2020/12/25 のログ
影時 > 「ン。……まあ、無ぇよりはましか」

支給された食糧はやや湿気たビスケットと干し肉。
炊出しとして出された乾燥野菜を湯戻して、豆類などと一緒に煮たスープは塩味はついていたが、いまいちだった。
文句は言うまい。この時期、冷えた・生煮えのものを喰うことほど侘しいことはない。
粗食の類は慣れていても、流石に好き好んで常日頃そうしたいという気にはならない。

「あとは、どーせなら。
 アレだな。こー……犯し甲斐のある女でも向こうから来てくれるなら、云うことはないンだが」

少し取っておこう、と。存外味の良かった葡萄酒の瓶の栓をして、足元に転がす。
そのかわりに傍らに置いた太刀を取り上げ、鯉口を切る。
ずらりと引き抜けば、それだけで異様な気配が生じる。
篝火の光を受けて冷たく輝く鋼の色を確かめ、刃毀れがないことを改めて鞘に戻しておこう。

先刻斬ったのは、よく分からない異形だった。一応ヒトの形をしていたのは魔族であったのだろう。多分恐らく。
屠龍の太刀が反応しなかったとなれば、竜ではないのは確かだろうと。
その程度の感慨を過らせつつ、微かな期待を胸中に抱こう。敵も女も。活きが良い方が何よりも良い。

ご案内:「タナール砦」にラファルさんが現れました。
ラファル > 「ししょー。」

 タナール砦に、場違いな軽い声が響き渡る。何時ものように憑りついて来ていた幼女。冒険者としての依頼は、彼を含む大人が一緒に居ないと受けられない見習い。
 とてとてととと。と言う、擬音と共に、ひょっこり壁の脇から顔を出して、突撃していく。
 金色の髪の毛は長く頭の脇で結ばれているツインテールはゆらゆら揺れる、露出度高いその肌は幼い子供のそれであり、寸胴体形のイカ腹の子供。
 今回は、別の場所の防衛に駆り出されて、あっちこっちと、大人のお手伝いを行っていた模様。
 子供だからと言って此処にいる程度の戦闘能力は持っているのか、襲撃の後だというのにぴんぴんしているのである。
 保護者を見つけて駆け寄る姿は、わんこといって良いだろう。

「お弁当貰って来たよー!」

 その右手には風呂敷包み、四角い形、どう見ても、配給で配っているそれではない。
 にぱーっ、と輝かしい笑顔を見せながら近寄っていけば、はいどーぞ、と。
 中は、おにぎりに竹の水筒の中は暖かなお茶、唐揚げと……ダイオウイカのスルメ。
 刀を眺めている間は、ちょっと、壁の奥でじーっと見て居たのは秘密でも何でもない。
 だって、その刀が、今の所、幼女にとっては一番怖い物である、どんなに頑張ったとしても、するりと切られてしまうそれなのだ。
 判って居ても、身が震える恐怖。それが無くなってから持ってくるのは、子供として仕方なかろう。
 ほめてほめて、と、頭をすりすり、胸板にこすりつけるのも忘れない。

影時 > まぁ、そんな都合がいいことはそうそうない。
寧ろそのような「ねらい目」については、概して大挙して掛かりに行くことだろう。
数を押して損害と引き換えに捕獲して輪姦と洒落込むのか、それとも首尾よく一騎打ちでもして捕縛するのか。
今の士気も実力もいまいちな布陣であると、敵の実力者を相手に目論見ともども瓦解しかねない気がする。

見張りにつく気にはならない。
もとより、見張りを買って出る者達は己以外に幾らでも居る。
羽織の袖元を漁り、使い込んだ色合いの煙管を取り出した処に――軽い声が響く。

「おお、すまんなァ。ラファルよ」

声の主は考えるまでもなくもない。付いてきた幼女だ。
むくつけき男たちが目立つこの場において、声も見た目もその一点だけを見れば良くも悪くも目を引く。
だが、嘲笑うような声も目もしないのは、実力者であるからだ。
取り出した煙管を羽織の袂に仕舞い直し、差し出される包みを片手拝みと共に受け取ろう。
先程開封はしたが、いまいちな配給食と比べるべくもない。

膝上に広げる前に、さながら子犬の如くすり寄ってくる小さな姿の頭を撫でて労を労う。
働いたのだ。酒を呑むだけの功がある。足元に置いた酒瓶を呑んでも良いぞ、というのも伝えておくのも忘れずに。

