2022/12/10 のログ
■サイエーガ・テンタクル > 表層ほど騒がしくなく、深層ほど静かでもないこの階層の通路を走る小動物。
鼠に近い遺跡に住み着いていたそれは、『甘い香り』に誘導されるかのように時折ふらつきながらも全力で駆けていた。
既に自身の限界は超え、それでも小さな四足を忙しなく動かし続け―― 扉の無い部屋の前を通り過ぎようとした時に『その姿ごと』消えてしまう。
扉の向こう側――灯りの届かぬその部屋の中で悲鳴のような小さな鳴き声と共に、命の灯火は消え…喰い尽くしたソレは大した満足感も得られて居ない様子で、闇の中で身動ぎをした。
『もうこの辺りに辿り着く小さき獣程度では、自身の飢えも、苗床となり得るものもいない』
その事に不満を持つような気配が生まれ…つい先ほど得たばかりの生気を無駄にするべきではないと気配は静まっていく――。
■サイエーガ・テンタクル > それでもある種の飢餓感は治まるはずもない。
故に半ば休眠状態であった魔物の身体――無数に伸びる触手は少しずつ身じろぐように蠢き、かび臭さが混じる屋内に花のような甘い香りが立ち上っていく。
『騒がしく、けれども様々な獲物に満ちた方へと向かおう』――そう本能に後押しされながらもずり、ずり、と狭い部屋から這い出て、『今のこの身体』にとっては狭苦しさを覚える通路を床を舐めるよう這っていく。
少しでも命の――苗床となる雌の気配を探るように、少しずつ、けれども着実に移動距離を伸していく。
ご案内:「無名遺跡/中層」からサイエーガ・テンタクルさんが去りました。
ご案内:「無名遺跡」にゴーシェさんが現れました。
■ゴーシェ >
――――――覚醒を促したものは、多分、声であったと思う。
男か女かもわからない程、濁った断末魔の如き、声。
重い瞼を持ち上げて、己が冷たく硬い石床に仰臥していることを悟り、
大の字同然に投げ出していた両手で、ゆっくりと周囲を探り始める。
暗い小部屋、遠くぼんやり光が見えるのは、恐らく誰かが取り落としたカンテラの光。
じめじめとした、澱んだ地下の空気の香り――――――それを嗅いで、そっと溜め息を吐く。
どうやら、トラップに引っ掛かったものらしい。
浅い階層を探索中だったこと、不意に足許の地面が消え失せたこと、
身構えも出来ず落下してしまったこと、などを思い出す。
落ちた先で気絶していたようだけれど、果たしてここは安全か。
先刻の声の主はどうなったのか、己以外に誰か、あるいは何かが居るのか。
はっきりわかるまでは、動かない屍で居た方が良さそうだ、と思う。
物音か、声か、とにかく何か――――――気配を、探ろうと。
ご案内:「無名遺跡」にマグゴブリンさんが現れました。
■マグゴブリン > 九頭龍山脈の麓に存在する名もなき遺跡群。
遥か昔に栄えた古代文明の築き上げた遺跡には多くの財宝が眠り、
この地を訪れて一獲千金を狙う冒険者は後を絶たない。
だが、それは、この地に住まう者にしてみれば良い迷惑である。
「キシッ、キキッ!」
緑色の肌の矮躯に、尖った耳と長い鼻を持つ醜貌の小鬼、
ゴブリンと呼ばれる種も、この遺跡に棲み付いている謂わば先住民である。
魔物の中でも雑魚と目される彼等は一対一では冒険者にとても敵わず、
ベテランどころか、ルーキー相手でも、比較的容易く退治されてしまう事だろう。
だが、それは飽く迄も正々堂々の一騎討での話。
狡猾な彼らは集団行動を好み、罠を仕掛け、毒物や奇襲を駆使する。
今宵も、迷宮に不法侵入した冒険者達が彼等の仕掛けた罠にまんまと引っ掛かり、
その片方、屈強な男戦士を集団で仕留めた後、その足はもう片方の女冒険者に向けられて。
