2019/09/22 のログ
ご案内:「タナール砦」にジナイアさんが現れました。
ジナイア > 漆黒の空に欠けた月が煌々と輝く夜。
幾つもの篝火が灯された砦から少し離れた場所の草原を、歩む人影がひとつ。

砦は今はヒト側のもの。
砦の警護に巡回する歩哨は動く人影にとおに気付いている筈だが、得に咎めも威嚇もない。
昼間の戦の喧噪が嘘のように虫の鳴き声が響く中、人影―――赤銅色の肌に翠の瞳の女は、その気ままな足取りをゆっくりと歩みを進めていく。

女が客人として砦に訪れることもう再三のこと。
こうして夜昼構わず、好奇心の赴くまま外を徘徊するのも再三のこと。

(…流石に、呆れたんだろうな)

女は砦を振り返り、歩哨が手にしているのであろう揺らぐ灯りを見止めてから、その熟れた唇に笑みを作る。
してやったり、とも、我ながら呆れる、とも思いながら。

ジナイア > ざあ、と音立てて風が丘を渡っていく。
吹き散らされる黒髪を抑えながら、女の翠の視線は砦の反対方向を見やる。

魔族。
未だ正体も存在も不可思議な相手が、向こうにはいる。
好奇心はそそられるが、この場合は猫をも殺す類のものであろう事くらいは解る。

リーリーと喧しいくらいの虫の音に取り囲まれながら思いやって、二つほど瞬きをしてから
少しがっかりしたような溜息が、その唇から零れ落ちた。

(叶うなら、ゆっくり言葉を交わしてみたりしたいものだが…)

時折ヒト側へ捉えられる者は勿論いるようだが、流石に近寄らせてもらえない。
――――大体、争いの場にあって『ゆっくり言葉を交わす』など、ヒト同士であってもあまりない事なんだろう。