2020/03/29 のログ
ご案内:「タナール砦」にジナイアさんが現れました。
ジナイア > 夜の帳が降りて、昼間の温もりが消え去った頃。
争いのために踏み荒らされ、焼かれて、春と言うのに雑草のひとつも見当たらない丘。
佇む砦は、月明かりに照らされてくろぐろと偉容を晒している。
占拠する陣営があるならば篝火ひとつもあっても良い筈のそこは、今は静まり返ってただ黒い影を地面に落としているだけだ。

緩く吹く風が忍び込んで立てる音が響く砦の中、ぼんやりと移動する光がひとつ。
その光に照らされ、窓の少ない石造りの廊下を歩くのは赤銅色の肌に翠の瞳を持った女だ。
何やら焼け焦げて残った灰を踏みながら歩みを進め、被っていたフードを落とせば黒髪が零れ落ちる。

(――――囮、などという行為をするつもりはないが)

岩壁の間、薄く開いている場所から見える外へとちらりと視線をやってから、また足元に戻す。
手にしたカンテラはごく小さく灯りを絞ってはいるが、この闇では目立つだろう。
それでも、頼まれたからには一応砦内を浚ってみずには居れない。

この砦を引き上げる際に大怪我を負った知り合いから、大切な『お守り』を落としたのだ、と。
それを探してほしい、と。
この闇のなか、本人であったとしても、見付けるのは難しいだろう。
――――けれども、あの場でどうしても、頼みを聞き入れずには居れなかった。

本隊は、ここから少し遠ざかった所密かに陣を敷いて居る。
この女が独り、砦に向かったのも織り込み済みだ。

(まんまと、嵌められた気もするな……)

熟れた唇に苦笑が浮かぶ。
何事も起こらなければ、それでよし。
女が独り襲われ、俄かに砦の占拠へと移るならばその相手を急襲し、少しでも相手の戦力を削ぐつもりらしい。

ジナイア > 大体の構造は聞いているし、探してほしい、と言われた場所も解る。
ただ恐らくは防衛のために造られた砦は恐ろしく入り組んで、その場所へと辿りつくにも一巡りする必要があった。

(他に抜け道が、無いものか…)

時折、足元の石畳が不規則な入り組み方をしていると内側へと続く壁を見遣る。

こういう砦は抜け道があるのが定石だ。
総大将やら、賓客やらが居た時にそれを逃すために。
両陣営で奪い、奪われを繰り返されている砦ならば、もう一部は通常の通路と変わらないようになっていたり、逆に罠として残っていたり、潰されたりしているだろう。

――――正直、そういう『探索』を勝手にさせてもらうのが面白そうなこともあって、引き受けた。決して憐憫の情に動かされただけではない。
外の闇の中、本陣の方角へと視線を放った後
その翠の視線を床と、壁と這わせながら、暗闇にぽつんと灯るぼんやりとした灯りとして砦内を彷徨っていく。

果たして、『何か』見つけられたか否か、は
彷徨う女のみが知る事―――――

ご案内:「タナール砦」からジナイアさんが去りました。