2018/03/04 のログ
ご案内:「タナール砦」にジンさんが現れました。
■ジン > 今、砦を占拠しているのは人間側、攻めるは魔族側だろう。
途中までは均衡状態を保つ戦いであったが、魔族側に突如現れた相手に均衡は崩されていた。
手にした大剣で薙ぎ払い、放つ魔法で吹き飛ばし、人間を寄せ付けぬ強さだ。
人間側の防衛線は一気に引き下げられ、ついには砦にまで追い詰められてしまう。
このまま、今回は魔族が一気に攻め落とすか…そう誰しもが思っていた事だろう…ただ一人を除いては。
「………馬鹿狐が言っていたのは、これか…仕方あるまい」
その一人、上空から戦況を眺めていた人影が呟く。
次の瞬間、その場から姿を掻き消し…今、まさに砦への侵入を塞ぐ為、閉められた砦の門の前に姿を現わした。
突如現れた黒い影に、その扉をも叩き壊さんばかりに突っ込んで来ていた魔族は足を止める。
砦の方からも、何事かと注目が向いているかもしれない。
「悪いが、主だけには戦場から退いて貰おう。
我からはそれだけだ、聞き入れられよ」
それだけを伝え、その男はそのまま黙り込む。
もちろん、この状況で素直に聞き入れる、なんて事はなかった。
魔族は問答無用に、男へと魔法を放つ。
だが、その魔法は男に当たる事は無く…後ろにあった砦の門に、強い衝撃が走った。
■ジン > その魔族を含む周囲の者達には、男が何をしたのかが分からなかった。
当たるはずだった魔法、それをどういなしたのか、それとも無効化の力があったのか…
純粋に、その男の動きが速過ぎた、それだけが真実。
だが、それを理解出来た者は一人も居なかった。
男は沈黙を続ける。
向けられる視線が、先の言葉にさっさと従えと言わんばかりだ。
…当然、それで止まる魔族でもない。
手にした大剣を振り翳し、男へと斬り掛かって来る。
更に魔法を絡め手に放つも、同じく魔法は素通りしたように見えてしまう。
魔法に対してもこれだ、大剣の動きがいかに鋭かろうが、緩やかに見えるもので。
大きくとも半歩、一歩の動きも使わずして、その斬撃を回避する。
■ジン > 「大きな力を持つならば、もっと修練を積み腕を磨くべきだ。
力はあれど、積み重ねるべき経験を得る刻が足らぬ。
もっと鍛錬を積むが良い、敗北は、極みを得る為に必要な一歩と考えよ。
………そう考えれば、今日は良き日と考えれぬ事もない」
言葉を掛け、フードをずらせば、被っている鴉の嘴を象った仮面が見えて。
もう数度、魔族の攻撃をいなせば…音も立てずに地面を蹴る。
決着は一瞬だった、気が付けば男は魔族の背後に、次いで…ゆっくりと魔族は倒れ伏した。
傷口はない、見る者が見れば、気を失っているだけなのは分かるだろう。
それを見れば、周囲の魔族達の戦意は一気に喪失していった。
倒れた魔族は抱えられ、撤収の流れとなってゆく。
去って行く魔族達の姿を眺めながら、男はなにやら思案するような仕草を取る。
■ジン > 「………あの者だけを、引かせるつもりだったのだがな。
なかなかどうして、上手くはゆかぬものだ…」
ふぅ、と軽く溜息を吐く。
この世界の兵の素質を持つ者達は、どうも自惚れが過ぎるのが多い。
特に、元々力を持って生を受けた者達だ。
せっかくの力も、よりそれを高める心持ちがなければ、それだけのものとなる。
自身の力を理解し、修練を重ね、その力をより開花させる事、それが重要。
ただ大きな力を持てば良い、多くの力を持てば良い、そう考えるのは、愚の骨頂だ。
ならば、そう考えさせるには、どうすれば良いのか。
その一つが、敗北を知らしめさせる事なのだ。
言葉による理解、それを与えるのが少々苦手な自分にとっては、それが一番の方法と考えている。
次に会う時は、それを理解し、より兵へと近付いた姿を見せてくれれば良いが…
知人であれ、敵であれ、兵の成長を願う者としては、そう考えてしまうものだ。
■ジン > と、考え事をしていれば、閉まっていた扉の向こうから、声と足音が聞こえる。
多分、今起こった事を知る為に、ここに来ようとしている人間達だろう。
だが、それに応えてやる訳にはいかない。
別に砦防衛の手助けを、そんなつもりでやった訳では無い。
あの魔族に、先に進むべき道を示す、ただそれだけだ。
それがなければ、もちろん放置するつもりだった。
「さて、行くか…」
ぽつりと呟けば、その言葉が消えると同時に、男の姿は消えていた。
ご案内:「タナール砦」からジンさんが去りました。