2021/08/21 のログ
ご案内:「タナール砦」にグァイ・シァさんが現れました。
グァイ・シァ > 争いの絶えない丘にそびえる砦にも、静寂に包まれるときはある。
夏草が風に揺れる夜、欠けた月が中天に昇った頃の砦は、丁度その束の間の静寂に包まれていた。

何度も焼かれ血が流れ、壊され崩されては何処かの手によって修復されてきた砦は、その合間に増改築も施されて内部は迷宮のようでもある。
その内部の廊下を、灯りも持たずに歩く影がひとつ。月明りを頼りにしている様で歩みは鈍いが、怪我をしている様子はない。

「――――…」

がしゃん、と、彷徨う影が踏み出す毎に纏った鎧が音を立てる。時折窓辺に差し掛かると、月明かりが白い肌に朱い髪の女を照らし、その影を石の回廊に長く落とす。

どちらが打ち棄てた後の砦かは解らない。
伏兵が居るのかもわからない。
そんな場所に忽然と、人間の女と思しき者が、ゆっくりと彷徨っている。
その翠の瞳は闇が蟠る廊下の先を見据える。

――――運よく、獲物が見つかると良い。
さもなくば、はぐれた振りをして軍に混ざっても良い。
次の戦へ、その血と死の饗宴に、加担するために。

グァイ・シァ > 打ち棄てられた様子の砦は、撤退戦が行われた様子がなくただがらんとしている。
きれいに防衛のための武具まで取り去られ、少なくとも慌てて逃げ出した訳ではないようだ。

がらんどうで空虚な砦は、風が吹くと物悲しい音を何処からか響かせる。
その音を鬱陶しいように、女は耳元の髪を乱暴に掻き上げる。

―――誰も気配が無いのなら、物見の塔に行く必要がある。いづれかへ去ったのか、または何処かに敵が控えているのか、確認するくらいは出来るはずだ。いづれにせよ、奪取が難いほどに遠くへはいっていまい。

廊下を突き当り、開いた場所から歩哨へ出る。
びゅうと一際強く吹いた風が女の髪をかき乱していくが、それに構う事もなく左右を一瞥し、物見の塔へとつながる路を辿って行く。
白く照らす月明りのなかぽつんと人影が歩哨の上を行くのは、遠くから見れば幽鬼のようでもあったろう。