2015/10/14 のログ
■ソード > もはや襤褸切れとなり果てた外套を脱ぎ捨てる。
同時に向かって来る彼女の言葉。
そして先ほどまでの笑みとは異なる明確な悪感情。
「さて。呪われてるのかい、ドラゴンてなぁ。」
そういうのには疎くてなぁ、と。
男は笑んだままにその場で肩を竦めた。
男はその問答よりも、彼女の周囲へ収束する膨大な魔力にこそ興味があった。
ワクワクしていた。
姿が変わろうとも、変わっていない。
先ほどの白銀の暴雨を防いだ時にか、ボロボロになってしまった鋼剣をまた肩へと担ぐ。
「『こちら側』ってのが『どちら側』なのかがわかんね。
わかんねーが、少なくとも俺はどこ側でもねぇよ。俺はな、『俺側』なんだわ。」
けた、と。男は笑ったまま答えた。
そこで、足元に転がっていた、鈍らの短槍を足で器用に蹴り上げて左手にキャッチする。
男が人間を名乗るのは、普段の姿が人間であり、男を育てたのが人間だからだ。そしてそれが故に人間に見方をしている訳ではない。
男は己の意識の中において、種族にも、勢力にも、帰属していない。
己は己。
ただそれだけ。
竜は、竜。
そう傲然と言い放って、あらゆる意味で周囲を鑑みない彼の種族の者たちの一部と、その主張はよく似ていた。
■ロザリー > 「あぁ、魔術師の世界では相当な嫌われ者だ」
常識外れの魔法防御力を持ち、人を超える知能を有し、果てには独自の言語魔法までも扱う
こと人間に限って言えば呪いたくもなるほどの敵性存在であろう
ロザリアも遡れば元は人間の魔術師、例外ではない
「そうか、ならばもうよい。───死に失せるが良い」
【ライザー・メタレイア】
ロザリアの使用する、貴金属を具現化する独自魔術の中でも最高峰の威力を持つ魔砲
他の魔術と違い、重金属粒子を魔力で練りあげて撃ちだすそれは文字道理の粒子砲
臆面なく例えるなら、魔力で制御されたビーム砲とも言えるべき攻撃である
集積された大魔力が、無数の魔法陣を纏って撃ちだされる
それを見た周辺の魔物達は慌てて避難を始めた
間違いなく巻き添えを喰う攻撃、城壁の上であるとはいえ、
この場そのものが無事では済まないと悟ったからだ───
■ソード > 「ほほーぅ。そっち方面の知り合いはあんまりいねぇから知らなかったな。」
言われれば、特に深く理解した様子こそないが、素直に納得してうなずいた。
そんなもんなのかねぇ、などと嘯く姿は暢気さすらある。
しかしそれでも、それは男にとって弛みと同義たり得ず。
直後に彼女が向けてくる極上の殺意への反応を、鈍らせるものではなかった。
光そのものが半竜たる男を飲み込む。
そんな風情。
視認したのなら、もはや手遅れだろうという、おそらくそうした類の一撃。
故に戦士たる男にとって最も有効な対応策は『回避』一択だ。
避けて懐へ飛び込んで、一撃を見舞う。
そんな、当たり前の戦士による魔術師への対応策。
しかし。
「それじゃあツマらねぇだろう!」
そして彼女も納得するまい。
だから男は、前進した。
城壁の石畳を蹴るその動きを、視認できたものはいかほどいたか。
身体能力の上昇具合は、もはや先ほどまでの比ではない。
己の全身全霊をもって、男は正面へと飛び込んだ。迫りくる死そのものにも思える粒子砲へと、正面から。
男のその動きもまた、光の如く。
彼女の放った光に呑まれた瞬間、鈍らの槍と鋼の剣は融解し、然る後に蒸発した。
男の体に纏われていた着衣や鎧も、当然跡形も残らない。
絶大なエネルギーが、鋼の鱗を灼き焦がし、融解させる。血液が沸騰し、内臓が煮えくり返り、その身のすべてが灰燼へと帰すような致命的なダメージの洪水。
そんな中、額の鋼の一本角はまるで切っ先の如く、光を切り裂くように半竜は翔けた。
時間にすれば一瞬にも満たぬ時間。
「おおおおおおおおおおおおおおぉおぉォぉおォぉォォおぉオォォォォッ!!」
男は光の洪水から飛び出し、彼女の眼前に居た。
その全身はさながら屍の如く焼け爛れ、生を疑うようなそんな塩梅。
しかし尚、男は生きている。
眼が、輝いている。口元が、笑みを作っている。
振りかぶるのは、己の剛腕。
その全身の中で未だ猛々しき鋼の鱗を纏った、刃たる右腕。
振り下ろす一撃は、袈裟。
音を超越し、光へと迫る一撃。
霧となり、物理を透過する相手に対して男が選んだ単純な選択肢。
反応されるよりも早く、叩き伏せるという、あまりに短絡で野蛮で、そして純粋な一撃。
■ロザリー > 「な───」
未だかつて、例え魔王であろうとこの光撃に正面から切り込んだものなどいなかった
いたとしても、それで無事であるものなどそれこそいなかった
