2018/11/07 のログ
ご案内:「タナール砦」にレルタさんが現れました。
レルタ > 戦場の様相は、今は小康状態。互いの衝突が痛み分けで一段落。
王国側は砦周辺へひっこんで、魔族側は陣地付近へひっこんだ。
しかし、そんなのは束の間の休息だというのは、この戦場を知るものなら解る。
ただ、補給、治癒、そういったタイミングというだけだ。
引いた波はまた寄せる。

だからこそ少年は、今できることをする。
衝突跡に残された死体たちに紛れて、なるべく前へ。前へ。
最も魔族たちに近い場所へ。

レルタ > 死体たちとおなじように地面につけた耳に、足音が聞こえ始める。
魔族たちの軍勢の足音。存在そのものが汚らわしい者たちの足音。
ゆるせないものたちのあしおと。

まだ。まだ。まだとおい。えものは、においのかげるきょりまで。

前衛兵。大盾で矢や投石への防御をかためた、ドンガメ。
きた。きた、きた。きたきたきたきたきた。
殺意に呼吸が荒くなるのが解る。解る。解るぞ。近づいてくる。
口角が上がるのもわかる。ああ。もうすぐ。もうすぐだ。
弦の射程そのものは50m。其処からの攻撃はそれ以上だが
弦が張り詰めれば自分から伸びていると気づくものがいるかもしれない。
だから、まだ。まだ。まだ。まだ。まだ。待ちきれない待ちきれない。

レルタ > 何度もこうして距離を聞いてきた。
だから解る。
既に、30m。
20mたわめる弦なら、地に付けて射点を偽装できる。
だから、もういい。もうやってしまっていい。

「伸縮型・射出拳。射出。魔力の伝導に問題なし。極近距離伏撃を開始する」

己の両手首から先が高速で射出される。きづかれぬように、後ろ側へ。
そうして50m、弦を伸び切らせた後、魔力による制御で手首を弦伝いに浮遊させたように、宙へと浮かせる。
目のいい魔族なら何かに気づくかも知れない。
気づいたところで、もう遅いが。

「全指より魔力砲の掃射開始。ただの大盾でふせげるか」

自分の小さな手から、青白い光が十条伸びる。1秒ほどの時間。
それを終えて、次へと繰り返す。狙うのは最前列のドンガメ共だ。

レルタ > 魔力に対しての防御を余り考えていない大量生産の大盾では防げない。
弩や投石の恐ろしさはよく分かる。そちらを重視するのもよく分かる。
だが。明確な弱点を残して、殺してくださいと言っているようなものだ。

魔族共は、自分の手が魔力砲を発することそのものはわかるが、予想通り、大本がわからない。
どこの誰が発しているのか。

死体掃除をせずに引いたツケだ。

大盾を穿つ。軽鎧を穿つ。肉に穴が開く。叫びが響く。何重にも何重にも。

「効果絶大。敵の足は止まった。最前衛撃滅までの掃射を継続」

10本の魔力砲。細いが、魔力防御がなければ致命傷になりうる。
直径1cmであろうとも、頭を穿てば当然死ぬ。体を穿てば、重要臓器が死に、当然本体も死ぬ。手足を穿てば、戦闘不能だ。

青白い光が、雨のように降り注ぎ続ける。そのたび、悲鳴が聞こえる。にくいものたちのひめいがきこえる。
ああ。いけない。伏撃だというのに、大笑いをしてしまいそう。

レルタ > 倒れていく肉の音。よく聞こえる。地面を伝ってよく聞こえるぞ。
大盾の落ちるガラガラという音もよく聞こえる。

顔を上げる。明らかに最前衛のに穴が空いている。
そろそろ頃合いか。中腹にも、明らかな損傷。
ただの偵察を兼ねた前衛部隊だ。そろそろ、いいころか?

いいか。いいか、いいか。いいか?
彼奴等へ飛びかかっても、もういいか?

