2020/04/08 のログ
ご案内:「タナール砦」にアルヴィンさんが現れました。
■アルヴィン > 日も暮れ果てた街道の行く手、黒々とした影を聳えさせるあれが、砦であろうと、騎士は軍馬の背に揺られつつ視線を馳せていた。
黒く巨大なその影はいつくもの篝火を設けて闇の中に自らの影を更に色濃く落としている。
行軍の先頭で、砦に向けて到着を告げているのは、この補給部隊の隊長だった。
補給物資輸送の護衛。
それが、今宵の騎士が受けた依頼だった。
目的地はタナール砦。魔族との闘いの最前線であるという…。
聖騎士の退魔の力を見込まれて、是非にとギルドから指名されたとあっては、なかなか断るには難しい。そうして騎士は、ギルドの厩に預けていた黒鹿毛の巨躯を誇る軍馬と共に、こうして補給物資輸送の護衛の任についたのだった…。
部隊へと向けて、砦の扉、頑丈そうな落とし戸が上げられ、それと共に跳ね橋が下りた。これで、部隊は堀を渡れよう…。
松明の匂いが届く中、騎士もまた部隊の殿につきながら、ゆっくりと蹄を鳴らして軍馬に跳ね橋を渡らせてゆく…。
■アルヴィン > 砦の中は、流石に張り詰めた空気が満ち満ちていた。
騎士は、そういう空気が決して嫌いではなかった。誰よりも平和を愛し、呑気に長閑に融通無碍でありながら…やはりこの騎士は“武人”であったのだ。
剣に生き、武の道に生きてこそ、滾る血が間違いなく騎士にはある…。
松明の萌える匂い、鉄と革、武具や皮革を手入れするための脂の匂い…。戦場ならではのそういう匂いが、決して嫌いではなかったのだ。
「よぉしよし…」
騎士以上に逸り猛る悍馬の鬣を、騎士は手袋をした掌で優しく弾ませるように撫でてゆく。逸るな、落ち着け、と。その柔い手つきで宥めてゆくが、久方ぶりの“前線”の気配に、どうやら騎士以上に悍馬が逸りを抑え込めぬよう…。
■アルヴィン > 護衛の任についていた騎士をはじめとした衛兵や傭兵達に声がかかる。ここまで無事に旅路を遂げることができたことへの労いとして、砦の酒保から振る舞い酒が出るという。
補給部隊はそのまま荷下ろしに入り、まだまだ休めるという段ではない。
騎士は、愛馬を厩に預けると、軍装も解かぬままに荷下ろしに汗を流す兵達の許へと歩を進めた。
「この荷は、こちらに持ってゆけばよいだろうか?」
荷馬車から当然のように荷を受け取った騎士は、他の傭兵達の始めた酒盛りに加わる様子も見せず、そのまま荷運び人足のように、運び込まれた荷の片づけに加わったのだ。
■アルヴィン > 変わり者の騎士様だと、砦の兵達は肩を竦めたが、荷運びが捗ることに否やのあろう筈がない。
食料、武具、薬品。
戦争というものはとかく物資を消耗するものだ。
どれほどの物資がここで費やされ、そしてどれほどの命がここで費やされるものか…。
それは、誰にもわからない。
だがせめて。今宵のタナール砦は事もなく時を過ごし、曙光を迎えることができるのだった…。
ご案内:「タナール砦」からアルヴィンさんが去りました。