2019/02/02 のログ
ご案内:「タナール砦」にギュンター・ホーレルヴァッハさんが現れました。
■ギュンター・ホーレルヴァッハ > 魔族と人間が奪い奪われを繰り返すタナール砦。
今宵も、侵攻というには小規模だが、小競り合いと呼べる程少なくは無い数の魔族が砦に押し寄せていた。
対する砦側の戦力と言えば、兵士達は砦に籠り弩弓や砲台から射撃砲撃を繰り返すばかり。砦の外周に布陣している兵士の姿は無い
正確には、砦の正門前にのんびりと立ち尽くす少年が一人。攻めよせる魔族の群れを眺めながら、呆れた様に溜息を吐き出した。
「…兵力が足りないまでは仕方ないとはいえ、司令官が逃げ出すとは流石にどうかと思うがな…。王国の正規師団が駐屯していれば良かったのだが」
魔族の襲撃が報告された時点では此方も退避する筈だったのだが、鮮やかと言わんばかりの素早さで指揮を執るべき司令官――確か、何処かの貴族のボンボンだったか――が逃げ出してしまった。
右往左往する兵士達を見かねて、砦の防衛を請け負ったのだが――
「なるべく汚れない様に済ませたいものだ。着替えるのも面倒だしな」
練り上げた膨大な魔力を構築した術式へと流し込む。
魔術が発動すれば、見渡す大地が鈍く輝き、湧き出る様に現れるのは多種多様な召喚獣の紛い物。
攻めよせる魔族の群れとほぼ同数の従僕を召喚し、満足そうに眺めて一言。
「蹂躙しろ」
かくして、召喚獣と魔族との会戦が始まった。
■ギュンター・ホーレルヴァッハ > どうやら、攻め入る魔族は少数の群れが連合を成したものらしい。
ゴブリンだのオークだの獣人だの、様々な魔族が固まっている姿が見える。流石に指揮官クラスは中位、或いは上位の魔族かも知れないが、魔族の数から見て大した敵はいないだろう。功を焦った群れの独断かも知れない。
「…張り合いが無いな。とはいえ、流石に本腰を入れた侵攻では単独で迎え撃つなんて蛮勇を張る事も無いが」
大して、此方が召喚したのは様子見の雑多なモノ。敵がどのような戦術を取るのか。どのような規模か。どんな魔族が存在するのか。人型、獣、巨人から有翼獣まで、様々な種類のものを視界に映る敵と同数程度召喚し、その損耗具合から次の手を考えるつもりだったのだが――
「このままいけば、追加も要らぬか。些か過剰過ぎたかもしれんな」
グリフォンが大地を焼き、巨人が魔族を吹き飛ばし、騎士の群れが長剣を振るう。
蹂躙せよ、との命令に忠実に。感情を持たない紛い物の生物達は敵を屠っていく。
魔族の群れが比較的低位の種族で構成されていた事もあり、単純なスペックで勝る己の従僕達は、無傷とは言わないまでも有利に戦闘を進めていた。
ご案内:「タナール砦」にルキオラさんが現れました。
■ルキオラ > 魔族と召喚物の質量がぶつかり合う白兵戦の戦場。
戦いは人族側の有利に進んでいたが――
突如として司令を務める少年貴族に超高速度で高密度の魔力弾で迫った。
意識を白兵に向けさせての司令官の狙撃が狙いだったらしい。
凶弾が命を奪うかと思われたが――別角度から同等の超高速度の弾丸がそれに命中。轟音とともに跳ね返される。
「やあ。どうも。お互い苦労しますな~。こんなところに残されて」
体長二メートルほどの石製ゴーレム――と、その肩に乗った小人が二つ目の弾丸が訪れた方向から現れる。
振る手からは煙が上がっている。おそらく跳ね返した弾丸を撃ったのは彼なのだろう。
もともとの司令官に雇われていた錬金術師ルキオラであった。
逃げるチャンスを逃して、錬金術を行使して戦うハメになっていたのだ。
■ギュンター・ホーレルヴァッハ > 己の直ぐ側で起こった攻防。
耳元で響く轟音に表情を顰めつつ、投げかけられた声の主へと視線を移す。
「…ふむ?砦の魔術師にしては随分と小柄だが…まあ良い。我が身の危機を救った事には感謝しよう」
