2016/10/03 のログ
ご案内:「タナール砦」にクラウンさんが現れました。
クラウン > 砦に雨が降り注ぐ。
人の血も、魔の肉も、等しく洗い流していく。
空には、重く伸し掛かるような黒い雲。その黒雲の中に紛れるように、空に浮かぶ白い少年の姿。

「……………。」

タナールが陥落したと聞いた。主であるロザリアが、直接あの男に引導を渡したと。
そのタナールの情勢を見に来てみればなるほど死屍累々、激戦の跡がいやがおうにも感じ取れる。
これほどのぶつかり合いでは、人の兵も無事では済むまい。そして何より、あの豪傑が生死不明。
悪しきにしろ良きにしろ、王国の情勢は大きく傾くだろう。それは、国に疎いクラウンでも容易に分かるものだった。

「とにかく…減った分を補充しなければ。」

そう呟くと、地表へ滑るように降り立つ。

クラウン > 『汝が魂の寄辺は此処に在り
 天に捧げられ逝く魂よ 我が言の葉の鎖に因りて縛られよ
 黒煙の下に、我が主ロザリア=Ⅳ=キルフリートの名の呪縛を受け入れよ』

そう呟けば、揺れるように下半身が消え…煙となって戦場へと漂う。
雨すらすり抜けて漂う黒煙は、物言わぬ骨へ、動かざる肉へ染み渡る。
その場に漂う魂を、血の盟約に縛り付ける。
アンデッド、スケルトン、ゾンビ……戦いという人の営みを、魔の力で穢していく。

クラウン > 「……やれやれ、数日も経てば臭うものですね。
 あとでゾンビは肉を削ぎ落として骨を漂白しておきましょう。
 はい全員働く。武装を拾い集めて防備を固めなさい。」

数分も経てば、そこには生者はなく、死者にもあらざる者が闊歩する地獄絵図。
人の体を魔力で傀儡とし、産み落とされた魔が人を狩り、また新たな死体を生み出し、それを魔と成す。
そんな、地獄の最前線が出来上がっていた。

ゾンビの肉を剥ぐのは、単純に臭いとロザリアの機嫌が悪くなるからである。
それに、どうせそのうち腐り落ちてスケルトンになるのだから、さっさと削ぎ落としてレッサーウルフなどの低級魔族の餌にでもした方がいい。
腐ったら腐ったでアルラウネ共の肥料になるだけだろうが。

ご案内:「タナール砦」にロザリアさんが現れました。
ロザリア > 少年の元へと黄金に輝く蝙蝠が羽ばたきやってくる
やがて近くまで来ると輝きは大きくなり、少女の姿を形作った

「珍しく城を出ていると思えば、何をしておるのだ。道化」

砦内に漂う腐臭に僅かに眉を潜めその鼻元をドレスの袖で覆う

クラウン > 「……ロザリア様。申し訳ありません、外出許可を城の者に伝えるよう頼んだのですが……
 …此度の戦闘で、スケルトンも随分と数が減りました。
 この砦を奪還するなり破壊するなり、人間も何らかの手を打ってくるはず。その時に備え、スケルトンの製造をと。」

恭しく礼をし、後ろを振り向く。
近くに佇むゾンビにしっしっとジェスチャーをすると、素直によたよたとその場から立ち去っていった。

「……此度の戦での采配、お見事に御座いました。」

ロザリア > 「構わぬ。吾は貴様を城へ縛りつけているわけではないからな」

鎖に縛り置くのはあくまでも我が身の側であることを暗にいいつつ、砦の姿を眺める

「他の魔王どもが奪還したならば魔物を徘徊させるのであろうが、
 ふふ、これはこれで…不死者に支配された砦というのも趣があろう」

魔物と戦う準備をして出兵させれば麺を喰らうことは間違いない
アンデッド達が相手となると、魔族や魔物とはまた勝手が違うからだ

「魔王どもが奪った砦など放っておいても良かったのだが、
 軍勢の中にあの男の姿が見えたのでな」

ロザリア自らこうやって砦を落としに現れる、ということは非常に珍しい
普段は自身の居城である宵闇城以外のエリアには無関心なのだ

クラウン > 「……はっ。」

暗に流れる言葉の意味を汲み取り、少し言い淀んでから是を返す。

「この近くの森には、レッサーウルフが大なり小なり潜んでいるようです。
 原生なのか、魔王が斥候として放ったのかは分かりませんが……
 餌があると分かれば、この砦の周りに居ることも多くなるでしょう。そうなれば、攻略はさらに難しい物となるかと。」

人のように洗練された戦闘を行うアンデッドの軍。それに足を取られている間に、横殴りで魔物が攻めてくるようなことがあれば…
少なくとも、まともな人間程度が指揮する軍では対応しきれないだろう。
盤石、とは言い難いが、優秀な防御線に一役買っていることは確かである。

「……その事なのですが。」

真剣な声色になる。どこか深刻な物を見つけたような、厳しい声色。

「この砦で生産されたスケルトンの装備を一式見回ってみましたが……
 大隊指揮官らしき者の装備が、見つかっておりません。
 あの男…オーギュストの装備ともなれば、一兵士程度のものとはレベルの違うもののはず…
 見間違う、見落とすなどということはまずありえません。」


「生死不明、である以上…何処かへ姿を消して潜伏しているという可能性もあります。

ロザリア > 「長くはもつまい」
淡と言い放つ

「どの道、忌まわしい旧神の加護が活きる内は魔族がここから先にエリアを伸ばす手段はないのだ。
 砦を奪ったとて攻勢に出れず防戦のみになるのであれば奪還は必定でああろう」