地面に倒れる女の傍へと群がると、手にした粗末な木製の槍で突こうとする。
■ゴーシェ >
――――――そう言えば、ロッドはどこへ行っただろう。
あんなもの、持っていたって何にもならない飾りだけれど、
一応は私物であるから、紛失するのは面白くない。
右手が伸びて、石床の上を這いずり――――――ピクリ、止まった。
声がする、足音が聞こえる。
その声は明らかに、人間のものではない。
実際に視線を向けずとも、矮躯の小鬼どもの姿が目に浮かぶ。
一匹一匹は、決して脅威ではない―――――けれども。
「―――――― ついて、ない」
ひっそりと眉根を寄せて、消え入りそうな声で呟く。
本当についていない、彼らは今日も、集団行動であるようだ。
足音も、声も、ひとつではない―――――だからといって勿論、大人しく屠られる気は無いが。
目を閉じて、死んだように倒れた姿勢のまま。
突き出された槍は己の左脇から、反射的に掌を翻し、手袋をはめたままの左手で、
穂先の少し上あたりを、ぐ、と掴みにゆく。
死んだふり、を継続するより、少しでも数を減らすべきだ。
それにはまず、不意打ちの反撃を試みようと―――――。
■マグゴブリン > 彼女が目を開いたならば、ゴブリン達は不格好な鉄兜や首飾りを身に着け、
矮小な身体ではまともに扱えぬ大剣を二人掛かりで抱えている様子が見て取れただろう。
彼女と時を同じくして無名遺跡に足を踏み入れた冒険者の遺品である。
若しかしたら、それは王都からの乗合馬車や近隣の集落にて、
ソロの彼女に粉を掛けようとした男が身に着けていた品々である、と判断できたかも知れない。
戦利品を得て浮かれた様子のゴブリン達は騒々しくも女の傍へと群がる。
先程の男同様に罠に嵌って落下した、もう一人の冒険者。
突き出された槍は彼女を仕留める威力などなく、生存を確認する為のものであろう。
ただただ、自分達を殺しに掛かる敵性存在に過ぎぬ男冒険者と異なり、
女である彼女には、彼等にとって有益な意味がある。
「ギッ!? ギギッ!?」
突き出した槍を掴まれて、不意を突かれたゴブリンはギョッとして身構えるも、
所詮は冒険者相手では敵にもならぬ低級の魔物。
彼女が反撃を試みるならば、容易くその餌食となってしまう事だろう。
だが、同時に他のゴブリン達がこん棒や粗末なナイフを手に彼女に群がり、
同時に暗闇で弓を引き絞った一匹が、死角から女に向けて麻痺毒の矢を射掛けて。
■ゴーシェ >
握り込んだ柄を思い切り下へ、床へ叩き付けるようにしながら、
弾みをつけて勢い良く身を起こす。
ざっと見回してみれば、やはり、というか何というか―――――
「多勢に、無勢とでも……っ、―――――…」
ふざけるな、そう容易く屠られてたまるか、と思う一方、
女の身としては、もうひとつの危惧が背筋をざわつかせてもいた。
彼らの良く知られた習性、集団で襲いかかってくる。
そしてもうひとつ、―――――女は、ただ殺されるわけではない。
己が立ち上がれば、腰の高さにも満たない矮躯のものも多い。
掴んだ槍をそのままもぎ取り、振り回して退路を見出そうとするも、
如何せんここは暗く、敵の数は多過ぎて。
――――――――ざ、しゅ。
「―――――――― ッぅ、………!」
とっさに身をかわそうとしたが、ローブの袖が切り裂かれた。
裂け目から覗く白い肌、二の腕にひと筋、紅い軌跡。
傷自体はさして痛手ではないけれど、塗られた毒はどの程度のものか。
もしも即効性であったなら、女の躰が糸の切れた操り人形宜しく、その場に倒れ伏すことになるだろう。
ご案内:「無名遺跡」からマグゴブリンさんが去りました。
ご案内:「無名遺跡」からゴーシェさんが去りました。