”交渉”を持ちかけている。

グァイ・シァ > 逸るでもないその足取りは、追いつくには容易だったろう。
しかし追ってきた男を顧みることもなく、女は歩みを進める。

「―――…」

連れ込まれる、と聞いても事情があるだろう、と問われても、女の足取りは変わりはしない。
漸く振り返ったのは、全く返答をしない女にそれでも男が付いてきた時だ。
ぴた、と止まるそれは唐突で
反応する間は余りなかったろう。
振り向く動作と同時の抜刀は鞘走りの音などまるでなく、刀の切っ先は男の喉に間違いなく向けられている。

「…着いて来るな。
 今、お前から奪おうとは思っていない」

相変わらずの掠れた声。忌々し気な表情。
周囲に通りがかりの兵士が居たとしても、よくある傭兵同士の只の小競り合いと捨て置かれただろう。ましてや男女なら猶更だ。
或いは傭兵仲間なら周囲に野次馬となったかもしれない。

「砦に招いた事には感謝するが、立ち入るな。
 ―――放って置け。」

どちらにしても長居は無用、とばかり
女は歩みを再開する。

コルボ > 反応はしない。できないのではなく。
明らかに、貴女のそれが警告であると理解しているように、貴女の瞳を見返して。

(厄いの呼び込んだかなぁ。でもなあ。絶対最終的に”自分の意志で中に入ってこれる奴”だよな)

あの時声をかけたのが自分じゃなかったら、兵士だったら、逆に逃げ遅れていたかもしれない。
ただ、ぽつりと、無意識に、駆け引きとは無関係に

「綺麗だなぁ……」

 動きに無駄のない、貴女自身の意志で自由に己の命を奪えたその切っ先の放たれる様を目の当たりにしてそう思ってしまい、言葉が零れる。

 きっと、自分が殺されたことも理解できず死ぬ獲物には、
 こんな軌跡で爪や牙が捕らえるのだろうと思ってしまった。

「っと……、じゃあ、何を奪うか、いつ奪うか教えてくれたら下がるわ。
 感謝してくれてんだろ? なら、縁が出来た相手に融通利かせるのも筋じゃないか?」

 食い下がる様な言葉を投げかけつつ、それ以上歩みを追従させることはない。
 ただ、縁が出来た以上は、今は兵隊との契約が満了した以上は、
 気にかけたほうに肩入れをする。

 ただ、それだけのことで。

グァイ・シァ > 刀の切っ先は傷つけるためのものではなかったが正確に喉を指していた。
その後の様子からすると、避けることも出来たのだろう。
そう察したが、女は表情を変えることなく刀を収め、ふたたび歩みを再開する。

「……もの好きな奴だ」

何を求めるか、と更に問うてくる男に女はひくく、ぼそりと声を零し
追いかけてこない足音に、足を止めて、振り返る。

「傭兵の仕来たりなど知らん。
 だがお前に義理があるのは確かだな。
 ―――強いて言えば命だ。戦場に居れば融通を利かせることはない」

傍から聞いていれば
それは明日起こるであろう、魔族との闘いに於いてのことを指しているかと思われただろう。
実際そうなる筈で、それはきっと本当に男とは関係のない話になるだろう。
問いの内容が通じているのか居ないのか、兎に角女は無表情のままそう答えを告げて

「縁はこれで終わりだ」

ふたたび踵を返し、何処へ行くつもりなのかふらつく足取りを再開する。
何処か闇に沈む場所へ差し掛かったのなら
女の姿はそこに溶け消えているだろう―――

ご案内:「タナール砦」からグァイ・シァさんが去りました。
コルボ > 何はともあれ、答えてくれた。

縁は終わりだという貴女へ向けて、その物好きな男は

「……そうでもないさ。次も俺は融通を利かせるからな」

答えは期待せず、また遭ったら首を突っ込むと言外に言葉を投げかけて。

 曲がり角の先、ちょうどたいまつが消えている場所を覗けば気配は消えていて

「……隠し部屋でもあるのかこの砦」

 埒外の事態を念頭に置く一方で、より足元に近い現実も想定しながら言葉をこぼして、
その場を後にする。

……なお夜明け頃に兵士達に声をかけて早々に砦を後にしたとか。

ご案内:「タナール砦」からコルボさんが去りました。