レルタ > 「記録番号、0089。記録者、レルタ。これより突撃を開始する」

ああ。己の口角が上がっているこれからは本当に自分から殺し合いに飛び込んでいくというのに。
だというのに。

僕は笑っている。

「風元素への変換にも問題なし。行こう」

己の足を、相棒のように呼びかける。
圧縮された魔力は、そのまま圧縮された莫大な空気に。

開放する。
飛翔。
果たして、コレを通常の魔法でやるのならば、どれほどの修練が必要だろう。
だが僕にとっては、ただ両足で飛ぶことと等しい。
敵の最前衛偵察部隊の、中腹……の、やや後方辺り。
わかりやすく偉そうな兜をかぶり、騎獣に乗った魔族が居る。

レルタ > 其処に到達するまでに、伸びた弦が己の腕に収納され、両手首がバチンと音を立てて繋がる。
風圧でマントがはためく。髪が後ろへ持っていかれる。

目敏い魔族は、対空戦闘として、魔法を撃つものも居る。
だが、この強襲に対応出来るものはごくごく一部だ。
うろたえ弾にすぎない。当たらない。当たる気が最初からしない。
両足の風制御機構で微調整をし、着地点をちょうど、指揮官と思しき魔族へと。

レルタ > 「帰れよ化物。此処は人の領地だ」

掌から、魔力を圧縮した、青白い刃が伸びる。
これを維持できるのは数秒。消えるごとに発生させなければならないが、なに、問題はない。
何十秒も刃が要る状況などない。

ほら。今回も、たった1秒ですんだ。

兜をかぶった頭が落ちる。周囲の魔族がどよめく。
僕が突撃してきたからか?指揮官がやられたからか?
どのみち、遅い。遅い、遅い遅い遅い遅い遅い!!

「速く帰れば死なずに済むぞ!!」

片足を蹴り上げるようにし、両足から風の機構を高出力で放つ。
踏ん張りながら、思い切り風で蹴る。
それだけで、広範囲の扇状に、魔族たちが物言わぬ躯に変わっていく。

後は簡単な話。壊乱だ。

レルタ > 僕という敵対者に、殺戮者に目もくれず、魔族たちが逃げ帰る。
懸命な判断だと思う半面、臆病者めとも思う。
殺し合う場所にでたなら、殺し合えよと。

気付けば、周囲には死体しかなくなっていた。

足元に、兜をかぶった首が転がってはいるが……
手柄をあげたところで、僕の体を弄くろうとする奴がいるだろう。

僕は魔族が殺せればそれでいい。
そして、それができなくなれば困る。

帰還しよう。そう思い、ちょっとだけものぐさをして大ジャンプ。
あとは、砦へと徒歩で帰っていく。
斥候をしていましたが、伏撃をしていた残存部隊で魔族の最前衛はかえりましたと言えばいい。

レルタ > 「傭兵、レルタ。帰還しました」

マントが結構血に汚れているが、上等な耐性付きマントだ。後でしっかり洗わないと。
そう思いながら、砦外縁にある天幕へと帰還する。
だれか、上役さんはいないものか――

ご案内:「タナール砦」にアデリーナさんが現れました。
アデリーナ > 「おいおい、だいぶ無茶苦茶なやり口のが居ると思ったらまさか君の仕業かよ」

援軍としてゴーレムの一個中隊を納品しに来たら、馴染みの守備隊司令官に面白いものがあると呼び止められた。
一刻も早く王都に帰って寝たかったから断ろうかと思ったが、魔導機兵絡みと言われては立ち止まらざるをえなかった。

「で。待ってみればなーにが魔導機兵だよ、子供じゃないか。おーおー、血まみれちゃってまあ。
 いよいよこんなチビ助まで戦争に放り出すなんて、王国もヤバいんじゃねーの?」

血まみれで帰還した少年に胡散臭そうな目を向ける魔導機械研究者。
指揮官の言うところの「魔導機兵絡みの絶対気にいるだろう凄いもの」をこの少年が持っているようにも見えず、
いよいよ機嫌が斜めに傾いていく。