弾丸が跳ね返されてから何が起こったのか気付く程度には慢心していたが、命を救われながら寧ろそれが当然と言わんばかりに横柄な口調で言葉を返す。
「して、貴様は取り合えず味方という判断で良いのかな。貴様の言葉を聞く限りでは、砦の居残り組という点では同じ境遇の様だが」
元より戦況は有利。更に、遠距離からの狙撃を撃ち返す程の魔術の使い手の登場。
ともなれば、この小人が敵でない限りは最早戦場に目を向ける必要も無い。怪訝そうに首を傾げながら、随分と寒そうな姿の小人に言葉をかけるだろう。
■ルキオラ > 「味方味方! あたくしはしがない錬金術師のルキオラです。
あなたはホーレルヴァッハ卿のご子息ですよね? お噂はかねがね~
まさかこんな場所であいさつすることになるとは思いませんでしたけど~」
さっさと逃げおおせた元・司令官に雇われて、あわよくば自家製ゴーレムなどを売りつけてやろうなどと思いつつ逗留していたこと、
普段は王都でアトリエ開いてる一市民なんです、などと個人的なことも含め早口に説明をする。
「……今の一発結構消耗激しかったし恩に着てくれていいんですよ? 即座の弾道計算とか推進力確保とか。
第二射は来る気配ないですねえ。ワンチャンやれるかなって程度の期待だったのかな」
本当に消耗が激しいのかサボりたいだけなのか、軽口を叩きながらギュンターの召喚物の影に隠れてそれ以上目立ったことはしない。
額に手を当てて遠くを眺める。ルキオラの言うとおりその兆候はない。
■ギュンター・ホーレルヴァッハ > 早口で捲し立てる小人の説明に耳を傾けつつ、その名を聞いて納得した様に小さく頷いた。
「ルキオラ、と言えば確か錬金術師の…そう、ルキウスとやらの使い魔であろう。噂は小耳に挟んでいる。
私は…まあ、知っているのなら名乗る事でも無いが。貴様の言う通り、ホーレルヴァッハ家が嫡子、ギュンターだ。良きに計らえ」
街の噂、というよりは商人のギルドや組合、商会で耳にした噂ではあるが。
小人の行使した魔術の腕と、ゴーレムの存在が繋がり、僅かに浮かんでいた警戒心も取り敢えずは掻き消えるだろう。
「恩に着て欲しいのなら、それを口には出さぬ事だな。とはいえ、礼の一つくらいはしてやっても良いが。
……ふむ、そうだな。まあ、砦を攻め落とすにも過少な戦力だ。先程の一撃が、起死回生の一手だったのだろうよ」
グリフォンや巨人――擬き――は、既に敵陣の奥深くまで進攻して暴れまわっている。
彼の言葉に頷きつつ、召喚獣達に蹂躙から殲滅戦への移行を思念で指示した。
「さて、ルキオラよ。命を救ってくれた事には改めて礼を言おう。その功に見合った褒賞はくれてやる。幾ら欲しいのだ?」
遠くを眺める小人を眺めながら、再び首を傾げる。
今度は猜疑心を浮かべる事もなく、純粋な疑問の形としての態度であるだろう。
■ルキオラ > 「えへへ~名前を知っていただけていたとは光栄の至りです。
ヒヤりとすることもありましたが楽に終わりそうですねえ。
勝てる戦でトンズラこいたかの貴族様は大損だ。
いえもちろんギュンター様のお力あればこそなのですけれども!」
ぺこぺこと頭を下げながらおべっかを吐く。
実際ルキオラがこれ以上術を行使しなくても戦況は問題なさそうだった。
のんきにゴーレムの肩の上に寝そべり始める始末である。
「腹芸が苦手なんですよ。この通り腹丸出しですし。
褒賞……褒賞のおしはらい……うーん……お金……カラダ……」
たいして期待もしていなかったのか、あっさりと言われて首を捻る。
微妙に不適切な単語が口から漏れた。
「じゃあよければあたくしの腕を見込んで今後お取引してくださいよ~。
ポンと大金だの渡されて終わりよりはそっちのほうがよさそうです」
にこやかにそう提案する。
