2018/10/10 のログ
ご案内:「タナール砦」に影時さんが現れました。
影時 > ――この辺りは騒がしい時は騒がしく、静かな時は静かだ。

今のこの夜はどうやら後者らしい。
不死者の軍勢やら生身の魔物やら、果ては得体のしれぬ召喚魔、等々。この地を苛むものは多種多様だ。
この場によく詰める傭兵の一派から挨拶ついでに聞けば、いつでも守りはそこそこに逃げる支度をしてるぜ、と聞く。
それはそうだろう。己でもそうするだろう。
守り切れぬとなれば、即刻逃げる判断を行うのはとてもとても正しい。

命あっての物種だ。
まして、この砦を抜けてこの王国領に浸透出来る程進出できないコトが経験則で明確な敵が居るならば、尚の事だ。
勿論、それが何がしかの策である可能性も皆無ではないが、自ずとこの場に詰めるもののスタンスに違いが出るだろう。
ただただ緊張に緊張を重ね、ちょっとした何かで過敏な反応を示すもの。
有事の時にだけ働けばいい、危ない時は仲間を見捨ててでも逃げる。他の奴らもそうすればいい、等々、と。
歴戦には歴戦の、不慣れには不慣れなりの様々な違いが混じるが。

「……ふわぁ」

さて、己はどうであろうか。
砦の胸壁の上。魔族たちの住まう国がある側。
幾つもの血を浴びて、尚も染みが抜けぬ石壁の上に怠惰にも頬杖をついて横臥し、欠伸を一つ零そう。
身にまとう黒い外套を毛布替わりに、壁に真新しい鞘の片刃剣――刀を立てかけて、自然体そのもので息を抜く。
ただ、無防備に見えて不思議と隙が無い。いつでも即応できる心構えを胸中に据えて、空を見る。

よく晴れた、星が見える夜空がそこにある。

影時 > 「久々に来てみたなァ、良いが。……その、なんだ。拍子抜けな夜だなぁ」

まだまだ見かける機兵とやらを探し求め、打ち壊すことでもやってみても良かった。
しかし、敢えてここに足を運んだのは久々に戦場の空気を味わいたかったからだ。
一時期はしばしばこの場に詰めたものである。
その後は諸々あって足を運ぶ機会が無かったが、戦線が落ち着いている――というのは決して悪いことではない。
ひっきりなしに攻勢が続き、防衛戦力が擦り削られるようなことが続く方が問題だ。

近くを通りかかる騎士らしい姿が己の姿を見かけたのか、密やかに何か呟いて通り過ぎる。そんな気配を感じる。
今は努めて、身を隠すための努力はしていない。敢えて言えば日頃の習いで、多少は気配が薄い位だろう。
身を隠そうとするならば徹底的にどこまでもできるものだが、そうしてしまうと逆に問題となることが多くなる。

「いっそ、だな。天地が揺れるような位の大事でもあれば、面白ェんだが」

                                 ――さて、どうだろうか? 

最後の言葉は微かに零すだけにして、視線を前に遣る。遠く、魔族領側を望む。
夜目は利く。月も星もあれば、それだけで事足りる。俗人よりも闇夜に親しい生き方をしている故に。

影時 > 「……ふぅむ」

遠く――遠く、砦を見遣る気配らしいものを覚えるのは使い魔でも周囲に配置しているのだろうか。
足を手持ち無沙汰気にバタつかせ、薄っすらと不精髭が生えた顎を空いた手で摩って身を起こそう。
のっそりと何気なく身を起こすにも関わらず、纏う外套が擦れる音は微かだ。
索敵にでも出るか? 特段、何かやれば追加報酬があるという話はない。
気を利かせれば、何か褒美が出ればいいのだが、そうもいかないのはこの砦に詰めることの危うさだろう。

「そりゃそうか。
 死にたいと思って、来る奴ァ馬鹿もいいところだ。――だが、少しばかり気を遣っても良いか」

一人零して、首を鳴らす。壁に立てかけた刀を掴み、くるりと回しては己の手に納める。
巡回、見回りと思しい騎士やら現場指揮官と思しい影を見遣れば。

「ちょっくら向こうを見て来るわ。何かあったら、狼煙でも花火でも上げてやる」

そんな言葉を投げ遣って、向こうの返答を待たずにひらり、と。砦の壁から地面に向かって飛び降りよう。

影時 > 当然ながら、砦の胸壁は高さがある。その高さを己はものともしない。
両足のバネ、両手、そして落下中に腰に差した刀の鞘の先端、と。
合計五点を設置させることで着地時の衝撃を殺し、猫の如く柔らかく其の身を地上に置く。
一連の所作に氣の運行は必要ない。ただ、その身に培った体術のみで事足りる。

「こっちに足を運ぶのも、久しいなァ。……さて」

改めてその場に跪き直し、左手を地面に触れさせて目を閉じる。精神を集中させる。
地脈の流れを読み解き、大地を流れる無形の力の流れと同調して周囲を探る。

「……あそこか」

探るの他でもない。砦を見張る斥候の位置である。
大よその位置を掴めば、あとは此方から狩りに行くか、それとも締め上げて尋問か。
木っ端の如き使い魔であれば、潰しておくのも良いだろう。
向こうも同じようなことをやるのだ。此方も同じことをやったところで、何の差し障りがあるというのか。
それが戦場の習いであろう。

故に気配を減じ、薄れさせて月影に紛れて荒れ野を往く。
静かに事を為して、密やかに戻り、帰還すれば一杯やって夜を明かす――。

ご案内:「タナール砦」から影時さんが去りました。