それでも、より多くの人間の血を流すことはできる
アンデッドの配備を非としないのは、ロザリアの内面に燃ゆる人への憎しみからだ

「………落ち延びたか。拾われたか。
 どちらにせよ生きているのであれば、悪運の強い男だな…」

遺骸を確認まではしなかった
しかし、ここからどうやって逃げ延びたのか…そのことには疑問が残る

「…まぁ良い。あの男の軍勢はほぼ壊滅しておる。
 歴戦の将軍といえど、たった独りでは何もできぬであろう。
 捨ておけ」

クラウン > 「…………。」

奪われると分かっていて、なぜ兵を割くのか。
それは単純に、人の苦を見て愉悦とする精神を持っているからではない。
……過去の迫害の傷は、凍り付かせた心に深く刻まれている。改めて、それを想う。

「……はっ。」

人の残した禍根は、今、人に返ってきているのだ。
ロザリアという名の、魔王をも超えかねない、特大の刃として。
……それで良いのだろうか。唯一の友を、主を。凍て付くような冷たい刃としたままで良いのだろうか。
その結論は、未だ見えない。

「(……君は、それで良いのか。……良いのだろうな、君は…。
  僕は…そうでも、ないかもしれない。)」

ロザリア > 「…そろそろ城も腹を空かせる頃だ。久方ぶりに"起こして"やるとしよう」

ドレスの裾を靡かせ、踵を返す

「……どうした、道化。
 申したいことがあるならば遠慮なく申せ。
 お前にはその権利があるのだからな」

クラウンへと向けられる翠眼は冷たい光を宿したまま
人であることを捨てた、少女の心と時が凍てついたあの時からその瞳からは暖かさは消え失せ、
ただただ、凍るような光を湛えている
もう何百年も、それは変わっていない

クラウン > 「……はっ。キルフリートの体調も万全のようで御座います。」

仮面の位置を正そうと、それに手をかける。
……続く言葉に、手を止めた。

「………………………。」

射抜くような、氷の瞳が胸を貫く。
かつて、我が主として、我が友として契約を結んだ少女の姿のまま。
その瞳の熱だけが、その体の温度だけが変わり、そしてそれがすべてを変えてしまった。
……何も変わっていないのかもしれない。このロザリアという少女が、ロザリア=Ⅳ=キルフリートになった瞬間から。

「………。いえ。しかし、独り言を少し。
 聞き流してくださって構いませんので。」

そう言って、仮面を外す。端正に整った、あの頃と同じ少年の顔。

「……死と言うのは、恐ろしいものですね。

 ええ、本当に。」

ロザリア > 独り言、と聞けばその視線だけ向ける
……この少年が自ら仮面を外すことなど、この何百年のうちにすらあった試しはない

「……ふ、仮面を外し…我が従者としてではなく、
 我が友としての言葉である…ということか?」

鈴のような声が死霊の砦に響く

「時間に縛られぬグリームニルの魔神が死の恐ろしさを語るとはな…。
 死は恐ろしい、か……確かにそうかも知れぬな、吾も、かつては死を恐れた。
 しかし今は死こそ我が隣人であり…はじまりである。
 ハールよ、吾はもう幾百年もの過去のように、死に怯え暮らす臆病な人間ではないのだ。
 ………友と永遠を誓った少女ロザリアの選択に、一つの後悔も残してはおらぬ」

小さな、どこか自嘲的な笑みを口元に讃えながら、すれ違うように歩みを進め

「先に戻っているぞ、久しぶりに茶にでも付き合うがいい」

ばさっ…
ドレスが翻り、その姿が散り散りに蝙蝠へと霧散する

黄金の魔力を振りまく蝙蝠達はそのまま溶けるように、消えていった───

ご案内:「タナール砦」からロザリアさんが去りました。
クラウン > 「…………。独り言、ですよ。
 あくまで、独り言です。」

そう言うと、再び仮面を付け直す…事はせず。
散り散りに飛んで行く蝙蝠の群れを見送り、自らもキルフリートへと飛ぶ。

「(………………。
 ああ、恐ろしい。君の心が苛まれ続け、呪いと恨みに殺されることが、何よりも恐ろしい。
 死は始まりじゃない。……死ねば終わりさ。
 死ねば終わりのはずなのに……)」

仮面は、外したまま。無表情の奥に、何があるのか。
割れた雲から覗く、満ち満ちた黄金の月明かりに目を細める。

「(……僕は、君を愛している。…かも、しれない。
 君の物語がこのまま続くことを願っている。君の命がこのまま続くことを祈っている。なのに……
 君の物語が、悲劇のページで止まり続けているのが、僕には我慢ならないのかもしれない。)」

月を、ふと見上げる。
忌々しいほどの黄金の輝きは、彼女の髪を思わせた。

「(……僕は、君に死んでほしいんだ、ロザリア。

 吸血姫ではなく、人として。僕の友、ロザリアとして…
 人としての物語を歩んでほしい。人として物語を終えてほしい。
 ……それは、僕のエゴかもしれないけど。

 でも…君が心に望むのが、人への憎悪と呪怨なら……僕はその通りにするだろう。
 君の望みを、君の願いを叶えるだろう。
 …僕は、結局友人に嫌われるのが怖いだけなんだろうな)」


タナールに、また雨が降る。

ご案内:「タナール砦」からクラウンさんが去りました。