2015/12/21 のログ
シド > 警告と呼ぶには些か弱々しい声音。その聞き覚えがあるものに弓月の弧を描く唇は咥えた紙巻を吐き捨てる。
赫い灯火は荒れ地に転がる間もなく再び歩み進める蹄に踏み消されて。

「マグメール王国のシドニウス男爵だ。魔族の国に偵察に出かけて帰ってきた。」

張り詰めた大気を割るような凛と澄んだ声で叫ぶ。撃って来ぬなら饐えた大気の壁を乗り越え、互いの顔も明瞭に
見える距離にと詰めようと……そして向けられる銃口の前で馬を嘶かせて脚を止めさせた。

リーゼロッテ > 呼びかける声に反応もない。
どうしよう、本当に魔族とか敵とかかもしれないと不安で胸いっぱいになってきた。
呼びかける声に足を止める様子もなければ、息を吐き出す瞬間にすら僅かに肩が震えた。

「……ぇ?」

叫ばれた声に、呆気にとられた間抜けな声をこぼす。
きょとんとしたまま、暫し頭の中で整理が始まっていくわけで。
今はティルヒアから離れて、傭兵組合預かり、組合は王国と業務提携中。
つまりは味方と、そこに至るまで1秒以上は掛かった。
間を置いて安堵の吐息をこぼすと、膝から崩れ落ちるように座り込んでしまう。

「脅かさないでください……」

敵ではないと分かり、緊張の糸が溶けていく。
銃口に灯っていた魔法陣の光も消えていくと、構えも溶けていた。
先ほどの言葉を脳内で反芻していく、シドニウス男爵…そして声、何処かで聞き覚えがあるような。
その前に自分も所属を伝えないといけない、それは参謀と組織の主からしっかりと言うように厳命されていたからで。

「遅くなりました…私はタナール砦警備についてる傭兵組合に所属してます、リーゼロッテです」

よろしくお願いしますと、既に会っている相手と気づかぬまま、相変わらずの子供っぽい微笑みで座ったままご挨拶を。
それから立ち上がろうと両手をつくものの、フラッと前に崩れて四つん這いの様になってしまう。
久しぶりの危機、不慣れな体は緊張が抜けず、膝が笑っていた。

シド > 銃口と視線の鋒を絡め合わす緊張は、今は笑いを誘うかの空気に変わる。
一人敵兵と挑むつもりだった少女が膝を崩すのに鼻で笑いながら後方で待機させていた兵たちを呼びかける。
彼女が偵察する目的だった、その騎馬が2人の側を通りすぎて砦へと流れてゆくに、己はその場から動かずに。
未だに膝付く少女に眼差し向けながら鞍から下りてゆく。

「相変わらずだな。威勢が良い割には肝が座ってない。
 まぁ、その年頃で引き金を躊躇い無く引くのもどうかと思うが。

 リーゼロッテという名前だったのか。上手く沈没する舟から逃げられたようで良かった。
 手を貸してあげよう。生まれたての小鹿さん。」

声を掛けても未だに腰が立てぬ様子に刺繍が惜しみなく施された豪奢なガントレットの手を伸ばす。手を取るならば勢い良く引いて立たせよう。
そしてもう片方の掌は兜の目庇を外し、いつしか見せた葡萄色の眼差しをその円な眼に注いでいく。

リーゼロッテ > やはり、こうして戦う人達は自分とは何かが違う。
迫力というか、心構えというか、メンタル的なものがしっかりとしている。
鼻で笑われても仕方ないことで、こちらも少しだけ自嘲気味に悲しげな笑みが零れた。
通り過ぎていく騎馬達、見張り台で見つけたのはあれなのだろうかと思いながらも近付く彼を見上げる。

「相変わらず……? ぅ、だ、だって…私、今は戦うお仕事はオマケなんですっ、今日はたまたま…ここにいるだけで」

ぐさりと手痛い言葉に子供っぽい反論の声が上がるも、勢い任せに吐き出した後に、はっと気づいた。
何でこの人はそんなことが分かるのだろうと。

「……沈没する船? ありがとうございます…って、なんだか意地悪ですっ」

生まれたての子鹿と揶揄されれば、流石にムスッとした表情を魅せるも、差し出された手に捕まり、勢い良く起こされ、前のめり気味に立ち上がる。
ふと、目元が見えれば紫色の瞳が目に映り…色々とつながっていけば、丸い瞳が更に丸く開かれていく。
銀の髪、紫の目、少し強引な感じ。
名乗られた名前も、頭のところだけを読めば、まさに一致して。