レルタ > 「無茶苦茶なやり口、ですか? 僕は斥候でしたので、生き残りの仕返しだったんじゃないでしょうか……?」

え?という顔で少し首を傾げてみる。
そりゃあ、砦のある程度の指揮官クラスにはバレているが……
あまりバレすぎるのもよくないんじゃないかなあと。嘘をついてみる。

「あは。はい。子供です。逃げて隠れてが得意ですので。血は、まあ。戦場ですから、しかたないですよ。
うーん。王国は僕が生まれたときからこんななのでなんともかんとも……」

胡散臭そうな視線。あれ、これは、どっちだ。上の人の言葉を疑っているのか、僕にむけているのか。
でも不機嫌そうだから前者かな……?

「まあ。魔導騎兵の実戦投入はまだだと聞いていますし……」

ちょっと苦笑するように、そっちを否定するような言葉を。

アデリーナ > 「そんな命に代えてもお国のためにーなんて上等な兵隊がこんなとこに居るかよ。
 あんだけやれる元気があるなら這ってでも戻ってくるだろ、つーかそんだけ返り血浴びといてどの口がすっとぼけるかね」

じとーっと少年を訝しげに見る。
上から下まで生肉のがきんちょだ。血まみれになるほど戦えるようにも、
あるいはアレだけの流血の中に潜んでくるほど度胸があるようにも見えない。

「おいおい、そりゃあ模造機兵はまだガラクタ同然だが、実戦レベルではあるんだぜ。
 現に外国との主戦場には……あー、まあいいや」

くしゃくしゃと頭を掻き毟って髪を乱しながら、じろじろと無遠慮な視線を向け

「で、チビ助。斥候ならあんだけのことがあったんだ。何があったかは見てきただろ?
 そんだけ血まみれになって「見に行く度胸はありませんでした」は通らねーし、なんなら僕ァきみが下手人じゃないかと思うんだがね?」

レルタ > 「……………………………」

まいった。この人、貴族として何かに酔ってるクチじゃない。
あくまで理性的に、材料から組み立てていくタイプだ。
えーと、まあ。えーと。敵の威力偵察的なやつらがやってきて
護国の鬼のような部隊は最初からそんなもの「いないのが当然で」
其処から帰ってきたのは僕だけで。
……まいった。嘘をつく経路が塞がれている。

「ふんふん。実戦にはだせてるんですね。ちょっとびっくりしました」

なんて、すこしだけ話をそらしながら。でもそらせる材料がなくて。

「……………そうですね。このまま、さっき言った仕返しした部隊が帰ってこなければ、どのみち僕が嘘の報告したことになりますし。
………はい、僕がやりました……。嘘をついてごめんなさい……」

ぺこり……ゆっくりと頭を下げる。
どうしたもんだろう……。

アデリーナ > 「おう、チビのうちから嘘つくもんじゃないぞ。
 嘘つきは腐るのが早いからな……」

うんうんと頷いて、それから顎に手を当て腕を組む。

「で、どうやってやったわけ? あの隊長が僕を引き止めてまで会わせたがるンだ、多少は君に興味があるんだがね。
 差し支え無ければ教えてくれよ」

魔導機兵絡みということは、試作型の魔導兵器だろうか。
最大手を自認しているクルシンスカヤ研を超える性能のモノを実戦投入している工房なり研究所なりがあるなら、
いろいろと障害になるだろうし早めの対応が必要だなあ、面倒くさいな……と。

レルタ > 「嘘つきはだめですかー……。じゃあ結構ダメかも……」

年上のお姉さんが言うのなら、きっとそうなのだろう。
真人間のつもりはないし、人間なのかも怪しい自分だが……
だめになってしまうのはやだなあ。なんて思いながら、しゅんとした顔

