2020/05/04 のログ
■ナラン > 月光の下男が近づいて、漸くその逞しい巨体と隻眼とに気付く。
それにふたつ、鳶色の瞳を瞬かせてから
男の軽口にはまた、引き結んでいた口元を少し、綻ばせて
歌う事ならできますよ、等と返して見せる。
「勿論、彼らには遠く及びませんけれど。
――…随分と、奮闘されたみたい、ですね」
傍らへ来て、置いた袋から出した干し肉を噛む男を見上げながら
返した言葉は少し、相手の体格を物珍しく感じた色がにじみ出る。
―――だが、それだけ。
血の臭気は痺れるように甘く、女の思考に軽く酩酊めいたものをもたらす。
(―――気を付けなくては)
女はすこし顔を顰めると再び、草原へと視線を戻して―――
「―――…どういう意味ですか?」
その視線を再び男へと投げると、隻眼のそれと真っ直ぐに絡む。
女は訝し気に眉を顰めると―――その唇の端が、すこし、微笑って。
「……勇猛果敢な方、は嫌いではありませんが
狂暴な方は、あまり好きではありません」
言下に、娼婦めいた事を己に求めるなら筋違いだ、と伝えて
「――貴方なら、他にも女性が引く手数多でしょう」
くすり、と微笑う。男の軽やかな口調と逞しい身体は男らしい魅力と機微にあふれている。誘う女は多いはずだ…
■ヒュー > 月光の下で見れば、気の強そうな眉も吊り上がった眼も男の好みではある。
うむうむと何度か頷き、続いて帰ってくる言葉に楽し気に笑う。
「くく、俺にとっては奴らの歌声は聞き飽きているからな、お前さんの歌が聞いてみたいものだ。
なに、奮闘という物でもない。 弱くはなかったが足りなかったな。」
残念だと言葉を返しながら小さくため息をつき、口の中の干し肉の切れ端むぐむぐと噛みしめ。
女を観察する様に見る目。
少し綻んだり、しかめっ面になったり、イブk死気な瞳、その全てを楽しんでいて。
そして、女が問う言葉に小さく男も笑い…。
「くく。そのままの意味だ。 欲張りだからな、腹も減ったし酒も足りないし、血も足りない、いい女も足りない。 これでよく眠るなぞ俺には無理だ。」
そして、まっすぐに見つめ返されると男は嬉しそうに割り。
「さて、その線引きは難しい所だ…。 勇猛果敢かただ凶暴か…。まぁ、それを決めるのは俺ではなく回りだからな。」
それは難しいと、小さく呟きその評価を自分で決める事のなんと空しい事かと男は小さく笑いながら酒精の強い酒瓶の蓋を開け一口流し込む。
塔の上の二人をなぜる戦場の残り香に目を細め、周囲を軽く見渡し、他にも引く手あまたと言われれば小さく首を振る。
「ふ、普通の女では怖がって逃げられるばかりだ─。
街場なら娼婦も我慢できるが… 俺は何よりも武の匂いのする女が好きでな。」
そんな言葉を返しながら、男は相手の瞳を見つ、囁くように言葉を返す。
太い腕を持ち上げ、武骨なタコの多い男の手で女の頬に触れようと伸ばし、
相手が逃れなければ頬を撫で、もう片方の手を腰に回し軽く自身の方へと引き寄せようとするう…。
■ナラン > 欲張りというか我儘放題というか
草原を見ながら彼の欲求を聴いている女のほうは、苦笑気味にではあるがまた口元を綻ばせている。
彼が酒瓶を呷ると、酒の香が血の香に混じって漂ってくる。
酔っぱらっている、様にも見えない……風に緩く黒髪を嬲られながら、その姿をじ、と鳶色の瞳が見つめる。
「……そうですか…そうかも知れませんね。自分を称して『狂暴な男』と言われるくらいですから。
―――戦慣れしている女は、貴方を好むでしょう」
武に興じていようと、居まいと
戦場では彼の様に『生き残れる』男を女は好むものだ。
――――たとえそれが、必ずしも自分を守ってくれる事に繋がらなくても。
余りにも武骨な体躯の男が零す囁きが、口説き文句が―――しかもそれが自分に向けられているのが妙に可笑しくて、女はまたくすりと笑う。
…近づいた事で濃くなった、血の香のせいも、少しはあるかも知れない。
頬に伸びてきた節の立った手指を、鳶色の視線だけで追い駆ける。触れた指に撫でられるがまま、視線を彼に上げて―――
しかしその腰に伸びたもう片方の手には、ちくり、と
女が帯に履いていた短剣が、突き付けられるだろう。
「――…仕事中ですから。サボったら、報酬が貰えません」
今や完全に綻んだ女の唇が男に告げる。
夜襲の芽を見逃したら、報酬どころか命の問題にもなるのだが。
■ヒュー > 男の本質は我儘で自分勝手。
ではあるが、苦笑いを浮かべる相手を男は愉しそうに眺めている。
