2018/07/06 のログ
ご案内:「タナール砦」に影時さんが現れました。
■影時 > ――この攻防は此れで何度目であろうか。
見るものが見れば安過ぎる報酬、割に合わない報酬だとはいえ、無視できないものがあれば挑むのが傭兵だ。
特に食い詰め者であれば、運が良ければ届きそうな報酬のために挑むことだろう。
その結果が此れだ。生命を失うことで、窮することに思い悩まずに済むようにはなった。
他にも積み重なる厄介事の話を聞けば、程なく悟ることだろう。
考えが足らぬものでも、こう至ることだろう。
こんなコトに生命を捨てるなら、賊にでも身を落とした方がずっと楽して稼げる!という真理だ。
今やこの砦に通う、或いは詰めるのは覚悟を決めた兵士以外となれば、誇りあるものが酔狂者位で有ろう。
他ならぬ己はと言えば、後者だろう。
「……嗚呼、いよいよ以て面倒臭くなってきたぞ。
おぅぃ、次何処だ? 何処に死体のカケラがこびりついている?」
元の気儘な生活に戻ったと言っても、足しげく通ったコトのある戦場の始末は少なからず気にはなる。
口元を黒い目の細かい布を覆面代わりとして覆い、手にするカンテラを火種として携えて荒廃の匂い漂う砦を行き交う。
純正の魔法使いでも何でもないが、似たようなコトをやれる。
後始末に長けた便利屋として、荒れた内部の浄化と清掃に掛かるのだ。
次直ぐにまた荒れる?
そうは言っても、人間常時腐臭漂う処に詰めたくはない。誰かがやらねばならぬのだ。多分。
■影時 > 浄化の術を心得た神官も居るには居る。
しかし、こんな状況であると絶対数が足りない。
砦内の浄化、復旧よりも怪我人の治療、疾病の予防といった医療的な対策に追われる一方だ。
いっそ、この砦自体を放棄した方が良いのではないか?
守る価値そのものないのではないかという、戦意を著しく失った傭兵や義勇兵たる冒険者達も囁く状況下だが、
再建のために少なからず、遣っておくべきことはあろう。
敵はいつ、やってくるか分からない。
「どーせなら罠も併せて仕込んでおきてェが、俺以外分からぬもの仕込んでもなぁ。
さて、ここか。……おい、此れ血が沁み込んでいるの間違いじゃねえか? まあ良いが」
案内される場所は損傷が多々目立つ、魔族の国側に面した砦の防壁。
幾つもある身張り台のうちの一つに丁度、夜空に掛かる月光に照らされて大の字の人型が見える。
正確には、壁面に投石機か何かを使ってで叩きつけられ、へばりついた人間の体液が染みついた痕である。
成る程。気にはなるのは、致し方ないことか。
「じゃぁ片すか。――次の場所があったら、教えとくれ」
嘆息と共にカンテラを置き、左右の手を外套の下から抜き出して構える。
両手の指を組み合わせ、幾つかの複雑な形状――印を組み、気合を込める。
そうすれば、火種であるカンテラの炎がゴゥ、と燃え上がり、うねって件の痕に向かう。
炙り出しの如く痕を炙り、染み付いた残念ごと焼却し、祓う。そういう術である。