■ギュンター・ホーレルヴァッハ > 「噂程度ではあるがな。有能な人物の情報は貴様が思うよりも出回るのが早い。それだけの事であろう。
……いやまあ、特段否定する訳でも無いが、私は余り過剰な世辞は好かぬ。其処迄気を回さなくとも良い。そういうものは、逃げだした奴らの様な貴族にすることだ」
流石に、おべっかや世辞の類で気を良くする程傲慢になった訳ではない。自分の年齢と性格もあるかも知れないが、そういうのを向けられるのは好みでは無かった。
とはいえ、好みでは無いだけだし彼も悪気がある訳でもなさそうなので、僅かに肩を竦めるに留めるが。
「ほう、中々に小気味よい事を言う。大道芸人としてもやっていけそうだな。
……金では無く奴隷が欲しいのか?流石に、そこまで施してやるつもりはないが」
僅かに聞こえた不適切な単語は、違う意味に捉えたらしい。
呆れた様な視線を向けるが、その視線は彼の言葉を聞いて僅かに色を変える。
「ほう?取引するのは構わんが、それは私の役に立つ事が出来るとの自負あっての事であろうな?仮にも王族と取引しようと言うのだ。生半可なモノでは、取引などせぬぞ?」
愉快そうに笑みを零しながら、彼にじっと視線を向ける。
それは逆に言えば、此方の役に立てる【商品】があれば金は惜しまないというニュアンスも含まれているが――
■ルキオラ > 「あ、そうなんです~? 高貴な方ってのはご機嫌取らないと途端に癇癪起こす
面倒くさい生き物が多いものでしてつい~。こりゃ見誤りましたね失敬失敬」
過剰な世辞、という指摘を否定せず朗らかに笑う。いい性格である。
呆れたような眼差しにもめげず、口上を並べる。
「奴隷は管理が面倒ですからね~行きずりの関係がいいです。一夜限りぐらいの。
そうですねえ、まあ無難なところだと、軍事転用もできるゴーレムとかポーションとか」
ケーンを取り出して指し示した方向には、ギュンターの召喚物に混じって戦っているルキオラ謹製のゴーレムがいる。
とはいえ召喚物に比べて目立って優れた戦力を有しているわけでもなく、魅力的に映るかどうかは怪しい。
「あと権力者サマの好みそうなところと言えば――」
トコトコトコ、とルキオラの乗るゴーレムが図体にしては小さな歩幅でギュンターに近づいて少し屈む。
その肩にいるルキオラとギュンターはちょうど目線が合うだろう。
「ん~、不老不死の研究、とか?」
ニヤ、と口元に弧を作る。
■ギュンター・ホーレルヴァッハ > 「別に不機嫌になった訳ではない。それ故に、謝罪をする必要も無い。私が些か面倒な気質なだけだ。気にするな」
謝罪は要らない、と言いつつ、彼も悪いとは思っていないだろうと軽い口調で言葉を返す。
「…貴様の体躯でその言葉を聞くと違和感があるな。別に構わんが。
ふむ。普通の兵士でも使用出来、制御が容易で、大量に量産出来るのなら興味はあるが……」
そんなものでは無いだろう?と試す様な視線を向ける。
その視線は、此方に近づいてきた彼に向けられたまま、自然目線があった彼の瞳とかち合う事になり――
「……ほう?中々愉快そうな単語が出てきたな」
彼に釣られる様に、薄く、狡猾な笑みを返すだろう。
■ルキオラ > 「なんですか~。あたしにだってそういう欲求はありますよ。高性能なんですから。
おきれいな顔したギュンター様にはそういうのないんですか?」
ぷりぷりと頬を膨らませて怒る素振り。若干あざとい。
交渉の真似事に夢中でゴーレムの指示出しをサボっていたら戦線が破れそうになって
慌てて指示を送り直したりもする。「あっヤベ」とか言ってた。
「あなたも魑魅魍魎はびこる王宮で頑張って大権力握れたとしても
それを振るえるのはよくて数十年。それで満足なんてできないでしょ?
ですが錬金術ってのは生命弄って冒涜するのが得意技!
