2019/03/23 のログ
ご案内:「タナール砦」にロズさんが現れました。
ロズ > ――ゴパァッ!

変化は突然にして訪れた。砦にほど近い丘陵、その荒らされた丘の一部が盛り上がったかと思うと、
その下から板屋根を押しのけて2mを越す巨躯の魔族が現れる。

「ガハハハハハ! 愚かなり人間! このような策に嵌るとは滑稽の極みよ!」

白い鬣を生やした獅子頭の巨人は大剣をぶるんと振るって勝ち誇る。
そして板屋根の下――深く掘られた堀からワラワラと魔物が這い出し、砦へと進軍する。
火事場泥棒。そんな言葉がぴたりとくる光景だった。

ジナイア > 「!なッ―――」

轟音と共に、唐突な軍勢の出現。
女は軽く目を見開いて、瞬時に状況を思いやると腰の後ろの獲物に手を掛けながら顔を顰めた。
明らかに援軍などではなく、魔族の側の軍勢。
了解するやいなや、女はそれらが進軍する先へ、疾駆して行った。

(――だから手薄過ぎると言ったんだ)

そう、忠告をした隊長と――それを確認してしまった自分と、こうして手を出して――関わってしまおうとする自分に内心舌打ちをしながら――

「行け……」

軍勢の尖峰へ疾駆する足は止めず、指輪の魔神に鋭く囁く。
――――と、女の足元から亀裂が走り、軍勢の尖峰へと暗い穴を空けて迫っていく!

ロズ > ピクリ。魔物と共に疾駆する獅子頭の耳が動いた。
次いで赤い双眸を動かして人間の姿を発見する。だが遠い。この距離ならまだ――

「総員停止! 魔法だ!」

激を飛ばすも暗い穴は無慈悲だ。
全速に達していた魔物共は事態の把握をする間もなく、麦粒のように穴の底へと落ちていく。
グルルルルル。逸早く気付いた自身といくらかの小者が残る有様だった。唸り声を上げながら振り返る。

「貴様アアアァァァァァーーーーーッ!!」

怒髪天を衝く。発した咆哮は衝撃となって辺りに立ち込めていた砂煙と雨粒を散らした。
一瞬のクリアな視界の中で殺意を剥き出しにした視線をかち合わせる。

ジナイア > 首尾よく小物は払い落とした。
そのことに安堵などする隙もなく、向けられた咆哮がびりびりと身を震わす。
紅い視線を翠の双眸で押し返し、疾駆する足は止まらない。

「!く……」

砂煙と雨粒に目を眇めながら、疾駆したままあと数10歩という所で女の右手が翻った。
次の瞬間、刃付きの三節昆の切っ先が、ひゅ、と軽い音を立てて巨人の片口へ落とされる!
まともに食らえば、その割れた逆刃は深々と刺さって容易に抜けないだろう――

ロズ > 近づく人間の姿。大きくなる。女か。素早い。

「コウッ」

吐き出した空気を一息で肺腑に取り込む。同時に振るわれた大剣が三節根の切っ先を弾き。
カツンッ。勢いとは裏腹な軽い音。その勢いを過不足なく殺した。
視界はクリア。時間は一瞬で十分。曇っていれば危うかった。

「フンッ!」

次いで繰り出される返しの一撃が。近づく女の肩口へ落とされる。まずは一合。

ジナイア > 切っ先が弾かれる感覚に眉を顰める。
間髪置かずぐいと腕を引けば、ぐるんと周回して己の片口を狙った刃に当たる。

ぎぎぃん!

軽いものと重いものが擦れ合う音。
防ぐことなど到底できない。
故に相手の切っ先の方向だけ逸らして身を躱すと、そのまま周回させていた刃をさらに左腕で振るった。
刃は下から巨人の顎を狙って風を切る――

ロズ > こちらも弾かれた。否。いなされたか。
沸騰していた頭が冷える。煮えた頭で戦える相手ではない。

ズサッ!

下からせり上がる刃。狙いは顎か。上体を反らして回避しつつ女の胴体に蹴りを見舞おうとする。
音は顎鬚を刈られた音だ。生半な牙や爪ならば通さない自慢の髭だった。

ジナイア > 白い顎鬚が散る。そうして顎を狙った撃が躱される――狙い通り、上体を反らして。
女は放った刃を先に瞬時に三節昆を一つ槍として接合する。

「――ィヤァッ!」

そうして柄の方を高跳びの棒の如く操り、自身を翻して更に顎を狙った蹴りを放った。
振り上げる威力は巨人に対するには小さ過ぎ、恐らく当たっても大した衝撃はない――靴裏の鉄板が、骨に振動を伝えるくらいか。

ロズ > いや、効果はあった。仰け反った体に追い打ちをかけられて無様に尻餅をつく。
ズズン。手が不可思議な動きで泳ぎ。巨躯らしい重たい音を立てて、だ。
それでも尚、頭の高さは女よりやや低いくらいか。