ラファル > もう少し発育が良ければきっと、別の「おしごと」も有ったのかもしれない、そういう趣味の人がいれば、お誘いされたかもしれない。
 まあ、お誘いして来た人は、今は、その辺の樹と仲良くなってると思う、頭から。
 そして、お手伝いの中には、補給とか、介護とか、それだけでは無かったりもする、前線が崩壊しそうなら前線に立ってみたり、とそんなこともしていた。
 唯々、目立たぬようにするのは、流石に服装と年齢と、色々な意味で難しいので、程々にはしていた。
 例えば、強そうな魔族の興味を引いて、逃げ回って時間を稼いだり。
 仲間が罠にかからないように、自然と誘導して見せたり、罠を態と引っかかって無力化したり、其れも、『偶然』、たまたま運よく助かった、体で。
 そんな風に、今回は仕事をしていた。今回に関しては、あまり面白そうな相手もいないのと、見習いと言う形を保つためのお仕事でもあるので。

 今も見張り台には、闇に融けそうな青の鎧を身に纏った、怪しい仮面の男が立っているのが見える。
 よくあんな格好で此処にいるよな、とか思うのである、普通に怪しまれてもおかしくないが、この国の団員らしい。
 まあ、見張りはどうでもいいや、と視線を戻す。

「にひ、おいちゃん、年だしね?美味しいもの食べて、元気になってもらわなきゃ。
 大丈夫だよ、他の人にもある程度配ってるから。」

 そう、大事なのは、特別ではない、という事だ。
 自分にとって、師匠は大事な人であるが、それを唯々、出すのは士気にも関わるし、他の人の心象も悪かろう。
 だから、今回冒険者として依頼を受けた仲間の人には、内緒だよ?と渡しているのである。
 兵士さんたちは、国からの補給物資で頑張ってください、それがお仕事ですので。
 こういう風に、同じ冒険者の仲間に渡して置けば、師匠に渡しても角は立たない。
 そう考えての、行動でもある。
 ちなみに、スルメイカは、陶然の如く、特別である、お酒の摘まみはないよりあった方が良い。

「わーい!」

 お酒を飲んでいいよと言われ、幼女は師匠の隣にペタンと地面に座り込む、幼い体にはちょっと大きな瓶を両手で持って、んくんく、飲み始める。
 ぷはー、と酒精混じる吐息。

「くはー、たまりませんなぁ。」

 幼女ご満悦で息を吐いて。
 そして、思い出したように、師匠を見上げる。

「そいえば、師匠ー。ボクね、誘拐されたー。
 ティアおねーちゃんの所に今住んでるんだー。いもーとだって。」

 おねーちゃん出来たんだーとか、一寸何言ってるかわからない。

影時 > 流石に弟子として預かっている以上、帯同させたとなれば「その手」の仕事はさせない。させ難い。
ともあれ、己も含めて過剰に目立たないようにするのは重要なことである。
出張った以上はそれなりの仕事をする。それなりに働いて、それなりに手を抜けばいい。
詰まりは自重だ。余所者が余分に頑張って仕事をし過ぎるのが、「困る」と宣うものが少なくはない。

とりあえず、太刀を振り回して多少--実際にはそれなり以上の武勲を首級という形で挙げた。
そうでなければ、鎧らしい鎧も纏っていない異邦の軽装の男(それも幼女付き)が酒を呑んではいられない。

「おいおい、一応まだ歳って程に老いちゃいねェんだがなぁ。
 ン、だったらいい。問題ない。仕事をしちゃいるが、一人だけマシな飯喰うのもな」

そう、特別扱いというのはどうして胡乱な目で見られるものだ。
だからこそ、その判断を善しとする。ちゃんと仕事をしている人間が受け取っているとすれば、問題はない。
人に紛れるには街の中、という道理はこういう場でも働く。
風呂敷包みを解き、中身を検めれば出てくるスルメに致せりつくせりだなァ、と肩を揺らして笑い。

「ツマミというにゃアレだが、お前も喰っとけ。
 仕事できる奴はちゃんと喰える時に喰える奴のことでもあるンでな。

 ……――あー、ラファル。ンだって? 拉致られてお持ち帰りィされて、住んでる?」

行き交う兵たちの流れに背を向けつつ、弁当を摘まんでは茶で飲み干す。
煙管代わりというには短いが、スルメを銜えつつ幼女の呑みっぷりに目尻を下げるのも束の間。
続く言葉にどのような反応と判断を下せばいいのか、数秒測りかねた。
拉致されたモノがこんな風に闊歩はしていられまい。好き好まれて、妹分として住み着くことになった、と。そう読み解けばいいのだろうか。