若い身体、衰えぬ頭脳、永遠の統治! そんなものも実現できちゃう。
何をかくそうこのあたくしめがその実験例なのですよ~」
手を伸ばせば触れられそうな近い位置にいる小人が、とんとんと自分を指で指し示す。
まあ部分的にしか完成してないんですケドね、と小声で付け足して。
「つまるところ完成品としてお出しするためにはパトロン様が不可欠というわけですね」
少年らしからぬ油断ならない表情の彼に対して、小人は歌うように述べ上げた。
■ギュンター・ホーレルヴァッハ > 「ふむ。小人でもそのような欲求はあるものなのだな。いや、生物であれば当然か。
…私か?無論あるとも。とはいえ、普通に抱くのもつまらぬし多忙な身でな。人にけしかける事ばかりだよ」
彼の言葉に漸く戦場に視線を向け、後方で暴れていた巨人を前線に戻す。
念の為、彼と己を守る様に新たに竜人擬きを二体召喚するが、彼が居れば恐らく使い道は無いだろう。
「然り。人間が他種族に劣る最大の弱点は寿命だ。それを克服出来るとならば、幾らでも金を払う者はいるだろう」
自らを差し示す小人を面白そうに口元を歪めて眺めながら、その言葉に頷いて――
「研究費を湯水の様に流し込む井戸が必要という事か。その言葉が真実であれば勿論金は惜しまぬが、それには貴様の実力を知らねばならぬ。不老不死とは言わぬ。難しい事も言わぬ。今此の場で、私に売り込める商品を作ってみせよ。その即興の商品の出来具合次第では、パトロンになってやるのも吝かではないとも」
穏やかな笑みを浮かべたまま。しかしその瞳は宛ら荒野の獲物を眺める禿鷹の様に。口上を述べる小人を静かに見つめるだろう。
■ルキオラ > 「ほー、ふーん、そのお年でそんなこと言える人なかなかいませんよ。興味深いことですが……
あたしを抱くなら“普通”にはなりませんよ? あははは」
にへにへと下世話な話を楽しんでいたが、続くギュンターの要求にはあんぐりと顎を開いて閉じられなくなってしまう。
「はぁ? ここで!? 無茶言わんといてくださいよ仮にも戦場ですよ。
ろくな設備はないわさっきから流れ矢が飛んでくるわで――」
穏やかかつどこか冷徹な笑みに、う、と言葉をつまらせる。
「ああもう。ちょっとギュンター様の血か髪か借りますよ……髪でいいや。
時間は十分いただけます? ほんとは六時間はほしいけど……
あ、見ないでくださいね。エーテルの光に目を焼かれたくないなら」
許諾を得る前に飛び上がって数本ギュンターの髪を引き抜いてしまう。
そしてゴーレムに命じて天幕を広げさせ、素材を回収させてその中に運ばせる。
転がっている土塊。砂礫。敵のウェアウルフの死骸。鎧の破片。
「オドの道よ開け。一なる全から全なる一へ。深淵から本質をすくい上げ天に至れ。……」
天幕の中に広げられたゴミの山がやがて秩序をなし、一つの形を作る。白光が奔る。
そして十分後、天幕から出てきたのは……上半身が美しい少年、下半身が獣の姿をしたホムンクルスだった。
縮尺は、ルキオラと同じ程度の。
ゴーレムの手の上でぱちくりと瞬きし息づいて、ギュンターを見上げているそれの顔は……ギュンターにそっくりだ。
「ふう。どうです? 生命作ってみましたけど……」
そのとなりには超高密度過酷労働でやつれてしまったルキオラもいる。
■ギュンター・ホーレルヴァッハ > 「自分で抱いたところで金になるわけでも無し。欲求を満たすなら、相応に興が乗らねばな。
……クク、確かに普通にはならんだろうな。とはいえ、愛玩用としてだけでも貴様は高値で売れそうだが」
冗談めかした口調で会話を楽しみながら、慌てた様子の小人を愉快そうに眺める。ポーションの一つでも差し出すのかと思って居たが――
「む、それは構わんが……っ、もう少し丁寧に引き抜け。全く、王族の身体を何だと思って――」
僅かに表情を顰めて不平の言葉を上げようとするが、その言葉は途中で掻き消える。