「もしかして…シドさん、ですか…? あの、オリアーブにいた…」

驚きに声が震え、確かめるように問いかければ、じぃっと丸い瞳が見上げていた。

シド > 「その偶々をたった一人で向かうのは敬意を示そう。
 だが君は敢えて危険に身を晒そうとしている感があるな。

 ――ああ、そうだ。オリアーブで銃撃の雨をご馳走してもらったシドだ。」

小柄がふらつきながら前のめりとなるのにその細肩を支えて倒れこむのを防ぐ。
何かを探る様な眼差しが擽ったく、笑みのさざめきを零しながら片目を瞑り。

「お互い生きて帰れて良かったな。今のティルヒアは白い龍が出て大暴れらしい。
 まだもう一波乱ありそうだ。

 ――何をそんなに見ている。キスして舌でも入れられたいのか?」

いつまでも逸らさぬ其れに意地悪く揶揄を零しながらその頭をまるで稚児をあやすようにも撫でていく。
全くの無礼な行為。なれどその眸は魔族の国にいること忘れて、懐かしき邂逅に眦下げて微笑んでいた。

リーゼロッテ > 「そ、そんなことない…ですっ、多分…」

自分から危機に飛び込もうなんてつもりは全く無いのだが…みててハラハラすると、参謀に言われることも多々あったの思い出すと、最後の言葉は力が弱まり、すっと視線をそらしてしまう。
ふらついた体、肩を支えられば、ありがとうございます と言葉と共に微笑んだ。

「ぅ、それはその…ご、ごめんなさい…。でもお互い無事で良かったですっ」

意地悪だけれど、敵同士だった自分を助けてくれた彼。
無事の再開を満面の笑みで喜ぶ。
白い竜の話を聞けば、一瞬だけ悲しい目をしたのが見えるだろう。
多分、国にいた神様が最後まで戦おうとしているのではないかと。
教会で色んな話を聞かされたが故に、そんな想像が浮かんでしまう。
そんな思考も、無遠慮な意地悪に現実に叩き戻されるわけだけれど。

「なっ、もぉ…っ! シドさん、優しいのに意地悪です…っ」

ムスッとした表情に戻りながらも、されるがままに撫でられてしまう。
こうして撫でられてしまうと心が緩んでしまうのも、最近では良くないのかもと思うところで。
再び彼を見やれば嬉しそうで、こちらも釣られるように嬉しそうに微笑み返した。

シド > 「そうか?まぁ、お前の持った人徳で酷いことをされても命まで奪われんだろうが、無理はするなよ。」

こうして揶揄い愉しんでも尚、その花笑みを見せるに軽く撫でていた掌は頬へ向かいて撫でていく。
怒ったり喜んだりと、その鞠転がるような転々とする表情を産む頬の柔らかさを楽しもうと。
硬い金属の指なれど羽毛じみた柔らかさでその表皮を冷たく擽る。
そうして思うは同じこと今し方嘗ての敵との邂逅を、無骨な兜から覗く眸や口元に、朗々とした感情を滲ませていた。
が、続く悲しげな表情には悪戯及んでいた指も離して。

「白い龍は、そちらの心当たりがありそうだな。どうなるか分からんが。なるようにしか為らない。
 穏便に済むことを願うよ…… ところで、仕事の方は慣れたか?」

リーゼロッテ > 「ぅ~…無理なんて、してないと思うんですけど…」

何でこうも心配されるのかなと思えば、子供っぽいといわれるところに落ち着いて、少しだけ不服そうな様子。
それでも大人しく撫でられていると、頬に指先が当たる。
ひゃっと冷たさに小さく体が跳ねてしまう。
白い頬は絹のように滑らかな触り心地と、子供らしい柔らかな感触で指に応えるていく。