ラファル > くノ一な仕事に関しては、知識として知っているし、技術的な物も、覚えている、そして、好むかどうかでいえば、嫌いではない。
 世間体とか、そういった様々な柵がある故に、自重している、という事にもなる。気持ちいいこと自体は嫌いじゃない。
 仕事と言うのは、全力でやる必要はない、任されたことを、任された範囲で、行えばいい事なのだ、本来はここを守るものに関しても、それを行う矜持という物もある。
 さらに言えば、今回は手が足りないが故の緊急の補充だ、当てにされても、此方も向こうも困る事。
 そう、幼女は判断をしている。

 そして、今回幼女はオマケであり、戦力とみられてなかったので、そう動いた。けが人の搬送、手当、矢弾の補充などの、お手伝いが主だ。
 後は、こっそりかく乱とか、そこそこの魔族の撃退とかを、して見せているだけで。
 まあ、幼女が魔族を撃退している時点で、目立ってないかと言う質問には首を傾げざるを得ないだろう。

「人間でいえば、もう村長とか、老人一歩手前な年齢だと思うんだけどなー?
 ま、命かけて、おいしくないご飯は、悲しいもんね。猪とかそう言うの狩ってきた方が良いかなと思ったけど、厨房使わせてくれなさそうだったし。
 とりあえず取ってきたの。」

 冒険者たちと、兵士達での溝が出来てしまうかもしれないが、厨房を借りれなかったので仕方がない。
 厨房借りれれば、とは思ったが、この砦の全員を満腹にする量となると、ちょっと大変だ。
 牛の2頭3頭は必要かなぁ、と首を傾ぎ、そして、時間も余り無いので、弁当を持ってくることにした。

「スルメ……やっぱり、お米のお酒の方が合うよね。しょんぼり。
 あーい。と言うか、ご飯は済ませて来たよ、おうちで。

 うん、ティアフェルおねーちゃん、ヒーラーしてる人で、弟はいっぱいいるけど、妹がいないんだって。
 前に出会ってお話したときに、可愛い可愛いされて、何となくツイてっちゃった。
 おねーちゃん凄いんだー。ご飯もおいしいし!」

 楽しいよ!と、ヒーラーなのに、杖で盗賊二人倒したり、殴ったりけったり凄いんだよ。
 もっと強くなりたいらしいから、おいちゃんの事紹介してもいいかなって思ったんだー。
 普通の人間だから、幼女の事は止められない、居たいからいる、と言う飼われている猫のような関係性だった

影時 > 帯同させるが故の管理責任というものが、ある。保護者として委任されている点もある。
戦場の事故の類は是非もないにしても、其れ以外の余分な事項をこの場においてさせるわけにはいかない。
如何に無頼であったとしても、一冒険者として請けている以上は厳しくならざるをえない。
別段体面などはどうでもいいと嘯けるにしても、金にもならない余分事は願い下げでもある。

「本当の年齢なんぞ、数えるのも面倒なくらいだが。
 数えた処で正しいかどうかも怪しいが、隠居決め込む気にはまだまだなれやしねェなぁ。

 わざわざ悪いな。戦働きも昔からこなしちゃいるが、まともな飯も喰えねぇほど辛いモンはないぞ。
 この有様じゃ、この辺りなら……そうだな。良くて保存庫に積んでる塩漬け肉やら何やらを引っ張り出す位だろうよ」

獣を潰す、解体するのも人手が居る。水も使う。
怪我人の治療にも水を使う以上、そうそう容易く貴重な水源を割いてはくれないだろう。
次の補給を待ちつつ、備蓄を吐き出すことが現状の最良だろう。
寧ろ、単調になりがちな味を変化させるための調味料の類が喜ばれるかもしれない。
この地に至るまでの船旅の道程を思い出す。蛆が沸いたビスケットに塩辛いだけの肉、腐った水--嫌な記憶だ。

「米酒は金貨出しても惜しくもない代物だ。無理には望まねぇさな。
 
 嗚呼、ここまで聞けりゃ大体分かった。飯も旨いなら仕様がねえ。
 誘拐じゃあるまいよ。それだったら、な。
 実家には適度に顔出して、話通しとけ。教えられるモンがあるなら、見る分なら問題はないぞ」

