2019/10/23 のログ
■アマーリエ > そう。砦の命運を分けるのは何も敵との戦いだけではない。糧食等の補給も欠かせない。
特に現在、一時的に駐留している第十師団の運用においても補給を絶やすことはできない。
過去の事例に従って、第十師団を魔族の国に進出させるという話は時折、思い出したように軍議に上がる。
だが、断固として固辞してきたのは偏にその一点に尽きる。
瘴気の満ちる大気で竜が動けない、飛ばない、そして御者たる騎士達が体調を崩すということはない。
しかし、十全にそのパフォーマンスを保つにはどれだけ戦線を伸ばしても、途切れない補給線が不可欠だ。
不毛の地で現地で血肉を得るには、限界がある。故にこそ、堅実に活動を心掛けているが――、
「……――のらりくらりやるのも、限度があるのよ、ねぇ。
攻撃は最大の防御であるという意見も分からなくもないけど、かといってすぐさま取って返せる範囲の外まで誘い出されるのも厄介だわ」
いつ、せっつかれるか分かったものではない。
この砦を中心をどこまで進出し、安全に帰還できるか。それを真剣に研究すべき頃合いなのかもしれない。
師団中最強戦力での単独進出は経験はあるにしても、真っ当なやり方の帰路ではなかった。
あの経験は色々と今でも思うものがある。薄めたワインを食事の合間に呷って、息をつく。
■アマーリエ > 脳内に保持している通信魔術網で飛び交う言の葉の流れに、ふと意識を向ける。
現状、異常はない。しかし、降り続ける雨の所為で視界が悪い。あと寒い――と愚痴交じりのコトバに思わず苦笑が滲む。
「大浴場は温めておくように厳命するから、心置きなく見張りなさい。怠惰と慢心は敵よ?」
ぽつと零すように呟き、言の葉を通信魔術に乗せて各所からの反応を聞きながら、一先ず食事を食べ終えよう。
腹が重くなる程には食べない。寧ろ、食べきれない。
喰らう時にはとことん喰うけれども、ここは最前線だ。従者を呼ぶでもなく、一般の兵と同じように食器類を戻しに行けば。
「――……! 丁度良いのか、悪いのか。半端過ぎて笑えないわ」
敵襲を告げる声が響く。俄かに緊張が張り詰める中、持ち場に戻ってゆく人の流れの隙間を縫って己も外に出よう。
外が時折雷鳴が響く雨空でも、関係ない。濡れる事も厭わない。
散発的な襲撃かどうかは、此れからの迎撃の結果次第で知れよう。
「どうせなら、大物殺しでも出来ないかしら。もう少し師団に箔をつけておきたいわね」
そう言葉して笑って、竜を呼ぼう。この地に屯している間は砦は抜かせない。そんな矜持と共に――。
ご案内:「タナール砦」からアマーリエさんが去りました。