「…教会に居た頃、ティルヒアには神様がいるみたいで落ち着くって、ミレーの子供がいってたんです。だから…それが頑張ってるのかなって」

王国から逃げてきたミレーの人達も、今はこの王国に戻らざるを得なかった。
傭兵組織に預かられているものの、見かける姿は不安そうなもので、それを思い出せば少し寂しそうな表情にもなる。

「…はい、ちょっとずつですけど慣れていってます。今は森とかダンジョンで探しものしたり、魔法銃を教えたりするのがお仕事なんですよ。本当は今日だって、荷物運びだけの予定だったんです」

戦いからは完全に切り離されなかったものの、矢面に立って戦うところからは遠ざかっていた。
その話を語る少女の顔は目を輝かせて、嬉しそうに笑う。
本当はそういう仕事がしたかったのが、そのまま顔に出るように。

シド > 「なるほどな。神様がお怒りか……せめてその結末だけは確りと聞いておかないとな。
 ……ティルヒアがどのようになるか分からんが。強く生きて行かないとな。大勢いたミレー族と一緒に。」

寂しげに見える眸、直視せぬようにと某国に向けるような空に視線を馳せて。
そして言葉、一つ一つ、噛み締めるように重々しく告げていく。
続く彼女の今後のことには頷き一つ。微笑み一つ。微かに瞠る眸から蠢く眉まで一挙一動に興味を示す仕草。
そちらに話題を逸らそうとの塩梅と、単純なる興味故だ。

「多才だと色々と仕事に困らないな。頑張るのも良いが、体を壊さぬ程度にある程度断って自分の時間を持てよ。
 その笑顔が枯れないようにな。

 ――…ふぅ、悪いな。今度は魔族の国の方で何かがあると出向いたんだが、思ったよりこの土地の空気は慣れないみたいだ。
 そろそろ帰国しようと思うが、リーゼロッテ。お前はどうする?」

屈託なき笑みに薄く小首をかしげて問いかけた。

リーゼロッテ > 「もしかしたら、ですけどね? …えぇ、ミレーの人達も…生きたくて逃げてきたんですから」

戦争がなければ、ずっと守ってあげられたかもしれないのにと…胸が苦しくなる。

「そ、そんな…多才だなんて…。ぅ、そうします…」

気づかぬうちに無理はしてしまいそうだと、そこだけは自覚があってか、言葉がつまりつつも素直に頷いていく。

「やっぱり魔族の国って空気が悪いんでしょうか…? ぁ、そうですね、戻りましょう!」

足止めしてしまったと思えば、苦笑いで頷いていく。
丁度その頃に彼が最初に見つけた空の影が戻ってきた、大きな翼が風を叩く音。
それを聞けば慌てたように空へと振り返る。

「ザムくんっ、人がいるからちょっと離れて降りてねっ!」

人よりも大きな隼が二人から少し離れたところへ着陸すると、その足でトコトコと歩きつつ近づいてくる。
隼の瞳が彼を見つめ、右に左に、時折首を動かしていた。
そんな鳥へと足早に駆けて行くと、ひょいっとその背中に乗る。

「……ふふっ、頂かれなかったです」

ティルヒアでの別れ際、次に会う時にはいただくという宣言。
そうなりそうにない今に、ちょっとだけ得意気に微笑んでみせた。

シド > 「単に私が疲れているだけかもしれない…… おお、さっき私兵を驚かせた鳥か。随分と良い番鳥…いや、お友達に恵まれたものだ。」

羽ばたく音に舞い上がる砂塵から目を守り。そして晴れ渡る視界に映る巨鳥に跨る少女を眺めれば絶句……とまでは
いかないが、片眉上げて筆舌しがたい驚きに軽口と、軽く肩を竦める程度で余裕を取り繕う。
それは続く微かに聞こえた台詞も。跨る姿を仰ぐ葡萄色の眸を細めて。

「ま、その内に、な。当日となってその余裕が見れることを祈るよ。」

やがてその鳥が羽ばたくを見届けて馬に跨がり砦に帰還する。その時にまた逢うかどうか、どのような物語が紡がれるか。
2人のみぞ知ることで。

ご案内:「タナール砦」からシドさんが去りました。
ご案内:「タナール砦」からリーゼロッテさんが去りました。