天幕の中に運ばれる材料。僅かに耳を打つ小人の口上。そして、思わず目を背けてしまう程の光量でありながら、神々しさすら感じる白光。
そして、それらを見届けた後、天幕から現れたのは――
「……成程、成程。ふむ、成程。便利なものだと軽くは言わぬ。この短時間で生命を生み出すには、相応の努力と才能が必要だろう。此の短時間で私の要望に応えようと奮闘した努力は認めよう」
自分と同じ顔でありながら、下半身は獣でありサイズは会話を続けていた小人と同程度。
それをほうほうと感心した様に眺めた後、再び彼に向ける表情は至って真面目な――さながら、対等な取引相手と見做した相手に向けるもの。
「王都のヴェルリナス・バンクを尋ねると良い。私の名前を出せば金が受け取れるだろう。取り合えずは20万ゴルド。後は研究成果か進捗状況に応じて追加の資金は手配する。連絡に時間を要する故、二日は時間を置く様に」
唐突につらつらと金の話が続く。パトロンになる、と己が決めた以上、話は早急に、そして確実に進めなければならない。
何か質問はあるか?という様に、彼に感情の灯らない視線を向けて首を傾げた。
■ルキオラ > 「……ありがとうございます」
承認の言葉と取引成立に、短く礼を言う。
無垢な表情を浮かべていた人工生命は、たちまちにその息を止めて崩壊し、
土塊とも肉片ともわからぬ姿になる。
「まあしかしこれは、出来損ないの生命にすぎません。
時間と設備さえあれば、もっとマシなものを造りますよ」
そのさまを冷酷に眺めながら。
憔悴しているのもあるだろうが、先程までの饒舌さは失せていた。
「ええ。十分です。期待に答えてみせましょう、ギュンター様。
……何も問題はないですが、ちょっと頼みが。」
有能にして誠実。偽りなく王の器を持つ人間だ、そう、ルキオラは内心で評価する。
彼に認められたならこのデスマーチも無意味ではなかった。しかし。それはそれとして。
「……キスしてもらえませんか。あたしと」
……ゴーレムの手から彼を見上げて、真顔で。
「ああ、いえ。ちょっと今のでがんばりすぎて、エネルギーが足りなくなりつつあって。
唾液か血をひとしずく分けてもらえると、助かるんですが……
あたしの身体って、そういうのがないと動かないようになってて……」
ギュンターの目の前で、ごろ……と力なくその全身を横たえている。
ウソではないようだが、別にキス以外にも方法はいくらでもあるだろう。
■ギュンター・ホーレルヴァッハ > 力なく礼を告げる小人を眺めながら、相槌の様な短い言葉を返す。
先程までの揶揄いや愉快そうな表情は無い。己を模した小人が崩れ落ちて土塊と化しても、その表情は動かないだろう。
「構わぬよ。此方とて無理難題を押し付けたのだ。今後の成果に期待する」
己を模したモノが崩れ落ちたから、己が損をした訳ではない。
小人は――いや、ルキオラは、此方の要望に最大限応えてみせたのだ。その努力を責めたり詰る事は決してないだろう。
「頼み?金貨ならば砦の中だが………何?」
頼みがある、と告げるルキオラに向けた視線が、その言葉に僅かに驚いた様な色を含ませる。
「…ふむ、原理や構造は良く分からぬが、貴様がそう言うのならそういうものなのだろう。しかし――」
一度言葉を区切り、ゴーレムの手からひょいと彼を摘まみ上げる。そのまま片手で包み込む様に彼を口元へ引き寄せると、己の唇を湿らせる様に舌を出し――
「……王族の嫡男たる私の唾液は、そこいらの金貨より価値があると知れ。その施しを受けるのだから、呑み込んだ分は私に利をもたらせ、ルキウス」
妖艶な、それでいて獰猛な笑みを浮かべた後、そっとその身体を口元へ運び、彼の望み通りに唇を重ねる。
彼が拒否しなければ、口内に含んだ唾液を彼の小さな口に強引に舌で押し込み、嚥下させようとするが――
■ルキオラ > 「ルキウス? はてあたしの名前はルキエルで……あ、いや」