酒はいくら飲んでも酩酊する事は無く、それもまた、男の暇つぶし。
「んむ。 だが、ただ凶暴なだけではないようにしているがな。
そうであったらいいものだが、なかなか難しい。」
相手との穏やかな会話もまた男に取っては良い暇つぶし。
むしろ興がそそられる。
女の頬に触れる掌、包み込む様に撫でてから、中指で目尻を撫でる。
いっそ抱きしめてしまおうと腰に伸ばしたては途中で止まる。
ちくりと感じる短剣の先。
ぷつっと男の皮膚を破り、血の玉が滲む。
「お前さんなら俺がちょっかいを出していてもそんなへまはしないだろう? それに、見張りの仕事は程よくさぼりながらやるものだ…。あとは、互いの妥協点を探すとするか…。」
腰に回そうとした手は流石にそれ以上進まず、ナイフの先端から離れ浮かんだ血の玉をのばす様に女の唇を撫で紅を引く。
「先ずは名前からか? 俺はヒュー。 お前さんの名を教えてくれるか?」
■ナラン > 「――…意外と、複雑なんですね」
只狂暴では在らないようにしている、と
聞いた女は訝し気に眉は顰めるが、唇は面白がるように綻んでいる。
男の武骨な感触そのままの掌が滑って、中指が目尻に触れると、鳶色の瞳は男を見つめたままほんの少しくすぐったそうに瞳を細められる。
――――ふつ、と
皮膚を破った音さえ聞いたかもしれない。血の香が一瞬鋭く香って、女は唇を噛む。
男のもう片方の手に赤い跡を付けた刃は、そのまま進めも引きもしない。
じ、と鳶色を彼の隻眼に据えたまま。
また頑なになった、口元で
「買い被りです。……気を付けていないと、あなたの『ちょっかい』に気を取られてしまうくらいには」
妥協点、という男の瞳を見上げたまま…
唇に紅が乗る。
びく、と慄きのようなものが女の背に走ったのは、彼の隻眼に捕らえられたかどうか。
……ゆっくりと、紅を引かれた唇から吐息を、零して。
「……私は、ナラン と言います」
すぐそこにある血の香。
男に名を告げた後すぐに顔を反らし、手の甲で以て紅を拭う。
――――それでもしつこく、甘く漂うものを……そっと、舌で拭って。
「…妥協点は、ありません。
私は、頭が固いので……『程よく』サボるなどという芸当は、持ち合わせていないんです」
喉を通ってしまった甘美なもの。
その、喉に触れながら男を振り返る
―――鳶色の瞳の奥に、紅い光を宿らせながら。
■ヒュー > 「ただ凶暴なだけでは獣だろう? まぁベッドに入れば獣になるのも一興だがな。」
等とからからと笑い、女の目尻を擽り女の表情の変化を楽しんでいる。
男の手の皮膚を破る感触に唇をかむ相手、頑なに閉じられた唇を血のついた指で拭い女の唇に紅をさす。
「ほうほう。 それは男として喜ばしい一言だ。」
気を取られるという言葉に男は愉快そうに口角を上げ哂い、顔を逸らしての香で己の血を拭う女の様を見つめれば晒される項。頬からその場所に指を滑らせ擽るように撫で…。
「ナランか、良き名前だ。
妥協点は無しか…。 では見張りに務めるといい。ちなみに、交代まであといかほどだ?」
さて、どうするかと思いながら女を見ていれば飛び色の奥の紅い光。
抑えようとしていた感覚が滾る。
熱のこもった眼でじっと女を見詰めながら男はゆっくりと口を開き囁きかける。
「だがな、ナランがいい女過ぎてな…。 ナランを食らいたい。
仕事終わりまで待つが、これ以上邪魔されたくなければ一度口づけを。 それで俺は何時間でも待てるからな。」
くつりと喉を鳴らす様に、どこか悪戯っぽく笑いかけてから女の唇を奪おうと顔を寄せていく。
■ナラン > 手の甲に付いた紅を一種呆然と見ていると、項へと男の手が滑って、擽る感触に女の肩が跳ねる。
驚いた様に見開かれた瞳で男を振り返れば、愉快そうな笑みをそこに見つけて……こちらもつられるように、笑みを零してしまうんだろう。
用を終えた短剣を再び帯に挟み、その、自分に触れる男の手を少し咎めるように触れる。
「夜明け前までには、交代のはずです。
……相手が忘れていなければ、ですが」
実際、女の生真面目さを当てにしてか、何度か交代要員が来なかったこともある。
そのことさえ律儀に告げて―――続いて男が囁く言葉に、熱の籠った隻眼を見上げる瞳が訝し気に曇る。
―――喉が渇く。
衝動は、耐えられない程ではない。
…今なお血の香を纏う彼が、離れてくれれば、の話だが。
「…物好きな事を言うんですね。私は大人しく食べられるような事はないと、解った上で言ってるんですか?
