2019/08/06 のログ
ご案内:「タナール砦」にリヴィアさんが現れました。
■ディール > 魔の血として騒ぎ立てるものが無い訳でもない。
が、医療現場には凡そ相応しくもない煙管。其れを口に加えて衝動だけは押さえ込んでいた。
次の患者が来るまでのほんの一時、ほんの一服だ。
苦痛に呻く声が聞こえてくるが、出来る事は既に処置した後。
――出来る事は何も無い。中身の無い、がんばれ、という声など掛ける人物でもない。
「――全く、どちらかが引けば良い物を。
どの道とって取り返されが続くならば、死傷者を悪戯に増やすだけだろうに。
……っと?」
煙管をくゆらせていたが、患者が来れば別だ。
失血、と声のある方へ顔を向ければ女傭兵。珍しいと言えば珍しい。
片方の眉を上げた後、立ち上がろうとする相手を片手を挙げて制する。
「其の侭でいたほうが見やすくはある。――それだけ喋れるならば大丈夫か。
こっちに来い。――処置には処置の為の道具と薬草が必要になる。」
そういって示したのは、先程まで他の騎士が横たえられていたベッドだ。
最低限シーツだけは交換されているそこに女傭兵――だろうか?彼女の手を引き、ベッドの上に腰を下ろさせる。
「傷口に薬草を塗るが染みるぞ。」
■リヴィア > 「構わない、痛みは平気だ」
およそ可愛げのない言葉遣いだが、傭兵として腹を括った元騎士であれば致し方ない。
医者にしては鋭い気を纏っている相手を、一瞬兵士か何かかと誤認しそうになった。キセルの匂いを深く吸って、前線が遠のいたことを改めて実感する。
促されるままベッドに横たわり、白い肌を相手へ晒す。鍛えられた身体ではあるが、はっきり目に見える筋肉は乏しかった。しなやかな筋肉は女らしい丸みを損ねることなく、腰のくびれを見せることとなる。
傷口に薬草を塗られたなら、顔をしかめただろう。
「ッ……ぅ、」
びくりと、軽く肩を跳ねさせ、息を整える様子を見せる。
■ディール > 惜しむらくはここが戦場で無ければ。或いは己が今回、真っ当な目的で来ていなければと思える程に整った顔立ちの女。
ベッドに素直に横たわる相手だが――鍛えられているがしなやかな、猫を思わせる猛獣染みた体。
傷口には薬草――止血効果と幾分かだが体力回復の作用がある薬草。
これを混ぜ合わせたペースト状の物を塗りつける。
「痛みが平気だと嘯くならば、もう少し反応を抑えるべきだな。
別に傷の処置が終わって前線に戻るのを止めはしないが。
――命を廻せ。傷を塞げ。」
短い詠唱にて。彼女の内面から体力が消失して傷口を塞いでいく。
実際には薄く皮膚を貼り直す程度の回復量だが――それでも動かなければ見た目上は傷が塞いだように見えるだろう。
回復魔法の代償は彼女自身の体力が奪われる事。
――人によってはそれは眠気とも、脱力感とも言える。それが彼女を包み込み――。
そして薬草のペーストの上から包帯を巻きつけ、締め付ける。
薄皮を貼り直した後である以上、薬草の効能自体は後は体力の補充程度。
「戦は今日1日で終わらないと見るが?今は身体を休め明日以降の戦に備えるほうを勧めておく。
今の状況で戦えるほど魔族は甘くは無いのだろう?」
■リヴィア > 「……美事だ」
治療魔術に賛美の言葉を送る。
立ち上がろうとしたが、すでに足から力が抜けていた。そもそも死線をかいくぐりこの前線まで無事に逃げ切っただけで体力はかなり消耗していた。
「……貴方の言う通りかもしれない」
魔族の力を侮るほど愚かではなかった。
立ち上がり、せめて医者の治療の邪魔にも、ほかの仲間の邪魔なもならない場所へ移動しようとするが、術の副作用でまだ力が入らない。
少し眠そうに首を振って、息を吐いて。
「……ベッドに、余裕はあるか?」
■ディール > 「あくまで医者だ。神官や高等な回復魔法に比べれば稚拙だろう。
ベッドに余裕はある。――回復する見込みのある人間を優先させるからな。
一応だがベッドで休ませる場合名前を聞いておく必要があるからな。
俺はディール、まぁ医者だ。」
ベッドについては潤沢とは言えないまでも、空きはある。
其処に横たわらせ――眠りに落ちる頃合を見計らい、より深い眠りに落す魔法を掛けて肉体を愉しむのも――今の、この状況。今回の内実が無ければ検討していた。
流石に目的が他者の目を誤魔化す為の軍医としての行動で。
――ここで凌辱。或いは医療ではない行動で精を漲らせていればどうなるか。
それは言うまでもない。――顔立ちも体のラインも女性的であり。
目の前の獲物が上等である事から忸怩たる思いと言うのはあるが――。
「傷の直り具合によって後方。まぁ街や村、王都に搬送される可能性はある。
その場合に備えて置かねばならないからな。」
そうなれば――どうとでもなる。自分も付き添いの名目で後方に下がれるのだから。
■リヴィア > 一瞬、自分を見る相手の目線にぞくりとするような熱を見た気がした。
それは束の間の幻で、気のせいと思って仕舞えばそれまでには違いない程度のもの。
「リヴィアだ。……大した名前じゃないが」
そう名乗りを終えて、深く頭を下げる。
「ディール先生。……世話に、なる」
後方支援も特段不得手でもない。
だが前線に出た人間が今更後方へ下がるのは不名誉には違いなかった。
少し、自分の身体を見下ろす。無理にでも前に戻ろうとした。
だが、体はそれに答えることはなく、脱力に近い動きをしたままで。
しばらく経ってから、リヴィアの上官が様子を眺めに現れ、後方での支援を命じただろう。力の弱い流れ者の女傭兵より、地位の明確な若い兵士の治療を優先させる指示だった。
まだ身体の調子の戻らないリヴィアの尻を叩いて布団から追いやり、後方支援へ回るよう命じた。
リヴィアはそれに従ったが、医師ディールが彼女に付き従ったかどうかは、預かり知らず。
ご案内:「タナール砦」からリヴィアさんが去りました。
■ディール > ――どの道。己が表舞台に立つのはほんの1日だけだ。
後方に下がるのはほぼ彼女と同じタイミングだっただろう。
故に。砦から程近い後方拠点で彼女と再会を果たせる可能性は高いだろう。
「名に貴賎も無い。リヴィアか。」
名前は。不幸にも覚えられてしまった女傭兵。
表舞台に戻れる日が来るか否かは――この後の、運命次第といった所か。
ともあれ、もう少しの間。軍医としての活動は続き――翌日、無事に後方に下がる己と。
――不幸にも彼女もまた、後方に下げられている姿が確認されていた――。
ご案内:「タナール砦」からディールさんが去りました。