さほどの躊躇もなく手に取られ、ルキオラの身体はギュンターのの影に包まれる。
間近に迫った端正な顔、それに浮かぶ獣性ある表情に、心囚われたように息を呑む。
「んっ……」
己で頼んだのだ。拒むはずもない。
小人の口腔は、少年の舌の先端だけで満たされる。その感覚に反応して、ぴち、とルキオらの小さな舌がギュンターの舌裏を叩いた。
そうして唾液が流し込まれれば、こくこくとそれを飲み干していく。
生ぬるい液体が胃に降りていくにつれ、ルキオラの眼差しにも生気が戻る。
キスが終われば――ぽう、と身体をほてらせ、どこか夢見るような表情の小人がいる。
「……はい。必ずや報います。ギュンターさま……」
ギュンターの手にぺたんと座り込んで、熱っぽい視線で見上げていた。
■ギュンター・ホーレルヴァッハ > 「宜しい。では、研究に励み私の期待に応えよ。私に仕える必要は無い。貴様はただ、受け取った報酬に相応しいと思うモノを、私に差し出せば良い」
ゆっくりと彼を解放し、己の掌で座り込む小人をゴーレムの掌へと戻す。
そして、戦場と砦を交互に一瞥し――
「…どうやら、戦闘も一段落ついた様だな。私は砦に戻る。貴様は好きにしろ」
召喚物に残敵の処理を命じ、コートをはためかせて砦の正門へと歩みを進める。
既に閉ざされていた正門は開かれ、兵士達が勝利の雄叫びを上げているのが聞こえるだろう。
そのまま足元の瓦礫や土塊を踏みしめながら砦へと歩いていたが――
「…私は甘いモノが好物だ。貴様も、多少は砂糖菓子でも食べて甘くなっておけ」
彼の方へ振り返り、さらりと穏やかな表情で何だかとんでもない事を告げた後、再び彼に背を向けて悠々と砦への帰路へついたのだった。
■ルキオラ > 「……ええ。はい。承知ですとも」
冷徹なギュンターの振る舞いに、ルキオラの熱も薄れ、冷静さを取り戻す。
十分な活力を取り戻した小人は、ゴーレムの肩へと戻ることに。
ようやくケリがついたらしい戦場を、ルキオラもあとにしようとして……
「まあ、次お会いするときの研究報告を楽しみに――
ってええっ!? ちょっと! それどういう意味ですか! おーいっ!」
ギュンターの背中に向かって叫んでしまう。顔は真っ赤だ。
何か文字通り、あの若造の掌の上でもてあそばれている……
ルキオラはそう思わざるを得なかった。
「ぐぬぬ……」
それからルキオラの日々のおやつが、ちょっと変わったらしいのは別の話。
ご案内:「タナール砦」からギュンター・ホーレルヴァッハさんが去りました。
ご案内:「タナール砦」からルキオラさんが去りました。
ご案内:「タナール砦」にアケルさんが現れました。
■アケル > 兵士をたんと飲み込んだ城塞と、兵士達が命を削られていく戦場と。
人と魔族の領域を別つ境界線、タナール砦。
おおよそ平和とはかけ離れた場所に――
「ようやく……ようやく着いたのだわ」
ちんまい少女が――女の子が?――たたずんでいた。
フリル飾りも愛らしいドールのようなドレスで、鞄も何も持たず。
その女の子は砦を見上げて、まん丸の目をキラキラと輝かせていた。
「たくさん歩いたわ! 人間の街はこの向こうなのね……!」
戦場のど真ん中を歩いているにしては、衣服にも身体にも一筋の汚れも無い――
端的に言うならば、〝場違いな〟女の子がそこにいた。
■アケル > やがて女の子は、城門の前に辿り着く。
戦時中のこと故に固く閉ざされている門扉を、小さな手が軽く押す。
だが、扉が易々とは開かないことを知れば――
「ごめんくださーい! 門を開けてくださいなー!」
とんとん、と小さな拳で扉を叩きながら、子供特有の高く通る声を張り上げる。
そうしていれば流石に砦の兵士達も、何事かと城壁から城門前を覗き込む。
そして困惑する。門扉を叩いているのは、どうみても小さな子供だからだ。
■アケル > 暫くの間、女の子は門扉を叩き続けていた。
