2018/06/14 のログ
ご案内:「タナール砦」にヴェルムさんが現れました。
■ヴェルム > 夜遅くのタナール砦。
もはや平穏な時すら珍しくなってしまった砦には、現在黒煙がいくつか立ち上っている。
つい先ほど魔族軍の一斉攻撃を受けて防衛部隊が壊滅、砦が奪取されてしまったところだ。
我々第十三師団は砦からやや離れた場所に陣を置き、砦奪還の任についていた。
「本来なら防衛支援だったはずなんだがなぁ」
試作兵器をひっさげて侵攻する魔族軍に防衛線を仕掛ける算段だったのだが、到着してみれば時すでに遅しというやつで。
急遽であるが奪還作戦に変更となった…ただ戦力差を鑑みればこちら側の不利であるが。
「まぁ…いいか、例のプロトタイプを準備しろ」
部下たちに号令を掛けては攻撃の準備を行っていく。
魔族軍はこちらの存在には気づいているだろうが、砦からさらに侵攻してくる様子は無く、やれるものならやってみるがいいと言うかのように防衛線の準備を行っている模様。
当然砦の中には王国軍の生存者がいるかもしれないが、すでにまともな扱いはされていないだろう。
■ヴェルム > 十三師団が準備しているのは、数台の大砲。
しかも最近納品された最新型の砲台だ。
軽量かつ頑丈、組み立て式のため持ち運びもしやすいというもの。
ただ、砦を奪還しなければならないのに砲撃を行うとは愚策なはずで。
それでも彼らは砲撃戦の準備を行っていく。
部下の一人がヴェルムに質問する。
砦には生存者もいるはずだが、本当にいいのか…と。
「たった数人の生存者のために多数の兵を犠牲しては本末転倒だよ」
直接部隊を送り込んでの奪還戦は、十三師団の兵力では押し負ける。
敵にはさらなる増援の可能性もあるのだ。
他所の部隊のわずかばかりの生存者のために、師団そのものを危険に晒せない。
合理的な説明をされれば部下はそれ以上は何も言わず、やがて攻撃準備が完了した。
■ヴェルム > 「問答無用だ、撃て」
準備が整えば、待つ必要などない。
短い号令を掛ければ攻撃を開始し、ドンッドンッと砲撃の音が響き渡る。
砲撃は砦の各所へまんべんなく散るように射角を変えていき、その砲弾の雨を確認すれば、砦の魔族たちはさぞ慌てふためいたことだろう。
奪還するはずが砦を壊すつもりか…と。
「今までいくつもの攻防を経ても崩れなかった砦だ、多少穴が開くくらいなんともない」
余裕の表情を見せるヴェルム。
発射された砲弾は砦の壁や天井をけたたましい音を立ててぶち抜いて、砦の内部にドスンと落ちていく。
目の前に黒い砲弾が落ちてきて、魔族たちは何を思っただろうか。
やがて着弾からワンテンポ置いて砲弾が爆発し、閉鎖空間での爆発で砦は内側から崩壊していく…普通の砲弾では。
シュゥゥゥゥゥ…
着弾し止った砲弾、その黒い外装がパリンと剥がれ落ち、砲弾内部から緑色だろうか。
濃緑の煙が勢いよく噴射され始めた。
閉鎖空間である砦内部に一気に充満していく煙を吸い込んだ魔族たちは、悉く胃の内容物を吐き出し窒息、あるいは身体中から出血を起こしてのたうち回って動かなくなるか。
どのみち、まともな死に方をする者は皆無だったはずだ。
テラスの上で血を吐き動かなくなる者、発狂し窓を突き破って転落死する者。
濃緑の煙が空いた窓や砲撃の穴から漏れ出ているのを、遠めから確認している十三師団。
誰も彼も、その光景を目の当たりにして声すら発することもなく、釈然としない感じだったり、目を反らしたり…。
ただヴェルムだけは、淡々とその光景を眺めていた。
■ヴェルム > 致死性のガス、つまりは毒ガスだ。
実にシンプルな手法であるが、人間が悪魔になる最も簡単な手段でもある。
対魔族戦のために開発された、強力なガス。
当然人間が吸い込んでも、結果は同じことになる。
砦から呻き声すら聞こえなくなれば、風の音すら聞こえない完全な無音となり。
まるで死の世界にでもいるかのような気分だ。
「…じゃあ無害化後、内部に入り砦を確保する」
このガスの特性として、20分たらずで無害化されることが上げられる。
確実に敵を死に至らしめ、かつ速やかに現場を確保するための仕様。
その性能は十分に発揮されたらしく、恐る恐る部隊を砦内部に送り込んでも異変を訴える者はいなかった。
それよりも寧ろ、見るに耐えない魔族連中の亡骸を見て吐き気を訴える者のほうが多かっただろう。
死体だけが転がる静かな砦の確保に時間は掛からず、死体処理の方に多くの時間を費やした。
敵にガスの使用を隠蔽するため死体や痕跡は全て燃やした。
砦内の飲食物についてもすべて廃棄、さすがにこれを口にする気にはなれないだろうし。
■ヴェルム > やがてタナール砦の新しい駐屯部隊が到着した。
我々の任務は砦の維持ではないため、後続部隊に任せて撤収することになる。
魔族軍の増援は不穏な空気を察したか、その姿を見せることはなかった。
結果的に、師団に誰一人の犠牲を出すことなく砦を奪還せしめたことはよかった。
だが毒ガスの使用という事実が知れ渡れば、周辺国はどう感じるだろうか。
「…撤収だ、帰るよ」
後続部隊からしてみれば、特に争いの形跡の無い砦や、ずいぶん大人しい十三師団の様子を不思議に思っただろう。
ガスについては極秘事項であるため、当たり障りの無い報告を済ませて師団は帰還の途につくことになる。
タナール砦は砲撃によって開けられた穴くらいの損害しかなく、短期間の補修で砦は王国軍による運用に戻ることとなった。
ご案内:「タナール砦」からヴェルムさんが去りました。
ご案内:「タナール砦」にミリーディアさんが現れました。
■ミリーディア > タナール砦から人間側へと少しばかり離れた場所にある森林地帯。
誰も居ない其の場所に魔法陣が浮かび上がる。
其れが消えた後に残るのは一人の少女。
其のタイミングに合わせたかの様に一つの影が姿を現わした。
左手を腹部に、右手を背に回し礼をする。
其の姿は魔族の国の中央にある大図書館に居た司書の男だった。
『主、メフィストフェレス様。
矢張り人間側から行われました、我等が付くのは魔族の側で宜しいですな?』
其の言葉に少女は無言で頷いてみせる。
人間の側か、魔族の側か、見過ごせぬ戦術を展開した相手に対し敵対を。
事前に男へと伝えていた内容だ。
其れを確認すれば、男は其の場から姿を消した。
一人残る少女は大きな溜息を一つ吐く。
「歴史は繰り返す、何度でも…一部の者達に因ってな」
少女は詠唱を始めた、来た時と同じ様に足元に魔法陣が浮かび上がる。
「優位に傾き掛けた均衡が、劣勢へと傾く…可哀想に」
其の言葉と共に上空に広がる夜空を見上げる。
■ミリーディア > 「只、あれだな…」
視線を周囲に広がる木々へと移す。
「こんな時間に起こされるのは勘弁して欲しいものだ。
確かに何か在れば伝えろと、そう言ったのは儂だが…」
寝癖に乱れた頭に手を添え項垂れる。
実の処、少女は此処に現れる直前まで寝ていた。
生真面目で律儀なのだが、融通が利かない性格なのだ、あの男は。