2021/05/26 のログ
ご案内:「タナール砦」にさんが現れました。
> ―――今宵は、とても珍しい事になった。そう、女は感じている。
現在地は、タナール砦。その中、人目に付かない一角である。
今現状は、魔族たちが跳梁跋扈しており、普通に考えれば危険極まりない状態でもある。
ただ、冒険者ギルドより、依頼があったのだ。
此処に来ている筈の冒険者の恋人の依頼であり、その冒険者の救出、若しくは―――と。
この場所は、特殊な場所であり、軍人も、冒険者も多く居る場所なので、依頼としては判らなくもない。
ここにきて行方不明になった恋人の安否を思う恋人の想いも判らなくもないのだけども。

「―――軍の、仕事じゃぁ、無いかしらぁ……?」

此処に来る冒険者は、ギルドと言うよりも、軍に組み込まれているような気もしないでもない。
そして、安全になった時に探りに来れば―――とは思うが、救出も目的とするなら早い方が良い。
だから、身軽な自分に白羽の矢が立ったのであろう。
取り合えずは、嗅覚の良い魔族をだますために、己の体に、香水を振りかける。人としての匂いを決して、多く居るゴブリンの匂いのする香水。
忍ぶのに必要なのは、隠れるための技術であり、その技術は、透明になるという事だ。
魔法的な透明が良く考えられるだろうが、それが無くても、どうとでもなる。
視覚を、聴覚を、嗅覚をだませば、それで良いのだ。
ゴブリンの匂いをシッカリ全身に塗り込んだ後は、女は、足音を薄く歩き始めた。
立派な乳房が揺れないような、静かな重心移動は、皮を重ねて音の出にくくしてある靴もあり、滑るように、音もなく進む。
暫しの観察により、巡回の流れを確認しているから、今、この周辺は移動しても大丈夫。
間取りは既に確認して居るので、緊急の隠れるための場所などの、認識も出来ている。

先ずは、地下牢から。
女は、するすると、砦の中を進んでいく。

> 地下に続く階段は、歩みを進めるたびに、ひんやりとして来る。足音がしないからこそ、周囲の静寂が一層引き立つ。
そして、それと同時に、漏れてくる声を、ヘルメットに隠されている耳が捉える。
それは、予想通りと言うべきなのだろう、甘く、甘く、啼く声。悲鳴のような、享楽のような声。
一つは二つではなくて、だからこそ、此処で行われていることが、想像できる。

「うぅん……全くぅ……この辺りは、人もぉ、魔族もぉ、同じ、なのねぇ……」

紅い唇からぽつりと漏れるのは、溜息で、彼らの行為に関しての無念に似た感情だ。
生きている限り、繁殖は本能だし判らなくもない、ただ、あんなに憎み合う人と魔族、やって居る事は同じと考えてしまえば。
今は、そんなことに思いを馳せている時間ではないので足を進めていたが―――。

「!」

下の段の方、扉が少しずつ開き、明かりが漏れてくる。つまり、階段を上る誰かが居るという事。
女は息をのみ、そして、周囲を眺める。タナールの階段は、地下室への道はあまり広くはない。
上に上って戻るには、時間が足りず、彼らの目に留まってしまい、警戒されるだろう。
それならば。
女は、勢いよく跳躍し、音もなく着地、扉は開かれ続ける。
そして、再度の跳躍で、扉の上に。
扉の枠をしっかりと握り、両手両足を踏ん張る。
扉とは基本的に人よりも大きく作られる、潜るという事は頭を下げるし、視界は少し下に移動する。
果たして魔族は、扉の上に張り付いた忍者に気が付くことなく、歩いていく。
匂いに関しては、中で女を犯しているのがゴブリンが多く見受けられている、拷問なのだろう。
だからこそ、ゴブリンの匂いが混じってしまえば気が付かないようで、其のまま上がっていく。
攻撃はせず、扉が閉まり、階段を魔族が昇り切り、去っていくのを待った。

> ―――ぎぃ。と扉が軋む音が飢えの方からする。たった今出ていった魔族が扉を開いた音。
空気が流れ、足音が奥へと移動し、そして――――ぎぃ、と扉が閉まる音がする。

その音を聞いてから、女は、扉の締まっている階段通路へと音もなく降り立つ。
扉の奥には、まだまだ、ゴブリンの鳴き声と、それと同時に女が犯される声が聞こえる。
ある声は、悲鳴を上げて、ある声は、諦めの嬌声か。聞かずともそれだけではないことが判る。
肌を打つ音が、一つ二つではないのだ、つまり、意識を失った、声を出す気力擦らない、そんな女性さえいるとの事だ。
はふ、と赤い唇から、溜息を零しながら、明かり漏れる扉から、手鏡をそっと出して、中を見やる。

ゴブリンの数、犯されている人の数。
見える範囲のそれを確認して、女は思考する。見えないところにいる可能性。
ゴブリンの数が少ないのは、女が拘束されているからか。
男が見えないのは、まあそういう事なのだろう。
女魔族が居るならば、男が拘束されていることもあるだろうし、変態が居ればまた。
今、此処に目的の存在はいないことが判った。

―――だから、離れる。

依頼は、その冒険者の救出か、遺品の回収であり、彼女等の救出ではない。
そもそも、救うには、手が足りないのだ、忍術は万能ではない。
だから、出来ないことを切り捨てて目的を果たし、ギルドに、若しくは軍に報告すればいい。

音もなく、階段通路をのぼり、地下牢から出ていって。
別の部屋で捕まっている恋人の冒険者を見つけ、彼を救出し、ギルドに報告することになった。

ご案内:「タナール砦」からさんが去りました。