既に食べているというなら、問題はない。だが、酒を呑むならツマミがある方がよりらしいのだ。
喰うなら問題ないと言い添えながら、さながら猫が家に居つく様に似た関係性を紡がれる言の葉に垣間見る。
相互に同意の上なら、如何わしい懸念もないだろう。
そも、引っかかるようならこの幼女がどう動くかどうか、想像するまでもない。

ラファル > 「にしし。気分だけは、若いんだから。

 うん、それは良く教わってる、ご飯がおいしくないのは辛いもんね。ボク、とーっても良く、判る。
 ま、今回のみんなは、特に運が良いんだろうね?だって。」

 持ってきたお弁当はどれもこれも新鮮で、作り立て、温かさすら感じるもので、食材も良い物を使っている。
 それもそのはず、王都で作ったものをそのまま、保存の魔法をかけて持ってきた、超特急で。
 幼女が本気を出せば、此処と王都の行き来なんて、さほど時間が掛かるものでもない、其れこそ、遊びに出て帰る程度。
 ドラゴン急便特別便と言うべきものであるのだ。
 それをどうとらえるかは、受け取った感覚、幼女からすれば、使えるものは使えばいい、なのだ。
 それで、使える技能を使って、好印象を貰えるなら、それはよし、である。

「この国では珍しい物、だものね。おつまみの選択を間違えたよ。
 今度は、これに合うおつまみにしないとね。

 ティアおねーちゃん自称だから。誘拐は。
 うん、もう、リスおねーちゃんには言ってるし、ヴァールさんは、もう知ってるから。大丈夫。
 じゃあ、今度会ったら、伝えておくねー☆

 でも、ご飯は本当にすごいんだよ、ボクお腹いっぱいに食べちゃえるんだ。」

 そもそもの話、癒しての上で優しい彼女だ、人をだますという性格でもないのも判って居るし。
 問題ないよ、と。善意の人でもあるしねとも。

 騙されて、怒ったなら。屹度。

「と、今回はお弁当でおわり。そろそろ、帰るね?」

 次の授業に又来るね、幼女は朗らかに笑い、ひょい、と立ち上がる。
 お酒の瓶を置いて、名残惜しそうに見てから、またね、とタナールを後にするのだった。

ご案内:「タナール砦」からラファルさんが去りました。
影時 > 「そういう事にしておいてくれ、や。一応な。
 糞みてェな飯でも気にしない奴は気にしねぇが、この時節だとな」

老いが遅い、遠い躰ではあるが、重ねた年月を考え出すといよいよきりがなくなる。
死とは存外あっさりと訪れるものであると、知っているから余計に。
抜け忍とはいえ、忍びの端くれには違いない。
保存食や戦場食に贅沢は言わないが、遠くの街で祭りをしていると聞けばだ。
温かい、かつ、まともな食事が恋しくなる。あり付けたものはつくづく幸運だろう。そう思う程に。

「葡萄酒ならツマミはチー……あーと、チーズだったか?
 乳酪の類は食えねェわけじゃないが、干し肉を持ってきてくれた方が俺としちゃあ有難い。

 少なくとも、他所の子を連れちまうコトが何というか理解ってる時点で真っ当な人間というのはよぉく分かった。
 面倒がねえように方々に伝えている上なら、俺もいう事は無ぇぞ。
 
 ――底なしを満腹させられるのか。それは凄ェな。たいしたもんだ」

チーズの類は食べられなくもないが、好き嫌いはどうしてもある。
聞きかじる範囲の人となりは、よく分かった。
所謂ヒーラー職である人間が悪人であるというのは、ついぞ聞かない事例だ。
それに何よりも、底なしとも言える竜の娘をお腹いっぱいに出来るというのは、凄い事である。
スルメを銜えつつ、その言葉をつい吟味する。

「分かった。気を付けて帰れ。俺はもう少し、此処で粘っとくンでな」

気を付けるまでもないにしても、万一というのはありうる。
酒瓶を置いて立ち上がる姿を見遣り、片手を挙げてご馳走さんと言葉をかけて見送ろう。
そうして残った弁当を摘まみ、腹を満たせば次の攻勢が来る。

腹ごなしに、と太刀を掴んで迎撃に向かうのだ――。
 
 

ご案内:「タナール砦」から影時さんが去りました。