だが、状況が状況だ。兵士達もうかつな判断が出来ず、城壁の上から見下ろすばかり。
「……もー! 誰か開けてくれてもいいじゃないのよーう!」
業を煮やしたのだろう。女の子はついに、扉を叩くのを止めて、城壁の上の兵士を見上げる。
当人としては、キッと睨み付けたつもりかも知れない、だが些か迫力の無い顔の後――
「――お兄様、〝こちらに来てくださいな〟?」
兵士の一人を指さした。そして、愛らしく首を傾げて微笑んだ。
指さされた兵士が奇妙な行動に出たのは、その直後だった。
彼は周囲の同僚に見向きもせず城壁を駆け下り、門扉の内側まで馳せ参じた。
そして独断でかんぬきを外し、門を内側から押し開けたのだ。
「まあ、ありがとう! あなた、とっても親切なのね!」
ほくほく顔で女の子は、開かれた門の内側へと入って行く。
■アケル > 「ふー……やっと入れてもらえたわ。お疲れ様」
城門を潜った女の子は、かんぬきを外したまま立ち尽くす兵士の前に立った。
すると兵士は恭しく頭を垂れ、低くなった頭を女の子は軽く撫でた。
だが、すぐにも新たな兵士が寄ってくる。
当然だろう。何者とも分からぬ相手の為に、兵士の一人が勝手に門を開けた。
異常な事態が起こっているとは、誰の目にも明らかなのだから。
剣を、槍を、構えて駆け寄る兵士達。その前で女の子は――
「みんな、一緒に遊びましょう?」
見た目の年齢にそぐわぬほど艶やかに、軽く微笑んだだけだった。
兵士達の足が止まる。女の子は舌なめずりをする。
場の空気が一変し、立ちこめるのは魔の気配――
■アケル > ――暫しの時が過ぎた。
その女の子は、何十人もの兵士達の輪の中に居た。
兵士達は皆、腰から下の衣服を脱ぎ落とし、股座のものを屹立させている。
有る者は手で自らを慰め――輪の中央目掛けて精を放つ。
「きゃんっ! ……んもう、気が早いわ。ちゃんと順番待ちしないと駄目なのよ?」
輪の中央の彼女は、一糸纏わぬ姿に――何十人にも吐き出された精のみを飾りとしていた。
今も彼女は、横たわった兵士の上に跨がりながら、両手に一人ずつ、いきり立つ肉棒を掴んでいる。
腰を上下に揺らしながら手を動かし、群がる兵士達を射精へと導いているのだ。
小さな手指、なだらかな胸も、浅く狭い雌穴の奥までも兵士達に穢されながら――
彼らの、誰が気付いているだろう。
城門は開け放たれたままだ。誰も閉ざそうとしない。
……或いは門を閉ざすべきだと考えた者も居たのかも知れない。
だがそんな理性はもう、この淫蕩の宴に飲まれて消えているのだ。
■アケル > 宴が終わるまでの間、城門は開かれ続けるだろう。
そこには誰の悪意も無い。
誰かを害してやろうという意思など、この出来事の裏には無い。
にも関わらず起こった事象は、十分に悲劇を生むものだ。
城壁の上の見張りも、城内の伝令も、門番も。
その機能を停止して一人の子供に群がり、その肉体を貪らんとする。
全く隙だらけの機能停止した砦を、魔族の軍勢が何処まで見逃してくれるものか――
――そして、何はともあれ。
「ごちそうさまでした。また遊びに来ますわ、お兄様がた!」
彼女は身形を整えて、悠々とまた歩き始める。
門扉を開放した砦を背に、人の気配のある街の方角へ。
ご案内:「タナール砦」からアケルさんが去りました。
ご案内:「タナール砦」にカインさんが現れました。
■カイン > 数刻前まで激しい戦闘の起きていた砦。
今は王国側の旗の翻る門の前で、億劫そうな表情を隠しもせず番をしている男の姿があった。
幸い死傷者はそう多くはない物の、先ほどの戦闘で被った被害はそれなりのようで、
結果として外様の傭兵までもが門の前に駆り出される始末である。
「……しかしこいつは、まずいんじゃないかね?」
そう独り言を漏らす物の、それを聞く者は誰もいない。
騒々しい声の聞こえる砦の内側に視線を向けると、
多くの人影が右往左往している所が見て取れる。