「んー……。そうですね……なにが、いいでしょうか……
うーん。こうかなあ」

両足の風元素変換機能を作動させて、その場に50cmほど浮き上がってみる。
杖のような発動体も、タリスマンのような増幅体もなしで
無詠唱で。

アデリーナ > 「……あ?」

うんうんと唸る少年が急に浮く。
魔術で空を飛ぶタイプの変態術者は何人か知り合いに居ないでもないが、
それにしちゃ簡単に飛び過ぎだし、魔力の放出量も最低限で安定している。
履いている靴がそのテのマジックアイテムか、とも思ったがそうでもなさそうだし……

「他になにかできることは? 見せて、早く。可能な限り全部」

もしかしたらもしかするのか、と身を乗り出して眠そうな深いクマの刻まれた目を見開いて。

レルタ > 「えっ!? ぜ、ぜ、全部、ですかっ」

上役さんだし、僕のことをちゃんとしってるこの砦の偉い人から聞いてるということは、大丈夫ということなのだろうけど。
全部。全部か。全部……。

「え、えーい……」

戦場での狂気とは全然違う感じで、両手を射出する。
極めてゆっくりで、魔力で浮かせるの重視で。
片手はお姉さんと握手しようと。
もう片手は。指先から魔力砲を放って、松明の1つをけしてみる。

と言うか、眠そうな顔だったけどこんな顔もできるんだ……

アデリーナ > 「…………お、おう」

飛んできた手と握手をして、もう片手を目で追う。
なんてこった、まるで魔導機兵じゃないか。
しかも模造機兵と違ってかなり高度だ。どこのどいつだ、こんな高度なモンを作った阿呆は。

「くっそ、悔しいな……あー、君、名前は? 作ったの誰? ていうか何で人間みたいな見た目なのさ?」

矢継ぎ早に質問をぶつけながら、その間にも視線は全身を頭の天辺から脚の爪先まで検分している。

レルタ > あくしゅあくしゅ。握手は挨拶の基本だ。うん。たぶん。

「え、えと。名前、は……普段は姓は名乗っていません。ですが、もらった姓は「フィルベルト」です。
ずっとこもって研究を続けていた貴族だそうですから、知名度はどうなんでしょうこの人……」

自分をこうした研究者の姓。死後、遺族が自分に姓を与えて「身分やお金に困らないように」と、せめてもの罪滅ぼしだと言っていた。
彼はアレだったけど、遺族の皆さんはまともだ。

「えーと。まあ、そこは簡単です。人間にくっつけたからです」

アデリーナ > 「ふぃる……ふぃる…………あー、あの偏屈ジジイかな。
 へぇ、あいつが君みたいなねぇ。って、はぁ? 人間にくっつけたぁ?
 なんつー非合理な。あいつ妥協しやがったか? つかくっつけられた側としてどうよ、そこら辺は」

まあ座ろうぜ、と適当に将校用の椅子をぶんどって腰掛けて。
握手しっぱなしの手を握って、感触を確かめてみたり断面を検めてみたり。

レルタ > 「あら。ご存知で。はい、偏屈なジジイでした。
……うーん。お弟子さんの言葉では
「寿命までに完成させられないと諦めたので、完成させられない部分を人間に頼った」だそうです。
くっつけられたがわとしましては…………生命礼賛の趣味は、ないです」

上等な椅子に座りながら、苦い顔。
正直な話、死んでいたほうがよかったのではないかと、悩むことはある。
本当の家族はもういないのだから。

アデリーナ > 「えっ、あいつ死んだの……そっかぁ、葬式くらい呼べっての……
 いやまあ、理屈は理解るがね、無理があるぜそんなの。
 無理がないとしたら僕ァあのジジイに完全敗北しちまったことになるが……ふむ……
 ジジイ死んだんだよなあ。なあ、少年よォ」

椅子にふんぞり返っていた姿勢を正して、じっと目を見る。
この目が生の目なのか、それともよく出来たガラス玉なのか……
きっと前者だろうと信じながら、気怠げな顔に少しだけ真剣な色を込めて。

