2021/02/13 のログ
ご案内:「タナール砦」にジギィさんが現れました。
■ジギィ > 風もなく、しんと白い月が昇った夜。
物見の塔の見張りを交代して、呑気に満天の星空を見上げたりしながら銅色の肌のエルフが歩哨を歩いて行く。
丘の向こう、敵軍が居る筈のほうへ視線をやりながら、くせ毛からはみ出た尖った耳が揺れる。
―――今宵は多分、夜襲などはないだろう。
丘の向こうには炎の精霊が騒めく様子も、死霊の気配も捉えられない。
(あっても、暗殺とかくらいか)
やや物騒な事を思いながらすれ違う兵士へ挨拶代わりにひらっと手を振って、砦の内部へ足を踏み入れる。
それから―――本当だったら、階下の宿舎へもどるべきだ。
―――でも。
「――――…」
その場で立ち止まった女エルフはきょろきょろっと左右を見回すと、独り内側の階段を昇って行く。足音を特に消すことは無いのは、特にやましいつもりでもないからだ。
登り切った先には遠距離攻撃用の弩弓が数基備えてある部屋がある。
今は室内に明かりも無く、攻撃用の窓から星空だけが狭く切り取ったように覗くその部屋へ
先ずは顔だけで覗き込んでから
「…お邪魔しまーす……」
するりと滑り込んだ。
■ジギィ > 床には闇が蟠っているが、夜目が効く女の眼には星明りだけで装備品を眺めるのに十分だった。
先ごろ使われて以来片付けられてはいないようで、弩級のそばには各々矢が散らばっている。
対大型の敵用なのだろう。どの矢も杭と呼べるほどの大きさで、材質は間に合わせの木材だったり、中には先端が銀というものもある。
「…わー……」
暗闇の中目を見張って見渡して
足元の杭に躓かないように、慎重に弩のひとつに近づく。
発射台たる弩も相当な大きさで、己が寝そべったら同じくらいの大きさかそれより大きいであろう。
矢を溝に落としてから、傍にある回転式レバーを廻して弦を引く構造らしい。
そのレバーに触れて、回して――――
「―――!?…ふぐ…」
回せない。
ちょっと力を入れても無理。
■ジギィ > 暗闇の中でえーっ、という顔になる。
よくよく見れば弦は極太の皮だし、それなりの力は必要だというのは想像が付く。
(…いざとなった時使えない……!)
勿論「いざ」は無いに越したことは無いが、サイクロプス相手に戦った勇者のサーガなどを聞いて知っている身としては
これを扱えないということは、まあ当たり前なのかもしれないけれどその勇者には及びもつかないということで…口惜しくてならない。
「――――…」
女の唇が尖って、太い眉が不機嫌に寄せられて負けず嫌いの表情が浮かぶ。
かくしてその夜、妙なうめき声を廊下で聞いた兵士によって砦内の警戒が強まり
結果として夜襲もなく、やがてまた戦場の一夜が明け行く事に……
ご案内:「タナール砦」からジギィさんが去りました。