「ムググ、骨に響くな――プッ」

折れた牙を吐き出しながら、宙を泳ぐ女の足を獅子の膂力で掴みにかかろう。
そして掴めたならば後方へと放り投げる心算だ。

ジナイア > 「!ぅわ……っ」

実は男が倒れなければ、その肩に掴み掛かって鉄板入りの靴底で以て顔面を蹴りつけようとしていたのだが――
あっさりと倒れこむ相手に一瞬気を取られ、呆気なく足を掴まれて放り投げられた。

「…っ…と」

何とか受け身を取り、ごろりと転がって三節昆に戻した刃を構えながら立ち上がった。
―――そうして、少し首を傾げて

「……砦を占拠するにはその手勢では足りないだろう?
どうだ?出直すというのは……」

からかう口調でもなく、淡々と、巨人に向かって静かな声を。

ロズ > 「ガッハッハ! 猫のような女だな!」

放り投げた女の軌跡を見物しながら顎をさする。
静かな声には尻持ちを突いたままでくぐもった笑い声を響かせる。

「ウウム。致し方あるまい。
 だが、何の手土産も無しでは、退けん」

再び不可思議な動きで泳ぐ腕。
さて、その手勢の半分はどこにいる?

ギャギャアッ!

女の背後に奇声を発して飛び掛る4匹の小鬼。
命じられたことは『四肢を拘束せよ』、である。

ジナイア > 手土産、の言葉に片眉を跳ね上げる。
と、背後に迫る子鬼の気配――振り返る間もなく、瞬間、四肢を掴まれるが

ぼん!

と音を立てて一瞬女が炎に包まれた。
そのまま炎は風に舞って女を取り巻く。
子鬼たちに目鼻があるならば本能で放さざるを得ないだろう――

「…ごほっ」

苦しげな咳き込みが聞こえる。この竜巻、女の方も唯では済まないらしい……

ロズ > 「――フム、痛み分け、ということだな。十分である」

策が嵌ったと確信した矢先に、炎に炙られて転げ回る小鬼。
そうか魔法かー。あったなそういやー。すごいの使ってたなー。
額を手で覆って重々しく項垂れた。

「我輩の名はライオット。貴様の名を聞いておこう」

のっそりと立ち上がりながら問い掛ける。

ジナイア > 問いかけられれば、その調子に余り敵意は感じられず、炎の竜巻は収まって行く。
現れる、ちょっと煤けた女の姿。

「――私は『ジナイア』という。
…断っておくが、王国側と言うわけではないからな。
今日は成り行きだ…」

相手が魔族だろうと人間だろうと、本当は他国の事情に首を突っ込むつもりはない…
しれっと言ってから、げほごほん、と咳き込んだ。

ロズ > 「何?」

それを聞いた獅子頭の眼がまん丸に見開かれる。
がぱりと大口が開いたのはその直後だ。

「ガハハハハハハ! 成り行きで軍勢に楯突くか! ガハハハハハハ!」

腹を抱えそうな勢いで爆笑し、衝撃で小鬼が更に転がっていく。
女の煤けた姿が間抜けだったからではないが、俺は愉快な気分だった。

ジナイア > 爆笑する巨人。その衝撃に黒髪を嬲られつつ、女は憮然とした表情をした。

「…大体、こうした争い事なんてそんなものだろう?
きっかけなど大した事なくとも、最中は熱中してしまう」

それはおそらく、大凡策と言うものを捻らない女独自の考え方であろうが。

「…キミだって結局、『成り行き』でこうして退こうとしているのだから、同罪だぞ」

ぶっきらぼうに零して、相手にせめてもの意趣返しを。

ロズ > 「…そうであるな。それが戦士だ。
 戦いの最中では恐れを忘れて戦う者こそが戦士」

寂しくなった顎を擦りながらくっと牙を剥いて笑う。

「ならば同罪相憐れむとしよう。戦士ジナイア。次はこうはいかんぞ」

この調子ならば二度目三度目の成り行きも有り得るんじゃないか?
マントを翻して背を向ける。ぐずぐずしていると王国の軍が戻ってきかねない。

ジナイア > 「楽しみにしているよ……」

牙を向く巨人に、女は翠の双眸を細めてうっそりと笑って見せた。

「…その内、『成り行き』でキミの味方側で戦うかもしれないしな」

身を翻す巨人を、軽く両腕を組んで見送る。
中々に気分が良い。
勝ったからではなく、そういう相手と交わせたからだ。

「…またいつか」

ロズ > 「ああ、またな」

振り返り様に見せた笑みには人間臭さが漂う。

そのまま、火傷を掻いている小鬼を引き連れて丘陵を後にした。

ズシ。ズシ。ズシ…。

足音だけが重く響く。

ご案内:「タナール砦」からロズさんが去りました。
ジナイア > 巨人の姿が消えるまで見送って…一つ溜息をついて、乱れた黒髪をなでつけた。

「……さて」

己もこの先、向かう先では砦ではない。
戦地に亀裂を残したまま、吹き荒れる風の中ひっそりとその場を後にした。

ご案内:「タナール砦」からジナイアさんが去りました。