――――本当に…」
悪戯っぽく笑う男を、心底困惑したように見上げて困った人、と呟く。
彼が顔を寄せてくる間、女は逡巡の視線を彷徨わせて。
「…約束は、守ってくださいね」
焦点が合わぬほどに近くになってから零した女の唇が、男の唇に触れるだろう。
それも一瞬の間
すうと、女は後ろへと離れて。
「―――行って下さい」
女は我知らず瞳に紅い光を宿したまま
頑なな形へと戻った唇で、男へと告げる。
■ヒュー > 血に対して何か思い入れがあるのか手の甲についたそれを呆然と眺めている女を眺め、擽るうなじ。
ぴくんと体を震わせるのを楽し気に見詰め。
「その時はそいつをぶんなぐって起こして引きずってでも連れてきてやる。」
と、にやりと笑う男。悪戯っぽく握りこぶしを作って見せて。
あえて離れない男。見つめる瞳がいぶかし気に曇らせるのを男は静かに見つめる。
「当然だ。 大人しく食べられるような女だったらここまで待ったりしない。
まぁ抵抗されても食うんだがな。」
困惑しながら困った人と告げられれば愉しそうに嬉しそうに男は笑う。
互いの吐息が感じるほど近寄る顔。
男の唇を撫でる吐息がくすぐったく心地よくもある。
ほんの一瞬感じる柔らかい唇。紅い光を宿したままの女の一言に小さくにやりと笑い。
ようやく相手の身体から手を離す。
そして、体を離すと男は摘みの袋をひっつかみ一歩後ろへ、そして、階段の傍の開いたスペースに腰を下ろすのだった。
「あぁ 朝焼けをナランと見ながら飲むのも楽しみだ─。」
等と、悪戯が成功したとばかりににやりと唇の端を持ち上げ女に笑いかけた。
■ナラン > 交代要員を引きずってくるだの、抵抗しても構わないだの
好き勝手に言う男を、困惑に寄せた眉と呆れてぽかんと空いてしまった唇とで出来た表情で見遣る。
―――まるで、聞き分けのない大きな弟、みたいな
次にはふっと、女の頑なだった唇が笑み零し、鳶色の瞳が細められるんだろう。
―――それがまた、彼が階段の端で腰を下ろすのを捉えて見開かれるまでは。
「―――…ヒュー、さん…」
はー、と吐息。
眉間を指でもみほぐして……結局は、男に笑いかけられれば、微かな笑みを返して見せる。
「……邪魔しない、という約束は、守って下さいね」
そうして、くるりと背を向けて
また生真面目に、草原へと注意を戻すのだろう。
―――渇きは、暗闇を見通す瞳に紅の光だけを残し、何時の間にやらくすぐったい様な笑みと一緒に薄く霞んでしまった
――――彼と居るのは、嫌いじゃない
女が内心、意識したかしないかは定かではないが、草原を見つめる口元は今や僅かに綻んで
…そうして夜明けまでの間、次の戦までの合間に
生真面目な女と聊か享楽的な男との間にどんなことがあったのかは
月か、朝焼けかが知っている、事で
ご案内:「タナール砦」からナランさんが去りました。
■ヒュー > 女をあきれさせた男。
そういいながらも頑なな女の唇が浮かべる笑みはまた楽しく。
まさか聞き分けのない大きな弟等と思われているとは露とも知らず。
こちらを見詰めて眉間の皺を解す様子を見れば、男は酒瓶を軽く掲げ。
男は働く女の背中を飽きもせず、眺めながら酒を煽りつまみの干し肉を味わっていた。
ご案内:「タナール砦」からヒューさんが去りました。