「なー少年、僕んとこ来ねえ?
 いろいろ調べたいのが本音だがね、痛い思いはさせないぜ。たぶん。
 こんなとこでやくざな兵隊稼業するよりいい暮らしはさせてやるよ」

レルタ > 「はい。死にました。僕のこの体を完成させた二週間後……なので10ヶ月ほど前ですね
…………(驚いたな。死を悼む人が、あれにもいたんだ)
ええ。思いっきり動かない限り無理はありません。
はい。ちゃんと死んでました」

こくり。静かに頷く。たしかにアレは死んでいた。満足げな顔で。
じっと見られる。見られると、少し照れる。すこしもじっとする。
……しかし、真剣な瞳だ。

「…………。あの。貴女の、お名前は。
ええ。同業の方からすると、やはり、この体はいい材料でしょうね」

まずは、相手の身分確認。
そして――こんな体では、やはり実験のための標本が一番か。と自重と諦観の表情。およそ、子供のする貌ではない。

アデリーナ > 「アデリーナ・ヴィクトロヴナ・クルシンスカヤ。一応ね、魔導技術研究局の主任技師をやってる。
 いわゆる兵器技師、だもんで腕には自信あるよ」

暗に、ジジイなき今の君の身体を維持するのに、僕を利用してくれてもいいんだぜと告げる。

「勿論材料としても魅力的だよ? うん、それは認めよう。
 認めるが、そういう顔しやがる生肉はそれこそジジイで十分。ガキンチョの顔じゃねーもん。
 ちゃんと飯喰ってる? 遊んでる? どうせ戦場ばっかだろ、ダメだぜ子供のうちは子供らしいことしねーと」

見た目の上ではふたつみっつしか違わぬような幼い容貌の少女が、少年を気遣うように私生活を持つよう言い含める。
それは傍目には滑稽だろうが、それでもだ。

「だから僕と王都にいかねーかい、少年。多くはないがお小遣いもやるよ、菓子でもなんでも好きなもん買って子供らしくして、
 そんでたまにちょろっと部品弄らせて。な? ダメ?」

レルタ > 「…………クルシンスカヤ。石の中の才女」

そう、彼の弟子が言っていたことを思い出し、ぽつりと口からでる。
弟子たちも、腕は良いと、彼は言っていた。
その弟子たちが「敵わない」と悔しそうに、誇らしげに言っていた人。
こんな、まだ少女の域の人だったのか。

「正直、ですね。 ………………………。
こども、らしい…………だって、ぼくは……」

痛いところを。本当に、痛いところを突かれる。
何をしていた?兵士募集がないときは街で商店の手伝いをしていたが
それ以外は、殺してころして殺してコロシテころして殺してころしていた。
なぜだろう。仕返しがしたかったからだろうか。憎いから。
なぜだろう。こんなに気遣ってくれる。
思えば、一度は蹴った道だ。彼の遺族の1家から、養子にならないかと言われた。
それで、いまは。
そして、いま。

「あ、の……。僕は、あの……この体以外は、本当に、只の子供、ですよ。
すこし、大人に受けが良いように振る舞えるだけの……
そんな、子供らしい、ことなんて、させてもらえるのですか?」

アデリーナ > 「もうちょっとカッコいい二つ名付けて死ねよあのジジイほんともー……」

ジジイが言ったのか誰が言ったのか。でもまあ、そういうこと言うのは十中八九あの爺さんに違いないと断定して文句を垂れる。
もっとなんかあったろうに。スタイリッシュでクールビューティーな感じのやつ。

「只の子供ならなおのこと子供らしいことしな。
 僕ぁ不安定な生肉は嫌いだがね、生肉にもなる前の子供がいらんこと考えて腐っていくのもまあ嫌いなのさ。
 無論いろいろ吹っ飛ばしたい気分の時は今までどおり戦場に行ってもいいが、戦場だけってのはバランスが良くないだろ?
 僕を財布代わりに使えよ、そのかわり僕はキミからジジイの技術をパク……あー、盗んで発展させる礎にする。
 あとついでに予備の部品も作ってやるぜ?」

