2020/04/02 のログ
ご案内:「タナール砦」にキリエさんが現れました。
キリエ >  夜、タナール砦、その片隅にて。

「気配はするんだがねぇ………」

 黒衣をまとった女が一匹、不釣合いな場所に足を踏み込んでいた。
 戦場でもあり、人間と魔族の最前線でもある砦である。
 今は、どちらの所有になっていることか。どちらにしても、女は人間でも魔族のどちらかに与する為にやってきたのではない。強いて言うならば、自分自身のためにやってきたのだ。
 戦場という環境は、強い負の感情を発生させる。
 “魔”はそうした環境を、好んで集まってくる。
 それを見越して、砦へとやってきたのだ。丸腰の女一匹、鴨がねぎをと見られるかもしれないが。

「ここか?」

 たどり着いたのは、武器庫らしいところ。最近のものだろうか。赤黒い痕跡が床に散らばっている。
 女は鍵がかかっていないことを確認すると、一気に扉を開けた。

ご案内:「タナール砦」にキリエさんが現れました。
ご案内:「タナール砦」にキリエさんが現れました。
キリエ >  扉を開けて、すぐにわかった。武器庫に閉じこもって応戦していたのだろう、鎧を着込んだ男女の死体だったものが転がっていた。
 死体だった。
 女は襟を正すと、首をこきりと鳴らした。

「死体にとりついたか。容赦はしないぞ」

 死体が、マリオネットのような挙動で起き上がる。
 まるで関節の使い方を今しがた知ったかのような動きだった。だがあっという間に、滑らかに動き始める。
 武器を手に、かちゃかちゃと鎧を鳴らしながら、迫る。

「―――“主よ、”」

 もっとも基本的な、“主文”。それによって、彼女の体は鋼鉄のように重く、風のように速くなる。
 一歩。踏みしめた床に亀裂が走り、顔面で構えた拳にて、鎧亡者の胸元に叩き込む。

「はあっ!」

 亡者はたまらず吹き飛び、壁にぶつかり身悶えた。

キリエ >  数が多い。
 我武者羅な無手勝流のなぎ払いを身をかがめることでかわし、足を払う。
 宙を舞った剣を取ると、倒れこんだ一体の頭部を串刺しにする。
 体勢を整えるよりも早く、亡者の一体が弓を構え、放つ。

「“この身は―――”」

 “主文”、その続きを詠唱する。
 重ねがけするごとに、力は増していく。代償もその分大きくなるが。
 弓矢が放たれる――空中でありえない軌道を描き、別の亡者の頭部に突き刺さった。

「塵に還れ!」

 低く跳ぶ。ワンツースリーと打撃を叩き込み、頭部を腕で刈り取る。
 次。突きを身を回転させるようにしてかわし、肘を叩き込む。身が浮いた一瞬の隙を突き蹴りをお見舞いし、壁に吹き飛ばす。

 そうして、数分立たずのうちに、すべての排除に成功した。

「はぁっ、はぁっ、はぁっ」

 女は肩で息をしていたが、その場で胡坐をかいて座り煙草を咥えた。