永い時の中、人が一生かけて培う経験を幾つもその身に宿した彼女の、初めての体験
それが、次の行動を遅らせた
否
この魔砲を使った後の行動など、考える必要はなかったのだ
故に、ほとんど無防備のまま、袈裟懸けに切り裂かれ、殴り飛ばされる
小さな体が木っ端のように半壊した城壁の上の跳ね転がり、やがれ倒れ伏した
「──ぁがッ…ぁあ゛うっ……!」
仰向けに月を仰いだまま、苦しげにごぽりと血を吐き零す
引き裂けたドレスから覗く白い肌には抉られたような傷が遺り、
少しずつ、魔力による修復が始まっていた
■ソード > 痛み、というものは、一定以上の負傷になれば感じない。
あくまで痛みとは危険信号だ。デッドラインを越えてしまえば、信号を発する必要などないのだ。
少なくとも男はそうであったし、今の負傷は明らかに生物としてのデッドラインを越えていた。
そもそも、その無謀な突貫が成功するという根拠などどこにもなかったのだ。言うなれば、賭けだ。
しかし、男にとってそれは賭けではなかった。根拠など、不要。
できると信じて飛び込んだ。ただそれだけ。
それだけの事が、男の速度に拍車をかけた。
迷いも恐れもない愚直な一撃。
「へへ……ダメージ量で考えりゃ、どう考えても俺の負けだわな。」
男は、火傷でうまく動かない口で、喉で、そんな言葉を放った。
放ったが、周囲にはただの呼吸音というか呻きにしか聞こえなかったかも知れない。
己の一撃に倒れ伏せる彼女を見ながらの言葉だった。
男の全身は、本当に酷いものであるが、しかし彼女同様に修復が始まっている。
その速度は、異常に早い。
ドラゴンという種族の持つ不死性の顕現としては、この上なくわかりやすい現象である。男はそのまま、半ば体を引きずるようにして彼女の傍らへ。
そしてそのまま彼女を見下ろして、笑った。
「よう。俺の勝ちだ。」
ビシビシと再生していく全身。
男はそのまま、倒れ伏せる彼女を抱き上げようとする。
「せっかくだから、このままもうちょっと遊ぼうぜ。」
そう言い放ちながら。
■ロザリー > 「か、はっ、はァ…っ……」
何が起こったのか理解が追いついていない
あの魔砲を放った以上、躱されでもしない限りは決着がつく
…はずであった
ぼやける視界、動かない体
反撃を受けたのか…?どうやって?
理解らない、理解が及ばない
ただ、指先一つ動かそうとすると走る胸への激痛が、
死を超越したはずの肉体を支配していることはわかる
「───?」
すると、ふわりと体の浮く感覚
ぼやける視界にソードの顔を確認する、そして言葉も
勝ちだと?
まだ終わってはいない、まだこれから───
口からそう言葉を吐こうとしたが…
「ゴホッ…ぁ…あそ…ぶ…?」
何を言っているかが理解らない
それほどに自身が混乱しているのだろうか
■ソード > 今になってようやく、痛みが体を支配し始める。
治りかけの負傷特有の痒みのようなものも同時に感じて、不快極まりない。
しかし、その痛みが今宵の愉しみの証でもある。被虐的な性癖はないが、この時ばかりは痛みに対して奇妙な悦びを覚えてしまう。
「お?いいねぇ、そいつぁ、まだやろうって眼だ。
―――けどまぁ、今日はここまでだろ。今のおめぇさんなら、雑魚の魔物狩りにだってやられちまうかもだぜ。」
実際にどうかは知れずとも、彼女が今重体である事は確かだ。
未だ戦いの意思を残す彼女に、変わらず楽しそうに笑ったまま言葉を返す。
否、今は愉しいに、嬉しい、が混ざっているようでもあった。
「俺は、強い女ってのが好きでねぇ。
とりあえず、ここじゃあ何だし移動すっか。」
詳しい説明などなく。
男は上機嫌に城壁を蹴った。半竜化しているとは思えない程の出力しか出ないのは、やはり負傷が響いているのだろう。再生速度も、明らかに常より遅い。
おっかねぇもんに正面から飛び込んじまったなぁ、などと考えながら、それでも男は非人間的な身体能力でもって、茫然とする戦場を一顧だにする事すらなく、彼女を抱えて去って行った。
■ロザリー > 「……ぅ…く」
当然だ
宵闇城キルフリートの当主ともある吸血鬼の姫が、
半竜とはいえ人間相手に敗走するなどあってはならない
───しかし、予想以上のダメージを負った体は動かない
歯噛みするまま、抵抗の一つもできずソードによって抱えられて砦を去るのだった
……ロザリアの召喚したヴァンパイアバットは霧散し、今宵の戦いは人間側が砦を奪い返すという結果になりそうである
ご案内:「タナール砦」からソードさんが去りました。
ご案内:「タナール砦」からロザリーさんが去りました。