レルタ > 「…………カッコいいと思いますけど…………?」

女の子とは感性があわないのだろうか……とちょっと首を傾げる。

「こども、らしいことを…………
…………ちゃんと、人に、なれと……。なん、だろ………これ……
……はい。これが、ただこれで。ただ終わるのは、ただの自己満足で、良くないと思います。
…………………そっか………ふつうに生きていいのか」

何もかもが普通で無くなったから。もう、やることは1つだけだと思っていた。
具体案としてのものを、手をさしのべてもらって、はじめてわかった。
諦めはただの行き止まりだったんだと。

「あの…………。よろしく、おねがいします」

深く、頭を下げる。

アデリーナ > 「カッコいいかぁ? まあ男の子の感性を信じるかね。
 男の子だよな? 女の子だったらすまんね」

どちらかはっきり確信を持てない少年の容姿に肩を竦める。

「ちゃんと人になれも何も、もともと人だったんだろ?
 完全に魔導機兵になりたいならいつでも言っていいけど、僕はあんま乗り気にはなれないなあ。
 魔導機兵はやっぱあのカッコいい見た目じゃなきゃなぁ」

滔々と魔導機兵の格好良さを語り、デザインを褒め称えて。
そして、頭を下げた少年に頷いて笑みを見せる。

「おう、よろしく。ジジイの家の子だってのは聞いたが、キミ自身の名前は何ていうんだい?」

レルタ > 「あ。え、と……男、です。チビなので、わかりにくいかもですが……」

ちょっと恥ずかしそうに、小さな体をもっと小さくするように。

「…………はい。もともと、ただの農民の、子供、で……
ただの……人でした。
ああいう見た目には、とおい、ですね」

やっぱり研究者さんはこだわりとかつよいな。そう感じる。ちょっと変?

「えと。名字は、もらっただけで…………。僕は、レルタっていいます。はい……ただの、レルタ、です」

身分や金銭が必要なときでなければ、フィルベルトは名乗らない。
ただの、レルタだ。

アデリーナ > 「オーケーレルタ、改めてよろしくな。
 僕のことはアデリーナでもクルシンスカヤでも、主任でも博士でも教授でもお姉ちゃんでもママでも好きに呼んでいいぜ?」

くくっと冗談めかして喉を鳴らす。

「子供らしくしろって言ったからには、面倒は見てやるさ。
 小遣いはあんまり大金をくれてやる気はないけど、自分で稼ぐ分には好きにすればいいし。
 住むとこはとりあえずうちの研究室でいいか。寝床を作るまでは隣で寝な?
 あとは、僕ぁ子供の世話した経験はないから適宜何してほしいとか言ってくれよ」

レルタ > 「は、い。 えーと……博士? アデリーナ博士とか。あのそういうかんじで、よびますので」

むむむ、明らかに子供扱いの気配がするけれど子供だもんなあ。

「はい。……ご面倒を、かけます。
……たいきん……一応、傭兵の賃金とかがありますので。お小遣いで問題ないです。
となり……はい。お世話になります。
そこは、大丈夫です。ちゃんと、いえますから。 ……お姉ちゃん、かあ」

落ち着いた顔で、でも、かしこまったように。こくこくと頷いて。
最後のつぶやきは、だれにもきこえないつぶやき。

アデリーナ > 「おう、そんな感じで」

可愛い少年の背伸びを見て可愛いなあと頬が緩む。

「迷惑なもんかよ、ギブアンドテイクだろ?
 しっかし魔導機兵のハーフかあ、それがこんなに可愛いなんて世の中わかんねーなぁ……」

立ち上がって、畏まる少年の頭をぽふんと小さな掌で。
世話するって言ったからにはどんなことでも相談するんだぞ、と笑いかける。

――もし。
もし、自分に家族がいればこんな感じだったのだろうか、とも。

レルタ > 「はい、アデリーナ博士っ」

自分も頬がゆるむ。眼の前の人が、こんな表情をしてくれる。

「……そう、ですよね。じゃあ、あの。よろしくお願いします」

手首の弦を全部戻して。ちゃんとした握手で。

「えへ…………かわいい、です、か…………」

頬をそめて。ぽふりと頭をなでられて。
お世話、されるんだ。また、ちゃんと家族になれるの、かな?

見上げて、ふわりと笑顔を向ける。
もしかしたら、これから姉のようになるかも知れない人に。

アデリーナ > 「う゛っ」

頬を染めての笑顔にキュンとしかけた。
半分肉の人間にこの僕がときめくなんて、とアイデンティティの危機に胸を押さえて苦しむ。
なので話題を変えよう、そうすべき。

「レルタは家事はどのくらい出来んの?
 場合によっちゃお手伝いという体で家事を一部任せたいんだが。無論報酬の形でお小遣いは増やすぞ」

レルタ > 「う?」

博士がなんだか苦しんでるようだけど、すぐ話しだしたので多分大丈夫だろう……?

「えっと、一通りできますよ?
料理は上手くないですけど……。でもそれ以外なら。あ。シルクの洗濯とかはまだ……」

アデリーナ > 「料理なんざ食えたら十分だからそれでいいさ。
 洗濯ができるのはいいね、すごく助かる。シルクなんてめったに着やしないから気を使うこともないし」

偉いぞぉ、とわしゃわしゃ。
なぜだか他人のように思えないこの少年に、らしくもないのにやたらと触れてしまう。
これで一緒に生活を始めようものなら、崩れてしまうかなと改めて研究者アデリーナ・クルシンスカヤであることを戒めて。

「よし、では王都に帰ろうか。君を引き抜く分、義理立てで護衛のゴーレムを遺していく。
 帰り道の護衛が減るからには、何かあればレルタ、君にも期待させてもらうぜ?」

レルタ > 「ふんふん。料理は大丈夫……お洗濯……も、だいじょうぶ…………
わ。わ。わ。えへ……」

偉いとほめられて、ちょっと俯き気味に、はにかんで。
こんなのいつぶりだろう。
こうなるまえ、かな。
ちょっと悩み気味に見えるのはやっぱり心配だけど……

「はい。僕も、契約は今日で終わりましたし。 ……帰りましょうか。
はい! 魔獣の群れくらいならちかづかせませんからっ」

アデリーナ > ああもう。何でこんなにも可愛らしい仕草をするんだ。
技師と客、研究者と研究素材。それだけの関係で済むはずなのに、それ以上になってしまったし。
張り切るレルタの背中を見ながら、どこかでまあそれもいいか、と思ってしまうのが恐ろしい。

果たしてこれからも僕は僕でいられるのか、それともレルタに絆されて只の人になってしまうのか。
でも、それはまたこんど考えよう。

「おし、じゃあ馬車乗り場まで手ぇ繋ぐか!
 今夜はなんか美味いもん食いに行こうな!」

新たに家族に迎えた少年とともに、研究者は砦を後にした。

レルタ > 新しく、家族になる人。
それは本当に、家族になれるのかな。
でも、ちゃんと考えてくれる人だから。だから大丈夫。きっと。
ただ、そういう人は、こうなる前に全員居なくなったから
自分の心はどうなっていくんだろうと、少し心配だけれど。

でも、その時は、その時だ。
子供は、きっと、先のことにおびえない。

「はいっ。手、つなぎましょうっ
美味しいもの……はい! えへへ、嬉しい、ですっ」

はじめての、はじめての、こうなってからの温かさ。
これからも、温かくありますように。
そうおもって、手をつないで砦を後にする。

ご案内:「タナール砦」からアデリーナさんが去りました。
ご案内:「タナール砦」からレルタさんが去りました。